とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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16(魔王日記)

 ○月:日

 

 グレイフィアが面白い話を持ってきた。

 リアスの学園に珍しい『神器』使いが現れたというのだ。

 私達の『滅びの力』で滅ぼした相手を蘇生させる『神器』。

 さて、そのような『神器』など聞いた事が無い。

 滅びは絶対だからこそ『滅び』なのだ。その絶対を覆す存在。

 少し、興味が湧いた。

 グレイフィアに、その『神器』使いの身辺を調べるように言った。

 さて、相手はどんな存在なのやら。

 

 

 

 △月V日

 

 上代徹。

 一般の中流家庭で育った普通の人間。

 ここ一ヶ月の調査の報告書をまとめるなら、それだけだ。

 グレイフィアの能力を疑う訳ではないが、本当にこれだけなのだろうか?

 死者ではなく存在を蘇生させる『神器』使いなど、どの勢力も放っておかないはずだ。

 今まで隠していた? ああ、そうだろう。

 リアスと同じ駒王学園に通いながら、今まで気付かれなかったのだから。

 神が不在の今、命の『神器』を誰よりも欲しているのは天使側だ。

 アザゼルにも相談すべきだろうか?

 取り敢えず、保留しておこうと思う。

 興味が湧いたら我慢が出来ない、子供のような堕天使だからだ。

 

 

 

 △月#日

 

 懐中時計の『神器』――時間操作の類か。

 なるほど。消滅した存在を巻き戻せるなら、確かに滅んだ存在も生き返った事にできる。

 命の蘇生以上に貴重な『神器』だ。だからこそ、彼は普通を演じているのか。

 人間世界でも手に余る能力だ。

 悪魔や天使、堕天使の存在を知っているなら、隠れたくもなるだろう。

 力を誇示する愚か者でないのは、好感が持てた。

 会ってみたいものだ。

 名前と顔だけ、人となりも知らない人間だが興味を惹かれる。

 会いたいと、グレイフィアに相談したら怒られた。

 魔王という役職は、自由が無さすぎて困る。

 まぁ、私が単独で人間に接触したら、それこそ戦争が起こるかもしれないのも事実なだけに、面倒だ。

 

 

 

 △月S日

 

 そろそろ、お父様達の堪忍袋の緒が切れそうだ。

 リアスとフェニックス一族の者との結婚。

 私が魔王になってしまったばかりに、リアスに面倒を掛けてしまった。

 妹にも、悪魔らしく自由に生きてもらいたいのだが、ルシファーの私が身内贔屓をするのも問題だ。

 悪魔なら、戦って、力を誇示して勝ち取らなければならない。

 さて、どうするか。

 それと、グレイフィアから新しい報告が来た。

 どうやら彼、上代徹君はリアスと仲が良いらしい。良い事だ。

 上代徹君は堕天使を傍に置いているらしいが、悪魔にも関係なく接する事が出来るのか。

 亡き神が率いる天使の連中とはまだ接触していないが、彼は神側にも同じように接する事が出来るのだろうか?

 そう考えていると、グレイフィアが笑っていた。仕事中に表情を崩すのは珍しい。

 どうやら私は、上代徹君の事を考えている時は、楽しそうではなく、嬉しそうなのだとか。

 

 

 

 △月G日

 

 以前からお父様から呼び出されていたので応じると、フェニックスの嫡男が家に居た。

 どうやら、リアス本人ではなく、外堀から埋めていくという事らしい。

 話した限りでは、そう悪い青年には思えなかった。

 女性に軽薄そうではあるが、それもまた男と言うものだ。

 グレイフィアは、あまり良い顔はしていなかったが。

 お父様の方は、今回の婚約には乗り気のようだ。

 お母様は――嫌なら実力で乗り切れとの事。うん、いつものお母様で安心した。

 丁度良かったので、フェニックス君の話を聞いた後、お父様達に面白い人間が居る事を伝えた。

 『神器』の能力は隠したが、中々に面白い逸材だと。

 堕天使を傍に置きながら、悪魔とも親交を深めている上代徹という人間。

 会って話がしたいものだ。

 グレイフィアにそう話したら、怒られた。

 ふむ、どうにかして話し合いの場を設けられないものか。

 

