とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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92(天使日記)

 =月A日

 

 ガブリエル様から帰還の命を受け、天界に戻ってきている。

 だが、一体何の用なのだろうか?

 急ぎ天界へ戻ったが、それから音沙汰が無い。

 今日は、家へ帰る事は出来ないようだ。

 イリナ達は、御夕飯はどうしただろうか?

 賞味期限が近付いていた牛乳や、夕食に用意していたお肉は使ってくれただろうか?

 まぁ、これを機に少しは料理へ興味を持ってくれると助かる。

 いつも私任せだったので、そろそろその辺りで楽をさせてほしい。

 

 

 

 =月B日

 

 ミカエル様、ガブリエル様。御二方様から、徹さんの事で尋ねられた。

 前回の悪魔のレーティングゲーム。その際の行動。あの事を気にされていたようだ。

 徹さんとともに参加したレーティングゲーム。

 上級悪魔にして『旧72柱』の一柱、ディオドラ・アスタロトとの勝負。

 決着は何とも言えない形だったが、その際に徹さんが見せた『禁手』と、その結果。

 千の上級悪魔を地に落し、『無限の龍神』オーフィスが姿を現した勝負。

 あの場にはセラフの方も居られたはずだが、それでも私から事情を聞かれた。

 その上で、これからも徹さんと仲良く、親交を深めるように、と。

 徹さんとは親交を深めるように、と勅命を賜っていたが、改めてそれを言う為に私は呼ばれたのだろうか?

 どういう事だろうか?

 ――徹さんが『禁手』へと至った事に、何か意味があるのだろうか?

 それとも、オーフィスか……。

 いや、我が王であるガブリエル様や、熾天使の長であるミカエル様を疑うなど、あってはならない事だ。

 

 

 

 =月D日

 

 北欧の主神、オーディン殿が日本へ来られているらしい。

 ミカエル様――天界側との会談が目的らしいが、恐らく目的は別にもある。

 徹さんだろう。

 以前、レーティングゲームの際にも、北欧の主神殿は徹さんに興味を示していた。

 それは未知の『神器』使いだからか、それとも強力な勇者足り得る存在だからか。

 そこは、私には判らないが。

 相変わらず、徹さんは目立っているな、と思う。

 平穏とは程遠い。願わくば、今回は彼にあまり試練が無い様に――そう祈ろうと思う。

 

 

 

 =月F日

 

 ガブリエル様から、徹さんの事、徹さんの仲間の事を聞かれた。

 以前、家族の事を調べられていたようだが、何か進展はあったのだろうか?

 訪ねたが、はぐらかされてしまった。もしかしたら、あまり進展していないのかもしれない。

 

 徹さんの仲間というと、レイナーレさんと黒歌、白音。

 レーティングゲームの際には、アーシア・アルジェントも配下に加えていたが、彼女は仲間とは言えないかもしれない。

 現に、今は徹さんの元を離れ、リアス・グレモリーの元へ戻っている。

 とりあえず、徹さんを含めた彼女たちの現状を伝えた。当たり障りのない範囲で。

 ガブリエル様も、徹さんには興味を持たれているようだ。

 彼の家には天使が居ない事を気にされていた。

 元とはいえ、堕天使、テロリスト、悪魔。確かに、天使はいない。

 だが、そこまで気にするような事だろうか?

 

 

 

 =月H日

 

 冷蔵庫の中の牛乳とお肉が傷んでいた。

 勿体無い。

 というよりも、私が天界に行っている間、冷蔵庫の中身はジュースくらいしか消費、追加されていなかった。

 紫藤イリナをはじめ、スタッフ全員に聞いた所、徹さんの家や、思い思いの知人に厄介になったらしい。

 ……頭が痛い。

 これからは、彼女たちに料理を教えるべきだろうか?

