と、いうわけで第十三話です。
感想、アドバイス、ミスの指摘、どうぞよろしく。
アフリカ、アラメイン後方警備基地、深夜。
「う~、寒い。なんで俺が当直なんだよ」
カールスランド・アフリカ・軍団第21装甲師団麾下第2警備小隊に所属するフーゴ・バルテン上等兵はライフル銃kar98kを抱えながら手を擦り合わせた。彼が所属する部隊はもともとトブルクにある基地警備を務めていたのだが、急な配置替えにより最前線の陣地より少し後方に下がった場所で警戒任務に就くこととなったのだ。
「トブルクならすぐ近くに暖炉があったのにな~」
そんなことをぼやきながら欠伸を噛み締めるフーゴ。じきに夜明けで、東の空が白み始めてきた。
「さて、早く交代を・・・。ん?」
自分の天幕に戻ろうとしたフーゴだが、不自然な音を聞きつけ立ち止まった。首を傾げながら銃を構え、少し歩いて基地の外に出ると一台のバイクがこちらに向かっていた。
「友軍か・・・?」
人間である時点で友軍のはずだが、基地に近づく者には身元確認するのが一応の規則である。フーゴは手を振ってバイクに停止を促した。しかし、バイクは一向に速度を落とさなかった。
「おいおい・・・。なんだ?見えてないのか?」
フーゴは嫌な予感を感じ、再度銃を構えながら再び手を振って停止を促す。しかし、やはりバイクは止まる気配がない。
「止まれ!!」
大声で叫びながらバイクに狙いを定める。しかし、バイクはそれでも止まらない。フーゴは忌々しそうに舌打ちすると、バイクに威嚇射撃を行った。何回かの銃声が響き渡り、それに驚いたのかバイクは突如バランスを崩し転倒した。フーゴは倒れた運転手を銃で狙いながらゆっくりと歩いていく。
「ったく。なんで止まらないんだか・・・」
後ろでは突然の銃声で基地が騒がしくなっているが、フーゴは特に気にすることなかった。
「よぉ。お前はどこのどいつだ?」
「・・・」
フーゴは銃を突きつけながら言ったが、運転手は何も感情のない目で彼を見上げるだけだった。
「おい。何か言えよ」
「これが・・・」
銃で突っつくと、運転手はやっと口を開いた。
「これが?」
「これが・・・我々の戦いだ」
そう言った直後、運転手はどこからともなく古ぼけたリボルバー拳銃を抜くと、銃口を自身の頭に向け、躊躇うことなく引き金を引いた。パァン・・・とライフル銃とは違う乾いた銃声が響き渡り、辺りに血と脳奬が飛び散った。
「え?え?」
いきなりのことにフーゴは何もできないでいた。人が死ぬのを見るのが初めてであるというわけではないが、目の前で自殺することは衝撃的過ぎた。
だが、更に衝撃的なことが起こる。
静寂を守っていた基地に突然警報が鳴り響いた。警報が鳴ったという意味は一つしかない。フーゴは運転手の死体を置いて一目散に走り、砂丘の上に登った。そして大きく目を見開く。
「なんだよ・・・これ・・・」
まだ暗い砂漠に空に光る妖しい赤い光。多数のそれがこちらに向かってきていた。
トブルク某所。
「・・・始まりました。」
無線機を操作していたスカーフを巻いた男が静かに告げた。
「そうか・・・」
その言葉を聞き、椅子に座っている男が静かに答えた。そして、椅子から立ち上がり、窓からトブルクの夜景を眺める。
「共に生きる世界を・・・」
男は一人、静かに呟いた。
統合戦闘飛行隊「アフリカ」基地 格納庫
統合戦闘飛行隊『アフリカ』基地の格納庫は喧喧囂囂の騒ぎとなっていた。
「零戦は爆装だ!!炸裂弾も無理矢理でも積み込め!!」
「40mmの弾が足りねぇぞ!!」
「携帯食料と水もだ!忘れるな!!」
「神崎少尉はMG34だ!20mmの弾持ってきてどうする!」
整備兵たちの怒号が飛び交う格納庫の隣では、
「情報が錯綜しているけど、現在相当悪い状況よ」
加東が真剣な表情で言う。