 

 

 △月H日

 

 フェニックス君が、明日リアスと会うようだ。

 昨日の今日で気が早いと思うが、それも悪魔らしくある。

 それを聞きつけたリアスが行動を起こしたようだが――ふむ。

 グレイフィアに、その場に上代徹君と一緒に行くように伝えた。

 リアスは絶対に駄々をこねるだろう。あの子はそういう子だ。

 なら、決着は悪魔らしく『レーティングゲーム』でつけさせよう。

 妹をダシに使うのは少し気が引けるが、『神滅具』と『時間の神器』の能力を見る良い機会だ。

 上代徹君を参加させることはできないが、彼が仲間想いな人間なら何か行動を起こすかもしれない。

 うん、我ながらいい考えだ。

 グレイフィアが淹れてくれた紅茶が酸っぱかった。

 

 

 

 △月J日

 

 赤龍帝は『兵士』として、上代徹君は『審判』として『レーティングゲーム』に参加する事になった。

 絶対にその日は予定を開けておこう。

 グレイフィアにもそう伝え、最悪、ベオウルフかマグレガーに仕事を代わってもらおうと思う。

 

 

 

 △月K日

 

 グレイフィアが、珍しく他人を褒めていた。

 それが、気になっている上代徹君ならば、私も嬉しく思える。

 本当に彼は、悪魔や堕天使と分け隔てなく接するらしい。

 そう言う存在は貴重だ。

 誰もが、光か闇のどちらかへと傾いてしまうのだから。傾かない彼は大事にしないといけない。

 

 

 

 △月L日

 

 今日はフェニックス一家と会食をした。

 中々に楽しい時間だったが、ありきたりな問答ばかりで疲れた。

 しかし、困った。

 今度の『レーティングゲーム』当日に、暇を作るのが難しそうだ。

 明日にでも、ベオウルフを呼び戻そうと思う。

 今は修行の為にどこかの森で過ごしているのだったか。

 場所が判っているから、マグレガーでもいいが、アレは興味を惹かれないなら動かないので説得に時間がかかって困る。

 禁術には興味を示すが、『神器』にはそれなりなので、とりあえず使い魔を送って説得してみよう。

 

 

 

 △月*日

 

 やっとベオウルフが帰ってきた。

 私にこうやって呼ばれるのも慣れているようで、仕事の引き継ぎは簡単なものだ。

 手伝ってもらいながら、次の『レーティングゲーム』へ思いを馳せる。

 ゲームを楽しみだと思えるのは久しぶりだ。

 ベオウルフが、泣きながらグレイフィアの紅茶を飲んでいた。

 そんなに美味しかったのだろうか?

 

 

 

 △月:日

 

 フェニックス君が上代徹君と接触したようだ。

 会話の内容は世間話程度だったようだから、問題はないだろう。

 彼が『神器』に気付いた様子もなさそうだった。

 まぁ、私が人間に興味を持っているというだけでも、他の連中からしたら問題なのか。

 目立ち過ぎるのも問題だ。

 

 

 

 △月@日

 

 明日は『レーティングゲーム』の日だ。

 楽しみにし過ぎている感はあるが、楽しみなので仕方がない。

 グレイフィアに子供のようだと何度も怒られてしまった。

 子供は嫌いかい? と聞くと何を想像したのか、頬を染めていたが。

 そういう、初々しい反応は相変わらずだ。

 いつまでも、この初々しさを失くさないでほしいと思う。

 それはそれとして、ミリキャスにそろそろ弟か妹でも――

 

(文字が潰れていて読めない)

 

 

 

 △月○日

 

