とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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どうして木林君はこういう扱いになったのだろう?
書いてる私ですら不思議です。本当に。
気付いたらこうなってたとしか言いようがない……
私は木手君のこと好きですよ? 原作でも、割と好きなキャラです。

……作者の好みと、この作品での登場率は比例しない。


55(白猫日記)

 $月T日

 

 今日は一日、頭がすっきりしていた。修行がはかどった訳ではないが、色々と考える事が出来た。

 上代先輩が疲労を回復させてくれたおかげだ。

 お礼を言うと、愚痴を聞いただけ、と言ってくれたけど。

 今日は、姉様の匂いはしなかった。でも、イッセー先輩のように汗臭いという訳でもない。上代先輩は不思議な匂いがした。

 

 明日は、新人悪魔が集まってパーティがある。美味しい料理もいっぱい出るだろう。楽しみだ。

 しかし、イッセー先輩には驚かされた。元龍王タンニーンとの追いかけっこは聞いていたけど、それを裏山で生活しながら行っていたらしい。

 私の修業とは、根本的に次元が違う修行……イッセー先輩曰く、拷問……だ。

 その逞しさは悪魔を越えているとアザゼル先生も言っていた。私もそう思う。

 イッセー先輩の成長は、私とは全然違うと思う。悪魔に転生して数か月。多分、戦う力だけなら上級悪魔に匹敵すると思う。

 私は、そこまで強くない。多分、今戦えばイッセー先輩に負けるだろう。

 ……私も、前に進まないといけない。まだ何を受け入れなければならないのか判らないけど。

 それでも、私は前に進みたい。立ち止まっていたくない。

 

 

 

 $月V日

 

 目が覚めると、姉様が居た。私の手を握っていてくれた。

 ……それだけで、温かい気持ちになれた。

 今まで、姉様の所為で沢山辛い目に遭ったけど、それも、どうでもいいと思えるくらい――嬉しい。

 昨日は本当に、沢山の事があった。

 姉様との再会。『禍の団』との遭遇。イッセー先輩の『禁手』化。上代先輩のメイド――レイナーレとの共闘。……姉様の死。

 日記に書くには、密度が濃すぎる一夜だったと思う。色々あり過ぎて、まだ少し頭が混乱している。

 死んだはずの姉様なんて、生きてるし。上代先輩には本当に感謝しないといけない。

 ……その姉様は、さっき上代先輩の部屋に行ったけど。

 さっきまで上代先輩は、姉様の事でルシファー様に呼び出されていたらしい。姉様…これからどうなるのだろう? 『禍の団』の一員で、『主人殺し』のはぐれ悪魔で、力に呑まれた前科のある猫魈。

 今まで沢山辛い事があったけど、でも、姉様と一緒に暮らせるなら暮らしたい。好きじゃないけど、嫌いじゃない。好きだったから、また好きになりたい。

 姉様を助けてくれた上代先輩。その先輩に、縋るのは身勝手すぎると思う。

 でも、姉様の事を――救えるのは、多分上代先輩だけだ。魔王様と同格と言われている、人間の先輩だけだ。

 

 

 

 $月W日

 

 黒歌姉様は、これから上代先輩の眷属として生きる事になった。部長から、そう教えてもらった。魔王ルシファー様がそう言ったらしい。

 嬉しかった。良かったと思う。

 魔術への才能が有り過ぎた姉様。妖術仙術さえも使いこなし、空間操作の結界術まで使いこなした姉様。きっと、これからもまだまだ強くなるだろう。また、力の増大に呑まれ、暴走するかもしれない、と部長は言っていた。でも、ルシファー様はそれでも、上代先輩なら、と言ってくれたらしい。

 魔王様からそんなに信頼されている上代先輩が、羨ましい。羨ましくて、そして、嬉しい。上代先輩のお蔭で、姉様は生きられる。私も、姉様と一緒に居られる。

 辛い事はたくさんあったけど、でも、やはり――嬉しいと思う。

 

 パーティの裏で、私は姉様と戦った。

 イッセー先輩と部長、元龍王タンニーン…そして、レイナーレに力を貸してもらって、戦った。

 それでも遠く及ばなかったけど、イッセー先輩が『禁手』に至り、レイナーレが上代先輩の『女王』となり、何とか勝つ事が出来た。

 強かった。姉様は、とても強かった。『禍の団』の美猴という孫悟空も強かった。

 ……レイナーレが言うには、それでも手を抜かれていたらしいけど。

 そもそも、姉様は意地で戦っていただけで、私達に勝つ気は無かったらしい。というか、負けたかったと言っていた。帰ってきたかった、と。

 

