神々の追想曲――Despair of a Parallel world   作:tamatyann

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一話 女研究者と騎士団長

 

 警察のワンボックスカーに分乗した県の調査隊は、幾重もの検問を通り抜けて未知の門の近郊まで来ていた。

 あと500mほどで門に到着するというくらいの距離で下車した水木らの一行は、ワンボックスカーから降り、その場で立てられた巨大なエアテントの中に入った。

 

 集まった調査隊の面々が入ったところで水木は今回の調査の最終確認を始めた。

 

「それでは今回の調査の内容を確認します。

 今回の調査では未知の世界の微生物および植物などを手早く収集することを目的とします。

 これは緊急の行動を政府……いや、WHOによる未知のウイルスの封じ込め作戦を要請する為の資料となります。

 防護服の空気ボンベの容量が30分ほどなので時間はそこまでありませんが、土壌・空気・微生物のサンプリング、重力や磁場などの天体情報なども出来る限りサンプリングを行ってください。

 もし、その作業中に防護服が破れた場合にはすぐに申告してください。

 昨日に門の向こう側に潜った警察官とメディアの人間と同じく数週間の隔離が行われることになります。

 では、防護服を着用し次第行動を開始します」

 

 水木はそう言うと、近くの机に置いてあったオレンジ色の防護服と空気ボンベを手に持った。

 

 防護服には4つの基準があってAからDまでの四段階に分類されている。

 水木ら調査隊が着用する防護服はレベルAと言う最高レベルの物で、生物兵器や化学兵器のばら撒かれた地点に入る為にも使われるものだ。

 だが、この防護服は空気ボンベがあるので重たく、空気ボンベの容量で活動時間は20分から30分ほどと短いのだ。

 

 そのレベルAの重たい防護服を被ってまで行う作業に水木は少しだけ気が重くなった。

 

「さて、まずはボンベを背負って……」

 

 水木は久しぶりに着用するそのオレンジ色の防護服を着ようとしていると、隣にいた生物学の教授がこちらを見ていた。

 

「神代さん、これ……どうやって着るんですか?」

 

 それを聞いて水木は、エアテント内にいる調査隊の面々を眺めた。

 警察のNBCテロ対策専門部隊の人や保健所の人は慣れているためか手早く着用しているが、大学教授など防護服を着る機会のない人は着れない人同士で固まったままだった。

 

(しょうがないよね……)

 

 水木はハァ…と溜息を付いた後、学校の先生の様に振舞い始めた。

 

「着れない方はこちらに集まってください、教えられる人は周りの着れない人に教えてあげて下さい」

 

 水木がそう言うと、警察や保健所の人がハッと気付いて近くで困っている人に教え始めた。 それを見届けると、水木の周りにも7人の着れない人が集まっていたので指導を始めることにした。

 

「まず、貴重品を外してから空気ボンベを背負って下さい……」

 

 水木は防護服を着たことも無いような人間に、一から防護服の着用の方法を教えていった……

 

 ◇

 

 全員が防護服を着用するまでに約30分掛かった。

 ようやく全員が防護服を装着出来たので調査隊の面々はそれぞれ機材などを持って門へ向かって歩みを始めた。

 防護服には双方向通信機が備え付けられているが、ボタンを押したりなどの操作ができない為に常時電源が入れっぱなしになっている。

 そのため、門をくぐる度に調査隊の面々あげる感嘆の声が機械越しに良く聞こえた。

 最後尾にいる水木は先に入った人間があげる声を聞いて緊迫感が高まっていた……

 

 

 

 そして水木は見上げるほど大きく重厚な門の中に入った。

 地面から門の天井まで高さは10mを超え、横幅もかなりある。 黒ずんだ壁を眺めながら門を抜けると、日本では考えられない風景が水木の眼前に広がった。

 

「……すごい」

 

 水木も門をくぐり終えた先にある光景に感嘆の声をあげた。

 

 少しはなれたところに見える高台や近くにある森など辺りを見回しても大きな山が一つ見当たらないのだ。

 日本の国土の大半は山みたいなものなので、この光景だけでも日本ではないと直感できた。

 

 しかも、人工物が何一つ無いのだ。

 

 例外はくぐり抜けた門だが、その未知の世界側の門は日本側に現れた門よりも汚れていた。

 

 その門の周囲では警察の人が作業をしていて、常時監視用のカメラを設置したり、電気コードを日本側の門から引いたりなどと言った門の出入りを制限・監視するための作業を行っていた。

