とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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主人公って、こんなに格好良かったっけ?


79(メイド日記)

 #月G日

 

 黒歌に改めて妖術、仙術の事を教えてもらい、使い方を習ったが、やはり上手く使えなかった。

 初歩的な事――初歩の初歩である、気の流れを感じる。それすらも上手に出来ない自分が情けない。

 小猫は、もうすでに初歩の初歩どころか、気を使って身体能力を底上げする、という技を覚えているのに…。

 レーティングゲームは近い。一日も無駄に出来ないのに……。

 

 今日は、徹様が帰って来られた後、リアス・グレモリーから借りてきたディオドラの試合の映像を見た。アーシアも一緒だ。

 ディオドラは、思っていたほど強い…とは感じなかった。

 黒歌やグレイフィア様と比べると、だが。私や小猫では勝つのは難しいだろうが、徹様や黒歌の相手ではない。そう思う。

 彼の配下もそうだ。数は確かに脅威だが、質はそう目を見張るモノではない。

 問題は、ディオドラの方がレーティングゲームに慣れている、という事。こちらはレーティングゲーム初心者だ。ルールは頭に叩き込んでいるが、実戦でうまく思い出せるか、と聞かれると不安しかない。初めて、と言うのはそう言うものだと黒歌は言ったが、今度のゲーム…負ける訳にはいかない。

 不安で……でも、負けたくないと思う。

 もうこれ以上――徹様にご迷惑をお掛けしたくない。

 今度こそ、恩返しを……と。そう思ってしまっていた。

 けど、徹様は、勝とう、と言って下さった。

 頑張って勝とう、と。

 徹様だけじゃない。黒歌だけじゃない。小猫やアーシア……そして、私。

 ……私達皆で勝とうと、言って下さった。

 

 

 

 #月H日

 

 ……徹様から、天使の『御使い』のカードを賜った。

 正直に言うと――凄く、複雑だ。

 私は天使に絶望して、堕天使へと堕ちた。

 祈りを捧げても救ってくれなかった神を見限り、自身の力で生きる為に堕天使へとなった。

 その事に、後悔は無い。

 そもそも――私が祈りを捧げている時、神が生きていたのかも怪しいのだし。

 それよりも…徹様だ。

 徹様から渡された『御使い』のカード。『Q』…クィーンのカード。

 『女王』の駒と、『クィーン』のカード。

 それを渡されたという事は、つまり……だ。

 

 ディオドラに、私は弱い『女王』だと言われたらしい。その自覚はある。

 私は弱い。徹様の『女王』に相応しくない、そう言われても仕方がないと――自覚している。

 そして、ディオドラに怒りを向けてくれた友人と主。

 徹様は……そんな、弱い私に期待して下さっているのだろうか?

 もし自惚れが許されるなら――私は、これからも徹様の『女王』を名乗ってもいいのだろうか?

 『女王』の駒を渡された時は、嬉しさだけで胸が一杯だった。

 嬉しかった。本当に、どうしようもなく、時間を忘れて駒を眺めてしまうほど――嬉しかったのだ。

 そして、その駒が持つ意味を理解して、自分に自信が持てずに、駒を使わず、私は相応しくない、と逃げていたのだと思う。

 黒歌と出会って、徹様が黒歌を眷属――『僧侶』にしたいと言われ……それは、とても素敵な事だと思った。

 黒歌は、徹様の眷属として相応しい。彼女は強いし、知識も深く――そしてなにより、美しい。

 それに比べ、私はどうだ?

 弱く、知識も経験も多くない。

 ……自信が無い。持てない。『僧侶』よりも、『戦車』よりも弱い『女王』など…。

 徹様の期待が重い。それにきっと、私は天使に転生しても、すぐに堕天してしまうだろう。

 ――隠しようがない。

 私は……黒歌と同じくらい。多分、黒歌以上に――徹様が好きだ。

 救われて、守られて、優しくされて、一緒に居てくれて……そんな男を好きにならない女が居るだろうか?

 だから、徹様の期待に応えたい。

 弱いけど。それでも応えたい。……もし応える事が出来たなら。徹様の期待されるような『女王』になれたなら――。

 いつか、徹様に相応しい『女王』になりたいと思う。黒歌や小猫と共に、徹様と並んで見劣りしない『女王』になりたい――。

 だが、今は無理だ。今の私は……相応しくない。

 『御使い』のカード。女王のカード。

 私は、どうすべきなのだろうか?