 今日はベオウルフに仕事を任せて、一日オフだった。

 力押しの『レーティングゲーム』は初心者らしさがあって楽しめた。

 上級悪魔のゲームとなると、読みが重要になり過ぎて、見る方も頭を使わないといけないからね。

 初心に返って楽しめた。

 しかし、上代徹君の『神器』を見れなかったのは残念だ。

 まぁ、目立たず、普通を演じる彼がグレイフィアの前で『神器』を使うはずもないか。

 でも、明日はリーアの婚約パーティだ。

 友人席に彼を招くことになっている。グレイフィアには黙っていた。絶対に反対されるからだ。

 だけど、もう招待の準備も出来ているから、今からの変更はいくらグレイフィアでも難しい。

 これでようやく、彼と話す事が出来る。

 リーアの方は、初めての戦いが敗北で傷付いただろうが、また戦えばいい。

 敗北から這い上がるというのも悪くないものだ。

 今回の婚約パーティも、少しだけ根回しをした。

 妹が本当に配下を愛し、配下から愛されているなら、まだ覆せる。

 総司とベオウルフに上代徹君を迎えに行ってもらう事にしているし、問題も無いだろう。

 流石にバハムートは無理だった。人間界では目立ち過ぎるか…。

 仕事の調整に疲れた……。

 

 

 

 △月□日

 

 グレイフィアには赤龍帝の迎えに行ってもらっているので、少しだけ一人の時間だ。

 上代徹君を待っていると、招待していないはずのセラフォルーが来ていた。

 相変わらずの自由な行動に苦笑してしまった。

 だが、折角の客を無碍にも出来ないので話し相手になる事にする。

 どうやらこの魔女も、お目当ては上代徹君のようだ。

 そう言えば、妹君が駒王学園の生徒会長だったか。

 知っているのはおかしくないが、少しばかり予想外だった。

 妹君以外に興味を示すなんて珍しい、という意味で。

 なんでも、ソーナちゃんに寄る悪い虫かもしれないので確認に、との事。

 なるほど、判る気がする。

 まぁ、彼は堕天使を傍に置いているようだから、大丈夫だと思うが。

 しかし、パーティというのは面倒だ。

 魔王という肩書に寄ってくる者も少なくない。

 お父様達と合流すると少しは落ち着き――丁度、上代徹君も案内されてきた。

 グレイフィアの報告にあった通り、本当に特徴の無い、普通の外見に、普通の雰囲気。

 何処にでもいる普通の人間。……だからこその違和感があった。

 普通過ぎるからこその違和感。それを纏った人間だ。

 とても、この少年が『神器』を持っているなどと信じられない。

 何の力も無い一般人だと言われた方が、よほど納得できる。

 挨拶を済ませ、酒を勧める事にする。

 今日はせっかくのパーティだ。楽しまなければ損だろう。

 何はともあれ、酒だよお酒。

 親交を深めるにはお酒に限る。

 上代徹君は酒もいける口らしく、全然酔うそぶりを見せない。もしくは顔に出ないのか。

 話題は学園の事、それと前回の『レーティングゲーム』の事。

 どうしてリーアに手を貸さなかったのか聞くと、アレはリアスの戦いだから、だと。

 友人の危機でも、それでもリーアの意思を尊重してくれたのだ。

 力ある者は力を振りかざし、物事を自分本位に進めてしまう。

 だが彼は、それを自制できる意志の強さを持っている。

 強力な『神器』を持つに相応しい精神力だ。ますます好感が持てる。

 それに、堕天使を傍に置く理由も、困っていたから、だ。

 そんな理由で、悪魔の学園に通う人間が堕天使を傍に置くというのだ。もう、笑うしかない。

 下手をすれば、悪魔からも堕天使からも目の敵にされるというのに。

 何も考えていないのか、誰よりも思慮深いのか。懐が大きすぎる人間だ。

 『神器』を見せてくれと頼んだら、流石に断られたが。

 この人間との会話は面白い。

 悪魔は悪魔を、堕天使は堕天使を、天使は神を尊重する。

 そのどれもを尊重しようとする彼の考えは、本当に面白い。

 グレイフィアの事をどう思っているか聞くと、嫌われていると思っているようだ。

 何処をどうしてそう思ったのかは判らないが、それは無いだろう。

 君の事を報告する時は、少し楽しそうだったからね、と。

 そう伝えると苦笑していた。

 まぁ、仕事中は表情が硬いからね。

 セラフォルーは、彼が普通過ぎてあまり面白くなさそうにしていた。

 

