とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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曹操様とレイナーレさん、どっちを先に書くか迷った


126(メイド日記)

 A月D日

 

 兵藤君達が、中級悪魔へと昇格するらしい。

 『禍の団』とのいざこざや、先日のサイラオーグ様とのレーティングゲームを評価してもらえたのだろう。

 上級悪魔へだろうか? 彼らの力は、現状でも上級悪魔と比べても遜色ないと思う。

 アーシアも喜ぶだろう。

 

 サイラオーグ様は元気にされているだろうか?

 以前、レーティングゲーム前にグレモリー邸へ呼ばれた際に会い、私の事を随分と買ってくれていた方。

 私など才能の無いただの中級堕天使…しかも元、だ。

 あの時は私を『兵士』としてスカウトして下さったが、今は意志を持つ『神滅具』を『兵士』に起用されている。おそらく、もう誘われる事は無いだろう。

 あの時は徹様の『女王』との兼用を出来ないと断ったが、断って良かったと思う。

 私は二人も主人に仰げるほど器用ではない。

 徹様だけで手一杯だ。

 ――徹様だけを、主人と仰ぎたい、とも思う。

 今は、それでよかったと思う。

 あのあと、ヴェネラナ様からサイラオーグ様のお母様の事を聞き、徹様に相談した。

 サイラオーグ様のお母様は目を覚まされ、今では快方に向かっているようだ。

 徹様も、自身の能力の事を隠したいようで、快方へ向かうのは黒歌の薬のお蔭だと言っておられたが。

 あれから、どうされているだろうか?

 お母様と一緒に、穏やかに過ごされていればいいが――。

 

 

 

 A月E日

 

 今日は、グレイフィア様が訪ねてこられた。

 徹様に、新しい「おっぱいドラゴン」のグッズの意見を求めておられた。

 あと、試供品をいくつか貰った。

 お風呂で使うスポンジなどは便利なので助かる。毎週とは言わないが、それなりの頻度で買い揃えるので結構な額になるのだ、ああいうのは。

 グレイフィア様も家庭を預かる身なのだし、もしかしたら、その辺りの事も考えて下さっているのかもしれない。

 本当に頭が下がる。

 

 ……それにしても、グレイフィア様は徹様の事をどう考えておられるのだろうか?

 私は徹様の従者であり、庇護されている側だ。

 黒歌やロスヴァイセ様から何度か言われた事ではあるが、お慕いしているが、今はそれ以上を望んではいない。

 それ以上を望むのは――分不相応と言うものだ。

 こうやって一緒の家に住み、毎日を過ごせるだけでも十分すぎる。

 だというのに、今日は徹様の事でグレイフィア様から幾つか言われてしまった。

 ――恋愛など。今はまだそんな余裕など無いのに。

 せめてそういうのは、徹様と共に戦える……隣に並べるようになってからだと思う。

 でなければきっと、私は徹様に縋ったまま成長する事が無くなると思うのだ。

 

 

 

 A月F日

 

 ソーナ様の眷属が、アザゼル様の『人工神器』をこれから使うことになるらしい。

 徹様と黒歌が教えてくれた。

 恐らく、私が戴いたものよりも性能は上だろう。

 私が貰った時よりも『人工神器』の研究は進んでいるだろうし。

 羨ましい、とは少し思う。私には戦いの才能がない。

 才能が無い事を補うには、装備を強化するのも一つの手だとも思う。

 だが、いまだに『刹那の絶園』を満足に使えない私がより上等な『人工神器』を手に入れても宝の持ち腐れだろう。

 『人工神器』も『禁手』へと至る事が出来るのは、アザゼル様が証明している。

 まず私が目指す場所はそこだ。

 

 

 

 A月G日

  

 小猫の調子が悪いことには気付いていたが、猫魈特有の発情期だとは思っていなかった。

 というか、黒歌はそういう大事な事をどうして黙っているのか……。

 デリケートな問題だとは判るし、確かに同じ女として……恥ずかしいという気持ちもわかる。

 だが、黒歌と小猫の二人で抱え込むのはどうかと思う。

 ……もう少し、信頼してほしい。

 やはり、まだ私は『女王』としては未熟なのだと思った。

 黒歌も悪気があった訳ではないと思う。子猫を想っての事だとも、判る。

 それでも相談してほしいかったと思う……私の我儘なのだとしても。

 まぁ、話してくれたからよかった。

 徹様は鈍感な所があるので、私やロスヴァイセ様でフォローしようと思う。

 黒歌の気持ち、小猫の気持ち…徹様は、気付いてはぐらかしているのか、気付いていないのか。

 偶によく判らなくなる。

 そういう所が、徹様の良い所でもあるのだが。

 黒歌はやきもきしているが、私は好きだ。

 

