神々の追想曲――Despair of a Parallel world   作:tamatyann

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 ちょっと説明が多いです。
 今回は異世界がメインです。
 新キャラでます。
 
 


魔族と日ノ本 近衛騎士団出立!

 

 剣と魔法によって勃起した一大国家の一つにヴェルラージ王国と言う国家が存在している。 この王国は、最近まで王位継承権の争いで国家を半分に分ける争いが起きていた。

 

 幸いにも隣の帝国との境は険峻な山脈地帯に遮られ、通り道も山脈の回廊地帯を通る街道と遠回りになる海だけだったので侵攻は無かった。

 現在、この王国の継承権争いは終盤に差し掛かり、ほとんど掃討作戦に近い状態にまで落ち着いていた。

 

 そんな中、王国近衛騎士団隊長のイシュダルト・マリエルとその配下の軍勢は、辺境にある地へと向かっていた。

 彼らの目的は他の騎士団と同じ残党探しではなく、一つの魔術遺跡を視察することが目的だった。

 

 その魔術遺跡とは転移門のことで、それは過去に滅んだ魔導国家の遺産の一つなのだ。

 

 

 かつてこの大陸には一つの巨大な帝国があった。

 その帝国は優れた魔法の技術を誇り、広大な大陸の半分を支配するほどの勢いを持っていた。

 帝国は各地に瞬間移動できる門を設置し、ゴーレムなど様々な魔導兵器を開発していた。

 

 そんな研究の中の一つに、エスパス・エトランジュ(異空間)と呼ばれる門があった。

 

 その門は帝国で偶然開発された物であると伝承では記録されている。

 どのように作られたなど詳しい記述は残っていないが、転移門については歴史書の中に記述があったので下記に抜粋する。

 

 

 旧帝国の歴史 魔族との争い・要約編  マリア・ベル著書

 

 

『彼の門を開いた帝国が見たのは「栄光の土地」と名付けてしまうほど肥沃な世界だった。

 彼の門を偶然開き、向こう側の見た帝国は彼の地へ何度も兵を送ったが、そのたびに疫病に襲われ帝国の力は徐々に減衰していった。

 この歴史書ではその衰退の歴史と魔族の歴史を簡素に紹介する。

 

 彼の地で帝国が見たのは魔の力すら使えぬ黒髪の蛮族が跋扈している光景だった。

 蛮族は帝国の人間を見ると、血に飢えた野獣のように襲い掛かってきたのだ。

 

 だが、我が帝国は「栄光の地」と名付けた地の蛮族を偉大なる魔法により駆逐し、平定した。

 

 平定した後、「栄光の地」に始めてたどり着いた帝国の人間はその地の肥沃さと雄大な風景に感服した。

 

 だが、日数が立つほどに「栄光の地」に降り立った人々の顔に笑みが失われていった。

 

 「栄光の地」では、なぜか帝国の穀物が一切育たず、現地の食料を調達しようにも、どれが安全かすらも蛮族を駆逐した為に分からずじまいだった。

 平定した地から離れた蛮族に聞こうにも言葉が一切伝わらず「ONI」や「TENGU」と言う言葉を残して逃げ惑う……

 帝国から運ぶ穀物で糊口を凌ぎながら現地の食べ物の調査をする中、次第に「栄光の地」に降り立った人間に疫病が広まり始めた。

 

 疫病が始めに広まったのは軍からで、軍から次第に「栄光の地」を開拓しにきた開拓民に広まっていった。

 だが、疫病は「栄光の地」にすむ人間だけでは物足らず、我が帝国を始めとして大陸全土に猛威を振るった。

 

 疫病により帝国全土が混乱に包まれる中、蛮族の逆襲が始まった。

 

 魔法が使えないと認識していた帝国は、立ち向かってくる蛮族を単なる魔獣の群れの様に捉えていた。

 

 そのため、白と赤の服を纏った女や、黒い帽子の様な物を被った男達が使用した見知らぬ魔法に帝国は混乱した。

 

 紙らしき物を使用した術や未知の魔物。

 夜には「栄光の地」に住む人間は悪夢に襲われ、昼には幻覚を見る。

 疫病と共に襲ってくる数多の蛮族……

 

 食料も乏しくなる中、我が帝国は平定した土地を手放しつつあった。

 

 帝国の数ヶ月の攻防の末、「栄光の地」は血で染まり、我が帝国はやむなく「栄光の土地」を手放すことを決定した。

 

 そして帝国軍が「栄光の土地」から撤退した後、転移門で対峙する蛮族と帝国軍……

 

 疫病と戦で疲弊した帝国は、徐々に転移門への締め付けが緩み始め、そこから蛮族の進入を許してしまうことになる。

 

 門から我が帝国の領土に侵入した蛮族は、これまでの報復と言わんばかりに各地の田畑や村を焼き、新たな疫病を振りまいた。

 