 

 

 

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 そうこうしていると、ようやくこの婚約パーティのメインが登場した。

 兵藤一誠、赤龍帝を宿したリアスの『兵士』だ。

 グレイフィアの案内で、彼はここまでたどり着いた。

 さて、昨日のままではリーアには届かないが、どうだろうね、と聞くと彼は笑っていた。

 酔っているからか、それとも――赤龍帝を信じているからか。

 多分後者だろう、と簡単に想像できる自分を笑ってしまう。

 会って間もないというのに、こうも彼を理解できてしまっているのだから。

 あとはお膳立て通りに、赤龍帝とフェニックスの一騎打ちを演出する。

 さぁ、リーア。この楽しい時間を作る為に巻き込んで悪かったね。

 後は君の赤龍帝の力を信じさせてもらおう。

 『禁手』に至った赤龍帝と、不死のフェニックス。

 若い彼と、戦いに慣れた不死鳥ではどうなるかな、とリーアには悪いが心中で楽しんでしまう。

 しかし、残念にも勝負にもならなかった。

 上代徹君が赤龍帝に力を貸したからだ。

 彼が取り出した懐中時計は、銀色だった。淡く輝く時計は、不覚にも綺麗だと感じ、数瞬見惚れてしまうほどだ。

 力は微々たるもの。魔力ではない――生命の力。命を削る力だ。

 だが、その微々たる力で、彼は赤龍帝を世界の理から外してみせた。

 僅かな時間、十数秒という時間だけ――赤龍帝を、時間にも世界にも縛られない存在へと押し上げた。

 ――出鱈目だ、と。

 時間の支配? 世界の変質? それとも運命の変革か?

 そのどれもが違うようで、そのどれでもあるような気がする。

 全く未知の『神器』。アザゼルはこの事を知っているだろうか?

 どうしようもない好奇心が胸を満たした。

 それはセラフォルーも同じだったようで、その瞳が輝いていた。きっと私もだろう。

 私の滅びの力。セラフォルーの絶対的な魔力。

 それに匹敵――もしかしたら凌駕する生命の力を人間が使ったのだ。

 これに心が躍らない魔王が居るだろうか? いや、いない。いるはずがない。

 アジュカやファルビウムも、きっと同じだろう。

 魔王と同格の力――それを振るう人間。

 それが上代徹。普通の人間を演じる、普通ではない人間。

 仲間を尊重する心と、自身を律する意思、そして友を救う想いを持つ者。

 誰よりも、何者よりも、人間らしい人間。

 祝福するかのように揺らされる懐中時計の輝きは消えていた。

 だが、本当に、心から楽しそうに笑うその横顔が輝いて見えた。

 ああ――これが人間なのだ、と。

 どうしようもなかった。悪魔は欲に忠実なのだ。

 別れ際に、『悪魔の駒』を彼に渡した。

 何を思ったのか、『僧侶』の駒はセラフォルーが持っていた物だ。

 この魔女も上代徹を気に入ったのだと思うと、なぜか私も嬉しくなる。

 面白い人間だ。どうしてか、強く興味を惹かれる。

 その生き方か、在り方か、その銀に輝く魂の色か……自分でも判らない。

 ルシファーとレヴィアタンの駒を持つ人間など、『レーティングゲーム』が始まって以来存在しない。

 いや、これからも存在する事は無いだろう。

 だが、『女王』の駒を堕天使へ渡す姿には、何の気負いも無い。

 魔王という存在をどう考えているのだろうか?

 きっと、何とも思ってないのだろうとは予想が出来た。

 この人間は、そういう人間だ。

 だからこそ、欲しい。

 この人間を、悪魔に――堕としたい。

 

 

 

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 グレイフィアに怒られた。

 烈火のごとく、ではなく、延々と、静かに、冷たく――だ。

 しばらくは、徹と会う事は出来なさそうだ。……ショックだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公は神器使いではなく神器持ち。これ重要。

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