 

 

 A月H日

 

 明日、オーフィス様との会談がある。

 黒歌からそう伝えられた。

 いきなりだったが、相手はあの『無限の龍神』だ、ぎりぎりまで隠しておきたかったのだろう。

 そうでなければ、どこから探られて警戒されるか判らないだろうし。

 私は良く判らないが、『無限の龍神』がデタラメだということは判る。

 ――しかも、ロスヴァイセ様の話では、北欧の主神も関わってくるかも、という話だ。

 警戒しすぎても足らないだろう。

 その辺りは、私達より黒歌が考えてくれた方が信頼できる。

 英雄派、旧魔王派、北欧…三大勢力内にも、徹様を良く思っていない人は多い。

 オーフィス様と接触したと知られれば、その人たちが動き出すいい餌になるだろう。

 黒歌は、徹様に戦ってほしくないと言っていた。

 私もだ。

 オーフィス様との会談で、徹様が戦う必要性が一つ減るのなら、危険を冒す価値はあるのだろう。

 少なくとも、黒歌はそう判断した。

 なら、私達は黒歌の判断に従うだけだ。

 ――腹の探り合いは苦手だ。

 でも、これからはそうも言っていられない。

 戦う力だけじゃない――私に足らない物は、まだまだ多い。

 

 小猫の事もある。

 黒歌だけに頼らず、私もしっかりしなければならない。

 

 

 

 A月I日

 

 思っていたよりも、徹様とオーフィス様の会談はあっさりと終ってしまった。

 というよりも、オーフィス様はあんな性格だっただろうか?

 ディオドラ・アスタロトとのレーティングゲーム以来会っていないので何とも言えないが…もっと寡黙というか、何というか。

 まぁ、寡黙と言えば寡黙ではあったが。

 徹様にも敵意を向けない――というよりも、徹様に興味を持っているようだった。

 会談が終わってからも、ずっと徹様に付いて回っていた。

 外見の事もあり、まるで徹様の娘のように感じた。同じ黒髪だし。

 それはアザゼル様やグレモリー眷属も同じだったようで、私と同じように驚いていた。

 ……まぁ、そうだろうな、と思う。

 『無限の龍神』と言えば、恐怖の代名詞のようなものだ。

 少なくとも、私は今日まで恐ろしい相手と思っていたし、ディオドラ・アスタロトとの件の時は彼女は一度徹様を殺している。

 黒歌やアザゼル様が間に入っていなければ、今日のように接する事は出来なかったはずだ。

 今日から、オーフィス様とルフェイ様、それにフェンリルがこの家に住むようになった。

 スコルとハティも喜んでいた。良い事だと思う。

 少しの間かもしれないが、親に甘えて欲しい。まだ子供なのだから。

 

 それにしても、オーフィス様はどういう方なのだろうか?

 徹様と一緒にお風呂へ入ろうとしたり、ずっとついて回ったり。

 お風呂の件は、黒歌の日記を見て試そうとしたようだ。

 ……一体黒歌は、日記に何を書いているのか。

 聞きはしなかったが、あまり変な事は書かないように、と言っておいた。

 それに、私もこれからは日記の保管には注意する様にしよう。

 見られて困る事は無いかもしれないが、だからといって読まれるのは恥ずかしい。

 

 しかし、徹様とドライグ様は何時の間にあんなに仲良くなったのだろうか?

 偶に話してもらっていたが、泣き疲れたり薬を塗ったり――ドラゴンのカウンセリングをしているという話だったが、どうやら徹様のカウンセリングは好評の様だった。

 嬉しく思う。本当に。

 こうやって、徹様を良く思ってくれる方が増えるのは良い事だと思う。

 強すぎる力は敵を呼ぶ。

 だから、徹様を助けてくれる力は、多いに越した事は無い。

 

 今日から、この家でオーフィス様たちが過ごす事になる。

 徹様の大事な客人だ。

 不便が無い様に、気を張っていこう。

 この時の為に、グレイフィア様にメイドとしての心得を教えてもらったのだから。

 私は、徹様の『女王』であり、徹様を計る目安であるのだ。

 ――その事を、忘れないようにしなければならない。

 

 

 

 A月J日

 

 黒歌といい、オーフィス様といい…『禍の団』では徹様と一緒のベッドで寝るのが流行っているのだろうか?

