ストライクウィッチーズ 一匹の狼   作:長靴伯爵

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どれだけ寝れるかが勝負だ。※本編とは全く関係ありません。

感想、アド(ry、よろしくお願いします。書いてくれると、めちゃくちゃうれしいです。


第九話

 

 

 砂塵が吹き上げる砂漠の道を一台のキューベルワーゲンが走っていた。時折、ガタガタと揺れながら走るそれの運転席には神崎。隣には加東。二人はトブルクに向かい移動中であった。

 

 

 

 先の一件以来、やはりというか、神崎は孤立気味になっていた。マルセイユとは未だに一言も言葉を交わさず、その為にライーサ達も神崎と接するのをためらっていた。島岡がなんとかテコ入れしようと頑張っているのだが効果は薄かった。そこで、加東は司令部への報告に神崎を同行させることで、一度部隊から離し、気分転換をさせようと考えたのだった。

 

「玄太郎って運転できたのね」

 

 加東は自分で運転するつもりだったのだが、神崎がさりげなく運転席に座っていたのだ。

 

「はい。士官学校の時に覚えました」

 

「ふ~ん」

 

 そこで一旦話が途切れる。しばらく、キューベルワーゲンの走行音と砂塵が擦れる音だけが聞こえていた。加東はじっと外を眺めていたが、ボソリと神崎に尋ねた。

 

「マルセイユのこと、まだ怒ってる?」

 

「・・・いえ」

 

 神崎も前を向きながらボソリと答えた。

 

「自分も・・・大人げなかったかと」

 

「そう」

 

 加東は神崎の横顔を眺めた。神崎はチラリと目を合わせたが、すぐに前に向きなおった。なら・・・と加東が言う。

 

「こんなことを言うのもあれだけど・・・。玄太郎からマルセイユに謝ってくれないかしら?」

 

「・・・なぜですか?」

 

「彼女も今回は悪かったと思ってるけど、声をかけられないでいるのよ。だから・・・ね?」

 

「・・・」

 

 黙る神崎。加東もジッと黙って見つめ、返事を待った。やがて根負けしたのか、神崎が溜め息をつき言った。

 

「分かりました。自分から謝ります」

 

「そう!よかったわ」

 

 加東は嬉しそうに微笑んだ。

 

「あ~、よかった。これで問題が一つ解決」

 

 ふと気になり神崎は尋ねた。

 

「他にも問題が?」

 

 それを聞いた加東の目がギラリと光った・・・ような気がした。

 

「解決する問題なんて山程あるわよ。例えば・・・」

 

 そう言うと加東はつらつらと「アフリカ」がどんな問題を抱えてるかを語り始めた。神崎は地雷を踏んだことを後悔しながら、黙ってハンドルを回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トブルクは自然港である。

 ネウロイとの戦争が始まる以前から貿易港として栄え、戦争が始まってからは、要塞が築かれ連合軍の拠点となった。軍の補給物資が数多く運び込まれるため、また軍人相手に数多くの店がでるため、トブルクは多くの人で溢れ活気に満ちているのである。

 

 神崎が運転するキューベルワーゲンはトブルク中心部に位置するブリタニア王国陸軍第8軍団総司令部に到着した。神崎は司令部の建物の前にキューベルワーゲンを停め、加東を降ろす。

 

「じゃあ、私は報告に行ってくるから。多分会議もあるから結構時間がかかると思う」

 

「分かりました」

 

 と、そこで加東はメモを取り出した。車の窓から神崎に手渡し言う。

 

「これに書かれてる物を買っておいてくれる?」

 

「なんです?これ・・・」

 

  受け取って見てみると、そこにはカメラのフィルムや料理のレシピなど様々な物がリストアップされていた。加東が言う。

 

「マルセイユ達が欲しい物。今回は部隊全員の欲しい物を買うのは無理だけどね。買っといてくれないかしら?」

 

「・・・わかりました」

 

「玄太郎も何か買えば?」

 

「そうですね」

 

 そう言い残し加東は司令部の建物へ入っていった。神崎は加東を見送ると、駐車場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「料理のレシピ・・・真美だな。ライーサはゴーグル。シンは釣糸。あいつは釣りばっかだな。酒のつまみ・・・マルセイユ・・・か」

 

  車から降りた神崎は、メモを見つつ大通りを歩いていた。まだ午前中にも関わらず、大通りには沢山の人が歩き、賑わいを見せている。そんな中には、ブリタニアやリベリオンなどの兵隊の姿もチラホラと見受けられたが、いつもの「炎羅(えんら)」は装備してないにしろ、扶桑皇国海軍の白い第二種軍装を着る神崎は明らかに目立っていた。

