とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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×シリアス→○シリアル


06(堕天使日記)

 堕天使レイナーレにとって、彼の少年は――よく判らない、未知の存在である。

 

 

 

 

 

 

 

 ○月%日

 

 駒王学園に潜入していたミッテルトが、間違えて『神器』を持つ男を殺してしまったらしい。

 ……まったく、何をやっているのか。

 これだから、マトモな力も思考も無い下級の堕天使は嫌いなのだ。

 まぁ、どうせ何の役にも立たない雑魚『神器』だろうから、別にどうでもいいが。

 でもこれで、駒王学園の悪魔どもに目を付けられるかもしれない。

 はぁ――これからどうするか……。

 

 

 

 

 

 ○月Q日

 

 ああ、どうしようもない馬鹿の相手は、本当に疲れる。

 何の面白味も無い、ありきたりなデートコース。

 しかも視線は、胸ばかりに向くというありきたりな思春期のスケベな少年を思い出すと、笑しか浮かばない。

 ほんと、どうして私のような女が、あんな馬鹿な男の恋人になど――少しは疑わないものか。

 笑ってしまう。

 人間って、本当に愚かで哀れな生きものねぇ。

 ドーナシーク達に、酒の肴代わりに聞かせてあげると、声を上げて笑っていた。

 

 

 

 

 

 ○月B日

 

 根城にしている教会に、珍しい物が来た。というか、配下の神父が何処からか調達してきた。

 シスター……神などという詰まらないモノに仕える存在。

 だが、興味を惹いたのはその女がシスターだからではない。

 神父を通じて見せてもらった奇跡――『神器・聖母の微笑』。

 面白い――本当に面白い物が、私の元に転がり込んできてくれた。

 フリード・セルゼンの狂気には手を焼く時があるが、今回のこれで今までの分は無しにしてもいいくらいだ。

 よくやってくれたと思う。本当に、心から――だ。

 『聖母の微笑』を手にいれたら私も、アザゼル様やシェムハザ様の御力になれるのだから。

 

 

 

 

 

 ○月J日

 

 フリード・セルゼンの行動は目に余るものがある。

 どうして私が首輪の代わりをしないといけないのか……。

 なまじ力を持っているだけに、本当に面倒な男だ。

 悪魔なら役に立つはぐれだろうが構わず殺してしまうのだ――もっと頭を使えばいいのに。

 しかも、せっかく運よく見つけた『神器』持ちもあっさりと殺してしまう始末。

 本当に愚かな男だ。

 しかし、その男の死体が残らなかったのが気にかかる。

 フリード・セルゼンは確かに強いが、光りに弱い悪魔ならともかく、人間の肉体を消滅させるほどの力はない。

 いったい何の『神器』を持っていたのだろうか?

 今となっては知り様も無いが、少し勿体無い事をしたのかもしれない。

 灰も残らない死に方をした男の死を、少しだけ悼んであげた。

 

 

 

 

 

 ○月*日

 

 今日、またあの男に会った。

 しかもその男の特徴は、ミッテルトが駒王学園で殺した人間と酷似している。

 特徴の無い、どこにでもいるような普通の人間。

 特徴が無いからこそ、特別とも言える人間だ。

 そんな人間こそ危険なのだと、経験から知っている。自身を擬態する事に長けた人間ほど厄介なモノはない。

 ミッテルトが学園の屋上から突き落としたはずだ。

 確かにフリード・セルゼンの剣で殺したはずだ。

 今日は私の槍で肉体ごと消滅させてやった。

 しかし、嫌な予感しかしない……あの男は、何者だ? どんな『神器』を持っているのだろう?

 

 

 

 

 

 

 ○月□日

 イライラする。

 フリード・セルゼンが連れてきたシスターだ。

 神を信じ、神を敬うその姿が、気に障る。

 神など、ただただ天上から見下ろすだけで、手を差し伸ばす事をしない偽善と自己満足の塊だ。

 どれだけ信じようが神が何かを与える事はない。

 どれだけ助けを求めようが、神は誰も助けない。

 ただそこにあるだけ。

 心の支え? それで空腹を紛らわす事が出来るのか?