「ネウロイと前線で交戦中という情報もあれば、すでに突破されてるという情報もある」
「司令部からはなんて?」
マルセイユが尋ねた。情報が錯綜しているにせよ、普通は何らかの命令が司令部から下るはずである。だが、加東は首を横に振りながら言った。
「司令部に連絡が繋がらない。だからどこも大混乱よ」
「なんだって!?」
「おいおい・・・大丈夫かよ?」
「大丈夫じゃないだろう。どう考えても・・・」
ざわつく皆を落ち着かせるように加東が言う。
「司令部には今、人を向かわせているから大丈夫よ。でも何もしない訳にはいかない」
そういって加東は地図を指し示した。
「現在、この基地から救援要請が出てる。通信によれば敵はそこまで多くはないみたい。だから、まずここに出撃して情報を得るわよ」
あと・・・と加東は続ける。
「司令部からの命令が何かあるかもしれないから、この出撃は必要最低限の人数で行うわ。ライーサ、信介、お願いね」
「了解です」
「うす」
「中型の陸戦ネウロイが出ているから信介には爆撃してもらうわ。大丈夫?」
「問題ないっす」
「よし。他は待機で、すぐに動けるように。解散!」
加東がそう言うのと同時にライーサと島岡が格納庫に走っていく。
「シンスケは爆撃も出来るのか?」
「ああ。あいつは飛行機と釣りに関しては天才だよ」
「・・・なに?」
「・・・対抗心を燃やすな」
マルセイユと神崎の会話を聞きつつ、加東は通信所と足を向けた。少しでも情報が欲しかった。
「何か分かった?」
「錯綜しすぎてよく分かりません」
通信兵に尋ねるが、大した情報も無い。イライラが表情に出ないように気を付けつつ通信所を出ると、ちょうどライーサと島岡が飛び立つ所だった。手を振る二人に、こちらからも手を振り返していると一人の兵士が慌てて駆け寄ってきた。
「隊長!トブルクから伝令が戻って来ました!!」
「どこ!?」
「こちらです!」
兵士に先導され伝令のところに行くと、伝令は何故か頭から血を流していた。
「ちょっと、大丈夫!?」
「そ、そんなことより!」
慌てる加東の心配する声を更に慌てた伝令が遮り、叫んだ。
「暴動です!トブルクでは現在、反戦運動のデモ隊が暴徒化し、各基地を襲撃している模様!そのせいか、司令部の通信機能が麻痺しています!!」
「なんですって!?」
聞けば伝令はトブルクから離脱する途中に暴徒から石を投げられこうなってしまったらしい。
(このタイミングで暴動?なんて間が悪い・・・)
つい唇を噛んでしまう加東。慌てて口元を隠し、なんでもない風に装う。隊長が動揺している姿を部下に見せる訳にはいかない。
「分かったわ。取り敢えずあなたは傷の治療をして。よくやってくれたわ」
伝令に優しく声をかけて、再び通信所へ向かう。司令部が機能しないのなら自分たちで情報を集め、判断しなければならない。
(ああもう!三バカ・・・もとい将軍たちは一体何をしているのかしら!)
そう思いながら、加東は周りが気にしない程度に髪を引っ張った。
トブルク、ブリタニア陸軍第八軍団総司令部
基地を取り囲む喧騒が建物の中心部に位置するここにも聞こえてくる。モントゴメリーは青筋をたてながらも、努めて努めて平静を装おうとしていた。
「各部隊、暴徒鎮圧を必死に行ってますが、まだ時間がかかるそうです」
「・・・分かった」
「それと・・・暴徒によって基地への送電線が切られています。また非常電源も何者かによって破壊されており・・・」
「分かった。報告ご苦労」
「ハッ」
兵士の報告を聞き終わると、モントゴメリーはテーブルの下で右手を握りしめた。ネウロイの攻勢を受けている今、司令部が機能を停止していれば各国の軍及び部隊同士の連携が取れず敗戦は必至。それはつまり人類がアフリカを失うということである。
(ネウロイに攻撃する我々が悪いだと!?なぜそのような妄言を信じる!?)
