それは前世の記憶   作:yatenyue

6 / 8
第6話

それが運命の日だった。

 

 

その日キーリは用心棒の仕事だった。

 

いつものようにキーリはなめられないように男装し、

仕事に出掛けた。

 

  別れの音が鳴り響く

  絶望の時が迫る

 

その護衛先は伯爵家の1つ悪名高く裏と繋がりがあるとか

 

先代を殺し成り上がったのが今の当主とか

言われていて

 

また今代の当主は女好きかつ好色男と知られており

 

女と見れば見境ない。

 

ましてや、サリアもキーリも美少女とか美女の部類に入る美人であり、

 

普段仕事の時は身分を隠している。

 

身分なら上なのでおいおいと手は出せないのだが…

 

 彼女達は女好きを舐めていた

 そして事件は起こった。

 

「スイ、今日は護衛は君一人だよ」

「分かりました。ベルモット伯」

 

スイというのはキーリの偽名であり彼女を見ると

黒髪茶瞳のどうみたって美形の少年がいた。

(男装上手い←なんでだ)

 

「今日の予定は、朝は外出しないから

 

ユリアスを中心に家の護衛をしてくれ。

 

ユリアスはまだ小さいからくれぐれも怪我一つさせないように。

 

昼に私の客が来るのでよろしく頼む。

今日は検診があるんでな」

 

「はい」

医術師の名なんて気にも留めなかった。

 

そしてこの男の女好きの程度も、

 

どれだけ極悪人かも

 

この男はスイ(=キーリ)が男だということを疑って

いなかった

 

キーリは医院の中以外外出する時は男装をし

偽名を使っていた

 

彼はキーリがサリアと

飛び切り美人の女と暮らしていることを知っていた。そしてキーリがわざと姉と接触させないようしていることも

 

彼にとってキーリいやスイは邪魔な存在でしかなかった。

 

キーリにとっては幸運だったのかもしれない

女だということを知られなくて

 

 

 

 

 

 

「ユリアス様。

今日の護衛は私が勤めさせていただきます。」

 

キーリがそう言葉をかけるのは6歳の金髪碧瞳少年。

 

「キーリっ」

 

キーリの言葉を聞き抱き着くユリアス。

 

「ユリアス。ここではスイですよ」

 

愛らしい少年に優しく微笑みかける。

 

この屋敷で唯一ユリアスだけがキーリの本当の性別

も名前も知っている。

 

嫌々ながらこの仕事をやめない理由も大半がこの子だ。

 

あんな父親だけではかわいそうだから。

 

 

キーリは殺気を感じた

 

数にして二十数人。場所は玄関の門近辺。

 

いささか多いが素人相手ならどうってことない。

 

ゆっくり音をたてないよう外へでる。

 

いつのまにか

手にされていたのは綺麗な薄い蒼の装飾の剣

音もなく倒されていく

 

一人の大男の力任せの一撃を真っ向から受け止める

 

「くっ」

 

「もらったー」

剣が折れた。

 

男達は勝利を確信した。

 

だが

蒼い火花が散る。

錬成陣が描かれた腕輪から冷たい凍てつくような空気が流れる。

男の肩を貫いていたのは

床から伸びた氷の刃。

 

「やばっ。手加減し忘れた。無駄な抵抗しなきゃ怪我しなかったのに…」

 

先程折られた剣を取ると、そちらに光は伸び、

元に戻る。

元々これは彼女が作った氷の剣。

何度でも再生できまた

強度すら変えられる。

組み替えたそれは

 

今まではあまり切れないよう調節していたが

あまりに往生際が悪いので切れ味を逆に上げ、

 

 

ウォーターカッター並の切れ味に。

 

「ほら、怪我したいならかかってきな。

したくないならさっさと捕まんな」

 

残る4人の1人に

それを肌ぎりぎりに突き付ける。

薄皮が切れほっそり血の筋が流れる。

おとなしくなった。

 

そうキーリが少し気を抜いた時

 

「あのー問診に来た医術師ですが」

そうは見えない若い少女の声。

 

そちらに目を向けると

そこにはサリアの、姉の姿。

全くの無警戒な

無防備なその背の後ろに

影…

 

何一つ考えることなく

身をその影の前にキーリは

差し出した。

 

サリアの瞳に写るのは

自分の大切な妹の

胸の中央からの赫い血…

それは心の臓を貫いていた剣は下に落ちる。

 

「っキーリ。キーリぃ。」

 

医術師である彼女にはわかっていた

もう手遅れだと

 

理性では理解していた。

 

でも心は受け止められなかった。

 

サリアは必死に妹の名を叫び、ピンクの光が治そうとうごめく。

 

