神々の追想曲――Despair of a Parallel world   作:tamatyann

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魔族と日ノ本 近衛騎士団の攻撃と撤退!

 

 近衛騎士団が転移門の近辺に野営地を設置してから4日過ぎた。

 その間に、地中を流れる魔力の流れ(竜脈)を測定したり門の状態を確かめるなどと言った調査が行われた。

 

 近衛騎士団長のマリエルは連れて来た魔道研究者と結果について話し合っていた。

 

「……で、門に魔力が溜まっていると?」

「はい、過去のデータよりも数倍ほど竜脈からの魔力が流れ込み、門周辺で緑色の光が一時的に現れるなど、封印が解けかけていると言う予兆が見られました」

「緑色の光に害は無いのか?」

「えぇ、光自体はただの魔力が視覚化した様な物なので問題はありません。 ですが、相当量の魔力が転移門に集められているのは確かです」

「転移門が開く時期は分からないのか?」

 

 マリエルがそう聞くと、魔道研究員の男は申し訳なさそうに答えた。

 

「代々、転移門を研究してきた我々でもいつ封印が解けるかすら分かりません。 封印の条件まで指定してあるような転移門にどれだけの魔力が必要かすらわかって無い状態なのです……申し訳ございません」

「王宮へ報告の必要があるな……」

 

 マリエルは近くで休んでいるはずの若手の騎士を呼び寄せて、早馬を立てることにした。

 そのため、マリエルは魔道研究者の男からの報告を終らせ、伝令用の紙に書状をしたため始めた。

 

 数十分後、騎士の一人を呼び寄せ、書状を見せた。

 

「では、これを王宮に届けてくれ」

「伝令ですか?」

「そうだ。 伝令が遅れて部隊の到着が遅くなると、最悪魔族が現れる可能性があるから急いで送ってくれ」

「……はっ、かしこまりました」

 

 マリエルは書状を渡した一人の若い騎士に緊迫感を持たせてから書状を渡すと、その若い騎士は少し青い顔をしながら馬の元へ駆けていった。

 

 しばらくして若い騎士がきちんと王宮に向かいだしたのを確認すると、マリエルは気になっていたことがあったので先ほど話していた魔道研究者の元へ向かった。

 

「ちょっといいか?」

「はい、どうされましたか?」

「こんなところまで魔力が増えるのか?」

 

 考え事をしていた魔道研究者の男がマリエルの言った言葉に反応して周囲を見渡すと、転移門から多少離れた野営地内にまで緑色の光が地中から漏れ出し始めていた。

 顔をゆがめた魔道研究者の男は顔を曇らせていた。

 

「ふっ、封印が解け始めているのかもしれません。 それと伴って地中の魔力が高まりだしたのかも……」

「封印が解けるのが近い、か」

「そうで……」

 

 魔道研究者の男が口を開いたその時、ギチギチと結界に圧力を受けているような音が響き渡った。

 マリエルと男はお互いに顔を見合せると、慌てて音のした方向に向かった。

 

 高台に伸びリ、音のした方向を見ると異様な光景が広がっていた。

 

 転移門の周辺に漂うエメラルドの様な緑色の光を放つ粒子。

 その光の粒子が一気に濃くなり、足元からも大量の魔力が放出され始めた。

 その緑色の光の粒子によってマリエルの視界が完全に覆われた時、ガラスが砕けるような音が聞こえた気がした……

 

 

 ◇

 

 

「――エル……起きろや、マリエル!」

 

 頬を引っ叩かれ、肩を揺さぶられて強引に起こされたマリエルは、イライラしながらも立ち上がった。

 目の前には脳筋のベンドルマンが顔をゆがめて立っていた。

 

「もっと優しく起こせよベンドルマン!」

「それどころじゃねぇよ、アレ見てみろ」

 

 珍しくまともなことを言ったベンドルマンが指差す方向を見て見ると、緑色の光の粒子(魔力)を発していたはずの転移門が鎮座していた。

 一見して何も問題の無いように見えたが、先ほどのような濃い魔力が感じられるわけでもなかった。

 不思議に思ったマリエルが転移門をじっくり観察してみると、先ほどまで硬く閉じられていたはずの門が完全に開き、解放されていた。

 

