ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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戦艦はハルナが好きです。え?もちろんコレクションも大戦艦級もどっちもですよ。

いつもの通り、感想、アドバイス、ミスの指摘、よろしくお願いします。




第十話

 

 

 俺は小さい頃から高い所が好きだった。

 

 いつも屋根に登ったり、木に登ったりして遊んでいた。いつしか空を飛びたいと思うようになり、予科練を受験した。

 

 予科練に入学し、初めて飛行機を操縦した。零式艦上戦闘機。この飛行機を操縦して、俺は空を自由自在に飛ぶことができた。ただただ楽しかった。そして、これに乗っていればどんなやつにも勝てると思った。

 

 思っていた。

 

 今日も俺は空を飛ぶ。例え戦えなくても・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アフリカ基地

 

 

 

 早朝。島岡はブンッブンッという空気を裂く音で目を覚めた。隣を見れば、ちらかっているベッドには神崎の姿はない。

 

(ゲンは素振りか~・・・)

 

 島岡は頭を掻きながらベッドから起き上がった。まだ、夜の寒さが残っている為、上着を羽織って外に出る。

 

「起きたか。シン」

 

「おう・・・。おはよう」

 

 神崎の素振りをしながらの言葉に挨拶を返しながら、島岡は神崎を眺めた。神崎は軽く息を吐きながら素振りを続けている。

 

「なに見ている?」

 

「ん?別に」

 

「・・・お前もやるか?」

 

「まさか。お前はともかく、俺がいつ刀を使うんだよ?」

 

「それもそうだな」

 

 そう言うと神崎は素振りをやめてしまった。「炎羅(えんら)」を鞘に戻すと、近くに置いてあった上着を取った。

 

「シャワー浴びてくる」

 

「おう」

 

 スタスタと歩いていく神崎を尻目に島岡は欠伸を噛み締め、二度寝に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食の後には出撃前のブリーフィングがある。今回も魔女の面々と扶桑男子二人は格納庫近くの会議所に集まっていた。加東が設置されたボードの前に立って言った。

 

「今日は通常の出撃に加えて護衛任務があるわ」

 

「護衛任務?」

 

 マルセイユが聞き返す。加東は頷いて続けた。

 

「カールスランドから陸戦の新兵器が届いたの。前線まで輸送するのを護衛して欲しいって。ロンメル将軍直々の“お願い”よ」

 

 上からの“お願い”はほとんど命令と同じ意味なので、加東の言葉には明らかに何かの含みがあったが、皆特に気にすることはなかった。

 島岡が手を挙げて尋ねる。

 

「じゃあ、誰が護衛に就くんすか?」

 

「それは考えてあるわ」

 

 加東はボードに貼られた地図を指し示し言った。

 

「輸送部隊はトブルクから出発し、フカの戦線まで移動するわ。距離は400km程度ね。私たちならあっという間だけど、陸路なら一日がかりよ。周辺警戒も含め長時間飛行する必要があるわ。だから・・・」

 

 ここで、加東は神崎を見た。

 

「この任務は玄太郎に頼もうと思うわ」

 

「了解しました」

 

 特に疑問もなく頷いた神崎だが、そこにマルセイユが異を唱えた。

 

「じゃあ、通常の出撃はどうするんだ?」

 

「そこは、いつものシフトに戻すわ。マルセイユとライーサ、よろしくね」

 

「わかった」

 

「はい」

 

 マルセイユとライーサが返事をした。ライーサの声は、久しぶりのマルセイユの僚機がうれしいのか、声が明るかった。

 

「後のメンバーは、待機と訓練。わかった?」

 

「「「了解(ヤヴォール)」」」

 

 加東は満足そうに頷いて言った。

 

「じゃあ、解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トブルクまではトラックで行くのか?」

 

「ああ。最初に輸送部隊と顔合わせするらしい」

 

「ふ~ん」

 

「じゃあな」

 

 そう言って神崎は、ストライカーユニットを載せたトラックに乗って行った。島岡はそれを見送り、零戦の所へ向かう。その途中、ライーサに話しかけられた。

 

「あ!島岡さん!」

 

「うん?」

 

「これから真美と模擬戦だそうです」

 

「わかったよ」

 

 連絡事項は伝えたはずだが、ライーサはそのまま島岡についてきた。模擬戦を見ていくつもりなのだろう。島岡は何気なくライーサに話しかけた。

 

「ライーサはいつごろ出撃?」

 

「時間的にはお二人の模擬戦が終わったあとですね」

 

「そうか」

 

