とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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サブタイトルを堕天使日記と間違いそうになったのは俺だけの秘密(ぇ


78(メイド日記)

 #月A日

 

 アーシアが例の上級悪魔――アスタロト家の次期当主からの求婚に困っているらしい。

 徹様から聞いた話だが、手紙や映画のチケットは判るが、家具の類など送られても困ると思う。

 いくらアーシアが善人だとしても、限度というものがあるだろう。

 ……いったいアスタロトは、何を考えているのだろうか?

 それとも、女心の機微も判らない放蕩息子だとでもいうのだろうか?

 いくらなんでも、悪魔の『旧72柱』であるアスタロト家の次期当主がそこまで愚か者ではないと思うが…。

 リアス・グレモリーは、もしかしたらレーティングゲームでアーシアの求婚の問題を解決するかも、と徹様が言われていた。

 なるほど、と思う。

 確かに、リアス・グレモリーは自分の婚約を、ゲームに勝利する事で破棄しようとしていた。……結局失敗したが。

 あの時は最終的に徹様が手を貸していい方向に進んだが――。

 

 そう言えば、あの頃は黒歌が居なかったな、と思う。

 今度話してあげよう。

 

 それと、今日の御夕飯は徹様と黒歌が用意してくれていた。

 いつも私が用意をしているから、と。

 嬉しい。……凄く、嬉しい。

 ですが、複雑でもあります。私には、徹様にして差し上げる事が出来るのは、料理と掃除しかないのだ。

 家事だけが、今の私が徹様に出来る事なのだ。

 ……そう考えてしまう自分が嫌になりそうだ。

 

 

 

 #月B日

 

 黒歌にリアス・グレモリーの婚約破棄の話をすると、面白そうに笑っていた。

 私も、懐かしくなってしまった。

 まだ一年も経っていない、数か月前の出来事だと言うのに――本当に、懐かしい。

 

 

 あの頃の日記を見直すと、それだけで恥ずかしくなってしまう。

 徹様に救われ、アーシアに助けられ、グレイフィア様に教えられ、黒歌と出会い、小猫がこの家に来た。

 長い時を生きてきたが、この数か月ほど密度の濃い時間を過ごした記憶は無い。

 だから、今度は私が徹様やアーシアを助けたい。

 グレイフィア様に認められたい。

 黒歌や小猫と共に徹様を守りたい。

 ――私の願いは、とても難しい。

 徹様の配下の中で、きっと私が一番弱い。

 黒歌、小猫。そして、これから先も徹様の配下は増え――私はその新しい配下達よりも弱いかもしれない。

 自分の才能の無さは、私もよく理解している。

 黒歌は才能など努力で補えと簡単に言うが、それがどれだけ難しいか判っているのか…。

 私がどれだけ頑張っているか知っているくせに、それ以上に努力しろと、黒歌は言ってくる。

 偶に、文句も言いたくなる。

 ……けど、それだけ私を心配してくれている事も、判るのだ。

 頑張りたい。黒歌の期待に応えたい。徹様の足手まといになりたくない。

 ――私は、欲張りだ。

 

 だが、黒歌に一つだけ勝っているものを見つけた。

 料理のレパートリーは、私が上だ。

 グレイフィア様に叩き込まれ、アーシアに教えてもらった料理だけは、黒歌より私が上だ。

 ……まぁ、それだけしか今は無いのだが。

 いつか、『女王』として黒歌に接したいものだ。

 ――いつになるか判らないが。

 

 

 

 #月C日

 

 最近は、家の掃除や洗濯を終わらせると、黒歌と話したり、訓練をしたりと、黒歌との時間が多い。

 黒歌は教え方は上手だし、何より強い。

 近距離も遠距離も戦えて、知識も深い。なにより、様々な術が使えるし頭が良い。

 私の『人工神器』も私以上に上手く使えるのは少し腹立たしいが、それでも黒歌から学ぶ事は多い。

 グレイフィア様も確かに御強いが、今の私ではグレイフィア様からは学ぶ事より、まずは長時間意識を保つ事から始めないといけない。あの方は強すぎて、まだ私では釣り合えない。

 黒歌は私に合わせてくれるので助かる。……合わせてもらう時点で、どうかと思うが。

 ――黒歌も、グレイフィア様も強くて羨ましい。

 グレイフィア様など、『女王』として主である魔王ルシファー様を支え、眷属の皆を管理しているのだ。

 私もいずれ、あの方のようになりたいものだ。

 

 

 

 #月D日

 

