悪ノ・・・   作:yatenyue

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登場人物


 原文上悪ノ娘こと黄の国の王女

 実際青の国の王女 青藍(セイラン)

      真名は水姫


 原文上悪ノ召使

 実際 赤ノ召使で赤の王子 久遠 

 
     真名は満月

 原文上赤の女騎士

 実際 青の女騎士  涼風(リョウカ)


  真名は疾風


 原文上青の王子

 実際 白の王子

    白(ハク)



 原文上緑の少女

 実際緑の少女 ミドリ


 原文上白の少女

 実際 黄の少女 アカリ




   


悪ノ娘〜悪だと言われた少女〜

色を司る国がいくつもあった。

 

 白の国と呼ばれる1年の半分が雪に覆われる常冬の国。

 

 緑の国と呼ばれた緑あふれる常春の国。

 

 青の国と呼ばれる水源にあふれるが時折水害が起こる国。

 

 赤の国という1年中暑い常夏の国。

 

 

 それぞれ色の漢字を入れていいのは王族のみだった。

 

 

 

 悪ノ娘~悪だと言われた少女~

 

 

 舞台は青の国。

 

 青の国に、青藍という王女がいた。

 

 濃い青の髪に瞳を持つ美しい姫。

 

 そんな彼女を彩るのは、様々な調度品に綺麗な服。

 

 心優しい王女だった彼女の傍らには、彼女と瓜二つの少年が召使として使えていた。

 

 青の国の人間にしては珍しい赤の髪に瞳をしていた。

 

 前で閉じる形のそう現代で言う中華服を着ていた。

 

 一見男性とは分からず長く伸ばした髪を一つ三つ編みにしている。

 

 齢(よわい)14の姫は7年ほど前に王と王妃であった両親を亡くし、兄弟もなく何人もの家臣を暮らしていた。

 

 

 政治も全て家臣に任せて、いやかかわらせてもらえずただお飾りでいることを望まれました。

 

 いろいろな家庭教師に政治や帝王学を習ってはいるが、それを使うことがない。

 

 

「……今日はいよいよ、婚約の日なのね、久遠。緊張しちゃうわ」

 

久遠にだけは姫らしい態度をしない王女は浮かなげに笑う。

 

赤の召使にそういう王女は

 

「大丈夫ですよ、青藍様。白の王子は穏やかなことで有名な方ですから」

 

 

久遠は微笑みながら言います。

 

この婚約が、大臣達によってさせられる政略結婚のためであることも、

 

その大臣達の手によって、高い課税が国民に対してなされていることも、

 

国民達がその事に不満を抱いていることも、

 

その全てを彼は知っていましたが、心優しき王女にそのことを言えずにいました。

 

純粋な姫にそのままでいて欲しかったから。

 

周りの人間を信用できない姫になってほしくなかったから。

 

黙っていて何もしなかった自分を嫌われたくなかったから。

 

 

「……初めまして、青藍姫。私は白の国の王子、白(ハク)と申します」

 

 

「初めまして、白様。青の国の王女青藍です」

 

 

青藍は、一目見て白の事が気に入りました。

 

政略結婚でもいい家庭が築けるだろうと。

 

恋もしたことのない幼い少女は思いました。

 

為政者としておさめたことはなくともそれは為政者としての素質でした。

 

 

白は青の国の国民が大臣達の手によって苦しんでいる事を知っていて、青藍もその苦しめている人間達の一人だと思っていました。

 

だからこそ、そっけない態度をとっていました

 

 

それが召使の久遠にはわかりました。

 

でもそんな彼にも気づかなかったこともありました。

 

それは後に分かることとして

 

 

 

そののち、王子が緑の国の緑の髪の緑の瞳の身分違いの少女ー緑の少女ーに恋をしたという噂が流れました。

 

それを聞いた青の国の大臣たちは

 

「白の国の王子が緑の国の小娘に夢中だというのは本当か?」

 

 

「ああ、確かだ。報告があがっている」

 

 

「ならばちょうどいい。緑の国に戦争をしかけよう」

 

 

「確かに、その方が我々の懐にもたっぷりと金が入るな」

 

 

「あの豊かな緑の国の領土も手に入る事だしな」

 

 

そう高笑いした。

 

 

 

 

噂を大臣の口から聞いた青藍姫は少しは気に行った王子のことで悲しみましたが、心のどこかで喜んでいました。

 

隣国の赤の国の王子はまだ幼いし血筋上従弟にあたるので相手として選ばれるのは最終選択だし、

緑の国は他国に王族の血を入れないことで有名だったからです。

 

「婚約者たる王女をないがしろにした挙げ句、他国の女にうつつを抜かすなど、言語道断ですぞ!