 寂しがり屋なのに、意地っ張りな猫。レイナーレは、姉様をそう言った。

 温もりを知った猫が、野良猫に戻れるものか……とも。それだけで、姉様と上代先輩、レイナーレの関係が少し判った。

 上代先輩から姉様の匂いがしていた理由も。多分、判ってしまった。

 多分あの時から、姉様は上代先輩の傍で、一緒に暮らしてたんだと思う。明日にでも聞いてみよう。間違ってない自信がある。今日はダメだ。姉様、上代先輩に甘えに行ったから。

 でも、姉様があんなに甘えるのが好きだなんて知らなかった。私が覚えている姉様は、優しくて、いつも私の手を握って引っ張ってくれていた。強いヒトだった。その姉さまが甘える上代先輩……。色々と複雑です。

 『禍の団』だった姉様。上代先輩の傍に戻ってくるために、『禍の団』を裏切った姉様。上代先輩の『僧侶』となった姉様。

 良かった。

 私を庇って、『禍の団』の聖剣使いに斬られた時は心臓が止まるかと思った。

 それも、上代先輩が蘇らせてくれて、本当に良かった。

 

 

 ……姉様の事は良かったけど、上代先輩に泣き付いてしまったのは、自分でもどうかしていたと思う。

 姉様が無事で嬉しかったのは本当だが、どうかしてる。

 部長たちの視線が面倒臭い。

 

 

 

 $月X日

 

 姉様が、ずっと徹先輩にくっついていた。

 抱き付いたり、おぶさったり、頭を摺り寄せたり――ああ、と思った。きっと、徹先輩の家では、ずっとあの調子だったんだな、と。

 徹先輩から、姉様の匂いがするはずだ。マーキング。徹先輩は自分のモノだと主張していた。この場合は、自分の主だと主張しているのか。

 なんだか……ちょっと複雑です。姉様ともっと話したいけど、姉様、徹先輩の事ばっかり。徹先輩しか見ていない……訳ではない。それがまた複雑だ。

 話したいと言ったら、私も抱き付けばいい、ときた。人前で出来る訳がないです、姉様。というか、よく考えると答えになってない気がする。

 

 徹先輩と一緒に暮らしているレイナーレは慣れたもので、姉様を器用に引き剥がしてたけど。

 アレがメイドかと思うと、メイドと言う職業は凄いのかもしれない。

 あの姉様が、どれだけ抵抗しても引き剥がされていたし。

 徹先輩の家でのヒエラルキーを見た気分だった。

 

 

 

 $月Y日

 

 姉様が、仙術のコツを教えてくれた。それと、効果的な使い方も。

 明日はソーナ・シトリー先輩とのレーティングゲームだ。勝ちなさい、と言われた。

 結局、私が受け入れるべきものは、過去であり、姉様であり、猫魈の本能であり、私自身だったのだと思う。

 それが正解かは判らないけど、私は少しだけ強くなれたと思う。

 けどきっと、姉様と一緒に過ごしていければ、その正解に辿り着ける気がする。

 

 

 さっき、部長と徹先輩が話していた。レーティングゲームの事だ。

 徹先輩もレーティングゲームに誘われているらしいが、配下が揃っていないらしい。

 …………

 

 

 部長に相談して、私も徹先輩の『戦車』として使ってもらう事になった。

 私の中には、徹先輩と部長の二つの『悪魔の駒』が入った。優先権は、先に私を配下にした部長にあるが。それでも、徹先輩は喜んでくれた。それだけで、ちょっとだけ良かったと思える。

 レイナーレは『女王』、姉様は『僧侶』、私は『戦車』。それでも、まだ全然揃ってないけど。

 明日のレーティングゲームの大会には、徹先輩は参加できそうにない。

 姉様と一緒に戦えないのは少し残念だが、後の楽しみと思えば、悪くない。

 しかし、一緒に居た天使はどうする気なんだろう?

