$月X日
なんだろう? 黒歌と白音を見ていると、とても微笑ましい気分になってしまう。これが母性と言うものだろうか? いや、違うだろうけど。
徹さんにべったりな黒猫と、長年姉と離ればなれだったので一緒に居たいから二人を追いかける妹。
そして、困った徹さんから黒猫を器用に引き剥がすメイド。
……和んでしまった。
だって、聞いてた話と、全然違うのだ。
冷徹で冷酷な猫魈、黒歌。
規格外の能力を持つ『神器使い』上代徹。
聞いていた話と全然違う。
だってそうではないか。好きな男の子にべったりな猫。女の子に抱きつかれて照れる男の子。お姉ちゃんを追いかける妹。照れて困っている男の子を助けるメイド。
見ていて微笑ましい気分になって、助けを求める徹さんに意地悪をしてしまった。具体的には、助けを求める視線を向けられながら、気付かないフリをした。……天使失格かもしれない。でも、見ていて和んでしまうのだから仕方がない。
紫藤イリナも同じだったようで、先ほど、思い出しながら笑っていた。判る。私も、思い出して笑ってしまうから。
なんだろう……上代徹の配下。レーティングゲームで言う、『女王』『僧侶』『戦車』。そんな物騒な関係ではなく――もっと、暖かなものに感じられる。
悪魔が作った関係なのに――天使である私達が、微笑ましく……応援したくなるような関係。
人間と、元堕天使と、指名手配されてた猫魈と、魔王の妹の配下。
文字にすると、1人だけ明らかに浮いているが、その一人が中心となって出来ている関係。人間が中心の関係。……不思議な関係。
今日は一日、徹さんは黒歌に振り回されていた。
レイナーレさんは、そんな徹さんと黒歌に付きっ切りで、でも嬉しそうだった。
$月Y日
徹さんから、黒歌がベッドに潜り込んでくることを相談された。
不潔です。婚前に性交渉をするなど……と思ったが、どうもそうではないらしい。
良かった。徹さんがそんな爛れた関係に浸ってなくて。
そんな事になったら、徹さんを気に掛けているミカエル様が倒れられるかもしれない。
取り敢えず、その事はレイナーレさんがどうにかする事になった。
というよりも、先程黒歌を捕まえて説教をしていた。そう言う所を見ると、レイナーレさんが徹さんを支えているんだな、と思う。努力もしておられるし、彼女は弱いからこそ、徹さんに必要な存在なのかもしれない。
グレイフィア・ルキフグスがレイナーレさんを気にしていた意味が、少し判った気がする。
彼女は、弱い。
でも、強くなろうとして、事実、先日私と手合わせした時より強くなっている。
その結果が黒歌。その笑顔。
……私は何かしたわけではないが、それでも感慨深くある。
ミカエル様は徹さんを重要視されていたが……私は、レイナーレさんの今後に興味がある。
規格外の『神器使い』の傍で、弱い彼女がどうやって生きていくのか……楽しみだ。
きっと、グレイフィア・ルキフグスも同じ気持ちだろう。
なんとなく、そう思える。
……しかし、徹さんに黒歌の事を相談されていたのに、結局レイナーレさんは徹さんの部屋に行ったまま戻ってこない。
結局、黒歌の事はどうなったのだろうか?
$月Z日
徹さんは、観戦室に入るなり魔王や堕天使総督、そしてセラフの方に囲まれていた。
そんな所を見ると、やはり徹さんが特別なんだと思い知らされる。
先日の暖かな、どこにでもいる普通の少年。その姿は消え、冥界、天界、『神の子を見張る者』……三大勢力の中心にいる人間へとなる。
はたして、本当の彼の姿はどこにあるのだろう?
レイナーレさんや黒歌、白音と居る少年。世界の中心に居る少年。そのどれが、彼の本当なのだろうか?
しかも今日は、そこに輪をかけて、北欧の主神、オーディン様までおられた。
あちらも徹さんに興味があるらしく、観戦室の前で徹さんを待っているほどだ。
一体、徹さんはこれから、どんな道を進んでいくのだろう? 興味はあるが……一緒にその道を進むとしたら、茨の道どころの話ではないと思う。
レイナーレさんと黒歌は、その道を一緒に進むのだろうか? きっと、進むのだろう。
……ミカエル様は、そんな徹さんの家の隣に、どうして天界スタッフの居を構えたのだろう? 考えたくない。
もし……もしも、だ。
もしそんな徹さんを追うのも私達天界スタッフの仕事だと言うのなら……溜息しか出ない。
結局、徹さんは今回のレーティングゲームの大会には出場しなかった。
そもそも、配下が揃っていないので当然だろう。
それに、徹さんは戦いが好きな性格ではないようだし。それがゲームでも、だ。
『駒王協定』の場でも、怪我人すら誰一人出さない為に、自身の命を危険に晒すほどだ。
誰かを傷付ける事を選べる性格ではないのかもしれない。
……そう言う所は、本当に好感が持てる。是非とも、天使に転生してほしいと思えるほどに。
しかし、今代の赤龍帝は……。
女性からしたら最悪に厄介な魔法だと言える。
だが、どうにも……生理的に受け付けない。
……私は、彼を好きになれそうにない。
$月!日
今日、ようやく冥界から帰ってきた。
正規のルートでの冥界入り、そして正規のルートを通って帰る。初めての経験だった。徹さんに感謝だ。
それに、冥界でも色々と得るものがあった。赴任早々、幸運だと言えるだろう。
この調子で、私達は、私達の仕事をこなしていけたら、と思う。
思う、だ。
……冥界へ行っていた二十日余りの仕事が溜まっている。
まぁ、仕事量自体は、新規の地域と言う事もあり少ない、と言えるが……二十日分だ。
それに、私達が冥界に行っている間に、新しい天界スタッフも到着している。私と紫藤イリナも含めて、六名だ。
そのうちの半数…二名が駒王学園へ教師として勤務、紫藤イリナは生徒として入学する事になっている。夏休み明けからだ。
残りは、拠点での事務仕事や、悪魔、堕天使と連携して起きた問題を解決する。
まずは、そこからだ。
その辺りに慣れ、落ち着いたら少しずつ周囲に天界という根を伸ばしていく事になるだろう。
それは……まぁ、まだ数年先になるだろうけど。
取り敢えずは、夏休みが終わる前に、溜まった書類整理だ。
こちらへ来た天界スタッフの着任受領。冥界へ行っていた間の事の報告書。水道、光熱費の支払い。生活費。それらを、経費として天界へ報告。……どうして私は総括と言う立場なのだろうか?
