とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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22(堕天使日記 エピローグ)

 △月AP日

 

 失敗した……今日は、寝坊してしまった。

 いや、昨日の夜寝付けずに、夜遅くまで『女王』の駒を眺めていた私が悪いのだが。

 徹様にも心配させてしまったようで、今度からは家事を手伝おうと言って下さった。

 丁重に断らせていただいたが、もう二度とこんなヘマはしないように気を付けないといけない。

 ……気が緩んでしまった、のだと思う。

 明日は気を付けよう。

 夕食は、徹様が料理の本を見ながら作ってくださった。私と同じで、料理があまり得意ではないのだろう。言葉少なく、しかし四苦八苦しながら料理をされる姿は、とても微笑ましかった。

 そして――とても、とても美味しかった。

 申し訳なく思ってしまうが、それでも――また作ってほしい、とも思った。

 口には出さなかったし、こう思うくらいは良いと思う。

 …………………。

 こんな事を書くなんて、本当に気が緩んでいるな。

 

 

 

 △月AO日

 

 徹様が学園へ行き、その間に家の掃除や洗濯を済ませてしまう。

 少し慣れてきたのか、今日は早く終わってしまったので、リビングでお菓子の本を読んでいた。

 今度作って差し上げたら、喜んでもらえるだろうか?

 ……自分の料理の才能の無さには溜息しか出ないが。

 アーシアに相談しようと思う。

 その後はテレビを見たりして時間を潰していたが、どうにも落ち着かなくて『女王』の駒を磨いたりもした。

 …………。

 私では徹様の『女王』には相応しくないだろうな、と思う。判っている。

 でも、やはり嬉しいものは嬉しい。

 いつか、徹様の『女王』に相応しい力を手に入れたい、と思う。

 『神器』も持っていない、下級堕天使…良くて中級程度の力しかない私には、いつになるか判らない話だが。

 

 

 

 △月AI日

 

 ……今日も寝坊してしまった。

 慌ててリビングへ行くと、寝癖が治っていなかったようで、徹様に笑われてしまうし……ツいていない。

 恥ずかしくて、顔を見る事が出来なかった。

 きっと心の中でも笑われたのだろうな……はぁ。

 掃除や洗濯を済ませてしまうと、少なくなっていた食材の買い出しに出かけた。

 しかし、料理もそうだが、献立を考えるのも難しい。

 まず、私が作れる料理のレパートリーが少ない。

 コレも問題だが、栄養や見た目とかも考えると、青果や鮮魚、精肉コーナーでいつも立ち止まってしまう。

 それに、お金の管理もだ。徹様から任されているので、無駄遣いは出来ない。

 今までは気にしていなかったが、夕方にはタイムサービスもあるので、最近はいつも夕方に買い出しに出かけるようにしている。

 ……主婦にでもなった気分になるが、それは無いので苦笑するしかない。

 一つ屋根の下で暮らしていて、徹様が私を求める事は無い。

 なら、そう言う対象に見られていないのは明白なのだし。

 買い出しから帰り、食材を冷蔵庫に直すと、少しソファに横になった。これが悪かった。

 気付いたら、徹様が帰って来られていた。

 ――きっと、寝顔を見られてしまった。

 聞いたら見ていないと言われたが、視線を逸らされていたし……。

 私はいつか、相応しい『女王』になれるのだろうか? 少なくとも、その時はずっと遠いのだと思える。

 

 

 

 △月AU日

 

 せっかくの休みだというのに、徹様が家事の手伝いをしてくださった。

 心苦しくはあったのだが、私がどれだけ断っても今日は手伝うと言われた。

 ……まぁ、昼食の後には疲れてソファで眠られていたが。

 疲れておられるのだろう。きっと、私には判らないような苦労をされているはずだ。

 そんな面を私には見せて下さらず、いつも、毎日、変わらず、普通に接してくれる。

 凄い方だ、と……本心からそう思える。

 徹様の寝顔を初めて見た。

 寝顔を見せて下さる、という事はそれだけ信頼されているという事だ。

 『女王』の駒もそう――。

 信頼されるのは嬉しい事だと知った。

 この生活も、悪くないように思える。

 ……この人だけは、裏切りたくない。

 今まで裏切って、嘘を吐いて生きてきた。

 だけど――徹様だけには嘘も、裏切りも無く接したい。

 起きられた時の寝惚けた顔は、とても愛おしかった。

 

 

 

 △月AY日

 