医療錬金術により、自らの生命力を浪費するだけだった。

 

だってこれは対象者にある程度の生命力が残っていないと無駄なものだから

 

元々白い肌が青白くなっていく。

 

「…ッサリアね・ぇや・め・・てっ。だ・いじょうぶ?」

 

瀕死状態のキーリの声

 

意識がまだあるのが不思議な状態だった。

 

サリアの思いとは裏腹に1つ1つ細胞が死んでいく。

 

一歩一歩死に近づいていく

 

 

そこに新たに降り立ったのはケイトとユリアとアリシア。ユリアとアリシアはサリアの帰りが遅いので様子を見にきただけで

ケイトは警邏としての仕事だった。

 

「「「キーリッ」」」

そしてキーリは息絶えた。

 

4人に看取られて。

 

男で年上なので気丈に振る舞おうと

ケイトが殺しの現行犯として捕まえようとした時

 

もっと無情な事実が告げられる。

 

 

「俺達はただ頼まれただけだっ

ここの主人にッ殺す気なんかなかった。

ただあの生意気な言うことを聞かない小僧を懲らしめようとしただけだっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は怒りをあらわにするケイトに怯えながら、

今回の計画の全容を明らかにした。

 

絶望に侵されるサリアにも次々に明かされる事実が耳に届く…

 

いわく

 

この家の主人の狙いはサリアを手にいれることであり、

 

スイ(ケイト)が邪魔物だったのだと…

 

計画では死ぬことはなかったがどちらにせよ運命は残酷でキーリは傷付くもの。

 

サリアの真っ白になった脳裏が染まっていく。

 

 

憎悪の赫に。

 

心を占めるのは全部私のせいという思い

 

「…赦せない」

 

美月の卯月と同じデザインの腕輪から溢れ出る赤の光

辺りを染めていくのは赫の炎。

 

"紅桜"

たるもうひとつの由縁。

 

朱い炎

 

いつもの優しげな朱ではなく血の赫の炎が辺りを飲み込む。

 

キーリを殺したやつを焼き殺す。

 

炎が屋敷にも及ぼうとしたアリシア達の制止の言葉も

 

今の彼女には届かない。

 

「ユリアス様っお待ちを」

 

侍女らしきものの声が聞こえる。

 

「スイ…っいやキーリ。ねぇ目を開けてよねぇってばっ」

 

自分と同じキーリをただ切望する純粋な声。

 

(ユリアス…?)

その声は己をも滅ぼしかけたサリアの耳に届いた。

 

炎が弱まる。

 

ユリアスはキーリと同じピンクがかったオレンジ色の瞳をしたサリアに気付き、

 

「ねぇっキーリのお姉さんのサリアさんでしょ。

 

キーリが言ってたんだ。

 

お姉さんがこの世界で一番のお医者さんだって。

 

嘘だよね。

 

キーリ死んでないよね。

 

なおせるよね」

サリアもキーリから聞いたことのある大事にしてた弟のような男の子。

 

いつ会えるか楽しみにしてた…

 

(…なおす…なお…直す)

 

サリアの心に宿ってしまった希望…

 

狂気。それはユリアスの声でさえ抑えることがで

きなかった。

 

「そっか。」

 

サリアはいつもと違うこの状況下でいう。

 

いつもと同じような声で

 

「壊れちゃったんなら直せばいいんだ。

 

人体錬成を使って…でも足りない…。

 

私のだけじゃ生命力も

 

錬成力も

 

代償も

 

 

ああ

あれを作ればいいんだ

 

あれさえあればこれも意味を成さない」

 

服の下からこぼれ落ち胸に踊り出た朱い石。

十二蓬華の証。

 

彼女を戒めるもの

 

「賢者の石を」

 

もう誰にも止められない狂気。

 

そこに誰からも尊敬されていたサリア・アリテレスの姿はない。

 

またアリシア達はこの悲しみを理解できた。

 

だからこそ止める気がわいて来なかった。

 

賢者の石

 

それは禁術により作りだされるもの。

 

作ってはならぬものとして十二蓬華にのみ伝えられる術法増幅装置であり、

 

真理である無から有を作り出せない、5行を変えることができないということでさえ覆す。

 

 

だがそれは何人何十人ものの純粋な魂で作り出される

 

ああ

もう罪は止められない。

朱い光は堕ちていく。

 

漆黒の闇へと

 

 

 

ちょい余ったけど今日はここまで

サリアさん壊れた

というか美月や卯月と比べて弱いねぇ

 

止めない友情が引き起こす辛い罰。

美月さんや卯月さんが極力重要なときは皐月さん達に頼らないのもここから来ています。

2人の罪意識も

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。