これって、主人公の『神器』の能力が判ったら感想が減るのではなかろうか?
……ちょ、シャレにならんっしょ
△月G日
私はその日の光景を、しばらく忘れる事が出来ないだろう。
堕天使レイナーレ――堕天使としては上級寄りの中級程度。
強いと言えば強いが、私や朱乃程じゃない。一対一なら祐斗や小猫でも十分に相手にできる敵だ。
イッセーは転生してまだ間もないから難しかったが、まぁ、その程度の相手という事だ。
つまり、勝つのは必然、滅ぼすのは必定、イッセーが悪魔として生きていくための、最初の儀式という訳だ。
そのつもりだった。そのはずだった。
たとえ何者かの邪魔が入っても、結末は変わらないはずだった。
しかし、蓋を開けてみたらどうだ?
イッセーは『神滅具』という極上の『神器』に覚醒したが、私の『滅びの力』で消したレイナーレは復活した。
上手くいきすぎた事もあれば、最悪の結末にも至ってしまった。
『滅ぼした』レイナーレを蘇生させた上代徹という存在。
滅びとは、肉体だけではなく、魂すらも消すという事だ。
すべての生命にとって、魂とは存在の根源。
魂の消滅は存在の消滅。
それは復活どころか再生も治癒も不可能な事。
――その筈だったのだ。
だというのに、彼はあっさりと彼女を復活させてみせた。私達の目の前で、だ。
△月B日
上代徹という存在を調べてみると、驚くほどに“普通”だ。
両親は共働きで、よく海外に出ているようだが健在。今は、父は上海、母はフランスへ出張中。
家に一人暮らしで、小遣いは生活費とは別に、月に決められた額を振り込まれている。
バイトはしていない。
友人関係も良好で、学園内で孤立している訳でもない。
独りではなく、学園でも近所でもそこそこの付き合いをしながら生活している。
簡単に調べただけだが、まぁ、彼の身辺はその程度だ。
そこに不自然な所は何も無い。
頭が痛くなる。
敵対の意志は無いようだが、それなら何者かくらい教えてくれても良いだろうに。
レイナーレを従えたから、堕天使だろうか?
だが、彼ほどの存在なら名前と顔が知れ渡っていてもおかしくはない。
あまり疑いたくはないのだが……。
今日は朱乃が彼に召喚されている。
正直、イッセーやアーシアが召喚されなくてよかったと思う。
朱乃なら、万が一何かがあっても自力で対応できるだろうから。
………だからって、料理を褒められたくらいで笑顔になられても。
なんだかそんな事を話されると、本当に敵意が無くなってしまう。
彼は何者なのだろうか?
敵であってほしくない、と思ってしまう。
△月A日
廊下で上代君と会ったので、昨日の件のお礼を言っておいた。
今日は朱乃の機嫌が凄く良い。
しかし、最初に落とすだけ落して、次は褒めて上げるなんて、彼はやはりSだなぁと思う。
あれだけピリピリしていた朱乃が、こうも簡単に機嫌を良くするなんて……女の扱いに慣れてる。
恋愛経験、と書いていいものかどうかは判らないが、それなりに経験は豊富なのだろう。
私は上代君より、イッセーみたいな恋愛初心者の方が可愛いなぁ。
△月O日
今日はアーシアの悪魔稼業初日だが、相手があの上代君である。
あまりいい気はしないが、彼に不審な点は無い。
イッセーは彼に怒られたらしいので、少し挙動不審だった。
なんでも、レイナーレに「男が喜ぶ服」を渡したらしい。
……まぁ、イッセーって……ねぇ? 何の服を渡したのか、非常に気になった。
怒ってアーシアに八つ当たり、というのも想像つかないし、大丈夫だろう。
でも、アーシアとレイナーレは大丈夫なのだろうか?
