とある神器持ちの日記   作:ウメ種

164 / 195
ヴァレリーとエルメンヒルデ。
どっちにするか迷った。マジで。


154(吸血姫日記)

 

 

 !月C日

 

 戦線が押されるようになって、今日で何日目だろうか。

 配下の実力に、差が出始めている。

 カーミラ様も危惧されていたが、一体何が原因なのだろうか。

 純血の吸血鬼ならともかく、その配下――しかも下級の吸血鬼のソレだ。

 あの程度の傀儡に、目立った差など無いはずなのだが。

 

 現実に戦線が押されつつある。

 

 

 

 !月F日

 

 どうやら、ツェペシュ側に『神滅具』の使い手が現れたようだ。

 なるほど、だから戦線が押され始めたのか。

 間諜の調べでは、現れたのは『神滅具・幽世の聖杯』。

 しかもそれを宿したのは、混血の娘なのだとか。

 ツェペシュの娘。ヴラディの所のバケモノと同じ、混血。

 『神器』持ちが混血に多く生まれるというのも、あながち間違いではないのかもしれない。

 しかもこのタイミングとなると、恐らく隠していたのだろう。

 相変わらず汚い相手だ。

 

 

 

 !月H日

 

 『幽世の聖杯』の異能の詳しい情報が無い。

 調べてみたが、生命に干渉するといった情報ばかりで、詳しいものが無い。

 だが、これだけ戦線に差が出てきているのだ、ツェペシュ側にはこちら以上の情報があるのだろう。

 面倒な事になった。

 

 

 

 !月L日

 

 カーミラ様が、『幽世の聖杯』を危険視されている。

 たかが『神滅具』一つ、と簡単に言えない事が苛立たしい。

 配下ではなく吸血鬼が前線に出て盛り返してはいるが、このままでは押し返されるだろう。

 ツェペシュ側は配下の強化を優先しているようだ。

 このままでは物量で押し潰される――とは思いたくない。

 まだこちらにも余裕はある。

 そう焦る必要も無い。

 

 

 

 !月M日

 

 ――なるほど、と思った。

 なぜツェペシュ派がこうも強硬な手段で戦線を押し返しているのか。

 いくら配下を強化したとはいえ、犠牲というものを数にするなら、明らかにツェペシュ側のほうが死者が出ている。

 それでも挑んでくるのは、犠牲の全てが実験の失敗作だからか。

 『吸血鬼の弱点』の克服。

 正直、実感が無い。

 日光、流水、聖水、十字架……。

 その弱点を克服したとして。はたしてそれは、吸血鬼と言えるのだろうか?

 私達の誇りは、その全てを受け入れてこそなのではないのか?

 やはり、ツェペシュ側の考えは理解できない。

 それに『禍の団』とかいうテロリストを懐に招き入れているようだ。

 どうしようもないな、アレ等は。

 

 

 

 !月N日

 

 日本に行く事になった。

 ……どうして私が。

 それも、よりによって混血の迎えになど。

 ギャスパー・ヴラディ。『神器』を持って生まれてきた、ヴラディ家のバケモノ。

 あんなモノが必要となるほど、私達が追い詰められているとは思えない。

 しかも、吸血鬼の誇りを捨て、悪魔に転生したのだと風の噂で聞いている。

 そのような存在に、どんな価値があるというのか……。

 カーミラ様は万全を期すためと言っていたが、あんなバケモノが居なくても……。

 

 

 

 !月O日

 

 明日、ギャスパー・ヴラディ及びソレの『主』であるリアス・グレモリー、

 元堕天使側の総督・アザゼルに、天界側の代表としてガブリエルの『クィーン』グリゼルダと会談する事になった。 

 正直、気が乗らない。

 吸血鬼だったモノと吸血鬼でもないモノを相手にするのは苦痛でしかない。

 カーミラ様は、ギャスパー・ヴラディを手に入れる為なら、悪魔側と和平を結んでも良いと言っておられた。

 それほどの価値があるのだろうか、混血のバケモノに。

 

 

 

 !月P日

 

 ギャスパー・ヴラディをこちらに貸すだけで、吸血鬼は和議のテーブルに着くと言っているのに。

 なにが不満なのか理解できない。

 グレモリーの血族は身内に深い情を抱くというが、アレではただ身内に甘いだけではないか。

 私達は、吸血鬼の問題を吸血鬼の力で解決したいだけなのだが。

 ――アレを吸血鬼とは、呼びたくないが。

 混血。しかも、吸血鬼をやめたモノ。

 しかも、人間などに心を開いていた。

 天使、悪魔、堕天使、ドラゴン。

 様々な物を従えていた人間ではあるが、所詮は吸血鬼の餌でしかない種族だろうに。

 あんな物に心を許すなどと、やはりアレは、悪魔に成り下がる事で、吸血鬼の誇りを失くしたのか。

 

