とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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※猫です


32(黒猫日記)

 その黒猫にとって、その少年は――どこにでもいる、普通の人間だった。

 

 

 

 

 

 □月F日

 

 久し振りに、纏まった休暇が取れた。

 『禍の団』に所属するようになり、ある程度の貯えと安全が確保できたが、その分自由な時間が減った。

 猫は何よりも自由を好み、気ままに生きるのだ。

 まぁ、今みたいに繋がれて生きるのも乙なものだけどにゃー。だって私、野良じゃないし。お風呂や料理も大好きにゃん。これは繋がれた飼い猫じゃなければ中々味わえない。野良猫が入れるお風呂なんてそうそう無いしねぇ。

 というわけで、今の生活が嫌いって訳でもない。

 お金は稼げるし、ある程度の安全は保障されてる。それにお風呂にも毎日入れるし、稼いだお金で美味しいモノも食べれる。

 もう少し落ち着いたら、妹と一緒にどこか静かな所で暮らしたいと思ってる。

 まぁ、まだまだ先の話になると思うけど。

 私の立場は結構微妙なのだ。私としては可愛い黒猫のつもりだけど、他の人にしたらその上に『賞金首』とか『主人殺し』とか付けて私を呼ぶ。全然可愛くないにゃー。

 そんなこんなで、久しぶりの休暇なので愛しの白音ちゃんの様子を見に来たにゃん。

 最近全然見てなかったけど、少しは成長したかにゃー。してるといいなぁ。お姉ちゃん、白音ちゃんの発育不足が少し心配だよ? 姉妹なのに、どうしてこうも違うのかにゃぁ。

 と、そんな感じで町を歩いてたらね? 白音ちゃんの匂いがしたのよ。

 人混みの中で、微かに感じる弱い匂い。一人の男の子が、その匂いをもってたの。誰かにゃ? 白音ちゃんの彼氏さんかしら? お姉ちゃん、その辺りちょっと厳しいよ? まぁ、あっちは普通の男の子みたいだけど。

 まぁ、今日は白音ちゃん本人を見たいから、放っておいたけどね。

 結局今日は、遠くから白音ちゃんを眺めて終わったにゃん。でも、この前見た時から、全然成長してなかったにゃー……。

 

 

 

 □月G日

 

 今日も一日オフだったんで、白音が居る町を見て回ったにゃー。

 しかし、こうも人間と悪魔が混ぜこぜの町も珍しいにゃ。私は嫌いじゃないけど。

 こうやって私が混ざっても、誰も気付かないのは便利だし。

 そうやって町を歩いてたら、また昨日の男の子を見つけたにゃん。

 今日は声を掛けてきたし。

 やっぱり普通の男の子だなぁ、と。私の正体にも気付いてないみたいだし。気付いてないよね?

 白音とどういう関係なのかにゃ? それが気になるよ。それ意外は、どうでもいいや。

 

 

 

 □月H日

 

 今日はちょっとだけ、良い事があった。

 最近見掛けてた、白音の匂いがする少年。あの子、ちょっと不思議だったな。

 丁度お腹が空いてた時に、猫缶をくれた。私だって人並みの感性は持ってるけど、食べれる時に食べないと危険だってのを判ってる。そうしないと命に関わる世界で生きてるのだ。なので、猫缶は美味しくいただいた。安物だったけど、結構美味しかった。空腹は最大の調味料…素敵な言葉だにゃー。

 だけど、食べてる時に撫でるのはいただけなかった。レディに触れていいのは、レディが心を許した人だけなのだ。

 なので、猫缶のお礼もあるし、少し…まぁ、十分くらい眠ってもらおうと、魔力を込めて人間の目を見たんだけど……効かなかった。

 いや、効いたんだけど、すぐに効果が切れてしまった。抗魔力が特別高い訳でもないし、解呪の魔法を使った訳でもない。なのに、私の仙術が簡単に解かれてしまった。

 アレって何だったのだろう? 気の乱れも無かったし……普通の人間だっていうのは判るけど。仙術を齧ってる私には、それくらい朝飯前なのだ。

 もしかしたら、何か『神器』を持ってるのかもしれない、とは今更ながら思いついた。なるほど、あの少年は『神器使い』かもしれないのか。

 だとしたら、白音の匂いがするのも頷ける。悪魔側の人間なんだな。

 まぁ、それはさておき。

 あの人間は面白い。

 道端で、何度か会っただけの野良猫に猫缶を差し出すなんて、普通の人間がする事じゃない。

 普通の人間は、見て見ぬふり。愛想のいい猫にだけ手を差し伸べる。愛想の悪い猫からは目を逸らす。

 少なくとも、最初の二回…会った私は、愛想が良いとは到底言えなかったはずだ。

 だというのに、三回目に猫缶とは……よほどの猫好きなのかな?

