とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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41(魔王日記)

 

 □月R日

 

 堕天使コカビエルがリーアの町に現れ、リーア達ごと町を滅ぼそうとした。

 戦争をしようとしたらしいが…愚かな事だ。戦争など、互いの首を絞める行為でしかないと何故理解できないのか。堕天使と天使の好戦派、旧魔王派。前戦争で、どの勢力も数が酷く減っているというのに…。

 しかし、そのコカビエルの企みも未然に終わったが。

 リーア達とセラフォルーの妹、そして徹の頑張りで。

 しかし、堕天使コカビエルを老衰させるほどの時間操作か…それがもしかしたら自分に向くかもしれない、と思うとゾッとする。

 やはり、彼とは友好な関係を築きたいものだ。それに、徹の人となりは個人的にも気に入っている。

 また会いたい。

 

 

 

 □月S日

 

 徹が疲労で倒れたらしい。『神器』を酷使しすぎた結果だろう。

 人間の身ではあの『神器』は強力すぎるという事か。悪魔に転生すれば克服できる弱点だ。

 だがそれは、天使にも言える事か。恐らく、徹の存在はアザゼルにも知られただろう。まぁ、魔王が接触した時点で知られていた可能性も高いが。コカビエルも知っているという事だったし。

 コカビエルの処遇を知らせる書類は送られてきたが、その中に徹の事は書かれていなかった。アザゼルは、彼をどう見るだろうか?

 三大勢力の中で、もっとも『神器』に造詣深いと言われている堕天使。なんでも、『神滅具』級の『神器』使いも彼の元に居ると報告を受けている。

 ……徹にも興味を示すだろう。確実に。

 さて、どうするか。

 

 

 

 □月V日

 

 徹が学園へ復帰したらしい。体調も落ち着いたのだろう、良かったと思う。症状も重かったようだし、あのまま死んでいたら、徹の意志を無視して悪魔へ転生させるという選択肢もあっただけに、本当に良かった。

 やはり、徹自身の意志で転生は行ってほしい。

 しかし、これで一つの問題が出来た。徹をどうするか、だ。

 人間が古参の堕天使を個人で打倒するなど、大きすぎる問題だ。私でも、そこまでは予想……していなかったわけではないが。……可能性は確かにあった。赤龍帝をブーストした彼なら、古参の存在にも干渉できる可能性は十分あった。ちょうど、三大勢力での会談が近くある。その時、徹の処遇は決まるだろう。

 それと、リーアの授業参観も。

 グレイフィアには感謝しなければならない。彼女が気付かなければ、私も父も気付かなかっただろう。

 

 

 

 凸月A日

 

 どうやらアザゼルは、徹よりもイッセー君の『神滅具』の方に興味を示したようだ。

 アザゼルの性格からして、未知の『神器』に興味を示すかと思ったが、どうやらまずは、扱い易い赤龍帝の方に接触したか。

 三大勢力の会談の前に、他の勢力を刺激しないようにだろう。

 イッセー君が『赤龍帝の篭手』を所持しているのは三大勢力の誰もが知っている事だし。徹の扱いは、どこも決めかねている状態だ。

 さて、これからどうなるか。楽しみでもあり、怖くもある。もし予想通りなら、彼は切り札であり最強に成りえる。

 戦争を起こす気は無いが、退屈は嫌いだ。彼ならきっと、退屈とは無縁の世界を見せてくれるだろう。

 しかし、イッセー君。リーアとあんなに仲が良いとは思わなかったな。

 これは、グレモリー家の未来も安心、と言って良いのかな? 性欲旺盛な所も好ましい。欲望が溢れているのは悪魔に向いている、と思う。

 リアス、それに配下の『僧侶』、イッセー君の周りにはいろいろな華があって面白いと思えた。

 徹にも何かしらの欲望があるのだろうか? それはそれで興味深い。

 彼が何に興味を示し、欲望を溢れさせるのか、とても興味がある。

 メイドを傍に置いているくらいだ、人並みに『女』にも興味があるだろうし。

 それにしてもあの堕天使のメイド。随分と従順になっていた。グレイフィアも随分と気に入っていたし、彼女が悪魔に転生するのも面白そうだ。

 ……料理の腕は、とても人前に出せるレベルではなかったが。まぁ、それも含めて面白いメイドだった。

 徹は、人を育てるのが好きなのだろうか? 色々と聞きたい事がある。早く会いたいものだ。

 そう言うと、グレイフィアはあまり良い顔をしないが。

 