 徹先輩なら、天使も配下に加えそうだ。

 

 

 

 $月Z日

 

 レーティングゲームの結果は散々だった。勝たなければならない相手に苦戦した。

 赤龍帝、聖魔剣、デュランダル、『停止世界の邪眼』。

 それだけ強力な配下が揃っていても、上手く使えなければ意味が無い。

 私達は、まだまだだ。まだまだだけど――だから、もっと強くなれる。

 苦戦したけど、負けた訳じゃない。死んだわけじゃない。だから、もっと強くなろう。姉様と一緒に。部長と、徹先輩の元で。

 

 でも、イッセー先輩はスケベすぎると思う。徹先輩も怒ってた。それはもう、すごく怒ってた。

 スケベで能天気なイッセー先輩が顔を真っ青にするくらい怒っていた。

 パイリンガルという技は使用禁止らしい。レーティングゲームでは二度と使用不可だとか。それが良いと思う。そんな技を使う人が仲間だなんて、嫌だ。

 部長も私も、徹先輩に同意見だ。姉様は笑ってたけど。まったく。

 

 でも、徹先輩にはいつも驚かされる。

 医務室にお見舞いに来てくれた時、北欧の神オーディンと並んで歩いていた。

 魔王、堕天使総督、熾天使だけではなく、北欧の神とも並び立つのか、私のもう一人の主人は。

 ……まぁ、その北欧の神様は、イッセー先輩と同じようにスケベだったけど。

 

 

 

 $月!日

 

 徹先輩は先に人間界に帰っていった。姉様たちも一緒だ。

 しばらくの別れだが、帰ればまた会える。早く帰りたい。

 帰ったら、一緒に暮らそうと姉様が言ってくれた。嬉しい。

 でも、どこで暮らすのだろう? 私が住んでる部屋? それとも、徹先輩の家? 私達姉妹は徹先輩の配下でもあるから、先輩の家が現実的なのだろうか?

 その辺りの話はしなかったのが悔やまれる。気になって仕方がない。

 

 それと、別れ際…姉様から徹先輩の匂いがした。徹先輩からは姉様の匂いが。

 何とも複雑な気分になる。

 鼻が良すぎるのも問題だ。

 

 

 

 $月$日

 

 姉様たちは何をしてるだろうか?

 レーティングゲームの疲れも癒え、私は部長の家でのんびりと過ごしている。

 仙術、妖術の訓練はしているが、どうせなら姉様と一緒にしたい。

 イッセー先輩は、ここのところずっとダンスの練習やテーブルマナー、貴族としての勉強ばかりです。

 まぁ、将来部長とお付き合いをするなら、必要な知識だと思いますが。

 

 人間界に帰ったら、姉様に色々と聞きたい事がある。一緒に居られるのが嬉しくて、聞くのを忘れていた事。

 今までどうしていたのか、どうやって徹先輩と知り合ったのか、これからどうするのか。

 それ以外にも沢山、聞きたい事がある。

 早く、帰りたい。

 

 

 

 $月&日

 

 明日、人間界に帰る。

 部長に、夏休みの後、どこで暮らすかと聞かれた。

 そういえば、イッセー先輩の家に部屋を借りる話を、先延ばしにしていた事を思い出した。

 どうしよう? 答えきれなかったけど、明日明後日にでも答えなければならないだろう。夏休みももう終わる。

 できれば、姉様と一緒に暮らしたい。

 姉様と、徹先輩と、レイナーレと私。きっと、悩む暇も無いくらい賑やかで、楽しい時間だと思う。

 だから――私は、姉様と一緒に居たい。

 沢山辛い目に遭った。姉様を恨んだこともある。でも、嫌いじゃない。まだ好きじゃないけど、嫌いではない。一緒に居られて嬉しいと思ってる。きっと、また好きになれると思う。徹先輩が一緒なら、姉様はずっと幸せだと思う。そんな姉様の傍に居られたら、私も幸せになれると思う。だから――きっとそれが答え。私の答え。

 

 

 

 $月’日

 

 人間界に戻るなり、アーシア先輩が求婚されていた。

 相手は、ディオドラ・アスタロト。アスタロト家の上級悪魔だ。

 ……せっかく徹先輩と姉様に会いに行こうと思ったのに、邪魔をされた。あまり好きになれそうにない相手だ。

 キザだったし。ああいう、自分を偽ってそうな男はどうかと思う。

 イッセー先輩のように欲望に忠実なのもどうかと思うけど

 どちらかというと、当たり前のように普通に接してくれる、自然体な人が良い。

 

 それと、優しい人。 

 




次は誰かなぁ。

しかし、この作品の『騎士』の空気率は異常。

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