 

(見られてる・・・か。)

 

 チラチラと向けられる視線が痛い。神崎は軍帽を目深にかぶり直し歩く速度を速めた。

 

(さっさと終わらせよう。)

 

 幸いメモには店の名前も書いてある。・・・場所は分からないが。神崎は店の看板に目を配りつつ、大通りを進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって「アフリカ」基地

 

「点検始めるぞ。エンジン始動~!」

 

「了解。エンジン始動!」

 

 復唱する整備員の声を聞くと、島岡は零戦のエンジンを起動させた。指で回転数を示しながら、エンジンが正常に動くかを確認していく。

 

「出力最大いくぞ~!」

 

「了解!」

 

 エンジン音と機体の振動が一際大きくなっていく。と、そこにマルセイユがやって来た。が、島岡はエンジンに夢中で気付いていない。

 

「ーーーー」

 

「よし、どこも問題ないな!」

 

「ーーー!」

 

「やっぱ、『栄』は最高だな!」

 

「ーーーーー!!」

 

「よし、エンジン停止!」

 

「聞いてるのか!!シンスケー!!!」

 

「どわっ!!」

 

 エンジンが停止したのと同時にマルセイユの叫び声が響き渡り、島岡はコックピットの中でひっくり返った。マルセイユは肩で息をしなから、零戦の翼の付け根に上り、コックピットに顔を突っ込んでくる。

 

「私がこんなに呼んでいるのに、気付きもしないとはどういう了見だ?」

 

「いや、エンジン音がでかかったし・・・」

 

 島岡はひっくり返った時にぶつけた頭をさすりながら身を起こす。マルセイユはふんっと鼻を鳴らし、島岡の少し後ろ、コックピットの脇に寄りかかった。

 

「おいおい・・・なにしてるんだよ?」

 

「うるさい。私の勝手だろう」

 

 キッと睨み付けるマルセイユ。島岡は彼女を放置して降りることもできず、座席に座ったまま。マルセイユは島岡が座っても何の反応を示さない。仕方なく、島岡はスイッチ類をガチャガチャと弄り時間を潰した。

 どのくらいそうしていただろうか。マルセイユがポツリと言った。

 

「なぁ、シンスケ。ゲンタローは・・・まだ怒っているか?」

 

(あ~)

 

 島岡は納得した。マルセイユが今まで神崎に話しかけなかったのは、単純に神崎がまだ怒っているか心配で話しかける勇気がなかったのだ。

 

(まぁ、ゲンもいつもポーカーフェイスだし仕方ないか)

 

 島岡は明るい声で言った。

 

「ゲンはもう怒ってないぞ」

 

「そんな訳ない。私はあんなに怒らせたんだぞ。私ならまだ怒ってる」

 

 島岡は振り返ってマルセイユの顔を見た。その顔は、本当にこれが「アフリカの星」かと疑ってしまうような不安そうなものだった。島岡は少しため息をついて言った。

 

「マルセイユ。お前は何歳?」

 

「?14だが?」

 

何故そんなことを聞くのかとキョトンとした顔をするマルセイユ。島岡は諭すように言った。

 

「いいか?俺は17だ」

 

「うん」

 

「お前より3年分多く人生経験をしてるんだ。それはゲンも同じ。そんなゲンがお前がしたことをずっと怒っていると思うか?」

 

「・・・」

 

「ゲンは自分から積極的に話すやつじゃないから、そこで少しすれ違っただけだよ」

 

「でも・・・」

 

「大丈夫。親友の俺が保証するよ」

 

 島岡はマルセイユを励ますように頷いた。それを見て、マルセイユは表情を明るくした。

 

「分かった。ありがとう、シンスケ!」

 

 そう言うと、マルセイユは零戦から飛び降りてどこかに走っていった。島岡はその後ろ姿を見送るとひとりごちる。

 

「なんで上官を諭してるんだか・・・」

 

 やれやれと首を振りながら、島岡もコックピットから飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トブルク

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎はメモに書かれていた最後の物を買い揃え、店から出た。色々な店を渡り歩いた為に結構な時間がかかったいた。

 

(もうそろそろ時間か・・・)

 

 神崎はポケットから取り出した懐中時計で時間を確認すると、司令部の建物に足を向けた。

 しばらく大通りを歩いていたがさっきとは雰囲気が変わっていることに気付く。明らかに民間人が少なくなっているのだ。そして、武装した連合軍人が大通りを封鎖していた。

 

(・・・?)

