とある神器持ちの日記   作:ウメ種

184 / 195
今回は主人公の日記、メイド日記、黒猫日記の三本立て。
や、年末は多分十九巻に入るだろうから、年末年始まで書けないので。



174(十八巻 エピローグ)

 

 G月S日

 

 俺にとっては、だ。

 特別な事をした覚えなんか一つも無い。

 レイナーレさんは帰る家が無いと言っていたから、家に呼んだ。

 一人暮らしが長かったから、学校から帰ってきた時に「おかえり」と言ってもらえたのが嬉しかった。

 掃除やご飯の準備に失敗して落ち込んで、一緒に頑張ったのも楽しかった。

 だから、レイナーレさんが居たいだけ、この家に居てくれて良いと言った。

 多分、また一人暮らしをするのが嫌だったんだと思う。

 二人で暮らすようになって、この家が賑やかになった。

 楽しかった。毎日が賑やかになった。

 黒歌もそうだ。何一つ特別な事はしていない。

 野良猫に餌をあげて、可愛かったから家に置いた。

 レイナーレさんが居て、黒歌が居て。

 この家は賑やかになって、明るくなって、楽しかった。

 寂しくなくなった。俺は、寂しかったから、この家に人が増えて嬉しかった。

 この家は、一人で住むには広すぎた。

 今じゃ、白音さんにロスヴァイセさん、オーフィスちゃん。

 スコルとハティも居る。

 今のこの状況が、俺はずっと続いてほしいと思ってる。

 

 ――また、レイナーレさん達を泣かせてしまった。

 好きだと言ってくれた。大好きだとも。

 レイナーレさんと黒歌。二人から。

 そんな二人を、泣かせてしまった。

 テロに巻き込まれて、勝手に倒れて――心配させて。

 泣きながら、笑ってくれた。覚えてたから、って。

 忘れるわけがない。多分、ずっと忘れない。

 天界で。とても綺麗な場所だった。

 天国とはよく言ったものだと思う。

 二人ともすごく綺麗で、美人で、正直俺なんかとは釣り合いが取れない。

 俺なんかには勿体無いくらい素敵な二人だ。

 そんなとても綺麗な二人から、とても綺麗な場所で告白された。

 ……俺は、臆病で優柔不断だ。判ってたけど、今日確信した。

 今のこの現状――暮らしを壊したくない。

 どちらかを選んだら、壊れそうで怖い。

 それに、俺なんかじゃ二人を幸せにできない。

 俺に何か特別なモノはあるか?

 顔が良い訳じゃない、金持ちでもない、地位も名声も無い。

 ただ、知らない顔を出来なかった。

 困っている人が目の前に居たから手助けをしたかった。

 寂しそうにしている野良猫がいたから手を伸ばした。

 関係無いからって、見過ごしたくなかった――たったそれだけしかできない人間なんだ。

 そん

 

 

 

 G月T日

 

 オーフィスちゃんが、アザゼル先生からお菓子を沢山貰ったと喜んでいた。

 実際、サンタクロースが背負ってるような白い袋一杯のお菓子を貰ってたし。

 なんでも鬼ごっこをしてもらったらしい。

 今度お礼を言わないと。

 お菓子を貰ったオーフィスちゃんの事を一緒に喜んでるレイナーレさんと黒歌さんは、おかーさんのように見えた。

 ……他意は無い。

 ロスヴァイセさんと白音さんは貰えなかったそうだ。

 もうクリスマスは過ぎたけど、今度何か形に残るような物を買ってこよう。

 昨日は兵藤の家に三人で泊まったそうだ。

 気を使わせたんだろうな……溜息しか出ない。

 というか、スコルとハティまで連れて行く必要はあったんだろうか?

 そこまでしなくても……。

 

 ――あと、赤飯を炊くのは勘弁してください。恥ずかしくて死にます。

 何処でそんな知識を手に入れたんですか、ロスヴァイセさん。

 

 

 

 G月U日

 

 もうすぐ今年も終わりである。

 来年も皆で楽しく過ごせたら、と思う。

 あと、お隣さんに八重垣さんという男性の方が入居された。

 女所帯の家に男一人、しかもお隣さん。

 なんか仲良くなれそうな気がする。年上の人だし、今度色々話したい。

 今日は少ししか話せなかったし。

 天使になりたいそうなので、俺の『御使い』のカードを渡すと喜んでもらえた。

 仲良くなれるといいな。

 

 ヴァーリ君達からも心配されてたみたいで、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 あと、『八岐大蛇』さんを紹介してもらった。

 大きな蛇。今でも犬くらいの大きさなのに、本気になるともっと大きくなるらしい。

 すげぇ。

 凄い人懐っこいし。最初は怖かったけど、慣れると可愛い……かもしれない。

 黒歌が契約したとか言ってたけど、すごい事……なんだろうな。

 いきなりすぎて、驚きしかない。

 あと、人前で褒めて褒めてってくっついてくるのは勘弁してほしい。

 あの生暖かい視線が……。

 