 力は欲しい。強くなりたい。

 

 

 次のゲームには、私達だけではなく、グリゼルダ様や紫藤イリナも徹様の配下としてゲームに参加する事になっている。

 天界の『御使い』システムは、レーティングゲームを元に作られたシステムらしく、次のゲームではその辺りの実験も兼ねているらしい。

 ……きっと、建前だ。

 徹様の実力を計る事。それと、徹様の存在を冥界に知らせる事。

 それが狙いではないか、と黒歌は言っていた。

 私も、そう思う。言われて気付いたが、元が頭に付くが堕天使、悪魔、天使を配下にする人間。

 それは、異質だ。

 あの魔王ルシファーの事だ、徹様を手に入れる為に何かしらの考えがあるのかもしれない。

 だからこそ、徹様の存在を、実力を大多数の悪魔に見せつける。

 相手は『旧72柱』のアスタロト家。現魔王ベルゼブブを輩出した家系。相手にとって申し分無い。

 そう考えると…私たちは必勝を願われているのだろう。

 

 

 

 #月I日

 

 ――私は、何と愚かなのだろうか。

 徹様は強い。

 私よりも遥かに強い黒歌をして「次元違いの強さ」と言わしめるほどに――徹様は強い。

 だが、徹様は人間だ。傷付けられれば血が出て、痛みを感じる人間なのだ。

 

 ……黒歌との訓練を終えて、夕食の買い出しをして家に帰ると…徹様が、一人でディオドラの試合の映像を見られていた。

 一人で見ながら――震えておられた。

 戦うのが怖い、と。恐怖を照れと恥ずかしさに隠して、笑われていた。

 笑顔だったが、表情が引き攣っていた。変な笑顔だった。徹様らしくない…歪んだ笑顔だった。

 あんな笑顔だけは、見たくないと思う。もう二度と。

 すぐに、黒歌が慰めた。

 黒歌は、徹様の笑顔が好きだ、と隠す事無くいつも言っている。

 でも――あの時の笑顔は、きっと大嫌いだろう。私も――嫌いだ。

 徹様の笑顔は、明るい方が良い。暗い笑顔は似合わない。……見ただけで、胸が締め付けられた。悲しい……悲しかったのかもしれない。そんな顔をさせてしまった事が、どうしようもなく悔しい。悔しくて――今は、自分のバカさ加減に怒りが湧いている。

 徹様は強い。けど、どうしようもなく――弱い、人間なのだ。

 戦うのが怖い。傷付くのが怖い。……死ぬのが怖い。

 不死不滅の人間であっても、痛みは感じる。死ぬのが怖くなくなるわけではない。

 ……なんという、思い違い。

 徹様は、いつもその恐怖と戦いながら――それでも、命を賭けておられたのだ。

 私は――情けない。

 そんな徹様の事に何も気づかず、ただただ盲信していただけだ……。

 

 その弱さを見せてくれた徹様を、守りたい――守ってあげたい、と思う。

 徹様は恥ずかしがられていたが、私達は嬉しかったです。

 私も、黒歌も――貴方を守りたいのです、徹様。

 どれだけ貴方が強くても、それでも弱い貴方を守りたいです。

 そう思う。

 次のゲーム……勝たなければならない理由が増えた。負けられない理由が出来た。

 

 部活から帰ってきた小猫が不審がっていた。

 けど、徹様は小猫には怖がっていたことを隠そうとされていた。

 それを敏感に感じた小猫は、徹様から何かあったのか聞き出そうとしていた。

 ……私と、黒歌と、徹様の秘密。

 徹様が本当は、とても弱い人間なんだという事。

 ――いつか、小猫にも教えてあげてください、徹様。

 とても強くて、でも弱い人――小猫に迫られて、少しだけ顔を赤くしている所は、本当に普通の人間のようで……徹様には戦いなんて似合わない。そう思えた。

 

 

 

 #月J日

 

 今日は、グレイフィア様と、セラフォルー様が訪ねてこられた。

 なんでも、今度レーティングゲームに参加する新人悪魔を集めてインタビューをし、その映像を冥界のテレビで放送するらしい。

 それに、徹様にも参加してほしい、という事だった。

 ……いくら徹様とはいえ、人間が行ってもいいのだろうか? 

