とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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じいちゃんの好感度MAX



91(主神日記)

 =月K日

 

 ああ、面白いな。

 自分の思い通りに事が運ぶのは、どれだけ年老いても面白い。

 上代徹。戦う事を否定していたが、既にお前はその戦いの渦中だ。

 グレモリーの連中も、シトリーの連中も、カラスも白龍皇共も、お前を戦力と数えた。

 ロキとの戦いの際には、お前を必ず戦場へと誘うであろうよ。

 ロキの事を本国へと問い詰めたが、アレの勝手な判断だと言われた。

 さて、儂程とは言わぬが、有名なあ奴が誰にも知られず勝手に本国を離れられるものか?

 おそらく、ロキ以外にも儂を良く思っておらぬ者が居るのだろうな。

 面白い。

 戦いは、思考を刺激してくれる。

 年寄りには、何よりも貴重な娯楽だ。

 

 しかし、あの男の友好関係は驚くものがあるな。

 悪魔に天使、カラスにテロリスト。ドラゴン達からも興味を持たれ、儂ともそれなりの繋がりがあるとも言える。

 魔王に熾天使、総督に龍王ども――。

 あの男を刺激すると言う事は、それらも刺激すると言う事だ。

 ああ、楽しみだ。楽しみで、どうやってあの男を更なる戦いの深淵へ誘うかばかり考えてしまう。

 ロキの問題だけで終わらせる?

 馬鹿らしい。

 アレには更なる戦場へと進んでもらおう。

 ロキ程度では、あの男の全てを暴く事は出来まい。

 テロリスト――その辺りも使わせてもらおう。

 とりあえず、上代徹は戦う事を拒否したのでドライグ、アルビオン、ヴリトラを強化する方向で対応するようだ。

 それに、こっちはグレイプニルとミョルニルを用意する事になった。

 それで二天龍を強化するそうだ。

 たしかに、ドラゴンどもだけではフェンリルに対抗できんからのぅ。

 アレは儂すら殺しえるからな。

 上代徹が居なければ、だが。

 楽しみだ。

 ロキはお前を真っ先に殺すだろう。殺さなければ、何も殺せないのだから。

 それでもお前は、戦う事を拒否し続けるのか?

 仲間を見捨てられるのか?

 お前は英雄か、勇者か、それともただの怠け者か。

 教えてくれ。

 

 

 

 =月L日

 

 ロスヴァイセから、上代徹をどうするのか、と聞かれた。

 どうする? 巻き込むに決まっておろう?

 フェンリルの牙で殺せるかどうかは判らぬが、それを知る為にも、一度あれと向き合わせたい。

 下手をすれば上代徹は死ぬだろうな。

 だが、それはそれで面白い。

 死して、死体を暴けばまたいくつかの秘密が手に入るやもしれん。

 手に入らなかったら、儂が知らない情報が世界の何処かに在るという事だ。

 儂はその情報を探し続けるだろう。

 左目を捧げ、世界樹の情報を得た。

 その情報に無い存在が世界に在る。これほどまでに儂を刺激する事などありはしない。

 その事実だけでも、この老体が若返ると言うものだ。

 儂を刺激する因子。

 その中心は、あの男――上代徹。

 ロキに殺されるなら、それでもいい。

 だが、ロキではあれは殺せまい。

 ロキとアレでは、格が違う。

 儂が知りたいのは、神殺しの牙ですら、人間一人殺せないのか、という事だ。

 ロスヴァイセに呆れられたが、こればかりはどうしようもない。

 儂の性分だ。本質だ。変えようのない――オーディンという存在だ。

 

 赤龍帝はミョルニルを使いこなせておらなんだが、ロキならどうにかなるだろう。

 問題はフェンリル。儂すら殺しうる、神殺しの獣。

 ああ、楽しみだ。楽しみで、決戦の時が待ち遠しい。

 フェンリルの前では、儂らは等しく弱者でしかない。

 窮鼠猫を噛む、というには、オオカミは巨大すぎるだろう。

 最悪、死人が出るだろうな。

 だが、それすらも楽しみだ。

 死者。

 これまで、儂が知る限り、上代徹の前で死者は出ていない。

 もしそれに何か意味があるのなら、フェンリルへの生贄に、誰か差し出してもいいのやもしれん。

 

 

 

 =月M日

 

