ONE PIECE~Two one~   作:環 円

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45-ラストチャンス

 「そろそろ下ろして頂けると、嬉しいなーなんて思うんですが」

 何度めかの懇願を無視する青雉の背にアンは溜息を落とした。何度目のそれだろうか、と心の内でため息をつく。大将に担がれるなど目立って仕方が無いのだ。

 こうなったのは数分前の事である。義祖父と共にやってきた本部でエリキと落ち合い今後を打ち合わせた結果、どうしても今、出しておいたほうがよい幾つかの書類と事前に準備していたものの中に不備を見つけてしまったのだ。二度手間になるだろうこれを見ぬ振りして提出はできない。艦へと走り共にまとめた報告書を手に、おつるの元へ空駆けてやってきたアンを上司である青雉が確保、有無を言わせず肩に担ぎ歩きはじめた。

 直前の状況は以上であるが現在、アンは俵担ぎ状態にある。

 

 じたばたしてもこの体格差だ。持たれかたといい、体をひねってどうにかしようとしても頑として動かないこの盛り上がった筋肉が柔らかくなろうはずもない。拿捕されたのだと理解するまで長い時間は必要なかった。

 用件はわかっている。会議に連れてゆくのだろう。クザンは書類仕事を厭う傾向が強い。

 しかも若干体温が高い気もした。これは寝る気まんまんだと予想がつく。

 

 アンが考えるに、ある意味クザンは適材を適所に使うのが上手い上司である。

 それぞれが興味を持つ分野と技能を伸ばし、不得手とするなにかには誰かしらの合の手を入れた。そうして支え合わせるのである。上司の命令が下らなくともある程度、自分達の裁量で動けるように仕組むのだ。ゆえに彼の部下たちは着々と力をつけ、青雉の元を巣立ちひとりの将として立ち行く。

 

 アンはため息をぐっと飲み込んだ。ここで不毛な言い争いをするなど愚の骨頂だ。金銭の裕福は個人差が出る最たるものだが、時間だけは貴賎の差など関係なく誰にも二十四時間与えられている。それを無駄に消費するのは勿体なかった。

 上司に奪われていた書類を返してもらい、バランスの悪い肩の上でぺらぺらとめくる。腹筋がかなり引きつるが、こればかりは鍛錬と耐えるしかない。そして口頭ではあるが採決の言質をとり、代筆のサインを紙へと書き込んでいった。この一年で器用になったとアンはほとほど思う。不安定な自転車の後部に乗りながら書類を捌くなど、世界広しといえどアンしかしないだろう。

 

 (機嫌が悪い…なにかあったのかな。いや、違うな)

 

 アンは昨日を思い出す。クザンの趣味は自転車での一人旅と睡眠である。

 

 「そんなにひとり寝が嫌だったんですか」

 もしかして一晩中寝つけずご機嫌が斜めっているのではないか、と首を傾げ。そう思い言葉すれば、ぴたりと歩みが止まった。どうやら図星であったらしい。

 「クザン…」

 

 不貞腐れもここまでくると、嫌がらせにしかならない。膝の上にアンを置き、自分はそのまま会議をすっぽかし睡眠しつつ最後の最後まで書類仕事を投げやる魂胆であるのは間違いないと確信した。

 基本的に青雉は本部の決定に異議を申し立てない。大筋として方針を受け入れ、そこから独自に多方面からの視野で解釈する。

 その考え方は嫌いでは無く、どちらかと言えば好意的に捉える事ができた。ただしいつまでも妹扱いするクザンに対しては文句が山ほど積み上がってはいるのだが。

 

 大きなため息が出た。

 アンは腰を捻って肩に両手を置いて身を起こした。そのまま体を後ろに倒せば彼の腕の中にすっぽりと収まる。

 大切に想って貰えるのは嬉しいしありがたかったが、妹以上の関係にはなるつもりは全く、これっぽっちもない。彼が本来、その腕に抱きたいと願っているのはアンではないからである。

 それは他の大将も同じで、大切な上司、家族に似たなにか。友人、それよりも深く結び付くには、心のどこかで否定が入るのだ。

 「大のおとなが、拗ねないで。会えなくなるわけじゃないんだし」

 頬に手を伸ばし、アンは苦笑する。青雉艦で過ごした一年は非情に充実した、楽しい日々だった。

 黄猿、赤犬、おつる、そして青雉の元に渡り、それぞれが教授してくれた様々が形になった年である。

 今日からまた、新たな勤務先に移るだろうが海兵を辞めるわけではない。行方をくらませるのは来年だ。

 