 そこで会話が途切れてしまった。少し気まずい雰囲気に次は何を話そうかと考える島岡だが、先にライーサが話しかけてきた。

 

「島岡さんはウィッチと模擬戦したことあるんですか?」

 

「ゲンとは何回かしたことあるかな。戦闘機同士なら予科練の時と本土守備隊の時に何度も」

 

「戦闘機同士って零戦ですか?」

 

「そうだな。あとは96式とかかな」

 

 するとライーサが目をキラキラさせながら島岡のを見つめた。

 

「その話、詳しく聞かせてくれませんか?」

 

「お、おう。いいよ」

 

 まさか、そこに喰いつくとは思わなかった島岡は若干たじろいだ。実は、兵器に関する話が好きなライーサであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の神崎。

 

 ブリタニア陸軍の飛行場にユニットを置き、軍港で輸送部隊が到着するのを待っていた。ちなみに、トラックを運転してくれたガードナー上等兵はユニットを降ろすとすぐに帰ってしまっため、話す相手もいない。神崎は一人寂しく波止場でただずんでいた。

 

「さすがに暇だな・・・」

 

「ふむ。そうかね?」

 

「ええ。せめて本でもあれば・・・って」

 

 神崎は、いつの間にか現れ、さらっと独り言に割り込んできた人物の方を向いた。

 

「ロンメル将軍。なんでここにいるんですか?」

 

「もちろん出迎えだよ」

 

 印象のよい笑顔でロンメルが言う。

 

(普通に考えて将軍がすることではないだろう・・・)

 

 そう思いながらも一切顔には出さない神崎。ロンメルは上機嫌で話を続けた。

 

「今回来る部隊は私の直属でもあるからね。自分で出迎えたいのだよ」

 

「そうですか」

 

 神崎は取り合えず納得しておくことにして、しばらくロンメルと世間話をして時間潰した。将軍と少尉の世間話など普通は考えられない状況である。

 

「っと、到着したようだね」

 

 そうこうしているうちに輸送船が到着した。さすがカールスランド軍と言ったところか、迅速にテキパキと荷揚げ作業を行っている。

 そんな中から、一人の女性兵士がこちらに近づいてきた。成熟した体に黒髪、そして吊り目気味の大きな目で相当な美人なのだが、一つの特徴でそれを上回る凄みを醸し出していた。それは顔に斜めに刻まれた傷跡である。相当な死線を潜り抜けて来たのだろう。神崎は自然と姿勢を正した。

 

「カールスランド陸軍試作陸戦ユニット『ティーガー』到着いたしました」

 

 ロンメルの前に立ち、報告する女性兵士。ロンメルは鷹揚に頷いて言った。

 

「よく来てくれた、ポルシェ技術少佐。君たちにはこれからフカの陣地に行ってもらう。そこで『ティーガー』を完成させてほしい。そして・・・」

 

 そこでロンメルが神崎の肩を叩いた。

 

「彼が君たちを護衛してくれる」

 

「統合戦闘飛行隊『アフリカ』の神崎玄太郎少尉です。よろしくお願いします」

 

 神崎の敬礼にポルシェと呼ばれた女性兵士も返礼を返す。

 

「カールスランド陸軍、フレデリカ・ポルシェ技術少佐です。よろしく、少尉」

 

 フレデリカは真剣な表情だったが、すぐ怪訝な顔をしてロンメルに尋ねた。

 

「将軍、今回は戦闘機が護衛に就くのでしょうか?事前連絡では航空魔女(ウィッチ)が護衛に就くと聞いていたのですが・・・」

 

「ああ、彼は男だが魔女(ウィッチ)だ」

 

「は?」

 

魔法使い(ウィザード)と言ったところかな」

 

 自分のことでもないのに自慢そうに言ったロンメルの言葉に、フレデリカは困惑の表情を浮かべる。神崎はそんな彼女を気の毒に思い、助け舟がてらに質問した。

 

「少佐、作業はどのくらいで終わるでしょうか?」

 

「え、ええ。一時間程度で終わると思う」

 

「分かりました。なにかお手伝いすることは?」

 

「特にないわ。ありがとう。では、将軍」

 

「ああ」

 

 そう言ってフレデリカは荷下ろし作業へと戻って行った。

 

「では、私も戻ろう。神崎少尉、よろしく頼む」

 

「はい」

 

 ロンメルはトコトコと歩き去っていった。将軍があんな感じなら部下はどんなに大変なのだろうか・・・と嘆息する神崎であったが、どこからか視線を感じ周りに目を向けた。

 

「・・・ん?」

 

「!!」

 