 

 他の調査班の人間も、土壌をさらったり、水溜りの水を採取したり、大気の濃度などを測定したりなど各々が行動を開始していた。

 防護服を着るのに戸惑っていた大学教授の一人と一緒に呆然とそれを眺めていた。

 

「神代さん……すごいですね」

 

「……えぇ、この世界って宝物の宝庫かもしれません」

 

「生物資源だけでも未知だらけでしょうし、資源まで合わせたらどうなるやら……」

 

「資源があるならどれだけの国が狙ってくるか……」

 

「やっぱりそうなりますか……自分達同じ日本人同士で団結して当たらないと大変ですね」

 

 感慨に耽っている大学教授を驚かせようと水木はチョットしたネタを出すことにした。

 

「それは同感するんですが、私はアメリカ人ですよ?」

 

「えっ、神代さんアメリカの方だったんですか?」

 

「父親が在日米軍で母が日本人なんです」

 

「じゃあ、小さい頃は基地で?」

 

「いえ……国籍は変えなかったので日本国内で過ごしましたよ」

 

「なんでアメリカの国籍を取ったんですか?」

 

「まあ、研究がアメリカの方が資金が潤沢だったのアメリカの国籍を取ったんです。 半年後にはアメリカに戻る予定でしたが、予定は変更しそうですね……」

 

「そうだったんですか……って時間がない! じゃあそろそろ調査を始めますか」

 

「分かりました。 また後で……」

 

 そう言うと、生物学者とか言った大学教授は門から離れたところで何やら道具を取り出して地面を突き刺し始めた……

 

(私も作業しないとね……)

 

 数分のおしゃべりを終えた後、大学教授の調査を見ていた水木は、慌てて準備していた道具類を持って動き始めた。

 

 10分ほど門から離れた高台の方に離れ、培地(微生物を育てる為の成分の入ったゼリーみたいな物)の入ったシャーレを取り出した。

 

 そのプラスチックのシャーレを地面に置くと、シャーレの蓋を開けた。

 

 これは空気中の微生物を取る為のもので、地球上の微生物と同様の成分で育つならば未知の微生物が採取できる可能性があるのだ。

 

 これは採取し次第、このシャーレなどの献体はアメリカの研究所に送られることになる。

 

 日本にも国立感染症研究所と言う高レベルな研究所があるにはあるのだが、近隣住民の反対があってただの封じ込め実験室として使われている。

 最高レベルになると、映画のバイオハザード的に防護服を着て作業することになるのだが、そのレベルの実験を行うには大臣確認が必要になるのだ。

 

 今は時間が無い為、日本を通り越してアメリカの研究所に発送することが決定し、受け入れ先からの許可も得てある。

 別の感染症の菌体を特定する為にアメリカに送ったと言う実例があったので許可は即刻出たのだ。

 

 水木は微生物の付着を待つ間にすることもなく、風景をのんびりと眺めていた。

 のどかな雰囲気のある草原に巨大な門がそびえ立ち、その周囲をオレンジ色の防護服を着た人間が歩き回ると言う珍妙な光景をじっと眺めていた。

 

(ほんと、映画みたいよね……)

 

 戻る為の時間も必要だったのでそろそろシャーレを片付けようと考えていると、ふと水木の着る防護服越しに変な音が響いていることに気付いた。

 

 まるで何かが地を蹴って進んでいるような重低音が響いてきたので、水木は何事かとその音がする方向に身体を向けた。

 

 1kmほど先、門から見えた高台のほうから何かが迫ってきていた……

 

 それは馬のような生物に跨る中世の騎士のような姿の生物だった。

 

 数はおよそ20騎……それが私めがけて一直線に突き進んでくるのだ。

 

 信じられない事態に水木は一瞬思考を硬直させていたが、あと少しで自分を通過すると言うときに我に帰って無線機で指示を飛ばした。

 

「全員、急いで逃げて!」

 

「なぜですか?」

 

 無線機の向こうから困惑した声が聞こえたが、緊急事態に違いないので無視して現状を伝え始めた。

 

「未知の世界から話も通じるか分からない生物の群れが突っ込んでくるからよ!」

 

「神代さんは今どこに?」

 

「高台だけど……って早く逃げて!」

 

 水木の目の前でその生物は剣らしき物を抜いて、殺気のようなものを感じてしまったので無線機越しに叫んでしまった。

 