 

 

 

メイド日記_____________________________________

 

 

 

 

 

 G月S日

 

 徹様が目を覚まされた。

 ……ただやはり、天界での戦いの事は覚えておられなかった。

 倒れた前後の記憶が無い、と書くべきか。

 私の――私達の告白の事は、覚えておられた。

 好きだと伝えた事を。

 私と黒歌の想いを。

 そして、その答えも――伝えられた。

 

 徹様は、当たり前の事をしただけ、と言われた。

 住む家が無い私を助けた。

 独りだった黒歌を家に置いた。

 ――それは当たり前の事で、特別な事ではない。

 誰だって出来る事を、徹様がしただけだ、と。

 そうかもしれません。

 でも、当たり前の事を当たり前だからという理由で出来る人はいない。

 貴方は貴方を傷付けた堕天使を見捨てなかった。

 道端に居る野良猫を見て、知らん顔をしなかった。

 それは、確かに誰でも出来る事かもしれません。

 でも、きっと誰もしない事なのです。

 貴方の“当たり前”は、私達が命を賭ける理由になるほどに、重い。

 

 というか、どれだけ自分に自信が無いんですか、徹様。

 容姿も好意を寄せる一因です。否定はしません。

 確かに誰もが羨むという程ではないですが、別に悪いとは思いません。

 見た目というのは確かに大事です。

 徹様より容姿が優れた方、気が利く方、お金持ちも偉い人もいるでしょう。

 でも――私達は、徹様が好きなのです。一番なんです。

 ……上代徹様。

 どうやら今夜、その辺りをお教えしないといけないようだ。

 折角、白音達が気を利かせて兵藤君の家に泊まりに行ってくれたのだし。

 

 ――鈍すぎです。

 アレだけ好きだと口にして、唇まで許したのに。

 どうして自分に自信が無いからという理由に逃げるのか。

 嫌われている、という訳でもなさそうだった。

 嬉しいと、好きだとも言ってくれた。

 なら今夜は――私達の方から踏み込もう。

 

 

 

 G月T日

 

 今日は……今日の事をグレイフィア様に知られたら、またグレモリー宅に呼び出されて説教だろうな、と思う。

 昼近くまで寝てしまったし、掃除もサボってしまった。

 家事とか全部、白音達に任せて、黒歌と一緒に徹様に一日中甘えてしまった。

 ……明日から、ちゃんとしないと。

 でも――昨日の事、絶対忘れない。

 忘れません。

 徹様と結ばれた事。

 私の、一生の思い出。宝物。

 徹様に逢えて良かった。

 リアス・グレモリーに滅ぼされたあの日、助けられて良かった。

 あの日死ななかったから、沢山の事を知り、沢山の大切な人と出逢えた。

 私は、もっと強くなります。

 家族を守れるくらい。徹様を守れるくらい。

 『女王』としても、上代徹の槍としても。

 ――今度こそ、後悔しないように。

 

 ああ、でも。

 晩御飯に赤飯を炊かれた事の意味が最初は判らなかった。

 ああいう意味があっただなんて――。

 徹様と黒歌が顔を赤くしていた理由……黒歌に教えられた時は、私も恥ずかしかった。

 今度――白音とロスヴァイセ様が徹様と結ばれた時は、私も赤飯を炊こう。

 今日のお礼、だ。

 

 

 

 G月U日

 

 八重垣様の処遇は、取り敢えず保留となった。

 『クリフォト』の先兵として動いた事、教会の支部や関係者を襲った事、神剣を歪めた事。

 沢山の罪を犯したが、天界――熾天使様方は、不問とした。

 冥界と『神の子を見張る者』も、『クリフォト』との一件が落ち着くまでは戦力として使うそうだ。

 その八重垣様も、徹様の『御使い』として今日からグリゼルダ様達と一緒に暮らしている。

 この家で暮らしても、徹様ならあまり気にされないだろうが――つい先日まで『クリフォト』の一員だった者が一緒に暮らしたら、と気にされていた。

 黒歌は『禍の団』に所属している時から一緒に暮らしていたのだから、今更だと思う。

 私なんて、何度徹様に槍を向けた事か。

 

 ……また、心強い仲間――家族が増えた。

 徹様の事を心配してくれる方が増えた。

 もうすぐ今年も終わる。

 今度こそ、無事に、平穏に……そう思う。

 

 

 

 

黒猫日記______________________________________

 

 

 

 

 

 G月S日

 

 私達は、さ。

 トオルだから、好きなんだよ?

