とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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十七巻がルーマニアに行っちゃった……追いかけないと(使命感


149(メイド日記 エピローグ)

 

 !月Z日

 

 まだ、不思議な感覚が残っている。

 小猫が攫われた。いつもは冷静なはずの黒歌が落ち込んで、徹様が慰める。

 ロスヴァイセ様も心配していたし、多分、オーフィス様も。

 私も、心配していた。

 無事に戻ってきてくれて、本当に良かったと思う。思っている。

 

 でも……あの感覚は何だろうか。

 『邪龍』グレンデル。アレと戦った時の魔力の高まり。

 一撃だけだったが、私の槍が龍の鱗を貫いた。

 今はもうあの感覚は無いが――あれが、オーフィス様の魔力なのだろう。

 あの力を使いこなしたい。

 

 

 

 !月/日

 

 トオル様が倒れられた。

 小猫を誘拐した相手に対して、オーフィス様と大立ち回りをした所為だろう。

 小猫は悪くないのに、気落ちしていた。

 あの子が友人や一般人の為に無理をしたのは、悪い事ではない。

 悪いのは、徹様を戦わせてしまった私達。

 私がもっと強かったら。オーフィス様の魔力を、もっと上手く使いこなせていたら。

 強くならないといけない。

 魔力の使い方も、槍の使い方も、魔法も、魔術も、仙術も。

 私には才能が無いから。

 

 

 

 !月!日

 

 徹様が目を覚ました。

 今回は、随分早く落ち着かれた。

 戦いに慣れてきたのか、『神器』に馴染まれているのか。

 そもそも『セイクリッド・ギア』ではなく『神の器』。

 その違いがどこに在るのかも、私達には判らないのだが。

 黒歌も、調べようにも情報が何も無いと言っていた。

 すぐに目を覚ましてもらえたのは嬉しいが、複雑だ。

 体調を崩さないのが一番。戦わないのが一番。

 黒歌は、多分この家で、一番徹様を心配している。

 そして、徹様の幸せを願っている。

 徹様が倒れている時、自分も不安なのに、励ましている姿を知っている。

 ――黒歌は強い。

 私も、黒歌のように強くなりたい。

 徹様が倒れないで済む、そんな強さが。

 

 

 

 !月”日

 

 オーフィス様に聞いたが、どうにも上手く魔力を使えない。

 あの時は、小猫を攫われた事で、怒りを『禍の団』に向けた。

 グレンデルという判りやすい敵に、その全部を向けた。

 感情の波だろうか。

 黒歌はそう言っていた。

 だがそれだと、四六時中怒ってないといけない。それだと非効率的だ。

 『無限の魔力』を使いこなすのは、難しそうだ。

 それに、今の私では、まだオーフィス様の魔力に耐えられないと言われた。

 これはオーフィス様自身から。

 私が脆いから。

 『無限の龍神』からしたら、ただの一堕天使は脆いとしか言えないか。

 才能が無いならせめて、頑丈でありたかった。

 

 

 

 !月#日

 

 少し、笑ってしまった。

 白音と徹様に呼んでほしいと言った。

 でも、塔城と今まで通りに呼ばれて拗ねていた。

 徹様も悪気はなかったようだが、私もそれは駄目だと思う。

 好きな人に特別な呼ばれ方をするのは、とても特別な事だから。

 私も、小猫の気持ちは判るから。

 それと、私も白音と呼ばせてもらえるようになった。

 この家の中で、小猫は白音になった。

 ――でも。その事で一番喜んでいるのは、白音ではなく黒歌だと思うのは、私だけだろうか?

 仲が良い姉妹だと思う。羨ましいと、そう思えるほどに。

 

 

 

 !月AA日

 

 グレイフィア様が、冥界で疑われている。

 白音が誘拐された時に現れた、グレイフィア様の弟と名乗る男。

 現魔王の『女王』の身内にテロリストが居るというのは、私達が考えるよりもずっと重い事のようだ。

 ……グレイフィア様がサーゼクス様を裏切るなど、あるはずがないのに。

 徹様も、グレイフィア様の事を心配されていた。

 私があの時、もっと上手く立ち回っていれば。

 怒りに任せて戦わず、グレイフィア様の弟と名乗った時、あの男を捕えていれば。

 ――私はいつも、後悔ばかりしている気がする。

 そんな私を黒歌は笑って慰めてくれる。

 これだと、どちらが『女王』なのか判らない。

 

 

 

 !月AB日

 

 『強い』とは何だろう?

