□月M日
今日、おそらくフリード・セルゼンらを追っているであろう、ヴァチカンの犬を見掛けた。
こちらの事は気付かなかっただろうが、あれほど濃い光の気配を出していては、少し慣れた者なら、すぐに感じる事が出来るだろう。
しかもあの感じは、フリード・セルゼンから感じたものと同質。聖剣・エクスカリバー。
いくつかの破片に砕けた、というのは聞いていたが、そのうちの三つがこの町に集まっているのか。
……本当に、面倒だ。
兵藤君の『神滅具』、前回のフェニックスとの一戦。
この町には、何か良くないモノが集まってしまうような何かがあるのだろうか?
……そう考えると、その一端が徹様に有りそうな気がしてしまうが。
力ある者は、争いを呼び込んでしまう。
難儀なものだ。徹様の望む平穏は、遠そうだな。
諦めるつもりはないが。
その為には、フリード・セルゼンとバルパー・ガリレイ。この二人をどうにかしないといけない。
□月N日
今日、バルパー・ガリレイと接触する事が出来た。
というよりも、向こうから接触してきた。
私に『神の子を見張る者』に戻ってくるように、と。
一応その場で断っては変に刺激するかと思い、保留にしたが。
しかし、そう言われたが、不思議とその事をどうでもよく考えている。
『神の子を見張る者』……あそこに未練がない。
あそこで手に入れられるモノに、興味が無い。
戦うだけの生き方を、私は受け入れる事が出来ない。
……以前、徹様に救われる前は、その生き方しかなかったのに。
今は、その生き方以外を探している。求めている。
下手な料理を頑張って、苦手な家事をこなす。
その生き方を、悪くないと……好きになりかけている。
ああ、本当は、ここであの二人に付いて行き、『神の子を見張る者』に戻るべきなのかもしれない。
堕天使である私の居場所は、『神の子を見張る者』にあるのかもしれない。
……でも、私はここに居たい。
戦うだけの毎日。生き、他者を蹴落とす事だけを考える毎日。……その毎日が、どれだけ疲れるか知っている。その生き方が、どれだけ大切な事を見落とすか知っている。
だから、私はここに居たい。
大切な物を見付ける事が出来る、徹様の傍に。
――これは、書いていて少し恥ずかしいな。
でも、私の居場所は、『神の子を見張る者』ではなく、ここにあるのだと信じたい。
□月O日
気分次第で料理の腕が上達したら、世の中練習なんてしなくなるとは思う。
……やはり、もう少し料理が上手になりたい。
できれば、普通の見た目、普通の味程度に。
何が悪いのだろうか? 教えてもらった通りにしているつもりなのだが…。
もっと大雑把に、ざっくりと作れる料理だと楽なのに。
包丁を持って、全部を同じ大きさに切るのは神経を使う。
私の性格的に、その辺りが合っていないんだと思う。
……言い訳か。頑張ろう。
□月P日
兵藤君達が、例の聖剣使いの二人と一緒に行動していた。
……悪魔が聖剣使いと一緒に行動するなんて、不思議な光景だ。
なんとなく、兵藤君って普通の悪魔じゃないような気がする。
まぁ、赤龍帝を宿しているだけでも、十分普通じゃないが。
兵藤君に『戦車』『騎士』、それに聖剣使いの二人……それと、知らない顔が一人。
気配からして、聖剣使い以外は悪魔のはずだが、どうしてそんなメンバーで行動していたのだろう?
見知った黒猫を見掛けて視線を外した隙に見失ってしまったが。
しかしあの黒猫、徹様とどういう関係なのだろうか?
聞いてもはぐらかされたが……。
あれだけ撫でられ、身体を開いていたのに、赤の他人は無いだろう。
気になる……。
まぁ、徹様があの猫を飼うと言われたら、私に反対する事なんて出来ないのだが…。
……やはり、ペット、というのが良いのだろうか?
□月Q日
夕食の買い出しの途中で徹様と会ったので、一緒に買い物をした。
徹様は野菜があまり得意ではなくて、肉や魚が好きとの事。
……結構、好き嫌いが多いんだと知った。
そういう所は、結構可愛く思える。……でも、出来れば何でも食べてほしい。まぁ、今は料理を作る事で精一杯で、健康や栄養は考えて献立を立てている訳ではないが。
今度、料理のコツだけじゃなく、栄養のバランスのようなものもアーシアに聞こう。
それはそうと、買い物を終わらせて帰ろうとすると、また例の黒猫を見掛けた。
付いて来いと言うので怪しんだが、徹様が付いて行かれるので私も続いた。
……素性の知れない猫なのだから、もう少し怪しむべきだとも思うが…まぁ、徹様なら大丈夫か。
黒猫に案内された先には、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーにお尻を叩かれている兵藤君と、どこかで見た悪魔が居た。
どういう状況かは判らないが、とりあえず、白昼堂々とするプレイではないと思う。少しは恥じらいを覚えるべきだ、リアス・グレモリー。
ソーナ・シトリーは徹様に慌てて弁解していたが。
……それはそれで、なんだか面白くなかった。
というか、徹様ってシトリー家とも親交があるのかと、改めて驚かされた。まぁ、魔王レヴィアタン…セラフォルーとも対等に話していたし、不思議ではないか。
その後は、ソーナ・シトリーの弁解を聞き流しながら、徹様と一緒に家に帰った。
やはり、昼間からSM紛いのスパンキングはどうかと……徹様も、若干引いていたような気がする。
家に帰ると、徹様から家に誰か来たか、と聞かれた。
誰か侵入した形跡はなかったが……何かあったのだろうか?