$月”日
徹さんに、冥界に行っている間に到着した天界のスタッフを紹介した。
快く受け入れてくれて、良かったと思う。
疲れていたんだと思う。レイナーレさんが淹れてくれたお茶が、とても美味しかった。
彼女のようなメイドが欲しい。切実に。
せめて、夜遅くにお茶を淹れてくれるような人が……。
事務処理が終わらない。というか、人件費は私が計算しないといけない事なのだろうか?
そういうのは、天界の人事がする事ではないのだろうか?
今度の報告書に一筆入れておこうと思う。
$月#日
昼間、レイナーレさんと久しぶりに手合わせをした。
黒歌との一戦で自信をつけたのか、随分と動きが良くなっていた。
それとも、徹さんと『悪魔の駒』で繋がったから、彼から何らかの恩恵を受けているのかもしれない。
それでも、まだまだ動きに余裕は無く、行動は荒かったが。
彼女の成長が微笑ましい。微々たるものだが――いずれ、私に匹敵し、もしかしたら凌駕するかもしれない。
その時が楽しみだ。
……しかし、少しやり過ぎてしまったかもしれない。気を悪くしていないだろうか?
事務処理で、少しばかりストレスが……今度、謝ろうと思う。
$月$日
レイナーレさんに謝りに行ったら、黒歌が徹さんに告白していた。
うわぁ……思い出すと、まだ頬が熱い。
同じ女として、ああいう行動は尊敬できるというか、憧れると言うか……。キスまでしていたし。
本当に、あの黒猫は徹さんが好きなんだ、と判るだけになんというか――。私も彼氏が欲しい。違う。
徹さんは徹さんで、照れているというか、なんというか……まんざらでもなさそうだったし。
レイナーレさんはどうなるのだろうか?
でも、あの三人だと、ギスギスしないような気がするのはなんでだろう?
愛は平等だが、生涯の伴侶は一人きり……とは思うのだが。
あの三人だと、何とも言えない……微笑ましいし。
見ていて暖かくなれるのだ。応援したくなる。
罪を犯した黒猫は、これから徹さんの元で罪を償うのだろうか?
それとも、罪を重ねるのだろうか?
……今日の黒歌の姿を見る限り、前者のように思える。……私は甘いだろうか?
でも…それでも、徹さんに愛を告白していた、あの黒歌を、私は信じたい。あの姿こそが、黒歌の真実なのだと、思いたい。
だから――できるなら……人間と、元堕天使と、大罪人。
あの三人に、末永く、幸あらん事を。
$月&日
晩御飯に、和食とやらに挑戦してみた。
郷に入り手は郷に従えとは、良い言葉だと思う。我ながら上出来だった。
量を作り過ぎてしまったので、徹さんの家におすそ分けした。喜んでもらえたと思う。
味の方は、一応皆には好評だったが…徹さん達の口に合っただろうか?
しかし、料理は楽しい。掃除と一緒で、気分を落ち着けるのに最適だ。
今度は、どんな日本料理に挑戦しようか?
今まで洋食ばかりだったので、しばらくは日本食に挑戦しようと思う。次は中華か……。
日本には、色々な国籍の料理店があるのも好ましい。
良い国だ、本当に。食は、仕事を精力的に進めるためには必要な要素だと思う。
仕事の内容はともかく、日本に来ることが出来た点は、ミカエル様に感謝だ。
$月’日
今日、リアス・グレモリーとソーナ・シトリー。その配下達が冥界から帰ってきた。
この地の天界スタッフを預かる立場として、挨拶に伺った。
一応私達の事は魔王から聞いているらしく、これから良好な関係を築けるようにと、挨拶を交わした。
これからが、私達の本当の仕事だ。
そして、徹さんを見守る事――。
ミカエル様からは、徹さんから要望があれば、可能な限りで力を貸す様にと言付かっている。
それは、天使としてであり、戦う力として、だ。
……あの人が、自分から進んで戦いを求めるとは思わないが。
それでも、あの人は今や世界の中心で、その存在を『禍の団』をはじめ、戦争を望む側にも知られてしまっている。
徹さんとレイナーレさん、そして黒歌。
彼女の妹がどうなるかはまだ判らないが――これからは、平穏とは程遠い生活になるだろう。
認めたくはないが、天界も一枚岩ではない。
悪魔も、堕天使もだ。
……今は無き主よ、願わくば――彼らに平穏と、安らぎを。
罪を犯し、それでも愛を望む者に、幸多からん事を。
やはり、グリゼルダさんは迷走した感じがする。私的に。
疲れたOL的な彼女を感じていただけたなら幸いです。
……そんなキャラを目指されるグリゼルダさんが不憫でならない。
つか、気付いたら60話ですよ。二か月連続更新ですよ。(多分
よく頑張ったな、俺。
そろそろ打ち切っても……おや、誰か来た(ry