 神崎が目を向けると誰かが荷揚げされた荷物の影に隠れた。気になり、近づいて覗き込むと金髪の少女が隠れていた。

 

「あ・・・」

 

「・・・?なんで隠れている?」

 

 神崎は少女に問いかけたが、少女は返事をすることなくジッと神崎を見て、そのまま走り去ってしまった。

 

「何か怖がらせたか?」

 

 子供の扱いに慣れている分、怖がらせてしまったことに少なからずショックを受ける神崎だった。

 

 

 

 

 

 

 輸送船からの荷揚げ作業は滞りなく終わり、輸送部隊は軍港から出発した。輸送部隊がトブルクの街から出るまで少し時間がかかるので、神崎は少し時間を置いてから出撃することになっている。

 

「街を出るまでどのくらいかかりそうですか?」

 

『20分ほどね』

 

「分かりました。では、そのくらいにこちらも動きます」

 

『了解』

 

 神崎は無線でフレデリカと打ち合わせをしていたが、さっきの少女が気になり尋ねてみることにした。

 

「ところで、ポルシェ技術少佐。そちらに金髪の少女はいますか?」

 

『いるけど、どうして?』

 

「さっき会ったのですが、どうも怖がらせてしまったようで」

 

『・・・彼女は、シャーロットはいつもそんな感じよ。気にしなくていいわ』

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 神崎はそこで通信を終え、出撃準備に入った。間借りしていたブリタニア陸軍の空港からの管制を受け、離陸位置に移動する。

 

「神崎玄太郎、出撃します」

 

 ユニットに魔力を注ぎ込み、加速を開始し体を浮かび上がらせた。基地上空をクルリと一回転し輸送部隊の元へと向かう。

 

「こちら神崎。現在部隊直上を飛行中」

 

『確認した。けど・・・』

 

 神崎の通信に答えるフレデリカだが、なにか戸惑ったような声だった。

 

「なにか問題が?」

 

『あなた、男性なのに本当に飛べるのね』

 

「・・・自分は魔法使い(ウィザード)ですので」

 

 半ば溜息混じりに答える神崎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 零戦

 正式名称「零式艦上戦闘機」

 

 言わずと知れた扶桑皇国海軍の主力戦闘機である。他国の戦闘機と比べて化け物じみた航続距離と航空魔女(ウィッチ)と同等の旋回性能を持つが、それゆえに防御力が著しく低くなっている。しかし、それを補う攻撃力、一般的な7.7mm機銃に加え、航空魔女(ウィッチ)が使う九九式機関銃を装備している。

 世が世なら戦場の空を席巻していたかもしれない機体だが、ネウロイに対しては戦果を挙げれてないのが現状だった。

 

 

 

 島岡の乗る零戦と稲垣は模擬戦を開始した。一般的に航空魔女(ウィッチ)同士の模擬戦にはペイント弾を用いるが、戦闘機同士の模擬戦では相手の背後を取って勝敗を決める方法、もしくは吹流しを使用した方法を取る。

 今回の航空魔女(ウィッチ)と戦闘機による変則的な模擬戦は、相手の背後を取ったほうが勝ち、ということになっていた。全方位に射撃ができる航空魔女(ウィッチ)へのハンデであるが、今回の模擬戦の目的は戦闘機動の錬成の為、なんら問題はなかった。

 

「さて、どうしたものかね・・・」

 

 旋回する零戦のコックピットで島岡は呟いた。普通に考えれば航空魔女(ウィッチ)と戦闘機の戦いなど、どう考えても航空魔女(ウィッチ)の勝ちだろう。しかし、島岡は、昔は神崎、ここ最近はずっとライーサと一緒に飛んでいたのだ。航空魔女(ウィッチ)の動きは大体把握している。目を向ければ、ちょうど反対側に同じように旋回する稲垣の姿が見える。しかし、航空魔女(ウィッチ)の方が戦闘機よりも断然小さいため小さい円周で旋回し、徐々にこちらの後ろを獲り始めた。

 

「さすが!でも・・・」

 

 島岡は操縦桿を傾けた。稲垣が回り込んでくるのを防ぐために、自身も回り込もうとする。

 

『!速い!?』

 

 零戦の、その驚異的な旋回能力に稲垣は驚いた声を上げた。だが、稲垣すぐに顔を引き締め、島岡の零戦を追い始める。互いにクルクルとドッグファイトを繰り返すが、そこで稲垣が意を決したようにスピードを上げた。

 

「!!」

 

