とある神器持ちの日記   作:ウメ種

139 / 195
綺麗な曹操さん
むしろ絶望してるのはゲオルグ、ジャンヌ、ヘラクレスさん。
レオナルド? 絶望してSAN値が直葬した。サイコロドコー





132(英雄日記)

 A月O日

 

 レオナルドの暴走の相手で手一杯だ。

 上代徹とオーフィス。

 世界の要とも言える二人を封じたは良いが、どうやら俺達も身内に爆弾を抱えてしまったようだ。

 『魔獣創造』――想像上の魔獣を想像する『神滅具』ではあるが、今はその特性が厄介極まりない。

 今まではレオナルドという一個人のつたない想像でしかなかった魔獣たち。

 今は上代徹が召喚したあの異形達を、どうしてか模しし続けている。

 シャルバに貸したお蔭で精神が不安定になっていた事は知っていたが、上代徹との戦い以降、もはや以前の精神は原形を留めていないと言える。

 本当に狂ってしまったのか、狂う事で精神を守っているのかは判断できないが。

 おかげで『禍の団』の拠点は使い物にならなくなってしまった。

 この作戦が終わったら、場所を移す事になるだろう。

 冥府は無理だろうし――まぁ、それは後から考えよう。

 兎に角今は、レオナルドが生み出すバケモノの処理をしないといけない。

 三大勢力か何処かにぶつけようにも、今のままでは俺達が逆に喰われかねない。

 

 

 

 A月P日

 

 あまり間を開けず、連続して『覇輝』を使うのは、寿命を縮めかねないな。

 ――僅かばかりの奇跡でレオナルドを落ち着けることが出来たのは幸運だったと言えるだろう。

 酷く疲れた…それに、レオナルドも完全には元には戻る事は無いと思う。

 それほどまでに、酷い。

 いったい彼は、上代徹に何を見出したのだろうか?

 上代徹という人間に、何を見たのだろうか?

 狂ってしまった彼を見ていると、こちらまで気がどうにかなりそうだ。

 ヘラクレスですら、レオナルドを避けている。いや、怯えているというべきかもしれない。

 それに、残っていた英雄派の仲間たちも、ずいぶん減ってしまった。

 そういう意味では、上代徹よりもレオナルドからの被害が大きい。

 冥府からの援軍も期待できないだろう。

 まぁ、その分囮になってもらうつもりだが。

 その為に死神を借り、アザゼル達を全滅させなかったのだから。

 戦力を二分できるとまでは思わないが、それなりに減ってくれると予想している。

 その辺りは、これからの情報収集で確認しよう。

 さて――では、戦争を始めよう。

 世界が英雄を必要とするような、大きな戦争を。

 

 

 

 A月Q日

 

 色々と考えるべき事は多いのだが、まず狙うのは冥界に決めた。

 生死不明の赤龍帝、上代徹の不在。

 この点が大きい。

 残酷な悪魔が多いが、情に深い悪魔がトップなのは御しやすいと言える。

 まぁ、俺の考えなど万能ではないので、戦場の運び次第で勝敗がどちらに傾くか判らないが。

 だが、現魔王ルシファーの性格ならば、上代徹を奪った俺達に何らかの制裁を考えている事だろう。

 激しく、熱い――地獄の炎のような激情で。

 ならば、罠にかかってくれる可能性も高い。

 魔王ルシファーにレヴィアタン。

 狙うべき所はここだろう。

 魔王殺し。

 うん、英雄に相応しい肩書だ。

 

 

 

 B月!日

 

 冥界でレオナルドを暴走させる。

 作戦とも言えない無いようだが、最も効果的と言えるだろう。

 上代徹が召喚したバケモノを冥界で暴れさせる。

 レオナルドはどうなるだろうか? 完全に狂ってしまうのか、奇跡的に精神を取り戻すのか。

 考えるまでも無い事だが――。

 ジャンヌとヘラクレスは反対していた。それもそうだろう。

 あのバケモノは制御できない。絶対だ。

 レオナルドが奇跡的に精神を取り戻しても、恐らくアレを制御することは不可能だろう。

 今までレオナルドが想像していたモノとは桁が違う。魔獣とは言えない、本物のバケモノ。

 それを、冥界に解き放つ。

 冥界で討てなければ、次は天界か、どこぞの神話体系を滅ぼし尽くすかもしれない。

 そうやって、いずれは世界を喰い殺す……。そういう存在だ、アレは。

 対峙したなら、諦めなければならない。

 『黄昏の聖槍』の神の奇跡ですら一時的に抑える事しかできないのだから…。

 そして、それこそが――俺が、英雄が望む戦場だ。

 

 

 

 B月”日

 

 思ったより、冥界の混乱は少ない。

 ルシファーの王としての手腕は、相当高いようだ。

 遊んでばかりだと思って、過小評価していたようだ。

 だが、だからといって――レオナルドが生み出したバケモノ達を止める事が出来るだろうか?