 ……そんな事は無いだろうが。

 しかし驚いた。

 オーフィス様のような方でも、徹様と一緒のベッドで寝たいと思うのだろうか?

 『無限の龍神』『無限の体現者』そう謳われているオーフィス様像が揺らぎそうだ…。

 まぁ、私の勝手な想像でしかないのだが。

 それにしても、小猫も随分と大胆になったというか…。

 オーフィス様が徹様のベッドに潜り込まなかったら、小猫が潜り込んでいたのだろうか?

 微笑ましくはあるが、今は勘弁してほしい。

 客人が居る所で主人のベッドに潜り込むのは、どうかと思う。

 普段の小猫ならばその辺りは心配しなくてもいいのだが……今は発情期だ。

 黒歌はオーフィス様と以前から知り合いという事もありあまり気にしていないが、だからといって甘やかすわけにもいかないだろう。

 徹様の為にも、小猫の為にも。

 今日は未遂だったが、しばらく…発情期が治まるまでは、気にしておこうと思う。

 

 ルフェイ様に聞いたが、オーフィス様には好き嫌いが無いらしい。

 正確には出したものは何でも食べる、と言われた。

 気にしているらしいが、オーフィス様自身が好き嫌いを言わないそうだ。

 今日私が用意した食事も、何も言わずに食べていた。

 口に合ったならいいが、内心でどう思われたか……不安だ。

 私も、レパートリーはそう多くない。

 ルフェイ様に、『禍の団』でどういう食事をしていたのか聞いてみたが、あまり食材を揃えられなかったらしく、簡単な料理ばかりだったようだ。

 聞いた料理は、幾つかは私でも作れるものだった。

 明日は、その辺りから献立を考えようと思う。

 それとも、『禍の団』で食べていなかったような料理がいいのだろうか?

 ……考える事が多い。

 

 

 

 A月K日

 

 オーフィス様は、徹様の隣がお気に入りなのかもしれない。

 気にしながら見ていると、すぐ傍――特に隣に居ようとしているような気がする。

 外見が十代の前半ほどだし、微笑ましく思える。

 実際は私などよりも長生きしているのだろうが、今日のオーフィス様を見ていると、外見相応に思える。

 戦いばかりだったのかもしれない。

 きっと、対等と言える相手がほとんどいなかったのだろうと思う。

 ――徹様は、オーフィス様の居場所となれるのかもしれない。

 そう思うと、本当に誇らしくある。

 私の主は――出鱈目な強さを持つ主人は、誰かの居場所になれるのだと。

 私や黒歌を救ってくれた。オーフィス様の居場所になれるかもしれない。

 強すぎる力も、誰かを救えるのだと……そう証明してくれる気がする。

 

 『禍の団』の方が徹様に接触したようだが、すぐに退いたそうだ。

 ヴァーリ様の手の方達だろうか?

 英雄派や旧魔王派ならば、徹様に敵意を向けるだろうし。

 だが、あまり楽観視も出来ない。

 もう、徹様には無理をしてほしくない。無理をして倒れられたりすると、苦しいのだ。

 あの時――ディオドラ・アスタロトとの件の時、オーフィス様に徹様が殺された時、徹様が人が変わったような態度を取られた時…。

 もう、あの時のような事はあってほしくない。

 

 そのオーフィス様は感情に興味があるようだ。

 黒歌やルフェイ様に、恋とはどういうものか、と聞いていた。

 哲学的だな、と思う。

 恋――ああ、私は今恋しているな、と感じる時がある。

 でもそれは感じるものであって、説明できるものではない。

 黒歌やルフェイ様も困っていた。

 しかも、オーフィス様が感情に興味を持ったのは黒歌の日記が原因らしい。

 これも自業自得と言えるのだろうか?

 黒歌には悪いが、慌てている黒歌を見ている分には少し面白かった。

 恋――黒歌が徹様に抱いている感情。

 恋か、好きか、愛なのか。

 微笑ましいものだ。いつか私も――そう思えるほどに。

 

 

 

 A月L日

 

 徹様の調子が、あまり良くない。

 また、何かされているのだろうか?