 しかも、私を撫でる手も、凄く優しかった。

 害意の無い優しさは、随分と久しぶりだった気がする。害意が無いと感じられる事が、不思議だ。

 だから、不思議な人間。面白い人間。動物は…特に野良は、そういうのに敏感なのだ。

 撫でられるままにしてたら、凄く大胆な事をされたけど。

 耳や手、頭ならまだいい。お腹や背中、尻尾まで撫でられてしまった。

 優しく、でも強く――ぎこちない初々しさが、あの少年が女の扱いに慣れていない事を教えてくれた。

 だから、余計に心地良く感じ、ますます撫でられるままになってしまった。

 猫の本能には逆らえず、優しさと気持ち良さに身を委ねてしまった。緊張が解れてしまった。

 本当に、不思議な人間。面白い少年。

 こんなにも簡単に、私はあの少年に害意が無いと信じてしまっている。ちょっと寂しかったから、温もりが嬉しかったのかもしれない。野良は愛情に飢えているのだ。優しくされるのに慣れてないんだよ? 『禍の団』の仲間たちは、ちょっと違うのだ。

 ……理由なんてないのに。信じたら駄目だ、裏切られる。そう判っているのに。

 それでもちょっと、嬉しかったにゃー。

 

 

 でも、女の子の足の間を確認するのはマナー違反にゃー。

 責任を取ってもらわないといけないにゃん。

 

 

 

 □月I日

 

 白音ちゃんの成長を見守る傍ら、あの少年を見ている自分が居た。木の上からなら風下だし、遠いから見つからない。長い逃亡生活で身に付けた便利技能の一つだにゃん。

 ちなみに、あの少年は白音ちゃんと同じ学園に通う二つ年上の先輩。

 白音とは知らない仲ではないようで、何度か話している姿を見た。

 仲が良い、とは思う。だが、彼氏彼女ではなく友人のような関係だ。

 是非とも本人に聞きたいところだけど、私はまだ白音の前には出られない。今の立場がもどかしい。……あの時、もう少し上手く立ち回っていれば、この現実は少しはマシだったのかにゃー…。

 そんな事を考えてたら、いつの間にか生徒たちの催し物は終わってしまっていた。

 どれくらいボーッっとしてたのだろう? 私らしくないにゃー…。

 そのまま帰ろうとしたら、最近良く会う少年に見つかった。本当に、今日はボケてるにゃー。まぁ、なんとなく気まずくてすぐに逃げたけど。やー…昨日、あれだけ痴態を晒された側からすると、ちょっとだけ恥ずかしかったわけだよ、君。

 当ても無く町を散歩していると、あの少年の匂いが濃い場所を見つけた。というか一軒家。

 ここがあの少年のハウスだにゃー。というのが私の率直な意見。というか誰に意見するというのか。

 大きな家に住んでるし、結構なお坊ちゃんなのかしらん? しかも、匂いは一つじゃない。人間以外の――堕天使の匂いもした。白音は眷属悪魔になったはずだけど、あの少年は堕天使と一緒に行動してる? 本当に、白音ちゃんとはどういう関係なんだろう。話す機会があれば、聞いてみたい。

 でも、ちょっと羨ましい。帰るべき場所も、家も無い。家族の元には帰れない。私には、何も無い。ちょっとだけ、しんみりしちゃったんだと思う。昨日ちょっとだけ優しくされて、気が緩んだんだと思う。そんな自分が、とても寂しく思えた。これから先に、不安を覚えた。『禍の団』として行動し、それなりの貯えを得た。安全を得た。けど、その先が、どうしようもなく不安に思えた。私はその先に、白音との生活が待っていると……どうしてか、思えなかった。