聞いても答えてはくれなかったが。
□月R日
結局、私は徹様にとっては足手まといでしかないのだと思い知らされた。
古から生きる堕天使、コカビエル様――まぁ、もうコカビエルで良いのか。結局、『神の子を見張る者』の件も嘘だったわけだし。
夕食後、のんびりしていたら、コカビエルが家に来た。書いていて思うが、本当にいきなりで、反応も抵抗も出来なかった……今思うと、よく生きていた、と思う。徹様と違い、私には何の価値も無いのだから。
話の内容としては、簡潔に言うと「仲間になれ」という事だった。徹様は、それを聞いても別段反応を示さず、ただただコカビエルを見据えておられた。応える気が無いというのが、誰が見ても判る表情だった。
『神の子を見張る者』の幹部として徹様を取り立てるので、悪魔を討つ手伝いをしろという事だが、それでも徹様の表情は動かなかった。
……一方的で、高圧的な態度には徹様も表情を硬くされていた。返事は駒王学園で、と言い残して帰っていったが。
その後、リアス・グレモリーとその配下である『戦車』が来て、助力を乞われた。
コカビエルがバルパー・ガリレイやフリード・セルゼンを使って戦争を始める、というのだ。
……戦争、だ。平穏とは程遠い、戦争だ。
その時の徹様は、まるで信じられない事を聞いた、と言った感じの表情だったと思う。
驚いておられた、本当に……それはそうだろう。普通と平穏を望まれるのに、いきなり戦争だと…私でも信じられない。
この町でその発言。狙いはおそらく、リアス・グレモリーとソーナ・シトリー。
魔王の妹を傷付け――殺したとなったら、堕天使と悪魔の戦争が起こる。
天使がその間何もしないという事も無いだろう。そうなったら、三勢力の大戦争だ。きっとそれは、徹様の望まれる所ではない。
説明を受けたのは良いが、返事をする前に連れて行くのはどうかと思うが…。
まぁ、徹様がリアス・グレモリーを見捨てるはずもないか。
この人は、優しい。傷付け、殺した私すら救ってしまうほどに。
もしかしたら、学園でもあんな感じなのだろうか? なんとなくだがそう思う。簡単に予想が出来るし。
リアス・グレモリーに巻き込まれるのを、どこかで楽しんでるのかもしれない。
学園での戦闘は、熾烈を極めた。
というよりも、私と徹様は参加する余裕がなかった。私は単純に弱いし、徹様は戦闘が苦手なのだ。……実際はどうだか判らないが。とにかく、私達は離れた場所から戦況を見ているしかなかった。
しかし、フェニックスと戦った時もそうだったけど、兵藤君達、短期間で強くなり過ぎじゃないだろうか…。ケルベロス2体を圧倒するとか。
欠片4つ分の聖剣も砕くし、あの『騎士』なんか、『禁手』に至るし……。
だが、その兵藤君達でも、コカビエルの相手は難しかった。というよりも、圧倒的だった。同じ堕天使でも、ここまで力量差が出るものなのか…。
赤龍帝の倍化の能力を受けたリアス・グレモリーの『滅びの力』でも打倒できないほどだ。
純粋に、強い。能力や、『神器』の恩恵ではない。永く生きた、堕天使の地力。それが、コカビエルの強さ。
いつか、私もあの強さに至れるのだろうか? そうすれば、少しでも徹様の役に立てるだろうか?
