とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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まぁ、今回は平穏。
平穏ってなんだっけ? 徹君が死なない事さ。


90(主神日記)

 =月A日

 

 ああ、まったくもって面白くない。つまらない。退屈だ。

 どうして古い神々は、そろって頭が固いのか。

 新しい血を入れる訳ではない。ただ新しい知識を求めているだけだ。

 だが、それすらもダメだと否定された。

 下らない。

 そんなに、儂が他の神話体系に接触するのが嫌か。

 知識は儂の武器であり、絶対の力。

 儂が今以上の力を得るのが嫌だと言うが――はてさて、どこまでが本心なのやら。

 ま、その辺りを利用させてもらうとしよう。

 知識を得る為には犠牲が必要なのも、世の常だ。

 

 

 

 =月B日

 

 あまり大袈裟に動けないのも困ったものだ。

 まぁ、儂は目立ち過ぎるからのう。有名なのも善し悪しじゃな。

 お供は今回も、ロスヴァイセを指名しておいた。

 あの男も、知らぬ女より、知った女の方が気を許すだろう。

 それに、ロスヴァイセの方も上代徹の事をそう悪くは思っていないようだしの。

 アレも戦乙女の修業の為に、女を捨ててきた。

 丁度良い、と思うのはちと酷かな?

 上手くいけば、戦乙女と人間の子でも授かるかもしれん。

 それはそれで面白いではないか。

 

 

 

 =月C日

 

 北欧を発つ準備は出来た。明日には日本へと行くことになるだろう。

 はてさて――今回の無茶な訪日。誰が動くかの?

 巨人どもか、冥界の神か、死神か。楽しみなものだ。

 儂を楽しませてくれよ、上代徹。

 お主の全部を知れるとは思っておらぬ。だが、それでいい。

 片鱗を見せよ。欠片を見せよ。器を見せよ。

 それだけで、儂はきっと楽しいだろう。

 僅かずつ、お主の正体へと近づいて行こう。それもまた、楽しいものだ。

 時間を操り、世界を操り、命を操る人間。

 ああ、楽しみだ。

 最近は『禍の団』の連中も動き始めておる。

 上代徹。アレがその中心だ。

 アレに対抗するために『禍の団』は動き、儂もまた…アレを知る為に動く。

 世界の中心にいるのが、強力な『神器』を持つ、ただの人間なのだから笑える。

 本当に、あの男は儂を退屈させないものだ。

 

 

 

 =月D日

 

 ロスヴァイセは有能ではあるが、頭が固いのがいかんな。

 アザゼル坊も儂を接待しようとしておったが、ロスヴァイセが真面目過ぎての。

 困ったものだ。せっかく、日本の女が集まる酒場を紹介してもらう話だったのに、だ。

 明日はどうにかして撒かねばなるまい。メイド喫茶とやらに案内してもらう為に。

 上代徹はその次で良いだろう。

 儂を追ってきた連中も、まだ姿を現しておらんしな。

 つまらん。

 儂が別の神話体系の連中と慣れ合うのが嫌なら、さっさと姿を現し、暴れれば良いものを。

 変に頭を使おうとするのは愚か者のする事よ。

 儂を楽しませろ。

 上代徹を戦いの渦中へと誘い、その本質を我に見せよ。

 その為に、今回は動いたのだから。

 あとついでに、目障りな『禍の団』を潰す為に手を取ってやってもいいとも思う。

 この地の三大勢力や神仏とやらも、手を焼いておるようだしの。

 ユグドラシルの情報の一部を渡せば、和議は簡単に成るだろう。

 

 

 

 =月E日

 

 今日は運が良い。

 メイド喫茶へ行く為にロスヴァイセを撒いた所で、上代徹と会った。

 しかも、連れは『禍の団』の黒猫ときておる。

 もしかしたら、あの男と我は相性が良いのかもしれんな。男と相性が良いと言うのは、あまり好きではないが。

 昨日下調べをしておいたメイド喫茶に誘うと、アザゼル坊も来て、その後バラキエルの小僧も来た。

 しかし、日本人というのはよくもまぁ、ああいう催しものを考えるものだ。

 本物のメイドとは全く違うメイドと言うのも、中々楽しめた。

 料理に自分の名前を書くという案も面白い。

 上代徹と黒猫が遊んでおった。

 その上代徹は、儂に本物のメイドを知っているだろうに、と言っておったが。

 浪漫が判っておらんなぁ、あの小僧は。本物のメイドなど飽きたからこそ、偽物が楽しいのではないか。

 今日はとりあえず、難しい話は無しで、楽しませてもらった。

 帰るとロスヴァイセに小言を言われたがの。それくらい、どうでも良いものだ。

 それよりも、上代徹とその猫だ。

 さて、どうやってあ奴らを巻き込むかな。

 上代徹はともかく、あの猫は儂を警戒しておった。

 儂があの男を巻き込むのだと、感じておったのやもしれん。獣は悪意に敏感だからだ。

 

 

 

 =月F日

 