 

 キョロキョロと周りを見回す神崎だが、後ろから何か喧騒が近づくのに気付き、振り向いた。神崎の目が見開かれる。

 

 それは反戦デモ行進だった。

 行進している人々は声を揃えて叫びながら、プラカードを掲げている。デモ行進の規模は以前見た時と比べ物にならない程に大きくなっており、その変化に神崎は驚きを隠せないでいた。

 

「おい!そこの扶桑軍人!何しているんだ!こっちにこい!!」

 

 デモ行進を見て棒立ちしていた神崎を、ブリタニア陸軍の将校が呼ぶ。その声で神崎は我に帰った。荷物を抱え直すと、封鎖している地点へと走る。たどり着くと、ここの指揮官であろうブリタニア陸軍の大尉が神崎の姿を見て言った。

 

「貴官は・・・『アフリカ』の・・・」

 

「ハッ。統合戦闘飛行隊『アフリカ』所属、神崎玄太郎少尉です。大尉、これは・・・」

 

 周りを見渡して神崎が言った。大尉が答える。

 

「最近、反戦デモが過激化してきたのだ。奴らが基地周辺に近づかせないのが我々の任務。貴官はすぐに基地へ戻れ」

 

「了解しました」

 

 神崎は敬礼を残し、すぐさま大通りを後にした。

 

(嫌な感じだ・・・)

 

 神崎は頭を振り、足を速めた。その様子を1人の男が建物の二階から見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神崎が車に戻ると既に加東は戻っており、カールスランドの将校と話をしていた。

 

「だから・・・わけだから・・・」

 

「そこは・・・だ。つまり・・・」

 

 何やら混み入った話をしているらしい。少し近づくのを躊躇う神崎だが、そこで加東が気付いた。

 

「あ!お帰り、玄太郎。ちゃんと買えた?」

 

「はい」

 

 加東に返事をしつつ、隣にいたカールスランド将校に敬礼する。ああ、と加東が将校を紹介した。

 

「ロンメル将軍よ。よく基地にくるから仲良くしてね」

 

「はい。・・・はぁ!?」

 

 加東の軽い紹介に、神崎はすぐ相手を理解できなかった。思わず驚きの声を上げてしまうが、努めて努めてポーカーフェイスに戻し改めて挨拶しようとする。しかし、それをロンメル自身が制した。

 

「君のことは知っている。神崎少尉。マッダレーナ砦ではよくやってくれた」

 

「いえ・・・」

 

 平常心をなんとか維持しようとする神崎。それを見てとったのか、加東が助け船を出した。

 

「じゃあ、将軍。私たちは基地に戻るわね」

 

「む、そうか。また私もそっちに行くから、その時は写真を売ってくれ」

 

「はいはい」

 加東に促され神崎も車に乗る。と、そこでロンメルがコンコンッと運転席の窓を叩き、言った。

 

「今、街はデモ行進の真っ最中だ。街から出る時は少し遠回りした方がいい」

 

「了解しました」

 

 神崎は頷くとエンジンをつけ、車を発進させた。しばらく車を走らせ、ロンメルが見えなくなると、加東に尋ねた。

 

「ケイ大尉。あの方は本当に・・・」

 

「本当にロンメル将軍よ。将軍があんななんて、扶桑じゃ考えられないわよね」

 

 ケラケラと笑う加東。その姿を見て、神崎はさらに信じられなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地に着いた頃には西の空が赤くなっていた。稲垣が夕食を作ってるのだろう。どこからともなく美味しそうな匂いが漂っていた。車から降りた加東はその匂いを嗅ぎ、思い出したように言った。

 

「そう言えばお昼を食べてなかったわ。玄太郎は食べた?」

 

「いえ。自分もです」

 

 荷物を抱えて降りた神崎も鼻をヒクつかせる。二人が調理場近くに戻ると、既に夕食が始まっていた。

 

「お!ゲン、ケイさん、お疲れ!」

 

 島岡がいち早く二人に気付く。他の面々も二人に気付くが、加東はともかく神崎を見ると気まずそうな雰囲気となる。

 しかし、神崎は特に気にすることなく、荷物を置くと食事を受け取り、島岡の隣に座った。加東も食事を受け取ると、近くに座り言った。

 

「玄太郎。ちゃんとカメラのフィルムあった?」

 

「はい」

 

「俺の釣糸は?」

 

「・・・ちゃんと全部買ってある」

 