 

 

 凸月B日

 

 リーアとイッセー君に町を案内してもらった。

 本当なら徹にも案内してほしかったが、それはグレイフィアに怒られてしまった。会談の前に、他の勢力を刺激するのはよくないか……つまらない。

 まぁ、リーアとはこんな時でもなければゆっくりと話せないし、良い時間だった。

 イッセー君は、割と物怖じする性格なのか、私には敬語だった。彼の慣れない敬語は、中々に面白かった。

 だが、男なら大きく構えてもいいと思う。彼の将来に期待するとしよう。

 グレイフィアは、そんなイッセー君の事を少し気に入っているようだ。リーアが気を許しているからだろうか?

 

 

 

 凸月C日

 

 今日はグレイフィアと二人で町を歩いた。

 こうやって二人だけで行動するのは何時以来だろう? 家では二人っきりの時もあるが、アレとはまた違うと思う。

 グレイフィアも喜んでくれていたと思う。不意に手を握ると驚いた顔をしていたし、握り返してくれたし、頬も少し朱に染めていた。こういう初々しい所は何時までも変わらない。可愛い妻だ。

 その後は結局、公園でのんびりとして過ごしてしまった。まぁ、偶にはそんな時間も必要なのだ。……グレイフィアも、口では何か言っていたが、結局握った手は放さなかったし。

 今日は、良い時間を過ごせたと思う。仕事の合間に息抜きは必要だ。

 今度はミリキャスも連れてきたいと思う。人間界には、冥界には無いものがある。それを見せてあげたい。

 

 

 

 凸月D日

 

 町を歩いていたら、徹と会えた。こういうのを運命というのだろうか? あまり好きな言葉ではないが、今日は素直に嬉しく思える。リーアとイッセー君には悪いが、不思議と足が軽くなったのも事実だ。

 コカビエルとの戦いを経て、一度倒れた彼だが、あまり変わった様子はなかった。喜ばしい事だ。徹の魂の色は綺麗な銀色。それが濁るような事があっては、私は堕天使を許せなくなるかもしれない。『地獄の最下層』に封印されたコカビエルを殺してもいい。

 今日は、色々と話す事が出来た。といっても、最近どうしてるか、みたいな世間話ばかりだったが。徹の方は元気にしているとの事。それでいい。徹は、今まで通り、変わらないでいてほしい。

 それと、徹から魔王としての威厳があまりなくて、普通に町に馴染んでいると言われた。

 本当に面白い人間だ。魔王に魔王としての威厳があまりない、なんていうのは徹くらいだと思う。まぁ、私としては、徹こそ威厳が足りないと言いたい。コカビエル程の堕天使を倒したのだから。

 それにしても、徹はまだ『悪魔の駒』を使って、配下を集めていないらしい。そう言えば、あの堕天使もまだ転生してなかった。

 今度の夏休み。リーアの帰省に合わせて一手勝負をしてもらおうと思っているのだが、間に合うだろうか?

 まぁ、徹の配下ともなると、相応の実力が必要になるかもしれないが。

 私が懇意にしている人間だ。これからは、レーティングゲームに参加している悪魔から狙われる事になるだろうし。

 流石に、私の配下を臨時で貸すわけにもいかない。それはフェアじゃないだろう。レーティングゲームの配下は、『王』のステータスだ。『王』の器を計る目安だ。最初の一戦、徹には徹の仲間で挑んでほしく思う。

 夏休みに間に合わなかったら……その時はその時か。

 別の機会に誘うとしよう。時間はたくさんあるのだし。

 

 

 

 凸月E日

 