 ツェペシュ側の『神滅具』持ちのヴァレリーとの絆を口にしてみたが、どうにも手ごたえが無かった。

 同じハーフ。混ざり者同士、惹かれる物があるかも、と思ったのだが。

 

 

 

 !月Q日

 

 グレモリーの姫が、ルーマニアへ来ることになった。

 補佐として堕天使の元提督と『騎士』の追従を要求してきたが。

 こちらの現状を把握し、ギャスパー・ヴラディの扱いを考えるそうだ。

 回りくどい。

 我々吸血鬼との和議を本気で考えているなら、配下の一体など安いものだろうに。

 

 

 

 !月R日

 

 コウモリを飛ばしてギャスパー・ヴラディを監視していた。

 先日会った人間に、今回の事を相談していた。

 本当にアレは……誇りというモノが無いのだろうか。

 人間に泣き付くなど――。

 たかが、少しばかり強力な『神器』を持っているだけの人間だろうに。

 

 

 

 !月S日

 

 あの人間の事を調べてみると、凄まじいというよりも恐ろしくなるな。

 死者の蘇生、時間の操作。

 目を惹く戦績だけでも、テロリストの撃退から、冥界の防衛。

 ただの人間とは思えない情報ばかりだ。

 興味が湧いた、とも言えないが、少し話してみた。

 話してみたが、やはりどこにでもいるような人間だ。

 あんな男が、情報通りの働きをしているとはとても思えない。

 ――思えないが、事実としてあの男は冥界を救っている。

 『無限の龍神』オーフィスを手元に置いている。

 だというのに、私に名前を呼ばれただけで嬉しそうに笑う。何が嬉しいのか…。

 よく判らない、変な男としか思えないのだが。

 

 

 

 !月T日

 

 リアス・グレモリーがルーマニアへ来るのは今日だったはずだ。

 少し距離が離れることになるが、監視を残して私も日本を後にしている。

 戦線は、私が離れていた間には、目立った動きは無かったようだ。

 動きが無かったという事は、それだけ配下達の『強化』が進んだと考えるべきか。

 元堕天使総督アザゼルが言っていたが、『幽世の聖杯』は聖遺物に数えられる『神滅具』。

 起こせる奇跡も相応荷凄まじいものなのだそうだ。

 あの男の知識は便利に使えそうだ。

 

 

 

 !月X日

 

 ツェペシュ側に動きは無い。

 グレモリー達はここ連日、書庫で情報を集めている。

 カーミラ様と顔合わせを済ませてからは、ずっとそうだ。

 吸血鬼との和議よりも、ギャスパー・ヴラディがどうして『バケモノ』なのか知りたいようだ。

 アレは、産まれた時からバケモノなのだ。

 そうとしか言えない。その言葉以外が判らない。

 日本の方も、残した監視からの情報は碌なモノが無い。

 学業と激しい訓練の繰り返し。

 あの人間に至っては、毎日をのんびりと過ごしている。

 配下の連中は訓練を行っているようだが。

 随分と余裕な事だ。

 

 

 

 !月Y日

 

 あの男の配下が攫われた。

 攫ったのは『禍の団』とかいう、ツェペシュ派に力を貸している連中の一部だ。

 面白い事になりそうだ。

 冥界を救ったという力、見せてもらうとしよう。

 それに、最近になってからよく噂で聞くようになった赤龍帝。

 ツェペシュ派の動きも無い。娯楽というには、少しばかり悪趣味だろうか?

 さて――どうなる事か。楽しませてくれ、人間。

 

 

 

 !月Z日

 

 監視に置いていたコウモリを消滅させられた。

 流石に、『無限の龍神』の攻撃には、余波だけでも耐えられなかったか。

 グレモリーの眷属も爆発力がある事で有名なようだが、こと攻撃力だけなら桁が違う。

 アレが冥界を救った力か。

 全部を見た訳ではないが、コウモリからの情報だけでも凄まじさは理解できた。

 『無限の龍神』に、光の槍を使う『女王』。

 『僧侶』は補佐、『戦車』は護衛といったところか。

 そしてその『王』は時間を操り、最善の状態で味方を維持する。

 カーミラ様に伝えたが、吸血鬼の問題は吸血鬼で、と言われた。

 そうだろう。私もそう思う。

 だが、あの男を動かせれば、随分と楽になるのだが。

 

 

 




とりあえず、十四巻分。
次回が十六巻分かな?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。