とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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グレイフィアさん、大好きなんだ。


135(女王日記 エピローグ)

 B月B日

 

 今回の騒動で、冥界が受けた傷は大きい。

 首都リリスまでの侵攻は防げたが、冥界の至る所が破壊されてしまった。

 目立つ所は復興を開始しているが、辺境などの復興には時間がかかるだろう。

 だがそれでも――被害ほどに、死者が出ていないのは喜ぶべき事か。

 上代徹…彼にはどれほど感謝してもし足りない。

 彼がグレートレッド、オーフィスの攻撃を受けてくれなければ、そもそも冥界自体が存在出来ていたか怪しいのだから。

 そのお蔭で、今まで隠していた彼の素性の一部を世界に発信してしまったのはこちらの落ち度だ。

 サーゼクスはどうにかして彼を隠そうとしていたが、今となっては難しいだろう。

 『無限』と『夢幻』と共に『次元の狭間』から帰還を果たし、冥界を破壊し尽くそうとしていた魔獣たちを歯牙にもかけず殲滅した人間。

 ……溜息しか出ない。

 彼は、これから様々な勢力――そして権力者から狙われるだろう。

 命ではなく、力を。

 そして、彼の『女王』であるレイナーレも。

 今は冥界…そして世界も混乱している。

 この混乱が収まったなら、彼らには今までとは違う戦いが始まるだろう。

 政争。

 まだ早い。早すぎる――上代徹はともかく、レイナーレが権力者たちの腹の探り合いを潜り抜ける事が出来るだろうか?

 心配だ。

 

 

 

 B月C日

 

 レイナーレは、良い友人、師に恵まれているようだ。

 オーフィスの魔力を宿し、少し有頂天になっているかとも思ったが、伸びた鼻は彼女の師にへし折られていた。

 黒歌、ロスヴァイセ。仙術と魔術の師。

 良い師だ。そして、心強い友人だ。

 魔力だけなら、恐らくレイナーレは私にすら迫るモノを得たはずだ。

 それほどまでに、オーフィスの血の力は強力なようだ。

 だが、彼女はまだ魔力の制御も甘いし、その魔力を生かす術も持っていない。

 まだまだ、土台作りの段階なのだ。

 だからこそ、半端な力に溺れるか、とも心配したが……それは杞憂だったようだ。

 取り敢えず、今は私が口を出す必要も無いようだ。

 これからも、私が見ていない所でも励むだろう。彼女の努力は、私も知っている。

 暇を作って確認に行けば、彼女は私の要求に応えてくれる。

 完璧ではないが、完璧に近い形で私の期待に応えてくれる。

 サーゼクスやアザゼルは私も良い師というが、彼女は良い弟子だ。

 私や黒歌、ロスヴァイセの要求に応えようと努力し続ける事が出来ている。

 だからこそ、中級堕天使として見下されてきた彼女が、曹操のような『英雄』を打倒しえたのだろう。

 戦い方、メイドとしての心得――次は、権力者たちからの身の守り方。

 ――彼女が学ばなければならない事は多い。

 楽しみだ。

 きっと、彼女ならばその私の希望にも応えてくれることだろう。

 そう信頼している。

 そう……その時は、一人前と認めてもいいかもしれない。

 いまはまだ、やはり半人前といった所だ。

 まだ――一人前と認め、努力を怠らせる訳にはいかない。

 

 

 

 B月E日

 

 やるべき仕事が多い。

 壊された道の舗装に、家の修繕、材木の確保、人材――金。

 天界や『神の子を見張る者』からもいくらかの援助を受けているが、それでも全然足らない。

 だが逆に、怪我人は被害の割には少ないので仕事を求める悪魔達が殺到している面もある。

 魔王様方も休み無しで働いている、私がねを上げる訳にも行くまい。

 ここ数日、ミリキャスとはあいさつ程度の会話しかしていない。

 ……落ち着いたら、少しは母親らしいことをしたいと思う。

 サーゼクスとも、仕事の話しかしていない。

 ――甘えたい。

 