 そんな事を考えながら、なんとなくその家を眺めていたら、また少年と出会ってしまった。まぁ、家に帰ってきただけなんだろうけど。

 というか、今日はなんだかすごく気が抜けてた。こんな近くに寄られるまで気付かないなんて。

 彼が敵だったら、私は今頃死んでたにゃん。

 まぁ、近くに来たのが彼だったから、こうまで気付かなかったのかもしれないけど。

 どうしてだろう? 本当に不思議な男の子。敵意も害意も無い。私を利用しようとする気も無い。

 そんな人は、本当に久しぶり。……もしかしたら、初めてかもしれない。

 お互いが、お互いの目的の為に。利用し、利用される関係。

 それが、私が生きる世界。今居る世界。それが『禍の団』。私の居場所。

 だから、そんな汚れた世界に浸ってないその少年を、私は敵視できないのだろう。変だよねぇ。猫缶くれるくらいの人間なら、今まで何人もいたのに。

 差し出された猫缶を食べてると、また優しく撫でられた。

 優しく、優しく、焦らすように暖かく。撫で方も、毛の梳かし方も、上手とは言えない。でも、身を委ねても良いかな、と思えるような温かさがあった。

 少年が白音の匂いをさせるのも、その温もりの一因だったのかもしれない。白音の匂いがする少年に抱かれる事で、妙な背徳感を感じてしまった。白音の近くに居られたように、錯覚した。

 心地良かった。その指が、耳を、首を、顎の下を、背中を、お腹を、お尻を――その下を撫でる度に、声を上げてしまった。浅ましい、雌の声を。

 でも、男の人に触られたのに、こんなに心が安らいだのは初めてだ。

 温もりを求めてしまったのだろうか?

 よく判らない。でも、日記を書いてる今でも、あの少年の指使いを思い出せる。

 どれだけ優しく撫でてくれたか。何処を、どんな風に、どれだけ撫でてくれたか。

 どうしてか、事細かに記憶してしまっている。覚えてしまってい――――

 

 

 

 □月L日

 

 『禍の団』の仕事が終わり、また一人……いや、独りの時間を得たにゃん。というわけで、明日からまた白音ちゃんの成長確認に行くとしますか。

 そういえば、別れ際に美猴が失礼な事を言っていたにゃー。

 気が緩んでるとか、弱くなったとか。

 そんなつもりは無いんだけどにゃー……。ほんと、女の子に優しくないヤツ。

 まぁいいや。白音ちゃんの成長具合を見て、癒させてもらおうっと。

 

 

 

 □月M日

 

 不思議なもので、数日会ってないだけなのに、どうしてかあの少年を探してしまった。や、ちゃんと白音ちゃんの後にだよ?

 でも、本当…自分でも不思議。私ってそんなキャラじゃないよね? もっと冷徹で、人間なんて一睨みで殺ッちゃうよ? みたいなキャラで通してきたんだけどにゃー。

 これは確かに、美猴に文句を言われるわけだ。弱くなったつもりは無いけど、気が緩んでるのかもにゃー。

 猫は優しくされると、すぐ心を許してしまうのかもしれない。

 まぁ、その猫は私なんだけど。

 なので、あの少年を見つけた時、どういう訳か、私は自分からその足に擦り寄っていた。ほんと、不思議。自分が自分で信じられない。

 そしてまた、この前みたいに優しく撫でてくれた。私の弱い所を探す様に、私の反応を確かめながら、ゆっくりと、優しく、丁寧に――私を責める。

 立っていられなくなり脚が折れ、焦らされるような優しさに身を捩り、もう少し強くしてほしくて声を上げ、それでも彼は優しく撫でるのを止めてくれなかった。

 かすかにだが、白音の匂いを持つ男が、私に触れている。白音が、傍に居てくれるような気がする。それは錯覚で、間違いで、絶対に違うのに――それでも、喜んでしまっていた。どうしようもなく、嬉しかった。

 この、どうしようもなく無意味な触れ合いに、私は少しだけ癒されているんだと思う。

 疲れてるんだにゃー。きっとそうにゃー。だって独りは寂しいのだ。兎じゃないけど、猫も寂しいと温もりを求めてしまうのにゃー。にゃー。にゃー。にゃー。

 それから、どれくらい優しくしてもらったか、正直覚えていない。

 気が付いたら、全身の力が抜けちゃってた。あ、良いかも、って思っちゃった。少しだけ、この男の子を好きになっちゃった。意味の無い関係だけど、それでも私は少しだけ癒された気がした。多分錯覚だけどにゃー。野良猫は、優しくされるとすぐに尻尾を振っちゃうのにゃー。

 最後に、力の抜けた私の写真を撮られちゃった。私、どんな顔をしてたのかな? 女の顔か、雌の貌か、それとも――。

 こうやって独りの寂しさの紛らわすのも、結構良いかもしれない。野良猫は、温もりに飢えてるんだにゃー。

 

 

 

 □月N日

 