 『女王』に必要な強さと言われても、よく判らないのは、私が弱いからだろうか?

 今日、グレイフィア様からの言伝を、ベオウルフ様と炎駒様から頂いた。

 白音が攫われた時、私は怒りに任せて戦うべきではなかった。

 荒事は他の配下や、兵藤君達に任せて、私は『女王』として徹様を守るべきだった。

 私が怒りに任せて戦ったから、徹様が倒れた。

 敵を打倒するのではなく、主人を守る強さを持て、と言われた。

 判らない。

 それは、一緒ではないのだろうか? そう思ってしまう。

 力を持たない無力な堕天使だったから、今は力を手に入れ、力に酔ってしまっているのか。

 

 徹様は、私が目指す『女王』になってくれ、と言っていた。

 私が目指す『女王』。

 ――徹様に相応しい。

 きっと、それだけでは駄目なんだと思う。

 

 

 

 !月AC日

 

 徹様に『女王』の駒を貰った時、その信頼に応えられるように強くなりたかった。

 徹様の『女王』となったとき、主人に相応しい『女王』になりたいと思った。

 徹様の凄さを感じる度に、置いて行かれないように、隣に並べるように、力を求めた。

 ――力を手に入れて、強くなって、私は天狗になっていたのだろうか?

 判らない。

 だが、グレイフィア様からの言葉だ。

 きっと意味があるはずだ。

 『女王』としての強さとは何だろう。

 徹様の為に戦う力。配下の、家族の為に戦う力。

 ソレとは違う力。

 

 

 

 !月AD日

 

 黒歌に先日の事を聞いてみたが、はぐらかされた。

 私自身が気付かないと意味が無いと言われた。

 ……何でも答えを聞こうとするのは、私の悪い癖だと思う。

 それに、黒歌も悩んでいた。

 白音が攫われた時、黒歌も感情的だったから。

 その事を気にしていた。

 黒歌はお姉さんなのだから、感情的になるのは当たり前なのに。

 黒歌にそう言われると、私はどうすればいいのか。

 ……本当に、黒歌は凄い。

 徹様にも、黒歌にも相応しい『女王』になりたいと思う。

 とても優しい二人だから。

 その二人に、胸を張って『自分の女王』だと言ってもらえるような『女王』に。

 

 

 

 !月AE日

 

 ヴァーリ様達が家に来られた。

 なんでも、アザゼル様から声が掛かるまで時間が出来たので、遊びに来たそうだ。

 アザゼル様はルーマニアの方に、吸血鬼の問題を解決しに行かれている。

 『神滅具』が関わっているという話だったから、同じ『神滅具』使いのヴァーリ様の力を必要とされているのだろう。

 元テロリストと書くのもどうかと思うが、それでも頼られるのはヴァーリ様が強いからだろう。

 戦力として、そして信頼されるほど。

 徹様とも、とても仲が良い。

 美猴様もルフェイ様も、この家に居る間だけでもゆっくりしてほしい。

 明日の朝食は、少し頑張ろうと思う。

 

 

 

 !月AF日

 

 徹様は、ドラゴンと特別仲良くなれる体質なのだろうか?

 オーフィス様もだし、魔獣騒動の時はグレートレッド様とも一緒に居られた。

 そして、ドライグ様やアルビオン様から相談を受けている。

 以前冥界に行った時は、タンニーン様の背に乗っていたし。

 『邪龍』グレンデルとは事を構えていたか。

 

 ヴァーリ様達に『強さ』の事を聞いてみた。

 彼らは判りやすく、戦う力。どんな時でも折れない力だと言っていた。

 それも一つの強さの形だと思う。

 私が目指していた『強さ』もそうだ。

 でも、それだけだと駄目だと言われた。

 ――徹様に相応しい、恥をかかせないで済む『女王』になりたい。

 それには、何が必要なのだろう?