 

 

 B月G日

 

 上代徹がオーフィスを保護した事を、上級悪魔達が危惧している。 

 どうしようもない事だ。

 そもそも、上代徹とオーフィス、そのどちらか片方だけでも手に余るのだから、下手に刺激するよりも願いを叶える方が安全だろう。というのがサーゼクスの言い分だ。

 恐らく本心は、上代徹の願いをかなえたいだけだろうが。

 ……彼は本当に、上代徹に甘い。

 少し――少しだけ、嫉妬してしまいそうになるほどに。

 その優しさを、少しでも私やミリキャスに向けてほしいものだ。

 ……まぁ、彼の優しさは知っているが。

 それでも、やはり私だけを――家族だけを見て欲しいと思ってしまうのだ。

 欲張りなのだ。私は。

 悪魔なのだから、欲張りで当然なのだが。

 

 

 

 B月H日

 

 さっそく北欧の主神が上代徹に接触した。

 おそらく、オリュンポス等の神話体系の神々も近く、彼に接触を図るだろう。

 そして、私の手元にも、その旨を記した手紙が多く来るようになった。

 上代徹――そして、レイナーレへ宛てられた手紙。

 冥界を救った英雄と繋がりを欲し、英雄を倒した『女王』と契約を結びたいとの事だ。

 馬鹿らしい。

 半端な実力しかない権力者では、彼らを御する事など出来はしないだろう。

 サーゼクスのストレスも溜まってきている。

 妬ましい……私にこのような手紙が来たなら、サーゼクスは嫉妬してくれるだろうか?

 ……そんな事を考えるのも馬鹿らしいことか。

 

 

 

 B月I日

 

 久しぶりに、一日休みを取る事が出来た。

 ミリキャスには不便な思いをさせていると思う。親として傍に居るよりも、魔王と『女王』としての仕事を優先急いてしまっている。

 その事を責める事無く笑ってくれるのだから、本当に良く出来た息子だと思う。

 今日は一日一緒に居て、遊んであげた。

 サーゼクスも一緒にだ。定期的に、こういう日を設けていきたい。

 それにしても、サーゼクスは本当に子供が好きだと思う。

 ……そこで特撮の話が出るのも、サーゼクスらしいのだが。

 もう少しネーミングセンスはどうにかならないのか。

 ミリキャスも楽しんでいたので、どうにも複雑だが……。

 

 それにしても、ミリキャスには本当に寂しい思いをさせてしまっている。

 

 

 

 B月L日

 

 不思議な事に……という訳でもないが、サタンレンジャーの視聴率が凄い勢いで上がっている。

 理由は簡単だ。推理するまでも無い。

 ――前回の件で、上代徹が目立ってしまったからだろう。

 名前や素性まではまだ浸透していないようだが、冥界の異変の際に彼が冥界全体に行った修復は、まさに時間を操る者のソレだった。サタンレンジャー…サタンシルバーを知っている者なら、その答えに辿り着いたのも頷けるというものかもしれない。

 特撮のヒーローが現実に、というのも「おっぱいドラゴン」の前例があるので受け入れやすいのかもしれない。

 上代徹のお蔭で冥界は救われた様なものなのだが、やはり色々と複雑な気分になる。

 サーゼクスとしても、複雑なようだ。

 上代徹が世界の表舞台に立つ。その流れは止められない。

 だが、その時期を近づけてしまっているのは冥界なのだから。

 

 しかし、その人気を生かして映画の第二弾を構想するのはどうかと思う。

 今の冥界はテロ行為の所為で誰もが心の傷を負っている。

 冥界を救ってくれた英雄の映画を作り、士気を高める――という見方もある。

 本当に、複雑ではあるが……しょうがない、という思いもある。

 ――またあの衣装を着ないといけないのかと思うと、溜息しか出ない。

 

 

 

 B月M日

 