 徹様が学園へ行かれるのと入れ替わりに、グレイフィア様が来られた。

 ……怒られた。

 最近の気の緩みを指摘された。

 私でも判っている……が、改めて指摘されると、恥ずかしさよりも情けなさを感じてしまった。

 結局のところ、『女王』の駒を与えられ、それに喜び、安心してしまっている。

 私は徹様の庇護下にあり、無用になれば捨てられる。そして、徹様を図る計りでもあるのだ。

 その立場だというのに、信頼に安堵し、現状に満足してしまっているのだと言われた。

 ……その通りだ。

 未熟な私が満足などしては、徹様が低く見られてしまう。

 グレイフィア様に指摘され、今日は一日、またこの方に一からメイドの仕事を教えてもらった。

 最後に、励む事を忘れず、そして励み続けるように、と。

 ――今日は最後に、ちゃんとありがとうと言えた。

 

 

 

 △月AT日

 

 今日は珍しく、徹様が寝坊された。

 不謹慎だが、それだけ気を許してもらえてると思うと、心が軽くなった気がする。

 自分でも思うが、現金なものだ。

 慌てて学園へ向かわれる徹様を見送るのが、少しだけ楽しかった。

 夕方、買い物に出かけると、アーシアと会った。

 なんでも、いくつか話したい事があるのだとか。ふと思ったが、私を待っていたのだろうか? 買い出しに来なかったら、どうするつもりだったのだろう……。

 運良く会えたし、日頃の礼も兼て夕食へ招待してみた。

 ……後から思うと、まず徹様にお伺いを立てるのが筋だな、と思う。何をやっているのか、私は。本当に、最近は気が緩んでいると思う。

 その後、なぜか徹様とも会い、三人で買い出しをする事になった。

 アーシアが何を思ってか、私達より一歩離れて歩いていたが、変に気を回しすぎだと思う。

 でも、この子のこういう気配りの良さは美点だ……今回は間違っていたと思うが。

 今日は久しぶりに、アーシアと二人で台所に立った。やはりこの子は、料理を教えるのが上手だと思う。

 ありがとう、と言うと、とても喜んでもらえた。……私は、私の人付き合いが苦手な性格が好きではない。これからは、この性格も治していきたい。アーシアの笑顔を見ていると、素直にそう思えた。

 ちなみに、アーシアの相談とは兵藤君との生活についてだった。

 とりあえず、アーシアはアーシアのままでいていいと思う。下手に無茶をしても、失敗するだけのようが気がした。

 徹様も、アーシアの良さは優しさだ、と言われていた。私もその通りだと思う。

 

 

 

 △月AR日

 

 ……溜息しか出ない。

 徹様を起こしに行ったら、着替え――裸の身体を見てしまった。上半身だけだったが。

 別に、異性の裸が初めてという訳でもないのだが、だからといって見慣れているものでもない。私にだって恥じらいはあるのだ。

 しかも、相手は徹様なのだから。

 怒られるか、とも思ったが、御咎めは無くそのまま学園へ行かれた。

 やはり、私の事は女として見てもらえていないのだろう。

 判っていた事だが、色々と複雑な気分だ。

 次は無いように気を付けよう。

 

 

 

 △月AE日

 

 昨晩、遅くまで『女王』の駒を眺めていたからか、また寝坊してしまった。

 いや、私も馬鹿だな、とは思う。

 何度も何度も、同じ失敗を繰り返しているんだと理解している。

 けど、どうしても『女王』の駒を見ていると、時間を忘れて眺めてしまうのだ。

 ……枕元に置いているから悪いのだろうか? 目に付きやすいし。

 目に届かない所へ置いた方がいいのだろうか?

 でも、埃を被ったりするのは嫌だ。

 一番の宝物。一日中磨いていても大丈夫だと思える、宝石よりも価値のある駒。

 その駒が私を満たしてしまっているのが問題だ。

 まぁ、そのうち慣れる――といいなぁ。でも、慣れたくないとも思う。

 少なくとも、もう暫くはこの感情を楽しんでいたい。……せめて、徹様に迷惑を掛けない範囲で。

 夕食後、最近はお互いに寝坊が目立つという話になった。

 ……心当たりがあり過ぎて、申し訳なく思う。

 気を引き締めて、徹様に恥をかかせないような生活をしよう。

 励み続けないと。

 でなければ、きっとまたいつか、徹様に恥を掻かせることになる。

 私の行動は、徹様の器を計る目安でもあるのだから。

 迷惑を掛けたくない――絶対に。それだけは、絶対だ。

 




最後にグレイフィアさんの日記を書いて二巻は終了です
とりあえず、木場君の日記を書くかどうか……それが問題だ

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