 今日も上代徹の家へ顔を出したが、ハイスクールへ行っておった。

 ロキが来ておるというのに、不用心な奴よな。

 儂の知らぬ所で死なれると面白くないのだが。

 まぁ、無事に帰ってきたが。

 流石のロキも、こんな短時間で殺せない人間に挑むほど愚かではなかったか。

 それとも、儂の想像もつかないような罠でも準備しておるのかの? 楽しみな事だ。

 暇だったので、白龍皇と孫悟空、上代徹の猫ついでに元カラスを鍛えてやった。

 しかし、今代の白龍皇も面白いものだ。

 赤龍帝と手を組むなど、今までの赤と白には無かった事だ。

 今までは、互いが互いの衝動に呑まれ、殺し合っていたというのに。

 こういう事があるから、楽しい。

 偶には、身体を動かすのも悪くない。

 

 しかし、猫は敏いな。

 儂が上代徹を巻き込む為に動いている事に気付いておった。

 ま、少し考えれば判る事だがな。

 元カラスはその辺りの機微に疎い。その分、猫が敏いようだ。

 悪意に敏感なのは好ましいの。

 元カラスは料理が上手で、猫は周囲の悪意に敏感か。中々良い組み合わせだの。

 

 

 

 =月N日

 

 フェンリル用のグレイプニルの準備が整った。

 それが届き次第、ロキとの決戦となるだろう。

 白龍皇にいくつかルーン魔術を教えたが、才能がある奴は面白い。

 一を教えれば、すぐさまそれを応用して十を得ようとする。

 白龍皇は天才と分類される側なのだろうな。その才能に奢らず、精進を続けておる。

 赤龍帝も外部から様々な装備を取り入れ、新しい進化を遂げようとしておる。

 やはり、若い血は面白い。

 この赤と白が戦う時が楽しみだ。

 きっと、それは世界の命運などとは無関係で、だが世界の全てが注目する戦いになるだろう。

 

 

 

 =月O日

 

 ロスヴァイセに怒られた。

 この極東の地で、フェンリルに殺されたらどうするのか、と。

 その時はその時だ。

 儂もその程度だった、としか言いようがない。

 儂とて死にたくはないが、さりとて生死に執着がある訳ではない。

 大切なのは知る事だ。

 それ以外はどうでもいいのだ、ロスヴァイセよ。

 肉体を、命を、魂を天秤に載せよう。

 その対価として、儂を愉しませてくれるなら。

 世界の全てを知った。

 世界樹の情報を得た。

 その結末は、退屈だ。

 もうすでに、この世界で儂が得るべき知識は無い。

 そう思っておった。

 だというのに、儂が知らない“何か”が現れた。

 儂が持つ知識と照らし合わせ、ただ人間が神の真似事をしておるのだと断じたが、どうも違う。

 ――その時の喜びを、誰も理解できまい。

 ――この喜びを得る事は、誰も叶わぬだろう。

 狂っておるか? そうだろうな。

 狂喜。ああ確かに、その通りだ。

 

 

 

 =月P日

 

 面白いな、今代の二天龍は。

 赤龍帝が乳なら、白龍皇は尻か。

 今度、本気で「かわいそうなドラゴン」の童話でも作ってみるか? 売れる気がするのぅ。

 まぁ、サーゼクスのように金に興味がある訳ではないがな。

 世界は若い者が回しておる。

 儂のような年寄りは、裏側で細々と自分勝手に、好き勝手に、若者を弄るのが性に合ってる気がする。

 今回の訪日で、それがよく判った。

 北欧に帰ったら、主神の座を誰かに渡して、隠居するかの?

 ま、誰もがそんな事は許さぬだろうが。

 ――それに、儂を超える若者が居らんのも嘆かわしい。

 そういう意味では、この極東の地が羨ましくもある。

 赤龍帝をはじめ、行動力がある者が多い。

 北欧には、保身に走る愚かな古い神々ばかりだ。

 まぁ、赤龍帝は馬鹿だがの。

 

 

 

 =月Q日

 

 準備は整った。

 明日は決戦だ。

 さて――上代徹、お前は何を見せてくれる?

 お前は儂に、何を見せてくれる? 何を示し、何を与えてくれる?

 年甲斐も無く、明日が待ち遠しい。

 これほどの興奮は、何年振りか。何十年か、何百年か。

 楽しみだ。ああ、楽しみで気が狂いそうだ。

 早く明日にならないものか。

 明日が待ち遠しい。

 今夜は眠れそうにない。

 

 

 

 =月R日

 

 上代徹。お前に最大の感謝を。

 どれだけ感謝をしてもし足りぬだろう。

 儂はこれから先、この命が尽きるまでお主に感謝し続けるだろう。

 永遠に。永久に。お前に感謝し続けよう。

 井の中の蛙、大海を知らず。良い言葉だ。儂の為に在るような言葉だ。

 左目を捧げ、この世界の知識を得た。

 世界樹の情報を得、この世界の全てを知った気になっていた。

 事実、その通りだ。

 この世界の事なら、何でも知っている。

 だが、この世界以外の事は、何も知らない。

 ああ――なんと素晴らしい事か。

 この世界の外には、儂の知らない事が溢れておるのだ。

 これを喜ばずにいられようか。

 まだまだ、儂には得るべき知識がある。

 溢れるほどに、この手には掴めぬほどに、視界に収まらぬほどに。

 