 北欧の主神、オーディン殿から上代徹の事で質問を受けた。

 質問されたのはサーゼクスだが。

 彼が何者なのか、冥界は彼にこれからどう接するのか。

 北欧は、彼を敵視もしていなければ、仲間意識も持っていないと言っていたが、どこまで本当か。

 少なくとも、あの傲慢な神から接触してきたのだ、何かあったのだろう。

 上代徹の傍には、北欧の戦乙女が居る。

 ――彼は、身内にはどこまでも優しい節がある。あの戦乙女を身内とみているなら、オーディン殿はある意味で『邪魔』なのだろう。

 

 冥界は、彼に返しきれない恩がある。彼を裏切る事はしない、というのがサーゼクスの意見だ。

 魔王ルシファーとしての意見。

 他の魔王様方も――少なくとも、魔王レヴィアタン様も同じ意見だろう。

 彼女も何かと彼を気に掛けているようだし。

 今この状態で北欧と戦争を、というのは起こらないようだが……。

 オーディン殿。北欧の主神であり、必中の神槍を持つ神。

 上代徹は、アレと事を構えるのだろうか?

 それでも、あまり心配ではないのだが。

 それに、そうなったなら、レイナーレを出来る限り鍛えようと思う。

 偽りの神槍が、本物を穿つ。そういう物語も悪くない。

 ――それが、誰からも見下されていた彼女なら、尚更だ。

 

 

 

 B月O日

 

 『神の子を見張る者』から、シェムハザ様とバラキエル様が訪ねてきた。

 上代徹とどう接するべきか、という事だ。

 今はアザゼル様に任せて対応してもらっているそうだ。

 ……総督の座を退いたというのに、いまだに『神の子を見張る者』につくしているのか、あの研究者は。

 まぁ、そんなつもりは無いだろうが。

 難儀なものだ、と思う。少しだけなら、同情しても良い。

 同じ立場になろうとは思わないが。それなりの距離で接すればいいと思う。アザゼル様のように近づき過ぎなければ、とも。

 サーゼクスとしては、もっと頼ってほしいらしいが。勘弁してほしい。

 これ以上私たち家族との時間を削るつもりか、というと困っていたが。

 今までも随分と我慢してきたが、あの発言だけはどうかと思う。

 そろそろ、もう少し父親としての立場というものを判ってほしい。

 なので今夜は頑張ってもらおうと思う。いつも以上に。

 

 とにかく、シェムハザ様とバラキエル様はこれからは少し距離を置いて上代徹と接するそうだ。

 それが良いと思う。

 そうでなければ、きっと胃が痛くなる生活をする事になるだろう。

 彼はそういう人間だ。

 

 

 

 B月P日

 

 今日はいつも以上に仕事が早く終わった。

 身体と精神の調子が良かったのだと思う。

 その分サーゼクスは疲労が溜まっているようだったが。自業自得だ。

 昨夜は一緒に寝る事が出来なかったので、今夜はミリキャスと一緒に寝ることを約束している。

 明日も一日、頑張れそうだ。

 

 

 

 B月Q日

 

 アザゼル様が、上代徹とオーフィスの現状を伝えに来た。

 総督の座を退いたというのに、真面目だと思う。

 あの二人の、秘密裏の会談の事を気にしているのだろう。

 それにしても、あのオーフィスが大富豪…トランプをしたというのは驚いた。

 というよりも、トランプの事や大富豪のルールを知っているのに驚く。

 実際は、上代徹が教えたらしいが。

 ……オーフィスも、彼の傍に居るならこれからもっと変わるのだろう、と思う。

 堕天使、悪魔、戦乙女、白龍皇、孫悟空に神喰狼。

 彼が変えた存在だ。

 これからも、彼が変えていく存在だ。

 そしてそこに、今度は無限龍が加わる。

 ――今までの事を考えると、あまり驚く事でもないのかもしれない。

 変化は必然だ。彼はそういう存在なのだと、妙に納得できてしまっている自分がいる。

 

 

 

 B月R日

 

