ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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このシリーズを書いてるとアフリカに行きたくなる今日この頃。暑いのはあまり好きじゃないんですけどね。

と、いうわけで第十一話です。
感想、アドバイス、ミスの指摘などよろしくお願いします<(_ _)>


第十一話

 

 

 輸送部隊の直上を飛行していた神崎だが、不自然な土煙を見つけ機体を停止させた。背負っていた雑嚢(長時間飛行するために食糧や飲み物を入れていた。)から双眼鏡を取り出し、その部分を見つめる。そこでは何かが走っているように思えた。

 

(あれは・・・ジープか?だが・・・!?)

 

 土煙の発生源の上空に黒い斑点を見つけた時、神崎は無線に叫んだ。

 

「停止してください!!」

 

 神崎の下で、輸送部隊が急ブレーキをかけて止まる。無線からフレデリカの声が響いた。

 

『どうしたの!?』

 

「ネウロイです。航空型が、おそらく10程度」

 

 神崎は双眼鏡を雑嚢にしまうと、九九式機関銃を構えた。フレデリカの焦った声で言う。

 

『ここはまだ味方戦線の中でしょう!?どうして・・・』

 

「詳しいことが分かりません。しかしすぐに転進した方がいいかと」

 

『了解したわ。予定を変更してこの近くの基地に・・・』

 

「自分が敵を引き付けます。早く」

 

 輸送部隊が転進するのを見届けてると、神崎は迫りくるネウロイに目を向けた。すでにネウロイは肉眼で見えるほど近づいている。神崎がネウロイに接近すべくユニットに魔法力を込めようとした時、誰かから通信が入った。

 

『カン・・・ザキ少・・・尉?』

 

「?・・・シャーロットか?」

 

 シャーロットの弱弱しい声が無線から聞こえる。神崎はしばしその声に耳を傾けた。

 

『どうして・・・怖い思いをして・・・戦うんですか?』

 

「は?」

 

 あまりにも突拍子な質問。だが、その声色で彼女が真剣であることが分かった。神崎は真剣に答えた。

 

「自分が成すべきこと、したいことを果たす為・・・だ」

 

『・・・成すべきこと?したいこと?』

 

「ああ。じゃあな」

 

 そこで神崎は通信を切った。もうネウロイは間近に迫っている。

 

「まぁ、まだ探している途中なんだがな」

 

 神崎は自嘲気味に呟くと、ネウロイに銃口を向けて引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?なんだって?もう一度言え!ゲンタロー!」

 

『現在ケリドーン型多数と交戦中!増援を頼む!』

 

 神崎の声が、所々戦闘音とノイズで途切れる。相当切迫しているのか、神崎の声には焦りが滲んでいた。

 

「増援だな!場所は!?」

 

 神崎が口早に場所を説明していく。マルセイユは素早くそれを紙に書き写した。

 

「分かった!すぐに増援に向かうからな!」

 

『というか、なんで中尉!?ケイ大尉は!?』

 

「今は私が指揮官だ!!」

 

『何言って・・・。ッ!?』

 

「ゲンタロー!?」

 

 一際激しいノイズが響き、通信が途切れてしまった。マルセイユは無線機の受話器を放り投げると、位置情報の書いた紙を持って地図のあるテーブルへと向かった。そこには島岡とライーサ、マティルダが待機していた。島岡が心配そうな声で訊く。

 

「マルセイユ。ゲンは!?」

 

「ネウロイと交戦中だ。場所は・・・ここだな。」

 

 メルセイユが紙に書かれた位置情報から場所を割り出す。場所はマトルーと最前線であるアライメンとの中間付近だった。距離にして約350kmだった。それを確認してライーサが言った。

 

「私たちのユニットじゃ、戦闘するにはマトルーで一度補給が必要だね」

 

 しかし、マルセイユは首を横に振る。

 

「そんな時間はない。ゲンタローは相当厳しい状況だ」

 

「でも、そうしないと私たちが帰還できなくなる」

 

 マルセイユが言うことも、ライーサが言うことも両方正しい。しかし、その両立を図る時間はない。

 

「速度が速く・・・、航続距離が足りて・・・」

 

 マルセイユがうつむき、ぶつぶつと呟きながら考え、そしてパッと顔を上げた。その目の先には島岡。

 

「・・・」

 

 島岡はその視線を真剣な表情で受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいか!私たちが到着するまででいいんだ!絶対に無理はするなよ!』

 