「……どういうことだ、まさか?」

 

 マリエルは息を呑んでドンベルマンの方を見た。

 するとドンベルマンは無言のまま頷いた。

 

 マリエルは再度伝令を送る為に書状を書き始めたが、半分ほど書き終えた頃にドンベルマンが牛の様にマリエルめがけて突っ込んできた。

 

「あぶない、一体どうしたんだドンベルマン?」

「俺らが失神してからもう一日は過ぎてる……」

 

 少し気絶しただけだと考えていたマリエルは口をポカンとさせてドンベルマンを見ていた。

 

「ははっ、まさか少し気絶しただけだろう?」

「いや、焚き火を見たんだが温度的にも一日は過ぎている、ちょっとこい!」

 

 ドンベルマンはじれったくなったのか、マリエルの腕を引っ張って焚き火の跡にまで連れて行った。

 うんざりした顔のマリエルが焚き火の跡に手を近づけて温度を確認すると、急にマリエルの顔が深刻な表情に変わった。

 

「……だな」

「だろ」

 

 マリエルは時間が無い、と感じながら急いで騎士団員全員を招集し、指示を出し始めた。

 

「……おい、若いの数人は王宮に報告に走れ」

 

 マリエルの言葉に反応した数人の騎士団員が慌てて馬に飛び乗って、転移門に背を向けて走り出した。

 

「残りは完全武装で転移門に近づき調査を続行する。 したがって三十分後には高台に集まってくれ」

 

 マリエルはそう言うと、そそくさと甲冑を着けるなどの準備を行う為に自分のテントに戻った。

 

 

 

 

 マリエルの騎士団は三十分かかる前に転移門を一望できる高台に上がっていた。

 再度マリエルが指示を出そうとしたところで、転移門を監視していた魔道研究者に遮られた。

 

「騎士団長! 転移門から魔物が……」

 

 マリエルは魔道研究者が指さす方向を慌てて確認すると、転移門からワラワラとオレンジ色のゴブリンの様な魔物が出てきていた。

 

 その報告を聞いて転移門を見た団員達の一部が恐怖に顔をゆがめていた。

 

「おいおい、まずいだろ魔族か?」

「いや、黒髪黒目だろ? 魔界の魔物だろ」

 

 ざわめきが徐々に大きくなり魔物に気付かれる可能性があったのでマリエルは少し口を尖らせた。

 

「黙れ! あと、殺気を殺せ!」

 

 その言葉を聞いて騎士団員は静かになったが、一部の団員が剣を既に抜き命令を待っていた。

 

 マリエルも、既に剣を抜いている団員達が考えているであろう「早く戦いたい」と言う衝動に襲われたが、門をくぐり抜けて警戒している可能性の高い魔物の前にすぐに躍り出る訳にはいかなかった。

 

「少し待て、油断したところを討つ!」

 

 その言葉をきちんと伝達すると、熟練の騎士団員達は殺気を殺して剣を抜いたり魔法の準備などの攻撃の最終準備を始めた。

 急いで準備を始める団員達と同じように準備を進めていたマリエルは、転移門の周辺から動かない魔物を訝しげに観察していた。

 少し観察していると、そのオレンジ色の魔物の行動に不可解な行動が見えた。

 

 一体魔物は何をしてるんだ? 

 

 転移門から出てきたオレンジ色の魔物は、銀色の物体を地面に指したり、ガラスのような物を地面に置いたり、門の向こうから黒いロープのような物を伸ばしたりなど理解不能な行動を行っていた。

 マリエルは、オレンジ色の魔物が見せる不可解な行動を見て不安が徐々に膨れ上がって来た。

 

 あれは魔物か魔族のどっちだ?

 魔物だとしても魔族が操っている可能性も高い……

 出現した魔物と同数の騎士団員しか居ない状況で、果たして勝てるのだろうか?

