神々の追想曲――Despair of a Parallel world   作:tamatyann

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プロローグ

20××年5月。

 

 暖かい陽気に包まれた日曜日の昼過ぎ、広島県にある田舎に突如、巨大な建造物が出現した。 それは巨大な門のようなもので、門の向こう側には見慣れない平原が広がっている。

 それを見かけた市民が警察に電話をかけ始め、初めはデマだと考えていた警察の職員もその情報が200件を超え始めたので、半信半疑で近くにいた警察官を向かわせた。

 サイレンを鳴らさずに静かに到着した警察官は通報された場所に到着したときに口をポカンと開けたまま呆然と門を見つめていた。

 その門は高さが30mを超えるようなもので、それを見た警察官はパリのエトワール凱旋門を彷彿させた。

 しばらく動かなかった警察官は、無線を持つと本部へ連絡を始めた。

 

「広島72から本部」

《本部ですどうぞ》

「通報があった現場へ到着、……エトワール凱旋門を確認」

《……もう一度情報を送信せよ》

「申し訳ございません、現場で未確認の巨大構造物を確認、形状はエトワール凱旋門ほどの巨大な門、門の内部は周囲の風景および照度が一致していない」

《……追って指示を出す、現場で待機せよ》

「了解、12時46分。 以上広島72」

 

 無線連絡を終えた警察官は、パトカーの近くに立ちながら遠巻きに門を眺め始めた。

 警察官が眺めている間にも野次馬が増え始め、市民から情報提供のあった一部のテレビ局のカメラマンが撮影を始めていた。

 

 無線を受けた本部にいる警察官は、近郊にいる他のパトカーを向かわせて現場を再度確認させて情報が事実と言うことを念を入れて確認させた後、門の内部を調査するように指示を出した。

 

 現状に到着している5名ほどの警察官が、拳銃を構えながら石造りの門の内部に潜入した。

 

 一人、また一人と内部に入っていく警察官。 

 それを映像に捉えようとしたTVカメラマンが警察官の後ろからカメラを構えて門に接近していた。

 だが、緊張している警察官はそれに気付かずに門の内部へと入っていった。

 5人の警察官と数人のカメラマンが門を抜けると、そこには大平原が広がっていた。

 

「……なんだここ?」

 

 初めに無線連絡を行った警察官がそう呟くと、構えていた拳銃を降ろした。 警察官が呆然としている中、カメラマン達は興奮した面持ちで撮影を開始していた。

 

「コレを見てくれ!」

 

 好奇心旺盛な一人のカメラマンが門の裏を撮影しようと門の裏手に回った時に大声を上げた。 それを聞いた警察官がギョッとした顔で民間人のカメラマン達を見つめていた。

 

「なんでここにいる?」

「それよりもこれを!」

 

 興奮するカメラマンの言動を訝しげに思っていた警察官が門の裏手に回ると、カメラマンが撮影している先に視線を送った。

 

「なんだよ……幻覚? この世界は……」

 

 通ってきた門の裏側、そこには入る前にいた場所ではなく広大な平原が広がっていたのだ。

 

 裏手から見える門は壁で完全に塞がれていた。

 

 それを見た警察官は何度か顔を叩いて正気かどうかを確かめていたが、何度顔を叩いても門の裏は変わらず塞がれていた。 

 一人で見ている幻覚だと考えた警察官は、門の表にいる警察官やカメラマンを手招きして呼び寄せた。

 何事かと駆け寄ってきた全員は、門の裏手を見ると固まってしまった……

 

 少しだけ固まっていた警察官の中にネット小説が好きな人間がいた。 その彼はもしかすると某小説の様に異世界に通じる門の可能性が高いと、期待を膨らませ始めていた。

 

「……おい、GPSが使えるものが無いか?」

 

