△月L日
徹様が学園に行くのと入れ替わるように、『女王』グレイフィアが家に来た。
そして今日も、掃除の仕方から、料理の作り方まで教えていった。
……頼んでもいないのに、だ。
いままで特に疲れる事無く掃除などを行っていたというのに、この『女王』に見られながらだと、昼近くには息が上がってしまう。
本当に、細かな所まで見るのだ、この悪魔は。
ドラマじゃあるまいし、窓の桟を指でなぞるな。妙に様になっているのは気のせいだと思いたい。
昼食の準備まで見届けると帰っていった。
――ふん。
こういう家事は未熟だと、自分でも判っている。
ありがたく思っている。
……礼も言えない自分の性格が、嫌になる。
徹様が学園から帰ってくるころには、クタクタになってしまっていた。
こんなに疲れたのは、本当に久しぶりだ。
△月+日
今日も、『女王』グレイフィアは徹様と入れ替わるように家に来た。
私に構う時間などあるのだろうか?
そうは思うが、それを言える立場ではないので黙って言われた事をこなしていく。
一日二日でどうにかなるような事ではないだろうが、学ぶべき事は多い。
正直、こうやって日記を書く事すら辛い。身体が疲れて、睡眠を欲しているのが判る。
掃除とはここまで疲れるような事だっただろうか?
……心地良い疲労だが、これが毎日となると……。
メイドと言うのは大変だ。
夕食後、徹様がリアス・グレモリーとフェニックスのゲームはどちらが勝つか、と考えられていた。
私としては、勝つのはフェニックスの方だろう、と思う。
不死鳥フェニックス。
死なない相手に勝つことは至難だ。リアス・グレモリーが勝つには桁外れの力に頼るか、ルールの穴を探す必要があるだろう。
だが徹様は、リアス・グレモリーに勝ってほしい、と言われた。
まぁ、勝負は時の運。どうなるかは誰にもわからないものだ。
……徹様がそう思われるなら、私もリアス・グレモリーを応援しようと思う。
△月;日
今日は『女王』グレイフィアは来なかったが、手を抜いていると思われるのは癪なので、ちゃんと掃除など教えられた事をこなした。
……本当に、こうする事で徹様に相応しいメイドになれるのだろうか?
いや、相応しくなくてもいい。ただ、徹様の傍に居るに足る堕天使になれるのだろうか?
今までと違い、運動量の増えた家事をこなし終わると、ふとそう考えてしまった。
疲れてソファへ座ってしまうと、どうしてもそんな自分に良くない事を考えてしまう。
しばらくそうやっていると、今晩は徹様が夕食の準備をしてくれるとの事。
――心配させてしまった。
やはり、私はダメだ。
作ってくださった肉野菜炒めは、野菜の大きさもバラバラで、味付けも濃かった。
けど、どうしてか、とても美味しかった。
……頑張ろう。
私は、この人に救われたのだから。この人の役に立ちたい。
△月*日
今日も、『女王』は来なかった。
……見放されたのだろうか? いや、きっと仕事が忙しいのだろう。
今日も教えられた通りに家事をこなした。
これでいい。今はまだ、私に出来る事はこのくらいしかないのだと思う。
昨日の徹様を真似して、肉野菜炒めを作ってみた。
……昨日の徹様以上に野菜の形も大きさもバラバラで、私のは味が薄すぎた。
でも、徹様は美味しいと、笑顔で食べて下さった。
少しだけ、料理が楽しいと思えた。
△月:日
昼間に、フェニックスが訪ねてきた。
ライザー・フェニックスとレイヴェル・フェニックス。
名前を知っている程度だが、確か悪魔の若手の中ではそれなりの使い手だったはずだ。
これがリアス・グレモリーの相手だったのか。
これは本格的に、彼女たちの勝ちの目は低くなってきたな。
そんな事よりも、『女王』グレイフィアに教えられた通りにお茶を淹れて出した。
味には問題が無かったようで、それなりに好評だったと思う。
立ち位置は徹様の斜め後ろで、こういう場では決して声を出さない。
教えられた事を、ちゃんとこなせたと思う。
まずは、その事に安心した。次は、もっと手際よく動けるように気を付けよう。
……徹様に恥は掻かせなかった、と思いたい。
しかし、リアス・グレモリーの婚約者か。
将来はさぞ大変だろうな、と思う。
△月」日
徹様に、将来はどうするのか、と聞かれた。
……どうなるのだろう、としか考えられなかった。
『神の子を見張る者』として生き、赤龍帝とグレモリー家の者に殺され、徹様に救われた。
これから先がどうなるのか、私には判らないし、予想も出来ない。
いつまでも徹様の御厚意で、傍に置いてもらえるかも判らない。
私は料理も出来ないし、家事も苦手で、戦う力も微々たるものだ。
そんな私を傍に置く理由が、徹様には無い。
――どうなるのだろうか?
これからは、その事も考えよう。でも、出来れば――もう暫くは、傍に置いてほしく思う。
徹様は、それなりに勉強をして、それなりの大学に進むのだと。
あまりと言えばあまりな徹様の将来に、不敬だろうが苦笑してしまった。
普通。それがとても似合っているように思えた。
でも、この方は特別だ。異常、とも言える。きっと、平穏とは一番遠い。
だからこそ、そんな普通を望まれるのだろう。
そんなこの方の夢を支える事が出来たら――と思う。
△月}日
朝食の席で、グレモリー達が居ないと静かだ、と徹様がぼやかれていた。
静かなのは嫌いですか、と聞くと笑っておられたが。
リアス・グレモリーたちの事を気にされているのだろう。
それは友人だからか、それともお節介からか。はたまた、別の理由があるのか。
徹様が学園へ行かれると、久しぶりにグレイフィア様が来られた。
家の中を一通り見て回られ、掃除に手抜きが無いかの確認をされる。
それと、先日リアス・グレモリーの相手になるフェニックスの二人が訪ねてきた時は覗いていたようだ。
立ち振る舞いについては何も言われなかったが、微妙に複雑な気分だ。
これからも手を抜かず精進する様に、と。
悪魔というのは、お節介で世話焼きなのだろうか?
大きなお世話だ。言われなくても、徹様に面倒をお掛けするつもりは無い。まったく。
……そして、『レーティングゲーム』には徹様と一緒に来るようにと言い残して去っていった。
△月@日
明日は『レーティングゲーム』の対決日だ。
徹様はリアス・グレモリー達を心配しているようで、溜息を多く吐かれていた。
私も『レーティングゲーム』に誘われた事を伝えると、あまり表情には出られていなかったが喜ばれていた。
そういえば、徹様は戦うのが苦手だったことを思い出す。
あのフリードにも不覚をとったのだし。
私が、徹様を守ります。
そう言うと、少し複雑そうな顔で笑われていた。
……もしかして、実力を隠しているだけ、だったのだろうか?
恥ずかしい……。
でも、信頼している、と言っていただけた。
――やはり、この人はズルいな、と思う。
黒髪堕天使メイド……流行る!