 溜息しか出ない。重要な仕事を任されている転生天使なのに、料理の一つも出来ないのか…。

 

 

 

 =月I日

 

 徹さんから、レイナーレさんの事で相談を受けた。

 なんでも、先日彼女が疲れて寝坊をしたらしい。

 そこでようやく今までお世話になっていた事に気付き、そのお礼をしたいのだとか。

 何とも微笑ましい相談に、二つ返事でお手伝いを申し出てしまった。

 それなら気持ちの籠った手料理を、と進言してみた。

 本当ならお夕食でも、と思っていたがイリナの横槍があり、お菓子を作る事になった。

 結局ケーキを作る事になったが、徹さんは筋が良い。

 まぁ、基本的なケーキだったが、それでも簡単に作っていた。

 ……男の子なのに、と思う。

 女所帯なのに、料理が出来るのは私だけな天界のスタッフたちは、徹さんが作ったケーキをつまみ食いする始末だ。

 そんなだから、彼氏の一人も出来ないのだ。

 

 

 

 =月J日

 

 オーディン殿が、徹さんの家に来ていた。

 本当に、今回の訪日は徹さんが目当てなのだろうか?

 自分で予想しておいてなんだが、本当に徹さんの平穏は遠いな、と思ってしまう。

 願わくば、彼には平穏、平和の中で過ごしてほしく思う。

 『神器』は強力だが、彼の人となりは普通の人間だ。

 それに、彼は普通の生活を望んでいる。

 彼と友好関係を築くならば、必要以上に関わらず、一定の距離で接するのが一番だろう。

 懐に踏み込むのも一つの手だろうが、今しばらくは、近所同士、お隣同士の関係で過ごそうと思う。

 

 

 もう日付が変わる時間だが、先程黒歌が相談に来た。

 オーディン殿の事だ。

 今回あの方は天界やこの地の神仏の方々との会談の為に訪日されている。

 だが、本当にそれが目的なのか、と。

 私の意見としては、徹さんも目的の一つだろう、と思っている。

 黒歌も同意見だった。いや、黒歌は徹さんが一番の目的では、と疑っていた。

 いくら徹さんが特別でも、北欧の主神が一人の人間の為に動くだろうか?

 私はそうは思わないが――だったら、オーディン殿は、徹さんに何を求めているのか?

 情報が足りない。

 私の方でも、少し調べようと思う。

 

 

 

 =月K日

 

 北欧の悪神、ロキがオーディン殿を追って訪日したようだ。ミカエル様から伝えられた。

 先ほど、オーディン殿と接触し――徹さんとも接触したようだ。

 私より先に気付いた辺り、恐らく私達とは別に、徹さんを監視している天使が居たのかもしれない。

 もしかしたら、ジョーカーか……。まぁ、それを調べるのは仕事ではない。

 それどころか、私達には現状が確認できるまで待機命令が出ている。

 イリナは赤龍帝殿の方に向かったが、私達は待機だ。

 徹さんも無事に家に帰ってきたようだし。

 ……いったい、ミカエル様たちは何を考えておられるのか。

 命令に従うしかない立場だが、不安だ。

 

 これが、オーディン殿の目的だろうか?

 徹さんとロキを会わせる――戦わせる。

 それに、どんな意味があるのだろうか?

 

 

 

 =月k日

 

 イリナの話では、悪神ロキの対応はこの地の悪魔、堕天使、ドラゴン達で対応するらしい。

 グレモリーやシトリー配下の悪魔、堕天使、赤龍帝は判る。

 だが、白龍皇や孫悟空は大丈夫なのだろうか? 『禍の団』に所属しているはずだが…。

 それに徹さんはロキとの問題には関わらないようだ。それはいい。当然だと思う。

 だが、ミカエル様からは手助けをするように、との指示は来ていない。

 ……一体どうなっているのか。

 徹さんと親交を深めるのではなかったのか? 悪神ロキとの問題に介入し、徹さんに関われば良い印象を抱いてもらえるかもしれない。

 だというのに、ミカエル様やガブリエル様からは待機の命令しか来ていない。

 天界では、何が起こっているのだろうか……。

 今の徹さんの立場がどうなっているのか――。

 

 

 

 =月L日

 

 徹さんの家には、昨日から白龍皇や孫悟空が泊まっているらしい。

 先程、レイナーレさんと黒歌が相談に来た。

 天界は、今回の問題にどういう対応をするのか、と。

 待機を命じられていると、正直に伝えておいた。

 イリナはミカエル様の命でグレモリー配下と共に行動させているが、他の天界スタッフは現状は待機だ。

 悪神ロキの問題は、悪魔と堕天使に一任されている。

 今回の問題に、天界は関わらないだろう。

 徹さん側も、ロキの問題には関わらないらしい。

 些細な情報交換だったが、それでも彼女らに一定以上の信頼を私は得ているようだ。

 ……これで良いのだろうか?

