□月Ｒ日
コカビエルの阿呆にも困ったものだ。
戦争なんて、今時流行らねぇっての。くっだらねぇ事して、問題だけ残しやがって。
サーゼクスとセラフォルーの妹に手を出したのも問題だし、堕天使が戦争を望んでるように思われたのも問題だ。アイツが勝手にやっただけだっての。魔族と天使に頭を下げるのが面倒臭ぇ。
それに何より、古参の堕天使が人間に負けたというのがどうしようもない大問題だっての。あの馬鹿。喧嘩するなら、勝てる喧嘩をしろっての。意気揚々と戦争を吹っかけて、返り討ちに遭ってりゃ世話がねぇ。しかも、最初に手を出したのはこっちだ。
こりゃ、これから堕天使の立場は悪くなるだろうなぁ……くそっ。
しかし、時間を操る『神器』か。その程度なら今更珍しくも無いが、あのコカビエルの有様を見ると笑えねぇわな。髪は一本残らず白髪になって、自慢の翼の羽は半分以上が抜け落ちていやがった。そのまま死なせてやるのが一番良いとさえ思えるほどの有様だった。あれはヒデェ。堕天使の一人、『神の子を見張る者』の総督として、真っ当じゃない事なんて腐るほどやった。その俺でも、ヒデェと思える有様だった。
ヴァーリのヤツも警戒していた。そりゃそうだ。堕天使の正確な寿命なんて俺でも知らねぇ。万か、億か、兆か、それ以上か。
それを老衰させるなんて、どんだけだっての。笑えねぇ。悪魔だって同じだ。天使もだ。
サーゼクスの野郎、とんだ切り札を手に入れやがったな。今まで気にしていなかったことが悔やまれる。こんな事なら、さっさと手を出しとくべきだったな……。
凸月￥日
しっかし、今代の赤龍帝ってのは警戒心が無いんだな。悪魔稼業のチラシで簡単に呼び出せたぞ、おい。いいのか？ 俺が本気なら、今頃赤龍帝は死んでるか操られてるぞ……あれじゃ、ヴァーリがあまり興味を示さなかったのも頷ける。
まぁ、そういう奴の事は、あまり嫌いじゃないんだけどな。
平和ボケしてるってことは、戦いが嫌いって事だ。戦いも戦争もどうでもいい俺としては、ヴァーリよりも赤龍帝のほうが好感が持てる。扱いやすそうだったし。ヴァーリの奴は、どうにも…なぁ。
さて、次は時間の『神器』使いだ。こっちはどうするかなぁ。三大勢力の会談前だから、好き勝手に出来ねぇんだよな。面倒臭ぇ。
けど、接点なら簡単に作れるんだよな。
なんでかあの男、下っ端のレイナーレなんて女を傍に置いてやがる。
同じ堕天使。元、俺の部下。顔も名前も存在も、調べなければ思い出せないような下っ端だが。それでもなんでか、そのレイナーレが上代徹の傍に居る。どうしてか、メイドとして仕えている。何故か、生きている。バアルの『滅びの力』で滅ぼされたはずなのに、上代徹の能力で蘇っている。
……どんな偶然、奇跡だっての。
凸月Ａ日
サーゼクスの野郎もこの町に来やがったな。ミカエルもだ。これで、一応の役者は揃った。
あとはセラフォルーとかもだが、今問題なのはそっちじゃない。
上代徹。サーゼクスの切り札たる『神器』使い。
ミカエルも気にしているはずだ。神が不在の天界側は、強い力を必要としている。神の代わりになる、誰かを。神が遺した『システム』を十全扱える、新しい『神』を。
しかし、少しばかり気になる。
件の『神器』使い…調べれば調べるほど、強力過ぎる。バアルの『滅びの力』で滅んだ相手を巻き戻して蘇生させる。『神滅具』の『禁手』に至った兵藤一誠をブーストさせる。永遠に生きる事すらできる堕天使を老衰させる。並みの『神器』ではそのどれもが不可能だ。『神滅具』級であっても、そのどれか一つが限界だろう。
『神滅具』級以上の『神器』が存在しないわけではない。だが、だからと言って規格外……バグとも言えるような強力過ぎる『神器』を誰が、誰の為に用意したのだと？ 神が用意した『神器』譲渡の『システム』が偶然、ただの人間に、奇跡的な確率で、強力過ぎる『神器』を渡したと？
……そんな下らない奇跡を信じれるほど、真っ当な生き方はしていない。
サーゼクス。お前は一体、何者に触れた？ 上代徹がただの人間だなどと、俺もミカエルも信じれねぇ。
調べても判るのは、不自然なまでに『普通』なあの男の情報だけだがな。
会いたいね、上代徹。
会って話してぇ。