 アザゼル坊にサーゼクス。堕天使総督と魔王が揃って頭を抱えておったわ。

 たかが人間一人。されど人間一人。

 上代徹が何者か、そして、今後どうするか、と。

 判らなくはない悩みではあるが、悩んで答えが出るような事でもなかろうに。

 そもそも、儂を含めて誰一人として、上代徹の『神器』が何なのかすら判っておらぬ。

 取り敢えずは、上代徹よりも北欧と三大勢力の会談を成功させることが重要だろうて。

 『禍の団』も動き始め、オーフィスもまた、明確な意志を以て動こうとしておる。

 その中心は上代徹だ。

 今後どうするか、考える必要など無い。儂らは巻き込まれる。

 上代徹の戦いに。

 いい迷惑か? まさか――楽しみで仕方がない。

 未知の存在。未知の戦い。

 それほどまでに、心躍る戦いなどあるものか。

 さて――まずは儂の追手か。

 どうやって上代徹をぶつけるかの。

 

 

 

 =月G日

 

 今代の赤龍帝は、面白いな。

 昼間っから色町を女と歩いておった。若いな。

 それに比べ、儂の御付の戦乙女は……。歳はそう変わらんだろうに、どうしてああも真面目なのか。

 赤龍帝ほど、とは言わんが、もう少し色に敏くないと人生楽しくないだろうに。

 ま、そう言う所もからかうと面白いのだが。

 ミカエルやサーゼクスとは会えなんだが、魔王の妹には会った。

 以前と変わらず、美しい娘っ子じゃった。

 赤龍帝の唾付きというのがいただけんかったがの。

 ドラゴンの周りには、女が集まる。面白くないのぅ。

 ヴァン神族の問題もあるし、『禍の団』の連中も、洗脳や支配で『禁手』使いを増やそうとしておる。

 ま、こちらにはオーフィスは関わっておらんようだ。

 英雄派。過去の英雄の子孫たちのテロリスト集団。

 ……面白くない。

 過去の栄光にしがみつくだけなら、戦う価値も無い。

 

 

 

 =月H日

 

 アザゼル坊は、必要以上に上代徹と関わるつもりは無いらしい。

 それも正しい選択なのやもしれん。アレは全く未知の存在だ。

 ディオドラとかいう悪魔になにかをしようとした。

 あの時の魔力の猛りは、儂のような神すら震えるほどだった。

 儂のような力の無い現魔王やアザゼル坊では、関わらない選択肢を選ぶのも仕方のない事だろう。

 面白くない選択肢だが、生き残る為の選択でもある。

 あの男の傍に置いた元カラス。あの娘に、上代徹を任せるようだ。

 名は覚えておらぬが、レーティングゲームでは上代徹の『女王』だった女だ。

 弱いが――弱いがゆえに、前向きだった女。

 確かに、悪くない。

 上代徹は、あの女に気を許しておるようだったしな。

 

 サーゼクスは、今まで通りに上代徹と接するそうだ。少なくとも、表面上は。

 アレも、我と同じだ。

 上代徹を通して、己を満たそうとしておる。

 その結末が何なのかは判らぬが、アザゼル坊より面白い選択と言えよう。

 終末の是非がどうであれ、サーゼクスの選択は我も楽しめよう。

 

 セラフォルーの嬢ちゃんの選択は、妹の為のようだ。

 世界の中心に居る人間。その人間と関わる理由が妹の為。

 なんとも、嬢ちゃんらしい選択と言えよう。

 はてさて。あの男は嬢ちゃんの妹に靡くかの?

 アレは生粋の女誑しだ。

 現に、すでに何人もの女を傍に置いておる。

 元堕天使に元テロリスト、天使に悪魔。

 ほぼ確実に――今回の件が終わったら、戦乙女もまた、あの男の傍に置くことになる。

 ロスヴァイセには悪いが、あの男から目を離すつもりは無い。

 儂が傍に居れぬ以上、儂の代わりを担ってもらおう。

 

 悪魔、カラス――ミカエルは、あの男とどう接するだろうか?

 この極東の神仏どもは、オリュンポスの神々は、地下の死神どもは――。

 はてさて…あの小僧は、それらとどう付き合うのか。

 楽しみで仕方がない。

 

 

 

 

 =月I日

 

 アザゼル坊やサーゼクスが紹介してくれる店は料理も酒も美味い。

 しかも護衛に赤龍帝や聖魔剣の使い手などを用意しおった。

 ……これでは、儂を追ってきた者も迂闊に手を出さんではないか。

 個々の力は大したことは無いが、目立ち過ぎる。

 空気が読めんのぅ、あやつらは。

 まぁ、今しばらくはこの歓待を楽しむとするか。

 ――上代徹を、まだ巻き込んでおらぬのだしな。

 

 

 

 =月J日

 

 日中に時間が出来たので、上代徹に会いに行った。

 ちゃんと、アザゼル坊たちには内緒でだ。

 まぁ、ハイスクールへ行っていて、不在だったが。

 しかし、あのレイナーレとかいう『女王』、変わっておらんかった。

 儂が教えた槍の使い方も全然じゃ。本当に才能が無いのぅ。

 ロスヴァイセと何度か試合わせたが、一度も勝てんかった。

 あれでも、随分と腕を上げたのだと猫は言っておったが…あんなのが上代徹の『女王』で良いのか?