 頬を揉んで強張った筋肉をほぐす。

 こんな事を青雉大将にできるのは、あとにも先にもアンだけだと周囲は目をそらしながら思う。

 

 「眠ければ寝てください。会議の内容のまとめはメモしておきます」

 

 床へと降り立ち凛々しく敬礼する将校の頭をぽんぽんと撫でるとゆっくり青雉が歩み始める。大将の中でも青が一番、融通が利かず気難しい、とは艦隊勤務に就いた事のある海兵であれば一度は耳にしたことのある話だ。艦隊の指揮はほぼ副長が仕切り、大将は別任務に当たっていることも多く、船を実質動かしているのは複数名の副長たちだ。昇格すればすぐに艦隊指揮がとれる人物達が多いのもこのためだといわれている。

 だがこの一年、青雉が自分の艦隊を離れている時間がほとんど無かったという。特殊な能力を持つ英雄の孫の働きも大きいとはいえ、艦隊の主が座しているのとそうでないのとでは士気が全く違うのだ。気持ちがぶれないのである。

 青雉の艦に所属している誰もが残留を望んでいた。今まで在したことのある艦隊の誰もが一度は思う最期の一線だ。

 しかしながら小さな英雄は同じ場所には舞い戻らず、転々と居場所を変えている。

 これが最期だろう。ここまでしっかり青雉大将の手綱を握り続ける珍しい副官の姿を見るのは、と光景を目撃した者達がその背を見送った。

 

 

 アンは数歩先を行くクザンの斜め後ろを歩く。

 歩きながらエースの様子を窺(うかが)えば、兄弟で仲良く昼食を食べ始めていた。量も味も程よいようで、ほっと胸を撫で下ろす。足りなければ食べて、と指し示した果物もある。大丈夫だろう。

 

 本部へ向かう道すがら、義祖父がぽつりとつぶやいた言葉を思い出す。

 見下ろしていた目にあったのは優しさだ。

 「……よく似てきたな、お前たちの父に」

 

 アンは驚きを露にした。もとから表情筋を固定するには向いていない性格である。できるだけ心理を顔に出さないよう訓練しているが、気を抜いているとがっつりと動いた。特に兄弟たちと一緒の時は2回目の生であることなど忘れてしまうくらい馬鹿騒ぎしてしまうこともある。

 

 「そっくりなのは、ルフィだよ」

 

 笑みを浮かべアンは邂逅時の父を思い浮かべる。義祖父は麦藁帽子の継承を知らない。言うつもりもなかった。

 だが義祖父は未来にて知るだろう。全ての事柄がひとつに集い、固められた今が押し流されるその時を目撃する。新たな歴史が開かれるその瞬間を見る証人となる。

 

 そしてそのまま無言となり本部へと至った。

 それぞれの向かう先に分かれ、そしてまた同じ部屋に合流する。ちらりと視線が合った。瞼を閉じ遮ったのは義祖父のほうだった。

 

 

 「ポートガス、無事でよかった」

 「本当に」

 「おいおい、おれが副官になにかするわけがないだろう」

 

 不機嫌さを盛大に押し出しながらエリキに文句を言うのはお門違いというものである。

 「青雉大将、そろそろお時間ですよ」

 

 懐中時計を閉じ、アンが上司を見上げる。

 「わたしはもう少しエリキ副長と打ち合わせの詰めをしますので、先に中へお入りください。必ず参りますから」

 

 青雉を体よく扉の向こう側に追いやる。そして廊下にて複数名の所属艦隊が違う副官と書類を交換し合い、今後の予定をすり合わせた。アンは少なくともこの会議が終わるまでは青雉艦隊の副長である。今年も新たな場所に移ることになるだろうが、エリキとふたりで示し合う。

 会議の席は大将や中将にとって本部の基本方針を直接耳で聞き、口頭質問が出来る場だ。それと同時に各艦隊にとっても、連携を確認し合う貴重な寄合になっている。

 会議室の対面には小会議室があり、副長達はその中や廊下で艦長を待った。アンは人の垣を越え黄猿の艦の副長を探す。

 「こっちですよ、ポートガス」

 エリキに呼ばれ、見当違いの方向に進んでいた歩みを返す。

 案内された輪の中にはドレークの姿もあった。黄猿艦内で副長の補佐に入っているのだ。随行もさもありなん。

 「じゃあ今度の副長会議で会えるかもしれないね。…何処に所属するかにもよるだろうけれど」

 