 ミカエル様、ガブリエル様を疑う訳ではないが――。

 

 

 

 =月M日

 

 オーディン殿は、徹さんを関わらせるつもりだろう。

 意味も無く徹さんの家を訪ねるほど、あの方には暇など無いはずだ。

 なら、北欧の主神が徹さんの家を訪ねる理由など、数えるほども無い。

 徹さんを関わらせる。戦いに。

 レーティングゲームの際、徹さんには異変が起きていた。

 明らかに、性格が違っていた。

 戦いを嫌う彼が、戦いを望むように戦場を進んでいた。

 ……上代徹の『禁手』。

 もしくは、オーフィスが徹さんを殺した意味。

 それを知る為?

 上からの命令が無く、今回の件に関わる事が出来たなら、私が動いて調べるのに。

 動けるのは、ミカエル様の『エース』であり、グレモリー配下と行動を共にするイリナのみ。

 彼女は戦う力はあれど、頭と足を使うのは苦手だ。

 

 

 

 =月O日

 

 レイナーレさんが、鍛えてほしいと訪ねてきた。

 孫悟空と黒歌も一緒だった。

 二人…それに白龍皇もいるなら、訓練の相手には困らないはずだが、私とも試合たいらしい。

 彼女のこういう愚直なまでに一途な所は嫌いではない。

 勝負は私が勝ったが、また腕を上げていた。

 確実に強くなっている。光の槍に、堕天使総督お手製の『人工神器』。確かに、使いこなせていると言える。

 だが――北欧の悪神に挑んで無事でいられるか……。

 黒歌の話では、徹さんは戦いには参加しないつもりのようだが、おそらくオーディン殿が彼を巻き込むだろうと。

 その時、おそらく一番危険なのはレイナーレさんだ。それは、私も同意見だ。

 聞くところによると、ロキだけではなく、神殺しの獣までいるのだとか。

 彼女は確かに強くなっている。

 けど…それでも弱い。今日相手をして判った。ロキ、そしてフェンリルの相手は無理だ。生き残れない。

 それが嫌らしい。もう二度と、徹さんに迷惑を掛けたくないのだと。

 いじらしい事だ。微笑ましい。――羨ましい。

 私は、彼女のように想える相手が居ない。

 私は手を貸す事が出来ないが――彼女の願いが叶う事を祈ろう。

 願わくば、誰一人欠ける事無く生き残る事を。

 

 

 

 =月Q日

 

 イリナもロキとの戦いには参加するそうだ。

 無事に帰ってくることを祈ろう。彼女の元気には、私達は助けられている。 

 そして、徹さん達も。

 黒歌の考えが杞憂ならいい。

 だが、杞憂でなかったなら――神との戦いは、人間には荷が重すぎるだろう。

 どれだけ強力な『神器』を持っていようと、彼は人間なのだから。

 せめて、無事の帰還を祈り続けよう。

 それが、私に出来る事だ。

 

 

 

 =月R日

 

 ガブリエル様から、絶対に手を出さないように、と釘を刺された。

 先ほど、悪神ロキとの戦いは決着を迎えたらしい。イリナが無事に帰ってきて教えてくれた。

 徹さん達も帰ってきたようだ。

 だが、イリナからの説明は要領を得ない。

 ひどく混乱していたので休んでもらった。明日、また聞こうと思う。

 イリナからの情報を聞こうとしたガブリエル様の指示だ。

 ――何があったのだろうか?

 誰一人欠ける事無く戦いは終わったようだが、あのイリナの混乱具合はおかしい。

 ……不安だ。

 

 

 

 =月S日

 

 ミカエル様、ガブリエル様と一緒にイリナから昨夜の事の顛末を聞いた。

 正直、混乱している。

 徹さんが、異世界の『神の器』を持っているらしい。

 未知の『神器』ではなく、異世界の『神の器』。

 それが徹さんの力の秘密の一端のようだ。

 ……あまり信じられないが。

 しかも、その情報源は異世界の神『乳神』の精霊なのだとか。正直、信じられない。

 ミカエル様とガブリエル様は何処か嬉しそうだったが。

 ――以前、ミカエル様は徹さんに次代の『神』の器があるかもしれない、と仰られていた。

 その答えが出た。彼は異世界のではあるが、『神の器』を持っていた。

 喜ぶべき事だ。

 ミカエル様もガブリエル様も喜ばれていた。

 ……複雑だ。

 彼は、人間だ。

 数か月、彼の人となりを見てきた。

 だからこそ、複雑だ。彼は『神の器』を持っているのかもしれないが……いや、これ以上の考えは不敬だ。

 イリナには、徹さんの事は他の誰にも言わないようにと言っておいた。

 