 グレモリー配下の悪魔とヴァチカンの聖剣使いが戦ってた。

 正直、面白くなかったにゃー。だって、全員二流程度。赤龍帝にいたっては、三流も良い所だ。だって、女の子の服を消し飛ばそうと躍起になってたし。そんな戦い方じゃ、ヴァーリと戦う前に死んじゃうにゃー。

 それはそうと、あの男の子、面白い『神器』を持ってるにゃん。

 時間操作系。しかも、相当強力な。赤龍帝に破られた女の子の服を破かれる前まで巻き戻す、って本っ当に勿体無い使い方だったけど。でも、白音ちゃんの肌を守ったのは花丸あげちゃう。

 時間操作の術はこの黒歌さんもまだ使えないっていうのに、羨ましい限りだ。まぁ、いつか使えるようになりたいとは思うけど。使える術が多いのは、戦いの引き出しが多いって事。生き残るのには、必須の力にゃん。これからも、頑張って使える術を増やそう。

 いやいやそうじゃなくて。

 普通の人間なのに、あんな強力な『神器』を使って大丈夫なのかにゃー?

 簡単に死んじゃったらヤだよ? おねーさん、君が居なくなると寂しいにゃん。

 ……いやいや、私はそういうキャラじゃないよね? なんか最近、ちょっとおかしいにゃー。これは本当に、美猴とかヴァーリに怒られちゃうかも。あの子の責任だね。

 そのあと、プリプリ怒ってたその子を見に行くと、抱きかかえられちゃった。普通の人間でも男の子だから、力強かったにゃー。まぁ、言ってることは巻き込むなー、とか、勘弁してくれ、とか、俺だって怒るんだぞー、みたいなことばっかりだったけど。

 まぁ、『神器』は強力でも、普通の人間だしねぇ。悪魔と教会の戦いに巻き込まれたら簡単に死んじゃうよね。

 そういう、自分を判ってる所も、ちょっと好感が持てたにゃー。無理無茶無謀はあんまり好きじゃないからね?

 でも、そんな愚痴を言いながら、お姉さんを責めるのはいただけないよ?

 いつも以上に優しい触り方だったから、焦らすというよりも、本当に苛められてるような気分になっちゃった。しかも、もっと強くってお願いしても、全然強くしてくれないし。私がお願いするなんて、本当に珍しいんだけど……意地悪だなぁ、あの子。最後はちゃんと、気持ち良くしてくれたけど。

 だけど、多分、私も少し期待してたと思う。うーん。もしかしたら、本当に溺れそうになっちゃってる? それは、あんまり良い事じゃないにゃー……。

 名前を聞かれちゃったけど、どうするか迷うにゃー。やー、別に教えちゃってもいいのかもしれないけどさ。これ以上溺れちゃったら、おねーさん、ちょっと困っちゃうよ?

 ほんと、優しくされるのに慣れてないんだよね。名前を呼ばれながら優しくされちゃったら……野良猫じゃなくなっちゃうかも。

 それはそれとして、お尻がムズムズするにゃー。

 

 

 

 □月P日

 

 町中で、あの男の子の匂いがした。

 ……どれだけあの男の子に依存してるんだ、私は。これじゃ駄目にゃー。でも、しょうがないにゃー。だって、あの子の優しさには裏が無いんだもん。おねーさん、そういうのにすっごく弱いみたい。自分でも驚くほどだよ。まぁ、その優しさは猫として、だろうけど。人型を見せたら、どんな反応をするかにゃー? ちょっと楽しみかも。

 そうじゃなくて、多分、あの男の子の家に居る堕天使を見掛けた。だって、あの子の匂いがしてるし。

 メイドだった。

 そういう趣味? おねーさん、ああいう可愛い服も結構好きだにゃー。

 

 

 

 □月Q日

 

 白音たちと、妙な喋り方の神父が路地裏で戦ってた。

 でも白音ちゃん? 相手がいくら聖剣使いでも、4対1で押されるのはどうかと思うにゃー……。修行、さぼってる? 死んじゃったら、お姉ちゃん泣くからね?

 ちょっと心配だったけど、手を貸すわけにもいかない。私なら楽勝だったけどね? でも、私は追われてる身なのだ。

 ちょうど良い時に、あの男の子の匂いがしたから呼びに行ったら、メイドと一緒に買い物をしてた。

 ……誰かと一緒に居る彼を見て、ちょっとだけ羨ましい、と思っちゃった。

 だって、私は独りだし。寂しいのには慣れてるけど、慣れてるだけで『寂しい』のは変わらないんだよ?

 まぁ、あの子に言っても意味無いんだけどね?