 

 

 

 !月AG日

  

 ルフェイ様に、料理を教えてほしいと言われた。

 そんな事を言われたのは初めてだった。

 判りやすく教える事が出来ただろうか?

 グレイフィア様やアーシアのように、ちゃんと伝える事が出来ただろうか?

 ルフェイ様には感謝されたが。

 ……人に教えられるほど、私の料理の腕も確かなモノではない。

 徹様から、美味しいと言ってもらえた事も、あまり多くないし。

 そう言うと、ルフェイ様から美味しいと言ってもらえたが。

 やはり、ああ言ってもらえると、とても嬉しい。

 私は、料理が好きなんだと思う。

 何時から好きになったのかは判らないが。

 好きになるというのは、そういう物だと思う。

 

 

 

 !月AH日

 

 心配してもらえて、心苦しくもあり、嬉しくもある。

 複雑だ。

 主人に心配させてしまった。

 でも――嬉しかったのは本当だ。

 

 兵藤君の家のプールで一緒に泳いで、オーフィス様に泳ぎを教えて。

 ヴァーリ様はプールサイドで本を読んでばかりだった。

 美猴様は、一緒に泳いだりした。とても速かった。

 気を使ってもらったかな? そうだと思う。

 黒歌は白音やロスヴァイセ様の相手をしてくれていたし、ヴァーリ様は徹様と一緒に帰れるようにしてくれた。

 オーフィス様は一緒だったけど、今では一緒に居るのも苦ではない。

 あの方は、とても純粋だから。

 

 『強い』というのはまだ判らない。

 けど、守りたいと思うものは見つけた。いや、以前からそう思えるものを持っていた。

 あの穏やかな時間を。皆で過ごしていきたいと思った。

 その為に強くなりたい。

 徹様の分まで戦うのではない。

 平穏で、穏やかで、優しい時間を皆で過ごす為に強くなりたい。

 そう思う。そう思えた。

 黒歌にありがとうと言うと、どういたしましてと言われた。

 敵わないな、本当に。

 皆にも感謝を伝えよう。

 

 

 

 !月AI日

 

 兵藤君は、一体何をアーシアとヴァーリ様に教えているのか。

 というよりも、彼は十八歳未満だから成人指定のゲームは買えないはずだが。

 頭が痛い。

 兵藤君らしいとも思うが、それにしても、だ。

 

 

 

 !月AJ日

 

 徹様は、以前は大型犬は苦手だと言っていたが、スコルとハティで慣れたようだ。

 フェンリルにも抱きついていた。

 私としては喜ばしいが、黒歌や白音にしたら、色々と複雑なようだ。

 悪いとは思うが、笑ってしまった。

 あの姉妹は、本当に良く似ている。

 応援しているから、頑張ってほしい。

 黒歌なら、きっと徹様を幸せに出来るから。

 徹様なら、きっと黒歌を幸せに出来るから。

 白音も――。

 この家は、相変わらず平和だ。

 ロスヴァイセ様も羨ましいなら、混ざればいいのに。

 そんな姿を見ているのも楽しいのだが。

 

 

 

 !月AK日

 

 急だったが、今日からヴァーリ様達がルーマニアへ行かれた。

 無事に帰ってきてほしいと思う。

 次に来られた時、ルフェイ様の料理が楽しみだ。

 私もまだまだだから、彼女に負けないように、もっと精進しないといけない。

 この数日の穏やかな時間。

 その時間をまた楽しめるように。守れるように。

 『女王』に必要な強さというのはまだ判らない。

 けど、強くなろうと思う。

 徹様の『女王』と、胸を張って言えるように。

 胸を張って、自分達の『女王』だと言ってもらえるように。

 

 




200万UAありがとうございますっ
お気に入り8000突破ありがとうございますっ
これからも頑張りますw

これからしばらくは、レイナーレさんは『強さ』探し。
十八巻を早く書きたいw

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