 神崎は二人が気を使ってくれていることをひしひしと感じていた。どうもやるせなさを感じ、溜め息をつく。すると、そこへマルセイユが近づいてきた。神崎の向かい側に立って、低い声で言った。

 

「ゲンタロー」

 

「・・・はい」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 沈黙

 

 加東が神崎の腕をつつき、島岡がマルセイユに何か視線を送っているが、神崎はあえて無視することにした。

 

「そのだな・・・」

 

「・・・」

 

 マルセイユは何かを言おうとしているのだが、なかなか言い出せない。神崎はそれを察し、自分から口を開いた。

 

「中尉、この前の・・・」

 

「後で・・・」

 

「?」

 

 言葉を途中で止められ、押し黙る神崎。そのままマルセイユは続けた。

 

「私の天幕に来い」

 

「は?」

 

 そう言うと、マルセイユは踵を返してどこかへ行ってしまった。まさかの言葉に、神崎はもちろん加東も島岡も茫然としている。不幸中の幸いはマルセイユの声が低かったために、周りの兵士には聞かれなかったことだろう。

 

「・・・なんなんだ?」

 

 神崎はポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 行かないわけにもいかず全ての仕事が終わった後、神崎はマルセイユの天幕の前にいた。天幕の入り口にはマティルダが立っているが、神崎を見るとスッと入り口を開いた。中に入ると、マルセイユはソファに座っていた。

 

「中尉」

 

「ん」

 

 神崎は声をかけたが、マルセイユは返事をしただけで黙ってしまった。しょうがなく、神崎は自分から口を開いた。

 

「中尉。この前は申し訳ありませんでした」

 

「もう怒ってないのか?」

 

「はい」

 

 マルセイユはじっと神崎の目を見つめた。そしてフルフルと首を振って言った。

 

「嘘だ。そんな簡単に許してくれるはずがない」

 

「中尉が自分のことを思ってあんなことをしてくれたのは分かっています。だから・・・」

 

「じゃあ、なんであんな怒ったんだ?」

 

 マルセイユが不安そうな表情で神崎を見上げた。それを見て神崎はふと思い出した。まだ扶桑の実家に住んでいた頃、妹を叱った時に同じような表情をしたのだ。

 

(あぁ・・・そういうことか)

 

 マルセイユは航空魔女(ウィッチ)で「アフリカの星」である前に、まだ子供なのだ。だから、こんなことで狼狽えるし、不安にもなる。

 

「ハンナ」

 

「!」

 

 知らず知らずのうちに、神崎は彼女の名前を呼んでいた。そして、普段は見せない柔らかい表情をして、手をマルセイユの頭にのせた。まるで兄のように。

 

「大丈夫だ。もう俺は怒ってない」

 

「本当か?」

 

「ああ。だが・・・次したら許さないぞ」

 

「分かった。絶対にしない」

 

 マルセイユはコクンと頷いた。神崎は頷くと、後ろを振り返って言った。

 

「で、いつまで隠れてるんですか?」

 

 見たところ、二人以外誰もいないマルセイユの天幕。

 だが、神崎が声をかけるとガサゴソと音が鳴り、物陰から加東、島岡、ライーサが出てきた。皆、一様に気まずそうな顔をしている。あきれた顔で神崎が言った。

 

「ばれないとでも思ってたんですか?」

 

「いや、だって・・・ねぇ?」

 

 島岡が隣の加東をみる。

 

「まぁ、何か間違いがあったらいけないし。保護者の務めね」

 

「そんなことしません・・・」

 

 はぁ・・・とため息をつく神崎。そんな神崎の横をライーサが通り抜け、マルセイユに尋ねた。

 

「ティナ、神崎さんと仲直りできた?」

 

「ああ」

 

 さっきの不安そうな顔はどこにいったのか、マルセイユの顔はいつもの自信満々なものになっていた。

 

「仲直りできたことだし、今日は飲もう!!マティルダ!」

 

「はい」

 

 すでに酒の準備を完了しているマティルダ。その様子を見て、ジト目となる神崎。

 

「中尉・・・」

 

「ゲンタロー。もう騙して飲ましたりしない。堂々と一緒に飲もう!!」

 

「・・・もう、どうにでもなれ・・・」

 

 諦めた声の神崎。今夜も魔女の宴会が始まった。

 




今回でマルセイユ編は終わりです。

次は誰にするかは未定。


注:「栄」というのはゼロ戦のエンジンの名前です。わからなかった人がいたらごめんね。

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