 赤龍帝が呼び寄せた異世界の神――乳神。

 その神が言っておった。

 上代徹の『神器』――『聖書の神が遺した武器』ではなく、『神の器』。

 武器ではなく、神の卵。

 それが、上代徹の『神器』。

 儂が知らないはずだ。

 儂が知らない世界から来た、まだ名を与えられていない『新しい神』。まだ存在しない神。まだ何者でもない神。これから何者にもなれる神。

 それが上代徹の『神器』だと言うのだから。

 故に、だからこそ、感謝しよう。

 感謝し、これからもお主を永遠の闘争へと誘う事を誓おう。

 上代徹。お前は何を望む?

 力か? 知識か? 富か? 名声か? それ以外の何かか? それとも何も望まないのか?

 楽しみだ。楽しみで仕方がない。

 まだまだ、儂の知らない事が溢れておる。これほど幸せな事はない。

 感謝を。最大の感謝を、捧げよう。

 異なる世界の知識を得る事が出来る喜びを与えてくれて、礼を言う。

 

 この気持ちの代わりに、ロスヴァイセとスコル、ハティはお前にくれてやる。

 ロスヴァイセもお前を悪く思っていないようだしな。

 器量良し、男を知らぬ戦乙女だ。お前の好きにすると良い。

 その代り、いくらか情報は回してもらうがな。

 一応、北欧の戦乙女だ。儂に従う義務がある。

 家族の面倒をこれから一生見てやるのだ、そのくらいはしてもらおう。

 スコルとハティは、儂らの手に余る。

 神殺しの牙は、神々には荷が重すぎる。

 それに、お前に負けたからか、お前には懐いておるようだったしな。丁度良い。

 良い番犬になる。下手な悪魔どもよりも、よほど役に立つことを約束しよう。

 ――良い関係を築いていこうじゃないか、上代徹。

 

 

 

 =月S日

 

 ロキが、神性を失った。

 厳密には、神性を奪われた、か。

 上代徹の『神器』。乳神が言うには、異世界の神の器。

 ロキから奪った神性で、この世界でも神として君臨しようとでも言うのか。

 判らぬな。

 ああ、判らぬ。

 儂の知識の及ばぬ行動に、年甲斐も無くワクワクしておるぞ?

 しかし、ミカエルが上代徹に不可侵を決め込むとは思わなんだ。

 一応の体制として傍に天使を置いておるが、接触は最低限にしているようだ。

 何を考えておる?

 これから、悪魔や儂ら外の神々はアレに関わるのだと、判っているだろうに。

 ――上代徹は、本当に我を楽しませる。

 判らぬ事を、儂は嫌っておった。

 だが、今はその事が楽しい。楽しくて堪らない。

 その中心は、上代徹だ。

 あの男だ。

 異世界の神だ。

 儂が知らぬ神だ。

 ――ロスヴァイセ、頼んだぞ。

 お前の家族の面倒は、お前が儂に情報を送り続ける限り見続けよう。

 だから、上代徹の情報を儂にくれ。

 儂を潤してくれ。

 儂を満たしてくれ。

 儂を愉しませてくれ。

 少しずつ、少しずつ――儂の知らない知識を、儂に与えてくれ。

 その為なら、儂はお前を、永遠に刺激し続けよう。

 ディオドラの時のように仲間を巻き込むか?

 お前の身内を危機にさらすのもいい。

 その時、お前は儂に何を見せてくれる?

 ……楽しみだ。

 これから先、お前は狙われ続けよう。

 お前を恐れる数多の存在に、お前を危険視するバケモノに、神々に、悪魔に、天使に、カラスに、死神に、ドラゴンに――人間に。

 お前の選択が楽しみだ。

 殺すのか、命を奪うのか、不殺を貫くのか、偽善に生きるのか。

 そして――きっといつか、お前は異世界への扉を開くだろうな。

 その時が待ち遠しい。

 その時まで、儂は死なぬ。必ず生きよう。お前が魅せてくれる世界の為に、儂は生きよう。

 

 




レイナーレさんたちの好感度上げを失敗するとオーディン様ルート確定です。
平穏が那由多の彼方に飛び去るみたいな?
オーディン様が問題を持ってきて、徹君は気付かずにその問題を解決し続ける。
そんな感じ。


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