 異世界ならGPSは無いと考えた彼は、硬直していた他の人間に質問した。

 その声で、飛んでいた思考を戻したカメラマンの一人がオドオドと腰につけていた登山用のGPSを渡してきた。

 彼がGPSの電源を付けて画面を覗き込むと、トンネルでもないのにGPSの電波が捉えられないとエラーを吐き出していた。 それを確認した警察官の彼は口元をにやけさせると歓喜の声を上げ始めた。

 

「……よっしゃぁ!」

 

 GPSの電波も一切無い世界。 それは強力な妨害電波が出ている訳ではない限り、未知の世界だと言う証拠となる。

 一応用心して無線妨害が起きていないことを確認する為に、腰に下げているレシーバーが通じる事を確認した彼は異世界であると確信した。

 

 しばらく調査をした後に門を通って未知の世界から広島の片田舎の土を踏んだ彼らは、それぞれが所属する組織に連絡を行うと、警察官はカメラマンにその動画を警察や県庁に送るようにお願いした。

 結果、その動画はテレビ局経由で警察に送られ、未知の建造物の情報と共に広島県の警視監(本部長)に送られた。

 連絡を受けた警視監は限られた情報から、この未知の事態が警察だけの手に負える事態ではないとして警察職員に現場を封鎖させるように命令を出してから県知事に連絡を入れた。

 

 その連絡を受け取った県知事は、市役所からも同様の報告を受けていたことから対策本部の設置を決定した。

 

 急に作られた特異現象対策本部を設置する為に県庁は慌しく動き始めた。

 会議室に置くお茶の手配から、未知の世界への対応の為に様々な有識者の招集などが大車輪に行われた。

 それと同時に広島県から日本国政府に指示を仰いでいた。

 

 だが、政府は黙殺した。

 実際は政府に届く前に職員が誤報として処理してしまったのだが、その事実を知る由は無かった。

 その頃の政府内部は、大規模な汚職がメディアにすっぱ抜かれた事によって連日大騒ぎになっていた。

 それによって衆参両院は麻痺し、各省庁でも事実確認などで大慌てになっていたのだ。

 

 そんな中に送られた、広島からの嘘みたいな報告……

 

 いきなり巨大な門が出現したと言う夢見たいな話を中央の人間が信じるわけも無く、汚職問題のほうが重要だったので誤報として処理したのだ。

 

 結果として、政府からの指示が届かない県は仕方なく独自で対策を練ることを決定した…… 

 

 その会議の結果、地域全体に避難勧告が出された。

 それがテレビやラジオ、防災無線などで県民に伝えられ、広島県庁からFAXで発令の理由が通達されると、ほとんど全てのテレビ局で特番が組まれ始めた。

 特番のタイトルは「広島で謎の避難勧告、一体何があったのか」や「広島県が県境封鎖!」などと言った内容で視聴者を引き付けていた。 

 広島圏内にローカル局をもつ大手のテレビ局は、すぐに中継車を避難勧告が発令された地と県庁に向かわせた。

 すでに門の内部を撮影していたテレビ局は、特番で「謎の避難命令、原因が判明!」と言ったタイトルで、門の映像を流し続けていた。

 

 避難勧告が発令された後、広島県の県境にある道路・鉄道などの県外につながる全ての交通網が警察によって完全に封鎖された。

 空港や船舶も例外ではなく、愛媛県行きのカーフェリーや作業中の漁船までもが警察によって呼び戻された。

 封鎖されたことに疑問を持った市民やメディアにより、市役所や警察に電話が集中し、以上トラフィックが発生して電話が不通となった。

 そのため、テレビ局のカメラマンらが県庁に大挙して押しかけた。 県庁に押し寄せた記者達が職員を質問攻めする中最低限の情報しか提供がされず、後日に公式会見を行うとしか言わなかった。

 

 

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 避難勧告が発令されてる一時間ほど前。

 

 対策本部になった会議室には、大車輪にかき集められた何十人もの人間が集まっていた。

 

 その中に、一人の女性がいた。

 