 

 

 =月S日

 

 徹さんの家に、人が増えていた。あと、庭にも。

 北欧の戦乙女、ロスヴァイセ殿。それと、フェンリルの子が二匹だ。

 ……正直、まだ混乱している。

 北欧の主神は、異世界の神の器である徹さんに、神殺しの牙を預けたのか、と。

 ミカエル様たちはオーディン殿との会談の準備があるようで、お忙しいようだ。

 ――私達は、徹さんとどう接すればいいのだろうか?

 次代の『神』となるかもしれない方と。

 

 

 

 =月U日

 

 どうしてだろう?

 祈りを捧げるべき『主』が居られる事は、喜ばしい事だ。

 たとえそれが、次代の神であっても。

 だが、今日レイナーレさんの為にケーキを焼いていた徹さんは、とても『神』とは呼べない――普通の、どこにでもいる男の子だった。

 だから――何も言えなかった。

 今まで通り、相談を受けて、手を貸して、助けて、笑って……それだけだった。

 イリナはどこかぎこちなかったが、私はいつも通りに接する事が出来たと思う。

 ……徹さんは、『神』に向いていないと思う。

 これは、背信だろうか?

 私は、どうすればいいのだろう…。

 

 

 

 =月V日

 

 今度は、徹さんから黒歌と白音の事で相談を受けた。

 レイナーレさん達を祝ったから、次は黒歌たちを祝う事になったらしい。

 困っていた。困りながら笑って、でも祝う為に私に助言を求めに来た。

 ……その姿は、どこまでも普通の男の子だ。

 やはり、『神』には程遠い。

 彼は、どこにでもいる、普通の男の子だ。『神』じゃない。

 ……それでも、ミカエル様達は彼に『神』を求めるのだろう。

 それは、酷く残酷な事のように思える。

 

 

 

 =月W日

 

 ミカエル様から、天界側は徹さんとは表立っては関わらない事にすると伝えられた。

 今まで通り、悪魔や堕天使と連携しながらこの町の問題を片付けて、徹さんとは近所付き合い程度。

 天使としては徹さんとは接しない、そうなったらしい。

 ……ミカエル様は、何を考えておられるのだろうか?

 私としては、喜ばしい事だ。徹さんを『神』に祭り上げなくて済む。

 だが、『神』を求めていたミカエル様たちが、そう簡単に意見を変えるだろうか?

 ――そう疑ってしまう私は、天使失格なのかもしれない。

 

 黒歌たちの為にお祝いの品を一生懸命に考える徹さんの姿を知っている。

 『神』は、遍くモノに愛を捧げる。

 徹さんには、多分無理だ。

 あの人は、大切な人にしか愛を捧げる事が出来ない。人間だから。

 けど――ミカエル様は、それを認めないだろう。

 その時私は、どうすべきなのだろうか……。

 

 

 

 =月X日

 

 徹さんが飼う事になった番犬。スコルとハティという名前らしい。

 北欧の神話では、有名な狼だ。

 朝方、徹さんが散歩に連れて行っていた。

 神殺しの牙を持つ獣だが、徹さんには従うらしい。

 元堕天使にテロリスト、悪魔、北欧の戦女神、神殺しの獣。

 ……マトモな者なら、絶対に勝負を挑まない戦力だ。

 それでも、徹さんの平穏は遠い。

 ――可哀相だな、と思う。

 

 

 

 =月Z日

 

 徹さんから、新鮮なお魚を分けていただいた。

 今日の晩御飯、明日の朝食に使わせてもらおうと思う。

 ……ミカエル様やガブリエル様から、新しい勅命は下っていない。

 現状維持。

 私達は、これからも隣人として徹さん達と接する事になっている。

 それで良いのだろうか?

 ――私達は、私は……どうすべきなのだろうか?

 

 

 




割と、各勢力のトップは黒いです。
一番白いのはサーゼクスさんです。
でも、一番好感度が低いのもサーゼクスさんです……。

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