 今日も、町を歩いていたら徹と会った。

 探していたわけではないが、二日続けて会うとなると、驚いてしまった。徹の方も驚いているようだった。

 折角会えたのだからと、グレイフィアと三人で町を歩く事になった。

 私やグレイフィアが神社仏閣に入れると知ると、それでも驚いていた。今日は、徹の驚いた顔をよく見れた。それだけでも、随分と楽しい時間だった。

 無表情ではないが、徹の表情は乏しいと思う。私が判らないだけかもしれないが。まぁ、そこまで付き合いが長く、深い訳でもないのだから当然だが。

 そんな徹の表情をいくつか見れて、良い一日だった。

 

 

 

 凸月H日

 

 明日は授業参観の日だ。リーアは懸命に隠そうとしていたようだが。

 楽しみで仕方がない。この日の為に特注の服を用意したのだ。きっとリーアも喜んでくれるだろう。本当に、明日が楽しみだ。

 しかし、いつもいつもベオウルフには助けてもらっている。明日の休みを得るために、彼には無理をさせてしまった。

 だがそれでも、主の為だと言って仕事をこなしてくれた。

 グレイフィアが用意した紅茶を泣きながら飲む姿も、もう見慣れたものだ。

 

 

 

 凸月I日

 

 今日は良い一日だったと思う。……せっかく用意した特注の服はグレイフィアに捨てられてしまったが。何処で気付かれたのだろうか? 細心の注意を払って注文したのだが…。

 お父様も同じようで、折角頼んだ服をお母様から捨てられていた。今度は上手くやろう。

 しかし、セラフォルーは上手く妹君を驚かせていた。羨ましい。今度、何かコツのようなものを聞こうと思う

 まぁ、リーアやイッセー君の学生生活や徹の日常の一端を見れて良かった。グレイフィアのツッコミは激しかったが。愛が痛い。

 今日も、イッセー君の家で一晩を過ごす事になった。

 授業参観の映像を肴に、皆で酒を飲む時間は楽しかった。できれば徹も呼びたかったが、逃げられてしまった。いったい何時の間に、と思う。また『神器』を使ったのだろうか? 

 魔王の目から逃げる事が出来る人間なんて、徹くらいだろう。

 まったく…本当に、徹には驚かされる。

 本当に――手に入れたくてたまらない。

 それと、リーアの最初の『僧侶』の封印解除の許可を出した。

 ギャスパー・ヴラディ。恐らく、徹と同質の『神器・停止世界の邪眼』の持ち主。それも、リーアでは制御できないほどに強力な、だ。おそらく、徹ならばあの『僧侶』を見捨てる事が出来ないだろう。きっと、リーアに手を貸すだろう。

 こういう打算的な事を考えてしまう自分が嫌になりそうだ。だがそれでも――リーアには、もっと深く徹と関わってもらいたい。彼と悪魔との接点がより強くなるように。彼が、悪魔の味方になる様に。

 

 

 

 凸月J日

 

 今日は珍しく、グレイフィアが休みが欲しいと言ってきた。

 なんでも、徹の家に用があるのだと。さらに言うなら、徹のメイドである堕天使に、だが。

 何の用なのだろうか? 少し気になるが、教えてくれなかった。

 今頃、徹の家で何をしているのだろう? 確認しに行きたいが、残っている仕事が多すぎる。天使も堕天使も、徹を警戒してしまった。古参の堕天使を打倒した人間を、警戒している。

 魔王という肩書で隠すには、徹という存在は大きすぎる。いや、隠そうとすればするほど、どうしても疑心が生まれてしまう。

 徹は、やり過ぎてしまったのかもしれない。

 コカビエル。あれほどの堕天使を人間が倒してしまった。しかも、徹にはまだ伸び代がある。ありすぎる。

 徹が人間を止め、『禁手』に至ったらどうなるか……。そんな存在を独占出来たら……。

 はぁ……いつ寝れるだろう?