知りたいよ。お前が何者なのか。
凸月Ｆ日
レイナーレのヤツ、碌な情報を持ってやがらなかった。使えねぇ。
しかし、本当、どうして上代徹はレイナーレを傍に置いているのだろうか？ 同じ堕天使だが、レイナーレより有能な奴は、あの人間の周りには沢山居るはずだ。特に、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーの二人。その配下。そっちの方が、万倍信頼も出来るはずだ。
だというのに、あの男はレイナーレを傍に置いている。不自然であり不可解だ。サーゼクスも、どうしてかそれに文句を言ってないようだし。
不思議な人間だ。何処か、歪とも言える。
最善の一手を打ってないくせに、どうしてかそれが嫌いになれない。
……同じ堕天使であるレイナーレを見捨てなかったから、情が湧いたのか？ 今更、そんな殊勝な性格でもあるまいし。
だが、少しだが上代徹について判った事がある。
アレは天性のタラシだ。レイナーレを見て分かった。ドラゴンは力で周りを魅了するが、あの男はどうやってレイナーレを魅了したのだろうか？
面白い。下っ端堕天使と別れるころには、素直にそう思えていた。
最後に『神器』以外の事に興味を持ったのは、どれくらい昔だろうか？
凸月Ｉ日
ったく、仕事が終わらねぇ。
会談に必要な資料やら、コカビエルの一件の所為で増えた冥界、天界側からの苦情処理やら。
どーして俺がしなきゃならんのか。ちくしょう。コカビエルの野郎、上代徹にジジイにされてざまぁみろだ。
それにしても、サーゼクスも思い切ったな。
『停止世界の邪眼』を持つ吸血鬼の封印を解くか。
俺にはあまり影響はないが、下手をしたら妹の格を下げる結果になるだろうに。
どうやっても、今のリアス・グレモリーには荷が重い配下だ。十中八九操れない。暴走するのがオチだ。
……だが、今は傍に上代徹――時間支配に特化した存在が居る。アイツ、意地でも上代徹を悪魔に関わらせるつもりか？ そうなのだろう。
あの人間ほどの『神器』使いを手放す理由はどこにも無い。最初に会ったのがサーゼクスではなく俺だったら、絶対手放さない。それはミカエルも同じだろう。特に、ミカエルは下手をしたら上代徹を神の座に据えかねない。確証も確信も証拠も無いが、上代徹なら神の『システム』をどうにかできるのではないかという予想がある。『システム』のバグと言えるかもしれないあの男なら。
さて、その選択がどう転ぶやら……。
凸月Ｊ日
チクショウ。あの野郎、俺の時間を停めて逃げやがった。マジで何者だよ、あの人間。
実力を言うのはあまり好きじゃないが、一応堕天使のトップだぞ、俺は。その俺を停めるなんざ、どんだけだよ。規格外にも程がある。人間の器の限界を超えている。ありゃ、いつか壊れるぞ。絶対。
あー、ホント、興味深い対象だ。
せっかく少し話そうと思った矢先に逃げやがる。手を伸ばせば届く範囲から、一瞬で消えやがる。
リアス・グレモリーの『僧侶』の比じゃない。アレは、明らかに異質な『神器』だ。『停止世界の邪眼』も相当だが、それ以上の規格外だ。是非とも調べたい。調べて、解き明かしたい。あの『神器』を。
名も知らない時間を操る『神器』。神を祭る器具。上代徹――お前が祭る神は何だ？
チクショウ。――興味が湧いちまった。どうしようもないほどに。
凸月Ｍ日
上代徹は、あのハーフヴァンパイアの小僧と仲良くやっているようだ。
まぁ、レイナーレに聞いていた話では、上代徹はどうしようもなく『優しい』らしいからな、それも道理か。
同じ時間操作系。きっと感じ合う事もあるんだろう。そればかりは、俺にも判らない。あの人間とハーフヴァンパイアだけの世界だ。
羨ましいね。俺も、時間を操る感覚と苦悩ってのを知りたい。
それを知らない限り、俺自身の手で時間を操る『神器』を作る事は出来ないからな。
……あー、どっちか片方だけでも欲しいな。
凸月Ｎ日
ミカエルの野郎、ちゃっかり俺より先に上代徹に接触しやがった。羨ましい。
俺なんて、仕事が忙しいってのに。この前は逃げられたし。
絶対天界側に引き込む気だろうなぁ。
まぁ、上代徹も男だ。欲望が無い訳じゃないだろう。堕天させるのは簡単だと思う。