 堕天使も居るなら、聖剣にも対抗できるだろうし好都合だったにゃ。まぁ、あんまり強くはなさそうだったけど。それでも、悪魔よりは光の力に耐性があるはずだ。

 でも、連れていったら、もう戦いは終わってたにゃー……。

 しかも、ルシファーの妹とレヴィアタンの妹が配下の男のお尻を叩いてた。

 そういうのは、人が居ない所でするものにゃー……見られながらというのは、おねーさんもちょっとどうかと思うよ? 興味はあるけどねぇ。

 まぁ、白音ちゃんも怪我らしい怪我も無かったようで良かったにゃー。

 その後、あの神父と、もう一人知らない匂いがしたのを追ってみた。

 白音ちゃんに剣を向けたんだから、それなりの罰は受けてもらわないといけないのだ。

 でも、追った先には神父と司祭、そして堕天使が居た。

 確か、神父と司祭はフリード・セルゼンとバルパー・ガリレイ。最近少し有名になってきた、教会のはぐれだ。

 そして、堕天使は有名も有名。コカビエルだった。

 これは、ちょっと私の手には余るにゃー。面倒だにゃー。

 取り敢えず放置。勝てない事も無いけど。無茶しても良い事あまりなさそうだしね。

 その帰り道、丁度少年の家の前を通りかかったので、侵入してみた。『神器』を持ってるなら、もう少し周りに気を配らないとねぇ。悪い人に侵入されちゃうからね?

 綺麗に掃除されてて、良いお家だった。広いけど、生活感が溢れてる。良かったなぁ。あんな所に住んでる人は、素直に羨ましいと思える家だった。暖かかった。人型になって、大きなソファに座って、ぼんやりと天井を眺めて、ちょっとだけ目を閉じた。本当に、良い家。たったそれだけで、疲れが取れた気がした。良い家に住んでるんだね、少年。

 名前は、上代徹君。良い名前。覚えやすいのは高得点。

 で、名前を知っちゃったから、お返しに私の名前を紙に書いて彼の部屋の机の上に置いておいた。気付かないと思うけど、それでも良かった。ついでに、猫になって、ベッドの上で少しお昼寝をした。君の匂いがしたにゃー。

 帰ってきた時は、慌てて窓から逃げたけど。まぁ、気付かれてないとは思う。

 それと、さっき美猴が来た。なんか、白龍皇がコカビエルを追ってくるから、接触するんだそうだ。どこで得た情報なのかにゃー。実働部隊の私にはわからないにゃー。興味ないけど。

 でも、美猴が居るから、白音の無事の確認と、トオルに会いに行けないにゃー。ちょっと空気読んでほしいにゃー。

 

 

 

 □月R日

 

 戦争をしたがってたコカビエルの気持ちは判るけど、準備はもっと丁寧にしないといけないにゃー。

 あれじゃ、邪魔されるのがオチだよ? アザゼルとか、ルシファーとか、レヴィアタンとか。

 コカビエルも十分強いんだけど、その辺りはまだまだだったにゃー。

 でも、おねーさん驚いちゃった。凄かったんだねー、トオル。ルシファーやレヴィアタンが認めた理由も、よく判った。

 だって、アルビオンが戦いたくないって言うなんて、君何者? コカビエル連れて簡単に引いちゃったよ。

 まぁ、堕天使を老衰させるなんて、どれだけ出鱈目なの、っては思うけど。

 時間系の術の難しさはよく判るから、余計に凄さが判ってしまう。

 そして、トオルの可能性も。ちょっとキュン、ってしちゃったよ? それに、白音を助けてくれたし。トオルも無事で、本当によかった。不思議だねぇ。出会ってまだ、時間なんてほとんど経ってないのに。

 あのまま戦ってたら、きっと白音は大怪我か、それとも最悪死んじゃってたと思う。

 だから、その前にコカビエルを片付けてくれてありがとうね? これはなんかお礼をしないといけないにゃー。

 何が良いかにゃー? もっと大胆な事をさせてあげても良いかも? にゃん。

 でも、いくら『神器』が強力だからって、人間が無茶するのはダメだにゃー……。

 明日から、また『禍の団』の仕事だし。何事も無ければいいけど。

 あんな力の使い方をしてたら、人間の身体なんてすぐに壊れちゃうよ?

 ……心配なんて、私のキャラじゃないにゃー。

 

 




ちょっと《にゃーん》なことを考えた紳士は
腕立て30回×5セット
腹筋30回×5セット
して、一時間30分正座ね(ゲス顔

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