 レイナーレへ送られた手紙の内容を確認して捨てていたら、アザゼル様から質問された。

 曹操を打倒し、上代徹の『女王』であるレイナーレ。

 彼女を眷属、または彼女との繋がりを望む上級悪魔は多い。

 近いうちに、魔術師連盟も加わってくることだろう。レイナーレは悪魔の翼を持つ、冥界の一員でもあるのだから。

 それに――レイナーレに話を持ってくるのは…彼女に近づく事が出来たなら、上代徹とも必然的に距離を縮める事が出来る、という安易な考えだろう。

 いくら政争に未熟なレイナーレでも、この事を知ればいい顔はしないだろう。

 それでは駄目なのだ。

 受け止め、受け流す。

 嫌な事でも笑顔で受け止め、態度に出さず、相手を傷付ける事無く、相手を立てながら断る。

 おそらく、まだレイナーレには難しい事だ。

 その辺りを、近いうちに教育しなければならない。

 ああ、だが――レイナーレが、世界から注目されるのは…何とも感慨深い。

 初めて会った頃は、本当に何も出来ない、無駄なプライドしかない堕天使だったというのに。

 本当に、感慨深い。

 だが、まだまだ満足させるつもりは無い。恐らく、彼女の周りの者達も。

 レイナーレは強くなる。確実に。

 だから、鍛えたい。もっと――彼女が、どこまで進めるのか。何処まで近づけるのか――世界の頂点の一つである、彼女の『王』に。

 

 サーゼクスが、私がレイナーレの事を話していると複雑そうな顔をしていた。

 ふん――貴方が上代徹の事を話している時、私がどんな気持ちか…少しは理解してもらえただろうか?

 

 

 

 B月S日

 

 サーゼクスが寂しそうにしていた。

 これに懲りたら、上代徹ばかりではなく、私達にも目を向けてほしいものだ。

 今までも大事にしていたと言っていたが。もっと大事にしてほしい。

 ――そこまで言わせないで、気付けないものか。

 だがまぁ、今度時間を取ってミリキャスと過ごしてくれると約束してくれたので、許す事にしている。

 魔王としての仕事。冥界の指導者としての仕事。

 自由な時間は限られている。ミリキャスもすぐに大人になる。

 その限られた時間を、上代徹に割かないでほしい。

 そう思うのは、悪い事だろうか? そうは思わない。

 私はサーゼクスの妻だ。

 ――夫を独占したいと思う事くらい、許されるはずだ。

 

 

 

 B月T日

 

 本当に、懲りていない。

 今日、セラフォルーが遊びに来た。彼女の妹――ソーナ・シトリーの事を自慢しに。

 セラフォルーが上代徹の事を気に入っているのは知っている。

 そして、彼女の妹との噂も…まぁ、噂の大本が誰なのかも、知っている。

 それを踏まえて――サーゼクスが乗り気なのが気に入らない。

 ソーナ・シトリーが本当に恋をしているのかは判らない。

 上代徹が、本当に心を開いているのかは判らない。

 だが、生き生きと上代徹の現状を聞くサーゼクスの顔は許せない。

 今夜は少し、お仕置きが必要なようだ。

 

 

 

 B月V日

 

 ベオウルフには悪い事をした。昨日一日、サーゼクスの仕事を肩代わりさせてしまった。

 だが、昨日一日、サーゼクスを独占する事が出来た。

 ミリキャスに弟か妹が出来るかも、というと喜んでいた。

 子供の笑顔ほど、疲れを癒してくれるものは無い。

 サーゼクスも笑顔だった。疲れていたが。

 たった丸一日くらいで、だらしがない。

 




グレイフィアさんって、セラフォルー様の事なんて呼んでるんだろう?
仕事上は様付だけど、プライベートでは呼び捨ての間柄だと思ってます。
違ってたらごめんなさい。
あと、第三者の呼称とかも。

ちなみに、グレイフィアさんの中ではレイナーレ>上代徹です。

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