 黒歌も気付き、心配していた。

 黒歌が言うには肉体ではなく精神――魂の疲労だと。

 思い当たるのは、やはり徹様の『神器』の使用。

 思い出すのは、ディオドラ・アスタロトの時の事。

 ……徹様には、無理をしてほしくない。その為に、私は…私達は――。

 今日は、早く寝てくれると言って下さった。

 風邪か何かなら、それでいい。

 でも、無理だけはしてほしくない。

 

 

 

 A月M日

 

 徹様の疲労が目に見えて溜まってきている。

 今日は、学校から帰ってくるなりソファで眠られていた。

 その寝顔をオーフィス様がつついていたのは微笑ましく感じたが、やはり心配だ。

 何も言って下さらないのは、私達が信頼できないからか、言うような事ではないからか…。

 少しは強くなったと思っていたが、やはり私はまだまだだ。

 もっと強くなりたい。

 ……徹様を支える事が出来るくらい。

 

 流石に徹様がそういう状態なので、黒歌が小猫の発情期を抑えていた。

 猫魈の成長過程に必要な事なので、あまり抑えたくないと言っていた。

 

 

 

 A月N日

 

 身体が痛い――それ以上に、辛い。

 悔しい……。

 今日は、兵藤君の悪魔としての昇格試験があった。

 その試験が終わった後、英雄派の曹操の襲撃を受けた。

 

 

 

 徹様をお守りする事が出来なかった。

 それどころか、徹様に守られてしまった。

 徹様に無理をさせてしまった……。

 最後には、兵藤君に頼る事になってしまったのも悔しい――私は、徹様の『女王』なのに。

 徹様を守らないといけないのに。命を賭けてでも、守りたかったのに…それすら叶わなかった。

 徹様とオーフィス様は封印され、兵藤君は生死不明。

 神槍を模すことが出来て、私は天狗になっていた。調子に乗っていた。

 何が戦えるだ――強くなっただ。

 槍も、技術も……何もかも、何一つ、私には才能は無いというのに。

 徹様が最後に無理をしなければ、全滅していたというのに。

 ヴァーリ様も大怪我を負ってしまい、今は美猴様が傷を癒している。

 ……悔しい。

 結局、私はディオドラ・アスタロトとのレーティングゲームの時から何も変わっていない。

 守るべき人を守れなかった。

 振るうべき槍は砕かれ、受けるべき盾は未熟という言葉すら生温い。

 最強の『神滅具』――『黄昏の聖槍』。

 その能力も、使い手も……私など遠く及ばない。

 だがそれでも――槍は砕かれても、まだ折れてはいない。

 考えなければならない。

 曹操――英雄を打倒する方法を。

 才能が無い。実力が無い。経験も無い。

 それでも私達は、英雄を打倒しなければならない。

 

 

 

 A月O日

 

 曹操が使う『黄昏の聖槍』の能力は、七つ。

 輪宝――武器破壊

 女宝――女性封じ

 馬宝――対象の転移

 珠宝――攻撃…魔力、遠距離からの攻撃の受け流し

 象宝――高速移動

 居士宝――兵士の召喚

 将軍宝――攻撃力重視の一撃? 不明

 

 特に、輪宝と女宝、象宝が私にとっては厄介だ。

 私の魔力は少ない。何度も『槍』を造っていては、すぐに魔力切れを起こしてしまう。

 それに、私は女だ。女宝の能力とは絶対的に相性が悪い。

 そして、私には高速移動の戦闘が出来ない。

 ……考えるほどに、どうしようもない気分になる。

 本当に――私には、何の才能も無い。

 そう腐る時間すら勿体無いというのに……。

 小猫は、私や黒歌よりも真っ直ぐだ。真っ直ぐに、徹様を救う事だけを考えている。

 羨ましい。本当に、そう思った。

 負けていられない。

 ――私も、黒歌も。

 ロスヴァイセ様も、悩みは吹っ切れたようだし……私も、腐っていられない。

 私より弱い相手などそうは居ない。

 今までも、きっとこれからも。

 だから――たとえ相手が何者でも、折れる訳には行かない。

 

 




『黄昏の聖槍』より『聖杯』とか『煌天雷獄』のほうが強力だと思う俺が居る。
まぁ、神殺しの特性を持ってるから最強なんだろうけど。
死者を復活させたり、天候を操って大規模破壊したりできる『神滅具』の方が
使い勝手は良いだろうなぁ、と言う話。
作中でロンギヌスの能力は全部語られてないんだろうけどね。

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