 最初は興味を持っただけだった。

 手を差し伸べてくれた、居場所をくれた、大切な物をくれた。

 家族だったり、親友だったり、仲間だったり。

 

 トオルはね? 私が優しくしてほしい時に優しくしてくれた人。

 寂しくて、寒くて、冷たくて――独りだった私を、撫でてくれた人。

 居場所をくれた。帰る場所をくれた。家をくれた。家族をくれた。友達をくれた。

 ――そのぬくもりで、あたためてくれた。

 だから好きになった。大好きになった。

 

 懐かしいにゃー。

 夏――冥界から帰ってきた時に言った言葉。伝えた想い。

 私の中にある、大切な……一番大切な“最初の好き”。

 もう一度伝えた時、懐かしいって言ってくれた。

 覚えててくれた。

 それがどれだけ嬉しいか判るかな? 判らないよね――トオルは鈍感だから。

 私はね、トオル。

 私の中では、トオルは一番格好良いんだよ?

 誰よりも、何者よりも。英雄よりも、魔王よりも、熾天使よりも、ドラゴンよりも。

 格好良くて、素敵で、優しい人。

 それが、トオル。私が好きな人。私が好きになった人。

 どうやったら、自分に自信を持ってくれるかな?

 容姿とか、どうでもいい。そんなの、私もレイナーレも気にしてない。

 その事に、どうやったら気付いてくれるかな?

 私は――その方法を、一つしか知らない。

 撫でてほしいから、傍に居たいから、もっと好きになりたいと思うから。

 一番になれなくてもいい。

 ただ、自分に自信を持ってほしい。

 上代徹という男の子は、とても素敵で、魅力的で――そんなトオルを好きな人が居る。

 それを判ってほしい。

 

 

 

 G月T日

 

 ――――。

 白音達と顔を合わせるだけでも恥ずかしい。

 昨日あれだけ気を使ってくれたんだから、最後まで気付かないフリとかしてほしいにゃー……。

 あー……恥ずかしい。

 お赤飯なんか炊いてくれちゃってさ。

 恥ずかしいけど、嬉しい。嬉しいけど――やっぱり恥ずかしい。

 白音もロスヴァイセも、トオルの事が好きなのに。

 それなのに、私達の事を祝福してくれた。

 ……くすぐったいにゃぁ。

 私達もトオルも、結局選べなかった。

 優柔不断? しょうがないにゃ。今が大切で、大好きだから。

 壊したくない、壊せない。

 だから――両方を選んだ。私とレイナーレ、両方を選んでくれた。

 皆で幸せになろう。

 大丈夫。トオルなら――私たち全員を、幸せに出来るから。

 でも、トオル一人に任せるなんて事はしない。

 トオルと、私と、レイナーレと、白音と、ロスヴァイセと、オーフィスと。

 皆で頑張って、皆で幸せになろう。

 トオルが好きな皆、これからトオルを好きになる皆。

 全員で、一緒に幸せになろう。

 ――それはきっと、世界で一番の“幸せ”だと思うから。

 

 

 

 G月U日

 

 ずっと前、アーサーに斬られた時もそうだったけど。

 死んだことを自覚してるのに生きてるって、変な感じだにゃー。

 クリスマスも終わっちゃってるしさ。

 ほんと、『クリフォト』っていうか、テロリストって空気が読めないよねぇ。

 庇ったのに、結局トオルも倒れちゃったらしいし。

 ……まぁ、庇って死んじゃった私が悪いんだけどさ。

 心臓を貫かれた記憶と感触があるのに生きてるのって、貴重な経験だよね。

 トオルもさ――お人好しだよね。敵を救って倒れるなんて。まぁ、天界も直したみたいだけど。

 というか『クリフォト』が暴れた傷とオーフィスが破壊した傷が同程度っていうのがアレだけど。

 ……オーフィスも、トオルの事を大事に想ってるみたいだけど、最短距離を破壊して進んだそうだ。

 良い事だけど、今度加減というのを教えないと。

 

 八重垣って人、私も悪い人だとは思わない。

 あの人も犠牲者だって判るから。

 聖職者と悪魔の恋。

 もう少し遅くに出逢っていたら、その結末も変わっていたのかもしれない。

 そう思うと、とても悪く思えない。

 私達とトオルの恋も、少し前までは禁忌だったのだから。

 ――犠牲になった人たちには悪いけどにゃん。

 顔も名前も知らないし。

 八重垣は生かされた。

 けど、これからはその罪と向き合って生きていくんだろう。

 それが罰だ。

 ……私はそれでも生きてほしいにゃー。

 

 あと、『八岐大蛇』と契約した。

 多分、八重垣よりも私は相性が良い。

 毒や呪いっていうのに、理解があるからだろう。

 流石に、『天叢雲剣』は私の手に余った――というか合わなかったけど。

 まず、剣術の心得が無いし。

 ――私もレイナーレも、もっと強くなるから。

 トオルが無理をしないで済むように。戦わなくて済むように。

 普通の毎日を、普通に過ごせるように。

 

 

 




これで一旦終了かもしれません。
次は十九巻が発売されてからだと思います。
それまでお待ちください。
番外編とかIFとか投稿しつつ、何か新しいSSでも書こうかと。
一周年で考えていたのでもいいし。
その辺りは、また今度。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。