 彼らが通った後は道は血で染まり、田畑は穀物の苗一本残らず刈りつくされていた。

 それは後に伝説で伝わる魔族軍に襲われた様な凄惨な光景と伝えられた。

 

 帝国の人間は次第に、転移門から現れた蛮族を魔族と言って恐れ始めた。

 黒目に黒髪、この大陸には居ない人種……

 黒は悪魔の色と言われて忌避されるようになったのもこの頃だった。

 

 蛮族――後の魔族による被害がさらに広がる中、皇帝は勇気ある者と魔力の高い賢者を集めた少数の手勢を転移門を抑えた魔族を討ち滅ぼすべく送り込んだ。

 勇気ある者の一行は各地で魔族を打ち倒しながら、転移門へと向かい、後世に残るほどの戦いを繰り広げた一行はついに転移門を封印することに成功した。

 

 その結果、「栄光の地」から帝国を切り離す事に成功する。

 

 そして、帝国に侵攻してきた魔族を見つけ次第処刑することでこの災厄は終結した。

 

 この史実が彼の有名な「シャイターンの勇者」と言う物語の原点となったのである。

 

 しかし、肥沃な「栄光の地」を求む歴代皇帝は、転移門を度々開けて手勢送り込んで平定しようとしていたが、結果として帝国は度重なる疫病と魔族との戦いの影響で衰退してしまった……

 

 帝国が衰退した後、このエスパス・エトランジュ(異空間)と呼ばれる転移門は、ヴェルラージ王国が代々封印の儀式を行っており、現在のところ開かれてはいない……

 出来ればこの門が再び開かぬことを祈る』

 

 

 そんな魔族の住む地へと繋がる転移門。

 それを管理する王国で国家を二分にするほどの内乱が起きたらどうなるだろうか?

 

 ヴェルラージ王国は対外的に涼しい顔をしながら、度重なる内乱を戦ってきた。

 

 そんな内乱の最中、天に浮かぶ二つの月が交差する夜に行う儀式、それは何十年に一度しか訪れない日で、ヴェルラージ王国はその日に封印の儀式を行うことが出来なかったのだ。

 

 ヴェルラージ王国は必死に封印の儀式を行ったと諸外国を誤魔化しながら内乱を鎮圧した。

 内乱と言う一大をを乗り切ったあと残されたのが封印の解除と言う大陸を巻き込みかねない重大事項。

 事の重大さに恐々とした王や重鎮が慌ててマリエル率いる近衛騎士団を隠密に送って調査に当たらせる事となったのだ…… 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 転移門から馬車で一日という距離にある村に、イシュダルト・マリエル率いる近衛騎士団は滞在していた。

 

 騎士団のメンバーはその村で休息を取りつつ、さり気なく魔族が現れていないか聞き込みを行ったが、一度も見たことはないと村人は口をそろえて言っていた。

 

 近衛騎士団長のマリエルはその報告を聞いて、現地を直接見てもいないのに少しだけ安堵してしまった。

 

 もし、あの転移門が解放されてしまえばヴェルラージ王国は周辺諸国から見捨てられかねない。 いや、それよりも早く魔族の侵攻によって壊滅させられてしまうかもしれないのだ。

 

 マリエルは、このまま帰って異常なしと報告して国王からの重圧から解放されたかったが、王宮に出す情報はきちんと自分の目で確かめておく必要があるため、その誘惑を断ち切った。

 

 あぁ、胃が痛い……

 

 ふぅ……と、憂鬱げに溜息を吐いたマリエルは、配下の騎士に現地で調査のために必要な食料数日分を馬車に詰め込ませ、騎士団と数台の馬車の列は転移門へと向かって行った……

 

 

 

  ◇

 

 

 

 異世界へと繋がる転移門までは、馬車でおよそ一昼夜かかる。

  

 二日ほどかけて現地に到着した一行は、門が開いていないことを確認すると歓喜の声を上げた。

 

 だが、封印の儀式を行うはずだった年月からは幾年か経っている。

 

 もしもいきなり封印が解けると言う最悪の場合に備え、転移門から離れた場所に野営の支度を始めた。

 

 次の日からは門の封印を支える竜脈(地面の魔力の通り道)の測定や封印解除率など様々な事を調べる予定だ。

 幸いにも門が開いてなかったので、安心と野営地で書類を作成していたマリエルは、筋肉ゴリゴリの男に呼び止められた。

 

「おい、マリエル。 なんで転移門の近くで野営しないんだ? 移動が面倒だ」

 

 マリエルの目の前には幼なじみの男がいた。

 そいつは脳まで筋肉で出来ているような男で、戦闘では役に立つのだが、戦闘以外には全く関心を持たない男なのだ。

 

 マリエルは目の前に居る、ヴェルラージ王国で随一の剣の腕を持つ、腐れ縁の幼なじみであるベンドルマンを少し疎ましそうに見ながら口を開いた。

 

「だから前にも言ったろうが、ベンドルマン! 封印の儀式が行われず何年も放置された遺跡の封印が解けて魔族が急に現れたらどう対処するつもりだ?」

 