 

 このような不安がマリエルの心にのし掛かってきた。

 

 そんな不安に駆られているのはマリエルだけでなく、準備が完了した一部の騎士団員の中にも不安そうな表情を浮かべている者もいた。

 全員が乗馬し、剣や槍で全員が武装していることを確認すると、マリエル自身も乗馬し、レイピアを抜いて演説のような命令を下した。

 

「我々は敵の情報を得なければならない。 そのために我々は魔族の先行部隊であろう魔物の群を攻撃し、敵側の魔法の質や攻撃方法について探らなければならない。

 もし敵の攻撃が強烈であった場合には速やかに撤退し、小さい情報の一つでも王宮に届けてほしい……では、突撃!」

 

 マリエルが号令を発し、馬を転移門から一番離れている魔物に向けて走らせると、騎士団員はマリエルの後ろに続いて全員突撃していった……

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ゴウゴウと風切り音を聞きながらマリエル達は駆けていた。

 風の魔法を背中から受けながら走る騎士達は、監視していた高台から一気に駆け降りて、転移門の周囲に点在しているオレンジ色の魔物に向けて怒涛のごとく進んでいた。

 

 先頭にいるマリエルは、はぐれている一匹の魔物に狙いを付けると、後続の騎士を誘導しながらその魔物に近づいていた。

 

 

 

 マリエルが、なぜか警戒して来ないはぐれの魔物の横を通り過ぎようとした時に、何年も愛用しているレイピアを思いっきり振りかぶった。

 

 鈍く銀色に輝くレイピアは、太陽の光を浴びながら閃光のように魔物のわき腹に向けて振り落とされた。

 

「ウグッ!」

 

 その時、レイピアに魔物とは思えない赤色の鮮血が付着し、空に赤い線を引いた。

 

 この世界の魔物の様に変な体液を流すのかと考えていたマリエルは、一瞬思考を止めてしまった。

 

 それと同時に、女みたいな絶叫が切りつけた魔物から発せられ、マリエルは困惑し始めた。

 

 魔族?

 まさか、オレンジ色なんか……いや、新種なのか?

 新種ならベンドルマンが捕まえた魔族を解して意思疎通できるかもしれない……

 

 しばらく惰性で進みながら、考え事をしていたマリエルは、馬を強引に止めて切りつけた魔物の前に進んだ。

 後続の騎士達は一人止まったマリエルを無視して転移門の付近にいる魔物に向かって突撃していった……

 

 

 マリエルは目の前にいる魔物に視線を合わせると、切りつけた箇所からドクドクと血の様な体液が流れ、地面を朱に染め始めていた。

 それを眺めながら馬から下りて、マリエルは切りつけた魔物を観察していく。

 

 

 透明なガラスの向こうに見える黒髪の女の顔。 その顔は少し黄色いながらも蒼白に染まり、うめき声が漏れていた。

 顔から足のところまで詳しく見て見ると、オレンジ色の表皮みたいなものは、ただの服の様な物でしかなかったと分かった。

 マリエルは不思議に思いながらも、捕虜……いや、ただの研究資料兼情報源として使う為に治癒魔法をかけ始めた。

 マリエルは手を自身が切った患部に当てて魔力を込めていくと、次第に柔らかな光が患部を中心に光り始め、始めは自身の魔法に注意を向けていたマリエルは、次第に目の前の魔族の事を考え始めていた。

 

 なぜ、この魔族は体中を覆っていたのだ?

 魔物に擬態する為なのか、それとも別の意味があるのか……

 

 遠目かは魔物にしか見えなかったから擬態の為だろうが、なぜ魔力を一切帯びてない?

 

 魔族なら衣服を鋼並に硬化させる事もできると言われているのに、なぜ目の前の女の魔族はしなかったのだろうか?

 

 しばらく思索に耽っていたマリエルは、辺りに漂う焦げ臭いにおいを感じて我に帰った。

 

 とっくに治癒魔法で傷口はふさがり、柔らかな顔に戻った魔族の女を見た後、マリエルは貴下の騎士団員のいる方向に目を向けた。

 

 何体かの魔族は火炎魔法に包まれて、大声で苦痛を漏らしながらのた打ち回っていた。

 その間を通り抜けて槍や剣で次々と魔族を倒している。

 伝えられてきた強さとは格段に弱い魔族に、騎士団の全員が何かを隠しているのではないかと一部の古参の団員がいぶかしむほどだった。

 

 転移門の周囲部でバラバラとしていた魔族を駆逐すると、転移門の眼前にいる魔族集団にマリエル以外の騎士団は標的を決めたらしく突撃を開始していた。

 