その後、兵藤君達の相手を終えたコカビエルの次の標的は私達――徹様だった。私など眼中になかった。
魔王ルシファーとレヴィアタンに認められた徹様。
魔王の妹と、魔王に認められる徹様。ソレを傷付け、魔王を本気にさせる。それが、コカビエルの狙いだったようだ。
最初の一撃は、私が徹様を庇う事で、何とか避けた。咄嗟だった、と思う。何かを考えて動いたわけじゃなかった。多分、守りたい、と思ったんだと思う。
正直、その時の事は良く覚えていない。痛みも感じられないくらいの傷を負った、というのだけは覚えている。その後の事は、記憶に無い。気絶してしまったんだと……。情けない。私は最後まで、徹様の足を引っ張ってしまったのだと思うと、本当に泣きそうになってしまう。
気が付くと、戦いは終わっていた。気を失っていたのは少しの間だけだったようだけど、徹様に心配されてしまった。
私の傷は、致命的なはずだ。少なくとも、五体満足ではいられなくなるほどの。いや、死に至るほどの傷だったはずだ。
だというのに、私は傷一つなく生きている。堕天使幹部の一撃を受けて、生き残っている。…また、徹様に助けてもらったのだ。
……私は、本当に足手まといだ。
□月S日
徹様が、体調を崩された。
風邪だと言われたが、明らかに違う。タイミング的にも、昨夜の戦い……おそらく、『神器』の副作用だ。
アーシアに助けを求め『聖母の微笑』を使ってもらったが、治る気配は無い。
そもそも、『聖母の微笑』は傷を癒す『神器』だ。それで治せないとなると、体力的な問題か、それとも精神的なものか…。
熱が下がらないし、食事も満足に食べる事が出来ない……どうすればいいのだろうか…。
□月T日
徹様の体調が戻らない。
少し話す事は出来るようになったが、それでも体調は最悪と言える状態が続いている。食事も難しく、食べた物のほとんどを吐き出される。体調が戻らず、栄養も取れないのでは…。
風邪だから心配するな、と徹様は言われるが……。
今日も、アーシアが『聖母の微笑』を使ってくれたが、やはり効果は薄い。
それどころか、アーシアの顔色も、あまり良くない。
これ以上は、この子も倒れてしまうだろう。明日からは、もう頼れない。どうにかしないと…。
□月U日
いつぞやの黒猫が、薬を持ってきた。人型で。
なんでも、妹を助けてくれたお礼だとか。
……よく判らないが、お礼を言ってその薬を徹様に飲んでもらった。怪しくもあったが、藁にも縋りたい気持ち……不安だったのだ。私一人では、何もできなかったのだから。
自力で飲む事が出来なかったので、口移しで飲んでもらう事になった。心苦しい。私などが口付けをして良かっただろうか?
数時間もすると落ち着かれ、夕食時には、随分と呼吸も和らいでいた。
黒猫――黒歌が言うには、貴重な薬草を何種類も使ったのだとか。頭が上がらない。ちなみに、夕食は私が食べさせることになった。熱の所為もあるのだろうが、顔が少し赤かった。実は、結構初心なのかもしれない。すごい方なのに、そういう所は可愛いな、と思う。
食事の後は、また眠られた。薬は飲んだが、まだ体調は万全には程遠いのだ。まぁ、食事を食べれる程度には回復したので、あとは大丈夫だと黒歌は言っていた。今は、その言葉を信じるしかない。
その黒歌は、徹様に死なないで、と言ってキスして帰っていった。
いったい、どういう関係なのだろうか? 気になる。凄く。
□月α日
黒歌の薬を飲んで数日、徹様の体調も随分と落ち着かれた。
明日からは学園に復帰されるそうだ。私としては、もうしばらく休んでほしい。
だが、これ以上休むと成績に響くらしい。学生とは大変だな、と思う。
無理はしないと言っておられたが、どこまで信用できるか…まぁ、無理をさせたのは私なのだが。
様子を見に来たアーシアから聞いてしまった。
徹様が無理をしたのは、私がコカビエルから傷つけられたからだ、と。
私のために怒ってくれたのだ、と。
……それが本当かは判らない。徹様に確認したわけではないし、確認できる内容でもない。そんなことを聞くなど、恥ずかしすぎる。
だから、無事で良かったと心から思おう。そして、これからは無理や無茶をしなくて済むように強くなりたい。
徹様の足を引っ張らないように。徹様と並んで戦えるように。徹様を、守れるように。
□月V日
徹様が学園に行っている間、黒歌が遊びに来た。
薬草のお礼を、と思ったが別に良いとの事。妹を助けてくれたお礼と言っていたが、妹とは誰だろうか?
コカビエルから助けてもらったとの事だったので、もしかしたらリアス・グレモリーかソーナ・シトリーのどちらかの配下悪魔なのかもしれない。教えてくれなかったが。それと、名前も伏せてほしいと言っていた。訳有りのようだが、恩人の頼みを断る訳にもいかないので了承した。
また体調を崩した時のために、数日分の薬を置いていってくれた。
どうしてここまでしてくれるのだろう? 妹を助けたからと言っても、少し度が過ぎているような気がする。まぁ、私の主観だが。黒歌は、徹様が気に入ったから、と言っていた。
……その時の表情は、あまり語りたくない。
□月W日
縁側で、徹様が黒歌と遊んでおられた。というか、マタタビを……。
いいのだろうか……?
まぁ、黒歌が拒絶しないなら…いいのだろう。
そういう事だ。そういう事にしておく。
……私がどうこう言えるような立場でもないのだし。
微笑ましい光景なのだろうが、あまり面白くない。
人型の黒歌は美人だったし、猫耳と尻尾もあった。……やはり、ああいうのが良いのだろうか?
黒猫さんイイヒトすぎる…
まぁ、ご都合主義かもしれんがねw