 

即刻、緑の国に戦争をしかけなさるべきです!」

 

 

「そんなことをすれば、民が苦しむ事になります!」

 

 

「緑の国は、王による圧政に苦しんでいます。戦争によって王女が緑の国を救うべきなのです!」

 

 

「緑の国が、そんなひどいことを?……、…………わかり、ました。ですが、緑の民を傷つけないようにお願いします」

 

 

「勿論ですとも!」

 

 

そうして、青藍は大臣に騙される形で緑の国に戦争をしかけました。実際の緑の国は、とても豊かで平和な良い国だったのです。

 

勿論、大臣たちは緑の民を傷つけない、という配慮をする気などありません。

 

 

 

……その頃、圧政に対する青の国の民の怒りもまるで跳ね上がるようにして大きくなっていました。

 

 

 

 水色がかった銀色の髪に水色の瞳をした女騎士は青い甲冑をつけている。

 

 

 札を見ながら壁を殴りつける。

 

「……くそっ!また増税か!国は、我ら国民を殺すつもりなのか!」

 

 

「涼風(リョウカ)!俺達もう我慢出来ねえ!」

 

 

「そうだ!王宮に乗り込んで王女と大臣を捕らえるんだ!」

 

 

蒼き剣士の涼風は、その人柄と強さから、沢山の民から信頼を得ています。

 

そして彼女の両親は、かつて大臣に向かって民を守るよう進言し、殺されてしまっていました。

 

そのことからも、涼風は青の国の大臣や王女に強い憎しみを抱いていました

 

 

 

「……そうだな。もう、我慢できない。……皆、私についてきてくれるか!」

 

 

 

「「「「「「「うおおおお!!」」」」」」」

 

 

 

とうとう、虐げられた国民たちは決起します。すべての憎悪は王女青藍と、大臣達へと向かうのでした

 

 

 

 

 

 

王宮内部、王女の部屋。

 

 

その頃、なにも知らない青藍は、部屋でティータイムを楽しんでいました

 

 

「……おいしい。久遠の作るおやつは全部好きだけど、ブリオッシュは格別ね!」

 

 

「ありがとうございます、青藍様」

 

 

久遠は知っていました。

 

 

青の国の兵士達が疲弊していることを。

 

 

国民の不満が爆発しかけていることを。

 

 

それでも久遠は、口を噤み続けました。

 

 

 

 

とうとう、運命の日がやってきます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涼風を先頭にした国民達が一斉に王宮に雪崩れ込みます。

 

 

緑の国との戦争で疲弊した兵士達では、それを止めることなど出来ませんでした。

 

 

 

ところが、すでに情報が入っていたのでしょう。城はもぬけの殻で、大臣達は既に逃げ出した後でした。

 

 

涼風達はそのまま、玉座の間へと突入します。

 

 

 

 

……そこには、ドレスを着た少女がたった一人、静かに佇んでいました。

 

 

 

 

 

「青藍王女!覚悟!」

 

 

 

城に攻め込まれて、青藍はようやく気づきました。

 

国民達が、自分や大臣達に対して激しい怒りを抱いていることや、大臣達が民に対して圧政を強いてきたこと、自分が白の王子に疎まれていたこと。

 

 

それを知った彼女に残された、彼女が最期に出来ることは、せめて民の思う王女を演じることでした。

 

 

民の憎む、高飛車で高慢な王女を

 

 

「この、無礼者!王女たる私に向かって、愚かな!さあ、跪きなさい!」

 

 

「愚かなのはあなただ、王女!あなたを拘束させて頂く!」

 

 

涼風は、告げると同時に青藍を拘束して地下牢へと幽閉しました。

そして民と共に、何時間も何日も話し合いを重ねた結果、青藍の処刑を取り決めました。

 

 

処刑の時間は午後3時。

教会の金が鳴る時間。

 

 

王女と呼ばれたその人が一人、地下牢で何を思っていたのか。

知る人はもう存在しません。

 

 

 

 

処刑の時間が近づきます

 

 

 

 

「何か言いたいことはあるか?」

 

 

広場へとひきずり出され、集まった国民達から有らん限りの罵声や歓声を浴びせかけられながらも、

 

青藍はそれが耳に入っていないかのように、ふわりと微笑みます。

 

 

そして、

 

 

 

 

 

「……おやつの、時間だわ」

 

 

 

 

 

 

ガシャン

 

 

 

ギロチンにより首を掻き切られ、その首の顔はなんの苦痛も感じないよう安らかな顔でした。

 

 

 

 

 

 

涼風の言葉に答えたのか、それともただの呟きだったのか。

 

 

悪と呼ばれた少女はそう言い残して処刑されました。

 

 

彼女の楽園は、思いは、脆くも儚く崩れていきました。

 

 

 

 

 

そして、後の人々は語ります。

 

 

 

 

 

ああ、彼女こそまさに「悪ノ娘」だ、と

 

 

 

 

 

 

 

 


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