 彼女は、偶然にも県庁で家畜の伝染病対策の講義を職員に対して行っていたある大学の勤講師の人間だった。

 未知の門が出現した事件の結果、電話の異常トラフィックの対応や対策本部の設置などで県庁が混乱し始めていた為にその講義は中止された。

 対策本部に集める職員の一人が、講義が中断したので帰ろうとしていた彼女を引き止めて会議室の椅子に座らせた。

 

(何事よ、警察から自衛隊に保健所の人間までいるじゃない……)

 

 彼女、神代水木(かみよみずき)が一時間ほど会議室の椅子を暖めていると、ようやく対策本部の未知の門への対策会議が始まった。

 始まるとすぐに門の真偽から始まり、県知事によるテレビ局の映像と市民から寄せられた山のような画像データをプロジェクターで流して黙らせた。

 

 今は県知事が司会者状態となって対策やら市民への影響やらを話し合っていた。

 

「――では、次にこの門の向こうが未知の世界だと仮定してどのように我々が行動するかだ」

「日本国政府からの支持は?」

「……一切の音沙汰も無いからこちらで最低限の事はしておく必要がある」

 

 苦虫を潰したような顔をした県知事に警察の制服を着た人間が声を発した。

 

「県警としては現在、現れた門周辺を一時的に封鎖して野次馬達を近づけないようにはしている。 そして、報告にあった通り警察官とテレビ局員の内部潜入の結果ではGPSが繋がらず、道の世界が地平線の先まで続いているそうだ」

 

 警察は独自で門の守りを固めていたらしく、報告を聞くと50名ほどを動員して封鎖をしているらしい。

 それを聞いた後、様々な人間が口を出しながら会議が進んでいた。

 

「もし、現地から未知の生物が現れた場合にはどうするのですか?」

「もしもの可能性を考えると、避難勧告を行って周辺の市民を避難させるしか……」

「避難勧告を行うにしては証拠が少なすぎるので、調査団を派遣してはどうですか?」

「……そうだな、すぐにでも機材を持った調査団を派遣して別世界である証明が欲しいな。 では人員はどうする?」

「近郊の大学の教授や研究所に支援要請を出すしかないでしょう。 機材もそちらで準備をお願いするしかないですね」

「では、手配を頼む。 次は記者会見での……」

 

 ある程度の時間が経ち、水木は話が段々と計画が煮詰まってきたと感じてホッとしていたが、重要なことを忘れている気がしていた。

 

 書き取っていたメモには警察の対応や各省庁への報告、調査団の派遣など話し合った事が書かれていたが、その中に抜け落ちている物があると感じていた。

 

(抜けてるもの……そうよ、防疫は?)

 

 水木は、別世界なら家畜や人間に感染する未知のウイルスや細菌がいる可能性を思い出して、それを指摘する為に県知事の言葉を遮って話し始めた。

 

「神代水木です。 県知事、防疫はどうなさるおつもりですか?」

「……防疫? 必要あるのかね」

「えぇ、もし門の向こうが別の世界だと仮定するならば、未知の微生物やウイルスが存在する可能性があります。 もし、今のまま防疫をしなかった場合には……」

「その場合の最悪の想定はどうなる?」

「……未知のウイルスが存在し、そのウイルスが人畜共通のウイルスでエアロゾル感染(空気感染)、毒性が高い場合には、一切そのウイルスに耐性もワクチンも無い為に何千万人・何億人と言う人類が世界中で死ぬ可能性があります」

 

 県知事は目を見開いて水木を凝視していた。 水木の主張で騒がしくなった会議室で別の人間が水木に援護を始めた。

 

「保健所の大山です。 彼女の指摘は最もで、対策を採るなら徹底的にしなくてはパンデミックになる可能性も高く、未然にパンデミックを防ぐ為にWHOの支援要請も視野に検討するべきかと」

 

 水木の発言をきっかけにざわついていた会議室は、一瞬で静まり返った。 水木は保健所の援護に感謝しつつ県知事の言葉を待っていた。

 