 会談のための資料作りが面倒過ぎる。『僧侶』君の件でグレイフィアを怒らせたのは失敗だったな。

 

 

 

 凸月N日

 

 リーアの『僧侶』君は、随分と落ち着いているようだ。

 徹の事も、驚くほどに信頼しているらしい。良い事だが、どうにも複雑な気分だ。リーアが制御できなかった『神器』使いを、こうもあっさり安定させた徹……リーアは、あまり良く思わないだろう。

 悪い事をしてしまっただろうか? グレイフィアの視線も、最近少し冷たいような気がする。

 それと、ミカエルも徹と接触したようだ。

 一応、名目はイッセー君に友好の証として聖剣を一本送った事になっているが、目的は一緒に居た徹だろう。

 徹の魂の色は銀。それは、神聖を貴ぶ天使からすれば、輝きの色だろう。

 ミカエルは、徹に何を見ただろうか? 興味がある。

 魔王が見惚れるほどの銀を見て、天使は何を想っただろうか?

 ……天使まで魅了しない事を願う。

 

 

 

 凸月O日

 

 ああ、やってしまった、と思う。

 三大勢力の会談。その場に徹を呼び、徹という存在を他の勢力に知らせた。隠す事は、もう限界だった。徹の『神器』は強力すぎる。コカビエルを倒した事は、やり過ぎた。

 ミカエルもアザゼルも、知ってしまった。だから、公の場に出さなければならなかった。でなければ、水面下で戦争が起きる可能性までいってしまう。徹を、時間支配に特化した『神器使い』を手に入れるという事はそういう事だ。今は人間だから、問題は無い。コカビエル戦の後、倒れたのがその証拠だ。徹は、今はまだ私達の敵ではない。だが、悪魔に、天使に転生したなら、話は違ってくる。どうなるかは判らないが、最悪、無尽蔵に『神器』を使えるようになる。

 徹がそういう事をする男だとは思わない。だが、精神を支配する術は、誰もが持っているのだ。…破壊を望むテロリストも、だ。

 だから、徹を守り、自分たちを守る為には、徹を公の場に出し、全員で牽制しあうしかなかった。

 徹もまた、魔王、熾天使、堕天使総督と同格の存在なのだと、知らせるしかなかった。

 目的は、簡単に達した。三大勢力の会談は、特に問題なく終わった。

 アザゼルもミカエルもセラフォルーも、戦争を望んでいない。

 和平を結び、一時の平穏を得る。

 そこまでは良かった。あとは、少しずつ時間を掛けて、徹とのつながりを強めていこうと思っていた。

 ……『禍の団』が来るまでは。

 徹は、迷わず『神器』を使った。優しすぎる彼は、誰一人傷付かない、死なない奇跡を起こすために『神器』を使った。時間の巻き戻し。しかも、新校舎一帯という、出鱈目な範囲を。魔王、熾天使、堕天使総督を含んだ――だ。

 結果、『禍の団』の襲撃は無傷で終わりを告げた。

 だが、誰もが気付いただろう。

 上代徹を手に入れれば、三勢力のバランスが崩れる事になる。徹が居れば、無敵の軍隊が作れる。徹が居れば――三大勢力と正面から戦えるという事に。

 戦争は望んでいない。誰もだ。だが、悪魔、天使、堕天使の全員がそういう訳ではない。

 好戦派というのは、どこにでもいるのだ。

 そして、徹の価値を知ったのは、『禍の団』のようなテロリストもだ。

 『無限』の体現者であり、最強のドラゴンであるオーフィス。アレもまた、徹に気付いたはずだ。

 さて、どう出るだろうか?

 興味を示すか、示さないか……。

 

 

 世界が回り始める。徹を中心にして、だ。

 

 

 

 凸月O日

 

 やはりと言うか、徹が倒れた。まぁ、ある程度予想はしていたが。

 人間の身で、人の限界を超えた力を行使したのだから、当たり前ではあるが。

 まったく、無茶をする。

 これからはもっと騒がしくなるのだから、この程度で倒れている暇は無くなるというのに。

 徹…人間の限界は、もうすでに超えてしまっている。

 いつまでも人間のままでいては、いつか取り返しのつかない事になる。

 ……一日でも早く、悪魔に転生してほしいものだ。

 

 




主人公って、こうやって書いてると結構綱渡りしてるのかな?
選択肢を間違えたら即死亡、な難易度ルナティック人生を送ってるような気がする。


オーフィス? 好きですけど何か? 当たり前じゃないですか(真顔

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