 答えは否。

 恐らくアレは、ルシファーの『滅びの力』でも滅ぼせない。

 いや、滅ぼしても蘇る。

 その事を知った時こそ、冥界は恐怖と混乱で混沌の戦場と化すだろう。

 そして、冥界に奇跡を起こせる『神器』は存在しない。

 奇跡は起きない。

 あのバケモノを止める術は、存在しない。

 海外から神話体系の長たちが集まっているのも良い。

 上手くいけば、今回の戦いで魔王か神か熾天使か、どれかを殺せるかもしれない。

 

 

 

 B月#日

 

 世界の目がレオナルドへ向いているうちに、悪魔に属する『神器使い』達を勧誘して回る事にした。

 英雄派の数は、残り少ない。

 レオナルドも、いつまで持つか判らない。

 アレが完全に狂ったなら、恐らく冥界はバケモノで溢れ返るだろう。

 むしろ、現状想像している12のデカブツと特大のバケモノが人間大の異形を産みだし続けている。

 冥界が浸食され尽くすのも時間の問題だ。

 その前に、少しでも戦力を増やしておきたい。

 無理やり悪魔に転生された『神器使い』も多いようで、思っていたよりも戦力の集まりが良い。

 ……レオナルドが想像したバケモノを恐れて、というのもあるだろう。

 いずれあれとも戦わなければならないのだが――その事は黙っている事にする。

 わざわざ、死を宣告する必要も無いだろう。

 

 

 

 B月$日

 

 ルシファーは冥府へと行き、ハーデスをけん制するようだ。

 面白くない――あのバケモノを討つために動くかと思ったが……どうにかできると本気で思っているのだろうか?

 それとも、あり得ない奇跡を信じているのか。

 悪魔が、奇跡を。

 下らない。

 だが、まぁいい。その選択が間違いだったと気づいた時は、冥界は滅んでいる。

 問題はもう一人の規格外――アジュカ・ベルゼブブ。

 アレを殺せれば完全に冥界は終わる。

 ジークが殺しに行ったが、無理だった。

 流石は冥界のルシファーと並ぶ、冥界の突然変異種だと言えるだろう。

 いずれ、俺が殺してやる。

 ルシファーも、アジュカも。他神話体系の神々も。

 

 

 

 B月%日

 

 明日明後日には、あのバケモノ達も冥界の主要都市に行きつくだろう。

 レオナルドが制御できてないせいで、随分と時間がかかっている。

 その分、都市には被害が出ていないが冥界という世界の被害は甚大だ。

 なにせアレは、目に付くもの、傍にあるもの、全てを破壊し尽くす。浸食し尽くす。犯し尽くす。

 止める術は存在しない。止めれる存在はそう多くない。

 ジークから聞いた話では、赤龍帝のチームも動いているようだ。

 だが、赤龍帝が居ないアレらには何の価値もありはしない。

 聖魔剣使いと聖剣使い。上代徹とルシファーの劣化品。その程度だ。

 おそらく上代徹の仲間たちも動くだろうが、アレ等もどうでもいい。

 まとめてかかってきても、俺ですら勝てる自信がある。

 舐めている訳ではない。見下している訳ではない。

 それが事実で、絶対だからだ。

 問題は、白龍皇……ヴァーリ。そして、フェンリルとその子供。

 ヴァーリのチームは冥府で暴れているという情報を得ている。

 だが、ヴァーリ自身の姿は確認できていない。

 おそらく、冥界に居る。そして、上代徹の傍に居るフェンリルの子供たち。

 今のところ、警戒すべきはその程度だろう。

 冥界の上位悪魔達はレオナルドのバケモノ達の足止めで疲弊しきっている。

 ――それでは、戦争を始めよう。狼煙を上げよう。

 明日は、きっといい日になる。

 

 

 

 B月A日

 

 は――笑うしかない。きっと、今の俺はそういう状態だろう。

 上代徹とオーフィスを封印し、冥界を混乱させ、戦争を仕掛け――その結末が真っ当じゃないものだという事は想像していた。

 英雄を世界に証明できればそれでよかった。

 平和な世に英雄は生まれない。

 だからこそ、英雄を生れさせるために、英雄が必要な世界を創りたかった。

 それが、英雄として生まれた俺の願いであり望みであり、全部だった。

 間違えたのは、最後の最後……一番最後の戦い。

 戦う相手を間違えた。戦わなければならない相手を見ていなかった。

 英雄は魔王を殺し、世界を変える。

 世界が認めるからこそ英雄であり、英雄とは名乗るものではない。

 知っていて、判っていて――それでも、きっと俺は間違えていたのだろう。

 槍を向ける相手も、打ち合う相手も、戦うべき敵も。

 そのどれもが間違いだったのだと、今なら思う。

 俺は英雄の子孫ではあるが、英雄ではない。

 『神滅具』等という大層な槍を持ってはいるが、ただの弱っちい人間でしかない。

 そんな事、俺が一番よく理解していたというのに、どこで慢心し、忘れてしまっていたのか。

 戦うべきは頂上の存在ではなく、目の前の敵だったというのに。

 そんな慢心を抱いていたからこその敗北。

 受け入れるしかない。

 負けた。

 格下に。

 まともに戦うなら、歯牙にもかけない相手に。

 策を弄されても、正面から潰せそうな敵に――だが、悪くない気分だ。

 負けて、戦争は起きず、今回の混乱もすぐに収まるだろう。

 仲間の殆どを失い、この身は『地獄の最下層』へと堕された。

 『神滅具』すら取り上げられ、人の身で地獄の直中に放置されている。

 だが、生きている。

 本当に――悪くない気分だ。

 