 稲垣の動きに反応し、島岡もスピードを上げた。更に右へ左へと機体を振り、稲垣を背後に近づかせないようにする。しかし、稲垣はそれでも食いついてきた。

 

「なかなかやるな・・・」

 

 島岡は稲垣のその根性に感嘆した。12歳ながらも、ここ激戦地アフリカで戦っているだけある。

 

 だが・・・

 

「でも・・・よっと」

 

『あ!!』

 

 突如、ふわっ浮き上がるように一気に減速して、くるっと旋回した。スピードを上げていた稲垣はその旋回についていけず、真っ直ぐ突っ切ってしまう。その背後にスピードを上げた零戦がピッタリとついた。

 

「ほい。終了」

 

『ま、負けました・・・』

 

 悔しそうな稲垣の声。島岡は励ますように言った。

 

「真美ちゃんもいい動きだったよ。さ、戻ろう」

 

『はい・・・』

 

 二人は基地への帰路についた。

 

 

 

 基地に帰ると、ライーサが二人を出迎えた。

 

「二人とも、お疲れ様。島岡さん、お見事でした」

 

「いや、大したことねぇよ」

 

「島岡さんの動き、凄かったです。完敗でした・・・」

 

 悔しそうに稲垣が言う。そんな稲垣に島岡がまた励ますように言った。

 

「俺が機体を振り回した時、まさかあそこまで喰らいついてくるとは思わなかったよ。真美ちゃんがスピードを上げてたからあの機動ができたけど、もしスピードを上げなかったら危なかった」

 

「そうですか?」

 

 島岡の言葉に稲垣の表情は少し明るくなった。ライーサも島岡に言った。

 

「でも、よくあんな機動ができましたね?」

 

「機動の考え自体は、この前の神崎の動きを参考にしただけだよ。マルセイユとの模擬戦の時のね」

 

「あ!あの時の!!」

 

「ま、出来たのは俺の腕。特務少尉は伊達じゃないってね。」

 

 少し自慢げに言う島岡。そんな彼を稲垣は羨望の目で見つめた。

 

「島岡さん、かっこいいです!」

 

「へ?そ、そうか?」

 

 まさか稲垣がそんな反応するとは思わなかった島岡は戸惑った声を上げる。そんな島岡を見てライーサはクスクスと笑った。けど・・・と島岡は表情を曇らせて言った。

 

「俺はネウロイには勝てねぇよ」

 

 その言葉にライーサと稲垣は怪訝な顔をした。稲垣が言う。

 

「でも、この前のマッダレーナ砦では援護を・・・」

 

「あれはネウロイがライーサとマルセイユに集中してたから。戦闘機には航空魔女(ウィッチ)のようなシールドはないし、本気でネウロイとやりやったら、ひとたまりもねぇ。赤城の時もそうだった」

 

 島岡の寂しそうな表情に稲垣は何も言えなくなってしまった。ライーサも黙っていたが、少しして静かな声で言った。

 

「その戦闘の話は聞いています。でも島岡さんは、十数体のネウロイから逃げ切ったんですよね?それって航空魔女(ウィッチ)でも難しいことです。そこまでの腕を持ってるならネウロイを倒すことも・・・って島岡さん?どうしたんですか?」

 

 ライーサは島岡が目を丸くしているのを見て話すのを止めた。島岡は少し戸惑いながら言った。

 

「いや、ゲンとほとんど同じようなこと言ったから驚いて・・・」

 

「え?そうなんですか?」

 

 驚いてお互いの顔を見合うライーサと島岡。そんな二人を見て今度は稲垣がクスリと笑った。穏やかな三人の雰囲気。しかし、突如鳴り響いた警報がそれを壊してしまう。三人の表情が引き締まった。直後、加東がこちらに駆けてきた。

 

「真美!模擬戦の後で悪いけど出撃よ。今回は私も出るわ」

 

「はい!!」

 

「なんでケイさんが?」

 

 真美が格納庫に走っていくと、島岡が加東に尋ねた。

 

「敵が地上型ネウロイ主体だし、航続距離の問題がね」

 

「指揮は?」

 

「マルセイユに任せてるわ。信介もライーサもマルセイユをサポートしてね。じゃあ!」

 

 加東はそう言い残すと格納庫へ走って行った。少しして、キ61を装着した加東と稲垣が発進していった。

 

「さぁ、私たちはティナの所へ行きましょう」

 

「だな」

 

 発進した二人を見送り、島岡とライーサはマルセイユの所へ走っていった。

 




自分の書く速度が遅いせいで、話を完結させるのにどのくらいかかるんだろうと不安になってきました。来春までには終わらせたい。(希望的観測)


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