モントゴメリーはわめき散らしたい衝動を必至に抑えながら、冷静に指示を出す。
「電力の復旧が最優先だ。復旧作業を行う部隊に護衛をつけろ。それから・・・」
「おう、モンティ!!どうすんだ!この状況!」
「・・・各部隊は暴徒鎮圧に全力をつくせ。極力、暴徒の市民への殺傷は避けろ」
途中、会議のためにこの基地に来ていたパットンが怒鳴りこんできたが、あくまで冷静に対処するモントゴメリー。
「どうするもこうするも、暴動を鎮圧するしかあるまい。貴様もリベリオン陸軍の指揮を取れ」
「そんなことを言ってもな。儂の基地とは連絡がつかん。ここと同じようなことになっとるんだろう」
この基地から出れんしな・・・と、パットンがくわえた葉巻に火を着けながら言う。いつもならそれに眉をしかめるモントゴメリーだが、今はそんなことを気にする余裕もなかった。
「・・・暴動は明らかに不自然だ。送電線を破壊するのはまだ分かるが、基地の非常電源まで破壊されてるのはどう考えてもおかしい」
「内通者、もしくは何者かが侵入したかだな。カールスラントの部隊まで前線に動かしたのが裏目に出たな。基地警備が甘くなっちまった」
「カールスラント・・・」
更に表情を厳しくするモントゴメリーだが、ここであることに気づいた。
「おい、パットン。ロンメルはどこだ?」
「儂は知らんぞ。ここに来てないのか?」
「来たという報告は受けていない」
しばし顔を見合わせる二人の将軍。
「まだどうなるかわからんな」
「ああ。こっちも動けるだけ動くぞ」
三人目の将軍の動きに期待しつつ、二人の将軍も行動を開始した。
統合戦闘飛行隊「アフリカ」
隊長は部下に動揺している姿を見せてはならない。それは部下が不安になり、部隊の士気が下がってしまうからだ。だから、隊長はどんなことがあっても泰然自若として・・・
「られるかぁぁああ!!何やってんのよ!あの三バカは!!」
「ケイが壊れた!?」
「大丈夫だ、ハンナ。ケイ大尉は・・・あ~・・・すまん」
「そこは否定しろ!」
「ケ、ケイさん、落ち着きましょう!」
「そ、そうよね。ありがとう、真美」
マルセイユと神崎の会話を受け流しつつ、真美の言葉で平静を取り戻す加東。ふぅ・・・と垂れる汗を拭いつつ、テーブルに置かれた戦況が記された地図を眺めた。
「何度見ても嫌な状況ね・・・」
錯綜している情報から苦労して信頼性の高い物だけを抽出したのだが、それでも・・・酷いことには変わりない。
「隊長!ロンメル将軍から通信が!」
「!?」
駆け込んできた兵士の声が聞こえるのと同時に加東は通信所に駆け出した。通信所のドアを半ば蹴破るようにして中に入ると、通信兵からマイクを受け取る。
「将軍!?」
『ああ。まずいことになったな』
いつも明るい声のロンメルだが、さすがに今は真面目な声だった。
「トブルクは暴動だって・・・」
『私は今はマトルーだ。その、視察・・・でな』
いつも何かと理由をつけて何処かに行くロンメルだ。今口ごもったのは、視察ではなく、たまたまマトルーに遊びに行っただけなのだろう。
『非常事態により、勝手だがマトルーを臨時司令部にした。今、情報をマトルーに集めさせている。そちらの状況はどうなっている?』
ともかく、司令部が確立されるのはありがたい。加東は口早に告げた。
「こっちは
『分かった。他もすぐに出撃させてくれ』
ロンメルはそう言うと、戦闘地域の座標と敵の情報を伝えた。
『どこも厳しい。戦線もズタズタだ。なんとかして陸戦
「分かったわ。すぐに出撃する」
『頼む』
通信が切れると、加東は踵を返してマルセイユたちの所へ戻った。マルセイユたちの顔を一人一人見ると口を開く。
「ロンメル将軍と連絡がついたわ。私たちは二手に別れて味方部隊の援護に向かう」
そこでテーブルに広がる地図の二点を指し示した。二つともライーサと島岡が向かった基地から北に位置する場所である。
「まず、敵の航空戦力がマトルーに進行している。ここは私とマルセイユで対応するわ」
「分かった」
マルセイユが頷くのを見て、加東は説明を続けた。
「そして、もうひとつ。敵の陸戦型大部隊が戦線を突破して侵攻中。恐らく目標はハルファヤとトブルクね。周辺に配置されていた部隊が防戦しているけど足止めが精一杯。ロンメル将軍が急いで陸戦
「はい!」
「・・・」
真美は返事をしたが、神埼の黙ったままである。訝しむ加東がもう一度言う。
「玄太郎?分かった?」
「・・・自分が長機でしょうか?」
その言葉に加東は眉をひそめた。
「士官のあなたが指揮するのは当然でしょ。それに、あなたが長機が苦手なのは分かってるけど、今の状況じゃそんなことを気にしている余裕はないはずよ」
「・・・はい。失礼しました」
「あの・・・神崎さん、よろしくお願いします」
「ああ。・・・今のは気にしないでくれ」
神崎と稲垣の会話が終わったところで、加東は皆を見て微笑みながら言った。
「厳しい戦いになると思うわ。でも、みんなで生きて帰って来るわよ」
皆一様に頷き、格納庫へと走って行く。が、そんな中で、加東は神崎に違和感を感じていた。いつもは二つ返事で命令を聞く神崎が今回は違った。
(大丈夫よね・・・?)
考えても仕方がない。加東はもやもやしながらも無理矢理思考を切り替えて、格納庫に走った。
そういえば、お気に入り登録数が100を超えました。初めて書いた作品にも関わらず、楽しんでいただけて幸いです。これからもがんばりますよ~