 徹様は今度ある体育祭で、借り物競争に参加されるらしい。

 体育祭……どういうものかは知ってはいるが、参加した事が無い。

 小猫に聞いてみたが、小猫も今まではあまり興味が無かったらしい。黒歌ではないが、勿体無いと思う。

 せっかくの学生生活なのだ、もっと楽しめばいいものを。

 ……訳を聞いたら、どうにも何も言えなくなったが。

 姉である黒歌が主人を殺し、指名手配となり、同族から追われ、リアス・グレモリーに拾われ……小猫が学生生活を楽しめなかったのは、黒歌の所為だ。

 その黒歌は、小猫の告白を聞いて何ともバツの悪そうな顔をしていた。それもそうだろう。

 まぁ、その黒歌はもう指名手配もされていないし、テロリストの一員でもない。

 小猫もこれからは学生生活を楽しめるはずだ。

 きっと、次の体育祭はとても楽しいものになると思う。

 体育祭には、家族がお弁当を用意して見学に行くものだと聞いている。

 黒歌は小猫の家族――私も、来てほしいと小猫からお願いされた。

 ……明日、徹様に相談してみよう。

 ああ――とても楽しみだ。

 

 

 

 #月E日

 

 ――とても、心苦しい。

 私達の所為で、徹様にご迷惑をお掛けしてしまったと思うと、どうしようもなく――胸が苦しくなる。

 ディオドラ・アスタロト。

 今日、徹様に接触した『旧72柱』アスタロト家の次期当主。

 そして――徹様の、レーティングゲームの最初の相手。私達が戦う、敵。

 今日、徹様が帰宅された時――とても、怒っておられた。

 何か悪い事をしたか、と思ったが、どうやら私や黒歌に怒っている訳ではないらしい、と言うのは判った。

 すぐに自室に籠られたから、その時は判らなかったが。

 しかも、今日は夕食も食べられなかった。徹様はあまりお身体が強くないので心配だ…。

 結局、帰って来られた後は、自室から出てこられなかった。

 明日も……だろうか。

 徹様が怒っておられる姿を見ると、胸が苦しい。

 徹様には、怒った御顔は似合わないと、よく判った。

 本当に――徹様には、穏やかな平穏……普通の毎日が、よくお似合いだと思う。

 『神器』を使っては倒れられる徹様は、きっと戦いが合わないのだろう。

 徹様は人間なのだ。……どうしようもなく。

 その事を忘れてはいけない。

 今度こそ、徹様に頼らず……徹様をお守りする。――お守りしたい。

 

 徹様が怒っていた理由だが、小猫に聞いた話だと、ディオドラ・アスタロトが徹様に喰ってかかったらしい。

 それはいい。いや、よくないが――気の強い悪魔なら、そういう事もあると思う。魔王が認めた人間だ。倒そうと考える悪魔は少なくないはずだ。

 だが、ディオドラが徹様へ食って掛かった理由。その理由が問題なのだ。

 私と黒歌……弱い『女王』と元テロリストの『僧侶』。

 それを言われ、徹様と……アーシアが怒った。あの温厚なアーシアが、ディオドラを平手打ちにしたらしい。

 ……そんなに怒ってくれた事に、不謹慎だろうが――喜びを感じてしまった。

 今度会ったら謝ろう。

 

 次の戦い、アーシアは徹様の『僧侶』としてレーティングゲームに参加するそうだ。

 私と黒歌が悪く言われ――そのせいで、徹様が気分を害された。

 ただ…その事が辛い。

 また、私は徹様にご迷惑をお掛けしてしまった。

 黒歌も、気に病んでいた。

 ……私達は、徹様を計る目安になる。

 こうなる事は判っていたはずなのに――どこかで、気が緩んでいたのだろう。

 本当に、私は徹様にご迷惑をお掛けしてばかりだ。

 

 

 

 #月F日

 

 黒歌との二人での訓練では限界がある。

 テロリストとしての戦闘経験がある黒歌と私では、戦いの経験値が違い過ぎる。訓練をする事で為になる事は多いが、今回は時間が無い。

 以前から気付いてはいたが、私には戦いの経験が少ない。

 兵藤君のように劇的な変化…進化とも言えるほど急激に強くなれるとは思わない。だが、私は今まで自分の格上と言うとグレイフィア様や黒歌、ベオウルフ様にコカビエルくらいとしか戦った事が無い。

 強者との経験が少ない。

 『神の子を見張る者』に居た頃は、格下ばかりを狩っていたからしょうがないのだが。

 ……あの頃、もっと貪欲に『力』を求めていたら、私は少しは違ったのだろうか? ……そうかもしれない。そう思った。

 

 小猫とも今日は戦ったが、勝てなかった。

 単純に、『戦車』との接近戦に負けた…グレイフィア様や黒歌のように、器用に避けながら戦えるほど、私は技術を持っていない。

 殴り合いには殴り合いで応えるしか、私は出来ない。

 手数が欲しい。引き出しが欲しい。

 悪魔の苦手な光の槍。私の武器はそれだけだ。

 小猫のように殴り合いを挑んでくる相手だと、『人工神器』も上手く使えない。結界を張りながら激しく動くとなると、集中できないのだ。

 武器が欲しい。上級悪魔と渡り合えるだけの武器が。

 戦う力が――。

 

 

 

 




この作品では年上のお姉さんが目立ってますが、
私は何気に、後輩やちっこい人が好きです。

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