 硬直する水木に向かって進んでくる生物。 その上に載る人間のような生命体……

 

 その生命体は抜いた剣を横に出して、水木の側を通過するのと同時に横腹を防護服ごと切り裂いた。

 

「ウグッ……」

 

 強烈な痛みと共に地面に倒れた水木は、何十もの生物が横を通過する音を聞きながら血が湧き出すわき腹を必死に押さえていた。

 

(なに……よ、なんな…のよ……)

 

 苦しみと共に水木の心には理不尽に切られた怒りの情が湧き出した。

 無線から流れるほかの調査隊の声を聞きながら、水木は最後に力を振り絞って言葉を紡いだ。

 

「…ささ…れた……映像……アメリカに…おく…て……」

 

 かすれる意識の中、最後に見たのは火の弾が調査隊の面々に直撃して火達磨になっている光景だった。

 そしてその光景を見ながら水木は意識を暗転させた……

 

 

 ◇

 

 

 目を開けると、純白の病院の天井ではなく、素朴な木製の天井だった。

 

 体を起こしてみると、防護服どころか衣服を一つも身に纏っていないことに気がついた。

 

 水木は体中を確認したが、斑紋や喉の異常、四肢の痙攣など病気の兆候は無かった。

 ここが病院なら最低でも一つぐらい医療機器があっても良いはずなのに、ここにはベッドと棚と言った質素なものしか置かれていなかった。

 下手したらどこかの田舎の宿みたいに見える場所で水木は一人、全裸で眠っていたらしい……

 

 呆然としている中、水木はわき腹を切られたことを思い出して慌てて傷口を確認した。

 

「切れてない……」

 

 確実にわき腹を切り裂かれたはずだった……

 なのに紅い線を残して綺麗サッパリと皮膚同士何事も無かったように結合していた。

 

(……なんで、皮膚が再生してるの?)

 

 水木は首をかしげながら皮膚を撫でていると、大きな木製の扉から一人の男が入ってきた。

 

 白人の様に肌が白く、金髪の中年くらいの男で、中世ヨーロッパのような甲冑を身に纏い、物騒なことに水木を切り裂いたのと同じ剣を装備していた。

 

「xxx、xxxxxxxxxx(おい、起きたのか娘)」

 

「だ、だれよ……」

 

 男の言う言葉が何一つ分からず、智香はベッドの上で後ずさりながらその男を見ていた。

 

 数秒間、にら意味合いが続いた後、急に男が唾を嚥下して、顔を上気させていた。

 水木はなぜ顔を紅くしているのかわからなかったので首を傾げて自分の体を見てみると、柔肌を晒したままだった。

 

 下半身だけしか下着をつけていない状態、しかも貧相な体を見ず知らずの男の前で晒していた事に気がつき、顔を真っ赤にしながらシーツで胸元を隠した。

 

「きゃあっ……」

 

 智香の一声で我に帰ったのか、甲冑を纏った男は私に背を向けた。

 

 そのとき、急に閉まっていた扉を開いて複数の男が乱入してきた。

 

「xxxxxx、xxxxx、xxx(団長、どうかしました……えっ)」

 

 ドタドタと扉を乱暴に開けて騒がしく入ってきた男達は私の姿を見たとたん硬直した。 だが、男達は劣情の視線と言うよりも品定めをするような視線を智香に浴びてきた。

 言葉が通じなくても感じるその嫌な視線に水木は段々と恐怖を覚え始めた。

 

(何? 何なのよ? 私が何かしたって言うの?)

 

「xxxxx!(出て行け!)」

 

 甲冑姿の男が何やら一喝すると、彼らは慌てて扉から出て行った。

 彼らは目の前に居る甲冑姿の男の部下らしい……

 

 水木はその隙に棚の上に見えた血で染色されたブラウスを羽織り、スカートを急いで着けると目の前の男に声をかけた。

 

「あの……ここはどこですか?」

 

 すると、甲冑姿の男がゆっくりと振り向いてきた……




 完全にスランプ状態です。
 
 息抜きと勉強の為のこの小説ですが、ISのほうも滞ってるのではぁ…といった状況です。
 
 書いても書いても幼稚に感じてしまうと言う……

 こちらは息抜きで書いているようなものですが、応援いただけるならよろしくお願いします。

 おまけで感想などあればありがたいです。

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