 上代徹は、悪い意味で世界の中心だ。

 アレは争いの種だ。破壊を育む者だ。

 本人がどれだけ望むまいと――争いを呼ぶ者だ。

 その『女王』がアレではな。

 ――死ぬだろう。

 それはそれで面白いか。

 

 ロスヴァイセは、随分と気に入ったようだが。

 才能が無いゆえの足掻き。

 それはそれで、面白いものだ。

 上代徹とは、別の意味で――あの元カラスは楽しませてくれるのやもしれんな。

 最弱が最強と肩を並べる。

 最弱が最強を救い、世界を救う。

 遥か昔に忘れられた、荒唐無稽な御伽噺。胸を、血を熱くさせる寓話。

 それを、見せてくれるのやも――今のままでは無理だろうがな。

 儂が教えた槍もいまだに使いこなせておらぬようだし。

 料理の腕ばかり上達しておってもな……まったく。

 

 

 

 =月K日

 

 今日は、上代徹をキャバレーへ誘ってみた。一々考えるのは、儂の性に合わん。

 しかし、ロスヴァイセには困ったものだ。

 あのくらいの歳なら、色を知っていてもおかしくない歳だろうに。

 傍にメイドや猫を置いてるのだぞ? そういう経験があると判るだろうに。

 だからお前は年齢=彼氏いない歴なのだ。

 まぁ、ロスヴァイセ弄りはさておき、そうしたら案の定、馬鹿が釣れおった。

 ロキ。悪神ロキ。

 愚かにも、儂がこの地の神話体系に接触するのを否定するために、姿を現しおった。

 神喰狼を連れて。

 流石にミドガルズオルムは連れておらなんだが。

 連れてきていたら、それはそれで面白かったが。

 儂の追手はロキか――予想外ではないが、あまり面白い相手ではない。

 フェンリルはともかく、ロキ自身はそこまで強い神ではない。

 儂でも勝てる相手なのだから。

 しかし、そんなに北欧の神話が他の神話と手を取るのが嫌なのか……古い考えだ。

 まぁ、今までの儂がそうだったのだから、しょうがないのかもしれんが。

 若い者の頭が固いと言うのは、嘆かわしいものよな。

 しかし――上代徹。

 フェンリルを犬呼ばわりするとは、肝が据わっておるのか、芯からの馬鹿なのか。

 神殺しの牙なら、もしかしたならお前の命に届くやもしれんというのに。

 まぁ、その牙に穿たれた赤龍帝を元に戻しておったからそれも怪しいものだが。

 傍で見ると、あの男の能力の歪さがよく判る。

 時間を撒き戻しているというよりも、過去に戻していると言うべきか。

 ノルニルの真似事を――世界を育てていると思っておったが、少し違うか?

 過去、現在、未来を操り、世界樹を育てるノルニル。

 時間を操り、この世界に在るモノを操る上代徹は似ておる。

 だが、どこか違う。近くで見て分かった。アレは儂の知る情報に無い存在だ。

 以前から怪しかったが、今夜、それを確認できた。

 それが確認できただけでも、意味のある一夜だった。

 

 二天龍にすら干渉し、神殺しの牙で受けた傷すら癒す。

 アレにはロキも度肝を抜かれただろうな。

 まさか、神殺しの牙すら無力化されるとは思っておらなんだろうよ。

 文字通り、神すら殺す牙――儂すら殺せる牙だ。それで殺せぬ相手など、想像だにしてなかったはずだ。

 しかし、あの牙で『神器』を砕けばどうなるだろうか? 肉体ではなく魂を砕いたなら、殺せるのではないだろうか?

 ……きっと、ロキは試すであろうな。それしか手が無いのだから。

 それしか、上代徹を殺せるかもしれない方法は無いのだから。

 きっと次は、上代徹を殺す為に必死になるだろう。

 そうしなければ、儂を殺せない。悪魔もカラスも殺せない。

 上代徹は最悪であり、最強の守護者だ。アレが居る限り、誰も、何も、殺せない。

 ああ、楽しみだ。

 本当に――楽しみだ。上代徹。

 神がお前を殺しに来るぞ?

 悪神が全力を以て、お前を殺しに来るぞ。

 神殺しの神喰狼が、お前を喰らいに来るぞ。

 お前はそれでも殺せぬ存在なのか?

 神すらお前を殺せないのか?

 神殺しすら、お前を殺せないのか?

 ――儂は、それが知りたい。

 知りたい。

 お前の事を。

 お前を殺せるのか。

 お前が何者なのか。

 お前は誰なのか。

 

 ――儂は、知りたい。

 

 




じいちゃん好きです。
なんとなく。

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