「んなことは分かってるよ!」

 

 無線機から聞こえるマルセイユの声に応えながら、島岡は急いで発進準備を整えていた。方向舵、昇降舵、補助翼、エンジン出力、機銃を素早く確認していく。確認を終えた島岡は周りにいる整備兵に離れるように指示し、機体を滑走路へと移動させていった。後ろからマルセイユとライーサも島岡に続いて滑走路に出てくる。三人は視線を送り合うと、離陸していった。

 

 神崎が戦闘中の空域にいち早く到着すべく、三人は全速力で飛行していた。しかし、マルセイユとライーサは燃料補給の為に別れることになっている。つまり、島岡は二人が到着するまで、一人で神崎の援護をしなければならない。

 

(畜生・・・。緊張しやがる・・・)

 

 赤城での戦闘が思い出され、島岡の操縦桿を持つ腕は小刻みに震えていた。心を鎮めようとするも、背後から撃たれるネウロイのビームの恐怖を思い出し、さらに手が震え、それに連動して機体が揺れていた。

 

(落ち着け・・・落ち着けよ俺・・・!?)

 

 恐怖心を取り払うべく必死に自分に言い聞かせる島岡だが、突然機体の揺れが治まったことに気が付いた。しかし腕の震えはまだ治まっていない。

 島岡がハッとして横を見る。そこには、零戦の翼を押さえ、機体の揺れを止めてくれているライーサがいた。ライーサは島岡と目が合うと、力強く頷き微笑んだ。島岡はそれを見ると恐怖心が消え緊張がふっと解れるように感じた。

 マルセイユからの通信が入る。

 

『私たちはここで別れる。シンスケ、頼んだぞ。』

 

「了解」

 

 二人が離れていくのを見送くると、島岡は一つ深呼吸をして気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現れた敵はケリドーン型が12体だった。

 いち早く発見できたのが功を奏し、輸送部隊は攻撃を受ける前に撤退を開始。神崎は輸送部隊を守るため、長時間の飛行で魔力残量が心もとないのにもかかわらず、ネウロイに対し炎による先制攻撃を行った。この攻撃によりネウロイを2体撃墜。

 しかし、そこからは圧倒的不利な戦闘に突入した。

 

「ちっ!!」

 

 神崎は横合いから突っ込んできた2体のネウロイを回避しながら、手に持つC96をフルオートで発砲した。

 しかし、拳銃の弾丸では威力不足で、空しく火花を散らすだけ。装備していた機関銃は、マルセイユと交信していた際に破壊され、しかも、その時の衝撃のせいか、無線の調子が悪く長距離の交信ができないでいた。

 炎羅(えんら)で接近戦を挑もうにも、いたる所からの攻撃により果たせず、炎を放とうにも魔力消費が激しく飛行すらままならなくためにできず、結果ほとんど嬲り殺しとなっていた。

 

「さすがにきついか・・・」

 

 C96に弾を再装填しつつ、一人呟く。こうしてる間にもネウロイはこちらを倒すべくビームを撃ってくる。神崎は適宜シールドを張りながら回避に徹し、ネウロイの攻撃が途切れた一瞬の隙をつき、不用意にこちらに近づいたネウロイに炎羅(えんら)を抜いた。

 

「シッ!!」

 

 炎羅(えんら)を逆手に構え、短く息を吐きながらネウロイに突き立てる。素早く引き抜くと、刺されたネウロイは錐揉みしながら落ちていった。

 

「これで後9・・・。!?」

 

 猛烈な殺気を感じ、神崎は後ろを振り返った。

 そこには、こちらに体当たりしようと急接近する一体のネウロイ。ネウロイを落とした時に気を抜いた隙を突かれた結果であった。ふっと時間が引き伸ばされ、ネウロイが衝突する瞬間が刻一刻と迫る。神崎の目が見開かれた。

 

 

 

『やらせねぇぇぇえええええ!!!』

 

 

 

 接触する寸前、突然ネウロイが火を噴いた。ネウロイはバランスを崩し、すんでの所で神崎の脇に逸れる。一瞬、動きが止まってしまう神崎。その横を一迅の風が通り過ぎた。

 

『よっしゃ!見たか!!ネウロイ!!』

 

 無線から聞こえる興奮した島岡の声。通り過ぎた風は零戦だった。

 

「!シンか!?」

 

『よお!助けに来てやったぜ、こんちくしょう!!』

 