 他の悪魔から顰蹙を買ったり――とも思ったが、魔王直々の依頼らしい。

 ――こういう話を聞くと、私の主はとても凄いんだ、と再確認させられる。普段はどこにでも居る、普通の男の子なのに…実はとても凄くて――私など、本当なら傍に控えるどころか、話し、触れる事も出来ない存在なのだ。

 

 しかし、驚いた。

 私と黒歌がディオドラから悪く言われた事を、グレイフィア様は知っておられ――その事に、気分を害されていた。良い言い方をするなら……怒ってくださっていた。私と黒歌の為に。

 不思議な気分だ。

 グレイフィア様との初めての出会いは……あまり良くなかったと思う。

 メイドとしての立場を何も理解していなかった私と、魔王の『女王』として来たグレイフィア様。

 もてなしなど何も出来ず、見下され、徹様を悪く言われ――どうしてか、メイドとしての仕事を叩きこまれた。

 今思うと、本当に私は……どうして、メイドの真似事などしていたのだろう?

 ……理由は、徹様が喜ぶと…兵藤君にメイド服を渡されたからなのだが。

 本当に、何と愚かな事か。

 まぁ、だからこそ、今の関係があるのだが。その点では、兵藤君に感謝…か?

 礼など言うつもりは無いが。

 しかし――ディオドラは冥界でも私達の事……徹様の事を、悪く言っているらしい。

 どういうつもりなのだろうか?

 そんな事を言っても、アーシアへの心象は良くならないと思うが…。

 

 最後に、少し怒った口調で絶対に勝てと言われた。

 私達の為に怒ってくださった事を、徹様とセラフォルー様にからかわれていたようだった。

 そんな姿が新鮮で、私も少し楽しんでしまったが。

 ……言われるまでも無い。

 絶対に勝つ。他の誰の為でもなく――徹様の為に。

 その為なら……一度は否定した天使の翼を受け入れる事も、出来る。

 

 

 

 #月K日

 

 突然の訪問は失礼だと思うが、学園へ行き、アザゼル様を訪ねさせてもらった。

 黒歌はオカルト研究部――リアス・グレモリーの眷属の元へ行き、アーシアと小猫を鍛えると言っていた。

 私は、アザゼル様を訪ねさせてもらった。

 黒歌以外に訓練の手伝いを頼める人が――アザゼル様か、グレイフィア様くらいしか思い浮かばなかったのだ。

 ……友好関係の狭さが恨めしい。

 私は、元だが、堕天使だ。『神の子を見張る者』の一員だ。しかも下っ端だ。

 アザゼル様は『神の子を見張る者』の総督……一番偉い方だ。身の程知らずにも程がある。首を刎ねられても文句は言えないと思う。

 だが、それでも……私は、縋れる者には、たとえ相手が何者であれ、縋る事に決めた。

 そんな事に構っていられるほど、私には余裕が無い。レーティングゲームは、もうすぐなのだから。

 

 訓練は、冥界で行った。アザゼル様が動くとなると、結界を張っても目立ってしまうらしい。

 『悪魔の駒』と『御使いのカード』。

 徹様から渡された力を使っても、アザゼル様には手も足も出なかった。

 『人工神器』も天使の力も合わさってか、今までで一番よく使えたと思う。だが、それでも――どうしようもなかった。

 あれが、今の私の限界。

 アザゼル様は戦い方を教えながら、私と戦って下さった。

 だが、私はその教えをまともに使う前に、何度も気絶させられた。

 まだまだだ。

 次は、今日教えてもらった事を、実戦で使えるようにならないといけない。

 そうしなければ……きっと、アザゼル様から失望されるだろう。

 それだけは避けなければならない。

 私がどう思われようが、構わない。最低でも、最悪でもいい。だが、徹様が――私などが『女王』だと言う事で悪く思われるのだけは、嫌だ。それだけは――嫌なのだ。

 

 訓練が終わった後、いきなり北欧の主神に話しかけられたのは、本当に驚いた。

 驚いても、それなりの反応が出来たのは、グレイフィア様のお蔭だ。本当に、あの方には頭が上がらない。

 北欧の主神――オーディン様。

 どうして私などに話しかけてきたのかは判らない。

 まぁ、会話の内容は挨拶とも言えないような、少し話しただけだったが。

 