 

 

 B月B日

 

 負けた事ばかりを考えていた。

 上代徹やオーフィス、グレートレッドの事ではない。

 彼女――上代徹の『女王』、レイナーレの事だ。

 俺の慢心もそうだが、彼女は俺に勝つために何でもした。

 一番の敗因はそこだろう。

 おそらく、傍から見たなら俺よりも彼女の方が英雄然としていたはずだ。

 少なくとも、俺はそう思う。

 レイナーレ。上代徹の『女王』。三種三対六枚……三大勢力のどこにも属さない翼。

 無限の血、悪魔の魔法、北欧の魔術。

 オーディンの神槍を模した槍と堕天使総督が作った盾、神殺しすら封じる鎖。

 考えれば考えるほど、彼女は本当に『上代徹』を現す鏡だと思う。

 『黄昏の聖槍』の中の神の意志が彼女を選ぶのも頷ける。

 負けた今、世界という舞台から降りた今、俺も彼女のこれからに興味がある。

 きっとこれから、世界は彼女を放ってはおかない。

 上代徹の影に隠れてはいるが、彼女もきっと特別だ。

 『黄昏の聖槍』を奪われているから確認のしようがないが――おそらく、神の意志も彼女と共にある。

 俺は――神の意志から見放された。

 例え『黄昏の聖槍』が手元にあっても、今の俺では奇跡は起こせない。

 『覇輝』は、彼女を選んだ。

 俺でも、赤龍帝でも、白龍皇でも、オーフィスでも、上代徹でもない。

 奇跡を起こす資格は、レイナーレという最弱の『女王』を選んだ。

 世界の中心にいる上代徹。

 その傍らに控える、奇跡を起こす資格を得た『女王』。

 いずれ、この地獄から出る時が楽しみだ。

 今度は俺が、彼女に挑む。

 槍使いとしても、英雄としても、俺はまだ未熟だ。未熟だった。

 当然の敗北だ。必要な敗北だ。

 だから、俺はもっと強くなる。強くなれる。

 ――弱っちい人間だからな、俺は。

 

 

 

 B月C日

 

 レオナルドの精神が安定している。

 ……ああ、結局俺達は、上代徹の手の平の上で踊っていただけなのかもしれない。

 笑うしかないな。

 ジャンヌやヘラクレスはトラウマになっているようだが。

 それもそうだろう。

 レオナルドが創造したバケモノ達だけでも限界を超えていたようだったのに、その上にオーフィスとグレートレッドの共闘だ。

 上代徹という支援を受けたあの二匹は、どうしようもないほどにデタラメだった。

 冥界の半分を数日で破壊したレオナルドが創造したバケモノどもを一瞬で消滅させたほどだ。

 そもそも、どちらか一匹でも世界を壊せるのだ。

 その二匹が共に戦う……冥界が無事だったのが信じられない。

 それも恐らく、上代徹の仕業だろうが。

 いったいあれは何者なのだろうか?

 異世界の神――名を与えられなかった神。

 一つの可能性としては……名を与えられなかったからこそ、アレはあらゆる――名前を持つ神の可能性を秘めているのではないか。

 この世界、異世界を問わず――考えてなんだが、そんな存在にどうやって勝てというのか。

 封印できるとすら思えない。……怖いもの知らずだな、俺は、

 しかし…我ながら、中々良い線の推理だと思う。

 まぁ、結局は想像でしかないのだが。

 

 

 

 B月E日

 

 地獄というのも悪くない。

 修練の場には丁度良いと言える。

 しばらくはこの地獄で、地獄の修練を積むとしよう。

 ジャンヌとヘラクレスも、上代徹の眷属に負けたようで真面目に修練を積んでいる。

 良い事だ。

 ゲオルクはまだ会っていないが、きっと彼もこの地獄に居るはずだ。

 俺達はまだ生きている。

 なら、強くなって現世に戻ろう。

 今度こそ、英雄として。

 見下していた相手に負けた。

 今度は、俺達が見下される番だ。俺達が格下だ。それでいい。

 ――俺達は、弱い……どうしようもなく弱い、人間なのだから。

 だからこそ――もっと強くなれるはずだ。

 

 

 




レイナーレさんの魔改造があれだけだといつから勘違いしていた…?

まぁ、そこまで絶望していません。
というか、絶望以前に一周廻って諦めと言うかなんというか。
レイナーレさんのライバルとか良いなぁ、とか思ったり。

というか、B月%日までとB月A日からの曹操さんのキャラが違う気がしないでもない。
敗北とは人を変えるのか――(キリッ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。