やっぱり、「神器持ちの日記」は書いていて楽しいです。
2月10日
もうすぐバレンタインデーだ。
徹様はあまり気にされていないけど、お渡ししたいと思う。
ちゃんと本を読んで作り方は勉強したし、必要な素材も買い揃えている。
――けれど、眷属が主人にチョコを渡すというのは、良いのだろうか?
黒歌に相談したら、笑いながら気にし過ぎだと言われてしまった。
徹様は立場の差とか気にしない、と。
それは分かっているけれど……ちゃんと想いを伝えて、受け入れてもらえたけれど。
それでもやはり不安なのだ。
その……ちゃんと受け取ってもらえるかとか、喜んでもらえるかとか。
2月11日
家でチョコレートを作ろうとすると、やっぱり徹様に気付かれてしまうだろう。
隠し事をしているようで心苦しいが、それでもチョコを作っている所は……見られたくない。
なんというか、凄く恥ずかしい。
……去年までは、こんな気持ち、絶対に抱かなかったのに。
嬉しくて、溜息が出てしまう。
黒歌やロスヴァイセ様からは「幸せそうだ」なんてからかわれるし。
もう。
私は、本当に困っているのに。
2月12日
チョコを作る場所に悩んでいると、グリゼルダ様が家のキッチンを貸してくださった。
本当なら眷属の私達が徹様の傍を離れるなんてしてはいけないけど、今夜だけは天使の皆様、そして八重垣様が徹様をお守りしてくれる事になっている。
黒歌は反対するかな、と思ったけれど私より先に同意するし。
それくらい、黒歌もグリゼルダ様の事は信頼しているみたいだ。
何かあったら八重垣様と八岐大蛇が居るから、と照れ臭そうに言っていたけど。
黒歌も、白音も、ロスヴァイセ様も、オーフィス様も。
みんなが、徹様を想ってチョコレートを作っている。
私は、幸せだ。
好きな人が居て、私の好きな人がこんなにも沢山の人に愛されている。
徹様は、私のチョコレートを美味しいと言ってくれるだろうか?
笑顔を向けてくれるだろうか?
バレンタインデーが楽しみであり、そしてとても不安だ。
その不安を黒歌に相談すると、黒歌も不安だと言っていた。
いつも笑顔で、自信のある態度をしている黒歌も――まるで初めて恋をした女の子のような顔をして、作ったチョコが固まるのをじっと眺めていた。
白音も、ロスヴァイセ様も。
オーフィス様は、作り終わったら疲れて眠ってしまっていたけれど。
2月13日
明日はバレンタインデーだ。
いつの間にかオーフィス様が駒王学園に行っていたのは驚いたけれど、
徹様の反応を見る限り、どうやら昨日の事は話していないみたいだった。
一応、帰ってきた後に、明日まで徹様には内緒にしておきましょう、と言っておいた。
黒歌も、今日はほとんど家に居なかった。
なんでもヴァーリ様達の所に行って、身体を動かしていたそうだ。
……猫趙という体質がどうとか言い訳をしていたけれど、きっと明日の事ばかりを考えていて――徹様の匂いが強いこの家は、今の黒歌には媚薬のように効いてしまうのだろう。
家に帰ってきても、ずっとおとなしかった。
けれど、猫の姿にならない辺り……まるで、本当に初めての恋に身を焼いている乙女のよう。
いつものように徹様に話し掛ける事もしない。
それでいて、その視線は徹様を追っていて。
でも――それは私も同じようなものだ。
白音も、ロスヴァイセ様も。
2月14日
ちゃんと、徹様にチョコレートをお渡しする事が出来た。
朝は緊張して失敗したので、学園から帰ってこられてから――すぐに。
気にし過ぎなのだろうと自分でも思うけど、この家に住んでいる中で私が一番最初に渡せたことが……凄く嬉しい。
徹様にも喜んでもらえたし、ちゃんと美味しいとも言ってもらえた。
……まだ、自分でも分かるくらい頬が緩んでいるだろう。
チョコを渡して、夕飯を食べて、お風呂に入って……それでも、まだ気持ちが落ち着かない。嬉しい。
ああ、そうだ。
そういえば、お風呂の後。
黒歌が私を呼んでいた。何か用があるのだとか。
2月15日
白音とロスヴァイセ様の視線が、一日ずっと辛かった。
二人だけじゃなく、無垢なオーフィス様も居る家で……まあ、私も悪いのだけど。
徹様に媚薬を盛った黒歌も悪いと思うのだ。
というか、黒歌が一番悪いと思う。
けど、その黒歌は全然悪びれていないのが……いつも通りと言えばそれまでなのだけど。
……ただ、媚薬の件を「徹様に求められたかった」と言われると、私もそうなので、強くは言えなかった。
それに、きっと徹様はそういう毒の類は『神器』の能力で無効化出来るはずなので……昨日の夜は、まあ。
『黒歌の媚薬』を言い訳に、と考えるべきなのか。
――私達は『求められた』のだと。
久しぶりの投稿が番外編で、しかも短くてごめんなさい。
レイナーレさんはヒロインです。