 信じる者は救われる? それで本当に救われた者は居たか? 誰もが自分の力で未来を切り開いていった。

 神など何も支えない、救わない。偶像だ。

 本当にイライラする。

 これだから、神の使徒は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 ○月▽日

 やはり、という思いが強い。

 あの男が生きていた。

 上代徹と名乗った、不滅の人間。

 ミッテルトが学園の屋上から落としても死なず、

 フリード・セルゼンが光の剣で首を落としても死なず、

 私の光の槍で肉体を消滅させても死なない。

 『神の子を見張る者』の末端とはいえ、私もそれなりの力を持つ堕天使だ。

 人間の一人、魂ごと消滅させる程度の力は持っている。

 私の勢力だけで、三度殺した。

 だというのに、あの人間は事も無げに私の前に現れ、世間話だけをして去っていった。

 余裕か、それとも何か意図があったのか――特徴の無い人間性が、不気味にすら感じる。

 かみしろとおる――かみ、という名前は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 ○月!日

 

 忌まわしい。何なのだろうか、あの男は。

 三度も殺したというのに、どうして私に声を掛けてきたのだろうか?

 本当に忌々しい。

 しかも、缶コーヒーの一本で情報を得ようだなんて、愚かにも程がある。

 情報と信頼を得たいなら、もっと良い物を持ってこいと言いたい。

 ムカついたので、最近の愚痴を延々と聞かせてやった。

 大体、私の配下はバカばっかりなのだ。

 ミッテルトは馬鹿だし、ドーナシークはアホだし、カラワーナは愚図だ。

 フリード・セルゼンに至っては、狂ってる。

 アーシア・アルジェントは甘ちゃんだし……もっとマシな配下が居れば、私だって…。

 よそう、それは下らない考えだ。

 

 

 

 

 

 ○月$日

 

 イッセー君は、本当に楽しませてくれる。

 悪魔に転生してまで私を楽しませるなんて、本当にいい子だと思う。

 シスターが悪魔を慕い、悪魔がシスターを守る?

 本当に、馬鹿で愚かで、哀れなイッセー君。

 そんな妄想、世界が、悪魔が、堕天使が――神が認めないというのに。

 アーシア・アルジェントの『神器』を手に入れるまで、もう少しだ。

 その時、イッセー君の妄想は終わる。

 私も、こんな『神の子を見張る者』の末端などという立場から抜け出す事が出来る。

 私は――もう少しで、神に復讐する力を得る事が出来る。

 

 

 

 

 

 ○月≪日

 

 何を思ったのか、上代徹が教会を訪ねてきた。

 本当に何を考えているのか……フリード・セルゼンに対応させると、簡単に捕える事が出来た。

 戦い方など何も知らず、本当にあっさりと気絶させたのは拍子抜けだったが。

 アーシア・アルジェントの『神器』を抜き取る前に、この男で試す事にした。

 した、のだが――。

 『神器』を抜き取った際に消え失せてしまう。

 どういう『神器』か見当もつかないが、殺す事も出来ず、『神器』を奪う事も出来ないとなると、手の出しようがない。

 消える直前に、せめてもの抵抗で特大の光の槍で左半身を消し飛ばしてやったが、きっとまた、元通りの姿で現れるだろう。

 私達が殺せない事を良い事に、遊び半分で私の陣地に入り込んできたつもりなのだろうか? 忌々しい。

 だが、それもどうでもよくなる。

 アーシア・アルジェントの『神器』だ。

 それさえ手に入れば、私は……私は、アザゼル様やシェムハザ様の御力に――『神の子を見張る者』の幹部に――。

 

 

 

 

 

 ○月:日

 

 今日、この夜――私は力を手に入れる。

 恐らく兵藤一誠は来るだろう。

 彼はアーシアという生贄を救うという事に躍起になっている節がある。

 そういう者は扱いやすい……問題は、あの不死不滅の“人間”だ。

 悪魔などよりもよほどバケモノじみている男――上代徹。

 あの男に戦う力は無い。

 それは先日教会に来た時に確認している……が、それもどこまで信じられるか。

 未知の『神器』、普通過ぎるまでに普通の雰囲気、その人外の不滅性。何かを隠しているのは明白。

 アレは、人の形をした別のナニカだ。

 悪魔すら滅ぼす堕天使の光でも滅ぼせない人間など、もはや人間などとは呼べない。

 

 

 




勘違い……か?

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