 だが、その突撃で一部の古参が警戒していた事が現実のものになった。

 

 周囲に展開していた魔族とは違い、中央部にいる魔族は行動が機敏だった。

 その魔族達は黒い棒を構えると、中腰になって突撃する騎士達に向かって横一列に並んだ。

 あと、一分もすれば切り込めるという距離で、魔族のいる方向からどこからともなく普通なら大声で何かを発して来た。

 

 

「×××××、×××!(民間人への攻撃は止めよ! 我々は広島県の調査団だ! これ以上近づくと発砲する)」

 

 

 一切言葉の意味が分からずそのまま突撃する騎士達、一部の古参兵は身の危険を感じて突撃を止めたが、大半の騎士は突撃を続行した。

 ほとんどの兵が突撃を止めないからか、声を発していた魔族は急に口調を荒げるような感じの声を発した。

 

 

「×××! ××××××!(止まれ! 我々は警察だ! 警察官職務執行法、第七条及び警察官等けん銃使用及び取扱い規範の第七条に基づき発砲する!)」

 

 

 急に長い文章らしい声を出した魔族が言い終わった後、ブツッという音と共に魔族側が静まり返った。

 それから数秒しない内に、いきなり魔族のいる方向から聞きなれない音が多数、転移門周辺に響き渡った。

 

 マリエルは離れたところからその一部始終を見ていると、いきなり先頭を走っていた騎士数名が前のめりに倒れた。

 彼らを皮切りに魔族の方から爆音が響くごとに騎士達が続々と地面に打ち付けられた。

 

 それを凝視していたマリエルは、魔族の持つ黒い棒が光り、爆音がそこから放たれているのを確認した。

 そんな内にも、突撃していた騎士達は総崩れとなり、惰性で進むものは地面に落とされ、反転したものはなぜか攻撃されなかった。

 

 反転したものと一部の古参兵を合わせても、野営地に撤退し始めた騎士達はおよそ10人ほど。

 マリエルは部下が逃げる様子を見て我に帰り、自分が切って治癒した魔族を自分の愛馬に乗せ、野営地へと慌てて避難した。

 

 高台を超え、野営地で急いで部下達と合流すると野営地に荷物の大半を残したまま撤退することを決定した。

 捕まえた魔族の女を馬車に放り込むと、ベンドルマンら部下が最低限の荷物を野営地から回収して村へと向かって逃げだした…… 

 

 

 ◇

 

 

 マリエルたち一行は無言のまま馬を酷使し、深夜近くになってようやく近くの村に到着した。

 人数が減ったので、宿屋に泊まって最低限の休息を取ることにした。

 

 馬車から魔族の女を抱きかかえて宿屋に押し込もうとしたとき、食堂の方から部下達の鬱憤が聞こえてきた。

 

「なんであんな魔族を……」

「今からでも殺し…りたい」

 

 マリエルは、後で部下にこの魔族の女を殺さないように徹底するべきだと感じながら、部屋の一室に入った……

 

 マリエルは魔族の女が武器を持っていないか確かめる為にオレンジ色の服を取ろうとしたが取り方が一切分からなかった為、レイピアでオレンジ色の服を切り裂き剥ぎ取った。

 

 すると、白い服を着た幼そうな魔族が姿を現した。

 

 ガラス越しで見るよりも若く見えた女の魔族の衣服は先ほどのオレンジ色の服よりも機能性があり、なんとか切らずに脱がすことが出来た。

 

 普段なら全裸に剥いて確認することに抵抗を感じるマリエルも、武器を持っているか確認するために全裸にすることに問題は無いと感じるほどマリエルは精神的に疲れていた。

 

 全裸になった魔族の女が武器を持っていないかをくまなく探すと、王宮の牢で使うような魔石を使い部屋に魔法が使えなくなる結界を張った。

 その後、床に放置していた魔族の女をベッドに置くと、ゆっくりとその部屋から出て行った。

 

 その後、食堂にいた部下に魔族の女は王都で拷問にかけると説明し、部下達の溜飲を下げさせると、その足で魔族の女の隣の部屋に入ると、すぐに睡眠を取り始めた……




 次は軽く王都へ護送するシーンを入れてから、日本政府や各国の反応をやっていこうと思います。


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