 県知事は、もし二人の話が事実になってパンデミックが発生した場合の責任を考えていた。

 もし、パンデミックが起きて県に不手際があった場合には、世界中から広島県の対応が悪いからと総スカンを喰らう可能性もあるのだ。

 そうなれば罷免されると感じ取った県知事は、冷や汗をかきながら会議を続け始めた。

 

「ではどのような防疫措置を取るべきだ?」

「パンデミックを防ぐなら最低でも門から15km以内の人間と家畜を完全に避難させ、近くにいた人間を最低でも一ヶ月は隔離しDNA検査などを受けさせること。 そして、病気が県に蔓延する前に県を完全封鎖する必要があります」

「だが、県を封鎖するとなれば事務的にも財政的にも問題が……」

「もし、全世界規模でパンデミックが発生して何千万人・何億人が死ぬ場合の不利益と、事務手続きと何百億程度の県の損失のどちらが重要ですか?」

 

 水木の質問に県知事は黙り込んだ。

 その様子に水木は県知事が悩む理由を理解しながらも主張を続けた。

 

「しかし完全封鎖は……」

「国が動かないなら県でするべきでしょうし、もしこれで病原体の感染を食い止められたら県の危機管理能力の高さが世界的に評価されるのではないでしょうか?」

 

 メリットを付け加えながら話す水木に、県知事はついに折れた。

 

「警察、自衛隊で何とか出来ないか?」

「自衛隊は動くのに省の許可が出るまでは動けそうに無いです」

「警察は?」

「県警だけでは県境全てに手が回りません。 県境を封鎖した場合の混乱に備える為にも、出来るなら市や県の職員にも県境の封鎖を手伝ってもらわなくては……」

「それなら問題ないが、他県の警察の支援は得られそうか?」

「事情を説明すれば可能です」

「よし、それでは防疫の件で煮詰める以外で意見は無いか?」

 

 追加で聞かれた得意分野に水木は少しだけ全体で話すことが嬉しくなり、饒舌に答えはじめた。

 

「先ほどの調査団ですが防疫の観点から言わせていただきますと、完全防備の防護服を来た人員を派遣しなくてはならないと考えています。 自衛隊が動けるなら良かったのですが、NBCテロ対応専門部隊に調査用の人員をくっつけたほうが安全だと考えています。 もし未知の知的生命体や生物に襲われた場合を考えますと……」

「……警察側としては動けるか?」

「動けますが立ち入り禁止区域の防疫任務に就く可能性が高いので少人数になる可能性は高いですね」

「派遣は可能ですか?」

「……えぇ、もちろん」

 

 この調子で会議は長々と続き、途中で県知事が避難勧告の命令を下したり、警視監が警察本部に連絡を取って行動を開始するなどと言った事をした後に記者会見が行われた。

 

 水木などの研究者などは、対策本部に呼ばれた人間は一部が記者会見の現場に向かい、残りの人間は後日に行われる調査団の選定などを始めた。 4時間ほどで選定を終えて各自は準備の為に自宅などに戻っていった。

 

 次の日の昼にはNBCテロ対策専門部隊の人間と調査団の人員が合流した。 水色と白のラインが入った警察のワンボックスカーに分譲して現地へと発った。

 

 その中には、神代水木(かみよみずき)などの対策本部の人間も多数参加していた……

 




 tamatyann220です。
 
 6月になろうで上げていた小説を改稿して直してから上げて見ました。
 数ヶ月前のを呼んでみると、凄く恥ずかしかったので……

 改めてみると整合性やらがおかしかったので大規模に殆ど書き直しました。

 集中すればすぐに終わるのですが……

 11時から2時半まで考えたりプロットを考えたりしながら小説を打ったり直していたりしました。

 ISの二次も書いてはいますが、こっちを優先しました。 すいません……

 駄筆な小説ですがよろしくお願いします。

 誤字脱字、感想や批評などがあればお気軽に感想をお願いします。

 感想で凄く上機嫌になって書いてします作者です ←

 

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