もしかしたら、その辺りを考えてアーシアを召喚したのかもしれない。
まぁ、明日になれば判る事か。
その後、イッセーは自転車を漕いで上代君の家に向かった。
アーシアが心配なのだろう。
仲間を心配し、大切に思う事は良い事だ。やはりあの子を眷属にして良かったと思う。
△月Z日
アーシアは、無事に帰ってきた。
レイナーレとも話す事ができ、先日の事は水に流す事になったようだ。
こういうのは時間が経つだけ面倒になるし、早くから仲が良くなるのは良い事だと思う。
やはり上代君は、そういう事を考えていたのだろうか?
敵であったレイナーレの事を考えていてくれている。
彼も私と同じように、仲間を大事に思っているのだろうか?
だとしたら嬉しく思う。
△月X日
今日も朱乃が召喚されていった。
何をしていたのか聞いてみると、食事の用意をして、一緒に食べてきたのだとか。
監視の意味合いも兼ての召喚だが、なんだ、随分と上手くやっているようだ。
しかし、朱乃の手料理なんて誰も彼も食べれるものじゃないのだけれど…上代君はどう考えているのだろう?
そう朱乃に聞いてみると、少しだけ笑って帰っていった。
…………なんだ、この言い様の無い敗北感は。
少し前は、女扱いされない事にイライラしていたくせに……妬ましい。
△月V日
レイナーレの服が無いとかで、上代君が相談してきた。
まぁ、今まで男所帯だったのだからしょうがないか。
という訳で、朱乃とイッセーも誘って買い物に行ってきた。
小猫とアーシアは、今日も楽しく悪魔稼業だ。
しかし、イッセー? 貴方、節操がないにも程があるんじゃないかしら?
なんでレイナーレにメイド服なんか……しかも、どこで手に入れたのよ?
魔界の私の実家になら結構あるけど、日本でなんて見かけないんだけど?
今日のショッピングは、中々に楽しいものだった。
上代君に蘇生されたとはいえ、一度は滅ぼした相手だったので、わだかまりも殆ど無い。
それに彼女、随分と丸くなっていた。上代君と一緒に生活しているからだろう。
というか、メイド服に丁寧語……元の荒い口調を知っているだけに、違和感を感じてしまう。
……彼、こういう趣味もあるのかしら?
ちょっと、上代君を見る目が変わりそうだ。
それとイッセー? まず下着売り場に向かうのはやめなさい。
朱乃? 今日はレイナーレの服を選びに来たのだから、自分の服を真っ先に選ばないで。
――私は保護者か何かだろうか?
△月N日
今日は小猫が上代君に召喚されていった。
……朱乃(S)を苛めて、レイナーレにはメイドプレイ、そして小猫召喚。
朱乃が最近優しくされてたから私の気の所為だったのかな、と思ったけど……やっぱり。
彼って、趣味の範囲が広すぎると思う。
イッセーも八方美人な所があるし、男って皆そうなのかしら?
祐斗に聞いてみると、苦笑されてしまった。
というか、最近祐斗の声を聴いてない気がする……気のせいかしら?
あと朱乃? 笑顔が怖いわ…イッセーが怯えちゃって、部室の隅で震えていた。可愛いなぁ。
△月M日
しかし、普通の顔をして…せ、性癖は随分とアブノーマルよね、上代君。
Sを苛めるドSで、支配欲が強くて、ロリータコンプレックスだなんて。
そういう意味では、女性に移り気すぎるだけのイッセーがまともに見える。
そして今日はアーシアが召喚されている。
……つ、次はアーシアが――(文字が汚くて読めない)
△月#日
上代君が、朱乃に『神器』を見せてくれたらしい。
そのくらいには私達を信じてくれた、という事だろうか?
少し気分が良い。
しかし、懐中時計型の『神器』となると、時間操作が得意なのだろうか?
そうなると、レイナーレの蘇生が出来ないはずだが……。
『神器』の能力――流石に、そこまではまだ教えてはもらえないか。
朱乃も何処か憂鬱そうな顔をしていたし。
また、上代君と何かあったのだろうか?
なんでか知らないけど、私の中ではグレモリーさんは耳年増なイメージがある。
どうしてかは判りませんけどね。
次は堕天使日記を書いて、二巻に突入です。
……主人公の性癖は、いたってノーマルですよ?