 突如現れた零戦にネウロイの攻撃が集中する。しかし、零戦はヒラリヒラリと攻撃を躱していった。

 

『もう少しでマルセイユ達がくる!それまで落ちるなよ!』

 

「・・・お前も!」

 

 島岡の言葉に返事をしながら、神崎はユニットになけなしの魔力を注ぎ込み、ネウロイに接近すべく加速した。島岡に気を取られたネウロイに肉薄し、炎羅(えんら)を閃かせ、斬り裂いた。

 

「まだいけるな」

 

 仲間が来てくれるということはこんなにもありがたい。神崎は体が軽くなったように感じた。

 

 

 

 島岡も零戦の機動性をフルに発揮しながら、追いすがる2体のネウロイと渡り合っていった。エルロン・ロールを繰り返し、ネウロイの攻撃を回避する。華麗な機動とは裏腹に島岡の心中は乱れっぱなしだった。ビームが機体の傍を通り過ぎる度に冷や汗をかき、恐怖で歯がガチガチとなる。しかし、操縦桿を持つ手が震えることはなかった。

 

「俺だってな・・・戦えるんだよ!赤城の時とは違う!」

 

 わざと速度を落とし、それに釣られてネウロイが再び攻撃しようとした寸前に急旋回でネウロイの背後に回り込んだ。ネウロイがいくらケリドーン型とはいえ、この機動と零戦の旋回性能にはついていけない。

 

「もらった!!」

 

 島岡は20mm機関銃の引き金を引いた。装填されていた炸裂弾がネウロイの装甲を食い破り、内側からズタズタする。1体のネウロイは白い粒子となって爆散した。

 だが、ネウロイもやられっぱなしではない。残っているネウロイの内、数体が零戦に向けてビームを撃った。島岡はネウロイを落とした直後で、その攻撃に気づいていない。着弾する直前、間一髪で神崎が間に入り、シールドを張って零戦を守った。

 

「!?すまん!!』

 

『油断するな!』

 

 島岡は攻撃してきたネウロイに目を向ける。ネウロイは残った戦力を集めているようで、7体のネウロイが飛行していた。神崎にはこれ以上の戦闘はきつかった。

 

『もうこれ以上は・・・。』

 

「大丈夫だよ」

 

 神崎の言葉を島岡が遮った。神崎が零戦のコックピットを見ると、島岡が後ろを指さしている。その先にはマルセイユとライーサの姿。

 

「俺たちの勝ちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 マルセイユとライーサの連携攻撃を耐えるネウロイなど、このアフリカにはいない。

 そう思わせるほどの鮮烈かつ苛烈な攻撃で、7体のネウロイは悉く撃墜された。輸送部隊も無事に味方基地に到着したとの報告があり、結果的に神崎の護衛任務は成功したと言えるだろう。加東と稲垣の方も防衛に成功し、連合軍は今回の戦いでもネウロイの侵攻を許すことはなかった。

 

 

 

「いや・・・ホント疲れた・・・。」

 

 アフリカ基地に帰還した後、島岡は格納庫で零戦のコックピットに座っていた。戦闘中は興奮のせいか何も感じなかったのだが、帰ってくるとドッと疲れが現れたのだ。実際、飛行服の下は汗でぐっしょりと濡れている。

 

「シン。まだいるのか?」

 

「お~う」

 

 一緒に帰還した神崎がかけた声に適当に返事をしながら、よっこらせと立ち上がった。地面に降り立つと、飛行帽を脱ぎ額の汗を拭う。

 

「あ~、疲れた。釣り行って気分転換してぇ」

 

「お前、そればっかりだな」

 

 二人並んで格納庫の出口へ歩いていく。会話は続いた。

 

「今日は助かった」

 

「気にすんなって。まぁ、あそこまで戦えるとは思わなかったけどな」

 

「お前ならあれぐらいできて当然だ」

 

「褒めても釣った魚しかでねぇぞ」

 

「・・・ともかく」

 

 そこで神崎は言葉を切り、拳を突き出した。

 

「これからも背中を頼む」

 

「おう」

 

 島岡も拳を突き出し、ゴツンと神崎の拳にぶつけた。

 

 

 

 

 

 俺は空を飛ぶのが好きだ。

 そして、仲間と共に戦える空がもっと好きになった。




前回と今回は島岡にスポットライトを当ててみました。ちなみに設定上では空戦技術は神崎よりも島岡の方が上です。

次は・・・誰かな?

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