いざとなったらレイナーレに色仕掛けをさせればいい。
というか、男なんだから、さっさと手を出せよ。調べた限りだと、そんな事は一度もやってねぇ。能力はともかく、身体つきは悪くないと思うんだがなぁ。
同じ男としてどうかと思うぞ、上代徹。
凸月Ｏ日
驚きや恐怖を通り越して、もう呆れるしかねぇってのはこういう事だな。
なんだよアイツ。上代徹。あの男。オーフィスの『蛇』を飲み込んだカテレアすら『バケモノ』と呼んだ人間。ちなみに、俺も全く同じ意見だ。
ただの人間が堕天使の総督、魔王、熾天使、三大勢力の戦力全員どころか『禍の団』の連中すらブーストするなんざ、俺でも不可能だ。いや、あの場に居た全員の力を使っても無理だ。
それを、たった一人の人間が成した。その事実を、一体どれだけの者が気付いただろうか？ しかも、顔色一つ変えやしねぇ。レイナーレに守られながら、俺たちの後ろに隠れながら、たった一人で戦場を支配しやがった。
いや――そんなことより、だ。
一部だけとはいえ、オーフィスの力を得たカテレアに干渉した事実。その異常さ。サーゼクス、セラフォルー、ミカエル……気付いているか？
あの人間は、『世界最強』と同格、もしくはそれ以上かもしれないという事に。
……そんな存在、俺が知っているだけではたった一体。『赤龍神帝』グレートレッド。
オーフィスとグレートレッド。最強の二体に割って入るとでも言うのだろうか、あの人間が。
ただの『神器』使いが、世界の頂点でも目指すつもりか？ レイナーレから聞いた話では、そのつもりは無いだろうがな。
だが、世界はお前をもうただの『神器』使いだなんて見ない。
そして、その力は狙われるだろう。戦いを望む奴らに。
俺達は生き残る為にお前を守り、お前は世界を破壊する道具として狙われる。
残念ながら、俺達三大勢力に、次の戦争を生き残るだけの余力は無い。
だが、戦争を望む者……旧魔王派。『禍の団』。力を欲する輩はゴマンと居るのだから。
和平は成った。だが、火種というには大きすぎる爆弾も出来た。
見た目は何処にでもいる、普通の男。実際、見た感じ強者のオーラのようなものは感じられなかった。
ただの人間だと言われても納得できるような奴だった。
しかし、だ……。
上代徹。今日この日。お前は、確かに、世界の中心になった。お前を中心に、世界は回り始めるぞ。
俺達が、『禍の団』が、もしかしたらオーフィスやグレートレッドが、お前を中心に動き始めるぞ。
お前は、お前が望むまいが、戦争の引き金になったのだから。
凸月Ｐ日
あいつ、馬鹿か？ ぶっ倒れるまで『神器』を行使する馬鹿が何処に居るってんだ。自分の限界くらい判ってろよ。それとも、限界なんか無視するようなお人好しなのか？
……どんだけだよ。なんて歪な奴だ。英雄か勇者にでもなるつもりか？ ただの馬鹿じゃねぇか。
デタラメに強いくせに、なんでそんな初歩的な事で倒れるんだよ……。
ますますよく判らない。
チクショウ……レイナーレじゃねぇが、何で俺が初歩的な事で倒れた馬鹿を心配しなきゃならねぇんだ。
凸月Ｑ日
サーゼクスは、上代徹に友好の証として『悪魔の駒』を渡した。
セラフォルーもそれに便乗して、自身の持ち駒から『僧侶』を渡したらしい。
少しばかり仲良くなるためにも、俺も何か渡そうかと思う。ただでさえ繋がりと言える繋がりも無いのだし。
といっても、送れる物など何もないが……。
お手製の『人工神器』でもいくつかやるか？
そういえば、レイナーレが居たな。上代徹の傍に居る割にはアイツ弱いし、幾つか見繕うとしよう。
自分のメイドが強くなれば喜ぶだろう。
それに、上代徹がどう思っているかは知らないが、もしレイナーレを大事に思っているなら、あの女は上代徹の弱点になる。
……堕天使が上代徹の弱点だなどと、笑うに笑えない。
実際、下っ端っぽいレイナーレさんをアザゼルさんが知ってるかと聞かれると、
多分知らないと思う。
レイナーレさん強化フラグ１。
天使日記どうしよう？ ここまで来たら書きたいけど、ネタが浮かばないや。
次回はもしかしたら堕天使日記か黒猫日記かもね。
ん？ ……いや、なにも忘れてないよ？（真顔
魔王様と総督の考えの差は、主人公の『神器』の危険性を理解しているからとか？