 徹様は、テレビ出演の件で、着ていく服などを気にされていた。

 ……ディオドラ・アスタロトなど、本当に眼中にないのだろう。

 戦う事を恐れても、上級悪魔――ディオドラなど、気にもしていないのかもしれない。

 

 

 

 #月L日

 

 今日もアザゼル様を尋ねると、グレイフィア様も来ておられた。冥界に連れて行かれた。

 ……今日は、体中が痛い。

 グレイフィア様とアザゼル様を相手にした訓練は、贅沢の極みだろうが……私には荷が重すぎる。

 しかもグレイフィア様は、本当に手加減を最低限しかして下さらないのだ。

 ――今日だけで、何度気絶させられた事か。

 それだけ……それだけ、私が弱いのが悪いのだが。

 それに――グレイフィア様に、期待されている…のだと、思う。

 ディオドラに勝て、と言われた。だから、勝たせるために私を鍛えて下さっている。

 ……そう前向きにとらえよう。

 

 今日も、訓練の後、オーディン様が話しかけてこられた。

 しかも今日は、戦い方も教えて下さった。

 光の収束の方法。

 槍の使い方。

 ――光の槍の、効率的な使い方。

 そのどれもが高いレベルで、今の私ではうまく使えない技術だ。忘れないように、メモを取っている。

 今日教えていただいた事を、一日でも早く使えるようになりたい。

 主神オーディン。神槍グングニルの使い手。

 そんな方に槍の手ほどきを受けるなど――まるで夢のようだ。

 

 

 

 #月M日

 

 今日――ディオドラ・アスタロトと会った。

 徹様が冥界の記者たちに質問を受けている時に、私と黒歌に話しかけてきた。

 アーシア達も、リアス・グレモリーの眷属としてインタビューを受けている時だったので、あの男が接触したのは、私と黒歌の二人だけだ。

 ……正直、私はあの男を好きにはなれないだろう。

 黒歌など、今にも飛び掛かりそうなほどだった。殺気を向けなかったのは、公の場だから自重したらしい。

 

 あの男は、私と黒歌を見て――徹様を、馬鹿にした。

 許さない。許されない事だ。

 上級悪魔。しかも『旧72柱』アスタロト家の次期当主。

 地位も名誉も名声もあるのだろう。

 私達をどれだけ悪く言おうが、構わない。

 アーシアとの出会いは聞いている。傷付いたこの男を、アーシアが助けたのだと。

 そのせいでアーシアは教会を追われたが、その事を後悔はしていないと笑っていた。

 あの男は、アーシアとの出会いは運命だと言った。

 運命が、アーシアとディオドラという二人を惹き付けると。

 そんなアーシアにこの男が惹かれたというのも、否定はしない。

 アーシアの気持ちを知っている。

 私はアーシアの友人だから、アーシアを応援するが…あの男の想いを否定するつもりは無い。

 だが――徹様は、駄目だ。

 私の主を……侮辱した。

 それだけは、許すわけにはいかない。

 

 不要に力を見せ、敵すら救うなど――愚かだと、あの男は言った。

 徹様は、いまだに一つの命も奪っていない。

 一番酷いのはコカビエル……強制的に老化させられた神話にすら語られた堕天使。

 それ以外は、テロリストだろうが傷付けずに無力化している。

 ……それは、優しさだ。

 アーシアと同じ、優しさなのだ。

 優しさは、強さだ。

 私は、それを知っている。アーシアの強さ……私を赦してくれた、心の強さ。

 それは、私が目指したい強さの一つだ。

 悪魔を救った為に教会を追われた聖女――だが、アーシアはその事を後悔していないと言った。

 他人の為に、自分の居場所を失くしたアーシア。

 その強さに、ディオドラは惹かれ……救われた。

 なら今度戦う相手は、私の主は――きっと、アーシア以上に厄介だ。

 

 

 徹様は、他人の為どころか、敵の為に命を天秤に載せる事が出来る方だ。

 

 

 

 

 




次回は、やっと主人公が知らない戦場の真実(笑)です。

それと、もしかしたら明日は話を投稿できないかもしれません。先に言っておきます。
家に帰ってくるか不明なので、PCを起動しない可能性すらありますw
あさっては、いつも通り投稿しますので、御心配なくw

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