「魔族なぁ……」

 

 ベンドルマンはごっつい首を傾げて分からないという風な態度を取った。

 幼子でも童話で知ってるような魔族の事ぐらいは知ってるだろうと、マリエルは軽く挑発するように言った。

 

「まさか魔族の特徴を知らないわけないよな? 子供でも知ってるぞ」

 

「知らねぇよ、いるかどうかもわからねえ魔族の特徴なんざさぁ」

 

 当たり前の様に言うベンドルマンを見て、マリエルは唖然して困惑した顔を浮かべたが、「あいつは脳筋なんだ……」と感じて、強烈な脱力感に襲われた。

 

 あの全国民愛読書の「シャイターンの勇者」を読んだら腐るほど出てくるだろ……

 と言うかこの前、王都の野外楽団がやっていた喜劇シャイターンの勇者をエールを飲みながら一緒に見てたろ、この脳筋野郎……

 

 ブツブツと、どこぞの浮浪者の様につぶやいていると、ベンドルマンがマリエルの苦悩の原因を知ってか知らずか、マリエルの肩をバシバチと叩きながら剛毅に笑ってきた。

 

「そう陰気になんなよ……で、どんな特徴なんだ?」

 

 流石に出てくるとは思わないが、一般常識だから教えるのは仕方ない、と渋々ベンドルマンに魔族の特徴を教えることにした。

 

「……すぐに判別出来るのは黒髪だ。 この世界には黒髪がいないから誰でも一瞬でわかる。

 奴らは過去にあの大帝国を混沌に陥れ、虐殺と混乱をまき散らした諸悪の根元だから見つけ次第教会で処刑されたりギルドで討伐依頼が出ている」

 

「黒髪ねぇ……俺、黒髪の子供なら一年前に一匹拾ったぞ」

 

「はっ?」

 

 脳天気に笑うベンドルマンをマリエルは口をあんぐりと開けたまま凝視した。

 

 ベンドルマンでもまさか魔族を……

 って、そもそもどこで拾ったんだ?

 と、言うか使用人は止めなかったのか?

 そもそも半年前って、教会から捕らえたと報告は入ってないから、ベンドルマンが飼ってるのか?

 

 マリエルは想定外の返しをされて混乱してる中、ベンドルマンは更にとんでもない事を口にした。

 

「いやぁ、大変だったぞ! 拾ったのは一年前だが、言葉が通じないから忠誠の厚い使用人に任せて言葉を学ばせて……

 その子供に聞くと、ニホンとか言う国から迷い込んだらしいんだが、奴の話は突拍子のないものが多くておもしれえんだよ!

 ドラゴンでも無いのに鉄の塊が空を飛んだりとかあっちの国の成り立ちとか情勢とかさ」

 

 ニコニコと面白そうに話すドンベルマンの話を聞いてマリエルの頭がクルクルと回り始めた。

 

 魔族との意志疎通? 魔族の世界の情勢に技術……?

 

 これまでこの大陸では魔族を見かけると情け無用で処刑してきた。

 この大陸全体に突如として現れる魔族を発見し、殺してでも良いから捕らえると、ギルドで討伐褒賞をもらえるような世界なのだ。

 討伐した魔族が持っている所持品は特殊な魔道具の可能性もあるので、ギルドを通してすべて国家が回収している。

 

 もし、脳筋のベンドルマンが言う通り言葉が通じるなら、その魔族には価値が出る。

 

 これまで殺してきた魔族の魔道具の解析に魔族の戦い方、その弱点も聞き出す事が出来るかもしれないのだ。

 

 もし、教会に匿っていることがばれてしまえば、希少な魔族が処刑されてしまう可能性があるので、マリエルは周囲を警戒するように言葉を発した。

 

「教会に報告はしてないよな?」

「するわけないだろ、黒髪ぐらいで……めんどくさい」

 

 マリエルはなんとも無い風に装いながらも、内心小躍りしていた。

 

 脳筋、幼なじみでありがとう!

 

 マリエルは表情を一つも変えず、久しぶりに心の中でベンドルマンを褒めていたが、ベンドルマンは何かに感づいたようにこちらを睨みつけてきた。 

 

「変なこと思ってなかったか?」

 

「……いや、それはない。 王都に帰ったらその魔族に会えるか?」

 

「はなしを聞かせるぐれぇなら問題ないだろ、帰ったらな」

「じゃあ、よろしく……」

 

 マリエルは、ドンベルマンに背を向けると、この面倒な任務について久しぶりに笑った。

 

「……もう寝るか?」

「……そうだな」

 

 空を見上げると、二つの月が闇夜の大地を照らしていた……

 




 どうもですtamatyann220です。
 今回は硬いかもしれないですね……
 主人公が拉致されるのは次回になります。

 お気に入り登録と感想ありがとうございます!

 来たから次も頑張らなくては……

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