 4年近くも海軍に居れば馬の合う、合わない人物がどうしても出てくる。仕事の席ではおくびにも出さないが、その後の酒の席やお付き合いとなれば軽く出席だけしてすぐ出てくるのが常だ。

 自身を否定されても、別段気にはならなかった。年齢や業績、その他に関しても誰かの手を必ず借りて事成していたからだ。なにひとつとっても、自力ではじめから終わりまで、出来た試しがなかった。未熟であることはアン自身が一番良くわかっている。だから自身の悪口を言われたとしてもどうという事は無い。言いたいならば言わせておけばいいのだ。義祖父や、デイハルドの威をこんな場面で借るつもりもない。

 

 だが唯一、アンが許せないと思うものがある。

 それは自身(アン)の名を餌に同僚の名を貶められることだ。勿論、そういう時はアンも黙ってはいない。笑って見過ごしたり、沈黙したり、最もしてはならぬのは感情的に怒ることだ。相手の思うつぼにわざわざはまってやるのも癪である。だから相手が優位に見下げ優越感に浸る為に放った言葉を、ことごとくへし折ってきた。

 

 たかが15歳と思うなかれ、である。

 そういう事を何度かしでかしていると、誰もが面と向かって言っては来ぬようになる。裏ではなにやら愚痴っているようだが、人間誰しもストレスを抱え込むものだ。実害無き噂まで否定して報復を与えるまではしたくない。

 

 しかし。偶に公の席で咳払いは来る。

 仕事をしている時は出来るだけ私情をはさまず任務を優先させるのだが、今日のようにドレークや所属した事のある艦隊の顔見知りと会えば、どうしても会話が弾んでしまうのも致し方ない。

 

 「ごめんなさい」

 そういう時は相手の目を見て、ほほ笑んだ。笑顔に勝る謝罪は無い。女であるからこそ許される武器だ。

 

 「それじゃあ中でもう一仕事してきます」

 書類一式をエリキに渡し、踵を返す。純白のコートが風を孕むように揺れた。

 

 

 

 会議は滞る事無く進行してゆく。

 開始直前に入室した大佐に数名の中将が詰問を寄せたが、青雉と元帥の言を受け着席を許された。とはいえ椅子は用意されていない。3時間近く続く会議中立って過ごす事になるが、大将達にしごかれる1時間と比べれば容易いと黙って青雉の斜め後ろに陣取る。

 「膝においで」

 「謹んで遠慮させて頂きます」

 

 ぽんぽんと膝を叩いた上司に拒否の意を伝える。しかし伸びてきた手に軽々と体を持ち上げられ、結局のところ座らされてしまった。特別扱いをされたくはない。こういうことをクザンがするから、目くじらを立てられるのである。はっきりいって迷惑だった。

 横に座る赤犬の眉がピクリと動き、義祖父に至っては拳を握りしめている。黄猿は周囲の状況を楽しんでいるようだ。

 

 空気を読んで見なかった事、気付かなかった事にした。何らかの反応を起すほうが要らぬ火花を散らすだろう、との判断だ。

 アンはアイマスクをし浅い睡眠に入ったクザンをちらりと見、配られていた書類にざっと目を通してゆく。

 

 四皇の勢力均衡図には目立った変化は出ていないようだった。

 さすが統治の長い白ひげとビックマムの領海は安定している。小競り合いが確認されているのは、赤髪と百獣のカイドウだ。

 

 島の名前を見て思わずため息をひとつ追加する。数週間前にシャンクスの船に乗り連れて行って貰った地名が記されていたからだ。

 赤髪海賊団は新世界のあらゆる場所を自由に航行する。支配地を持たず、ただ海を往く。確たる支配地を持たない事で、赤髪海賊団は四皇の地位を得ている。

 否。あの船に乗るみんなは、そんな呼び名など必要としてはいない。海軍や世界政府、ジャーナリズムが勝手に彼らをそう呼んでいるだけに過ぎなかった。しかしながら海軍が四皇だと彼らをそう呼べば、周囲も右へと倣う。

 シャンクスはただ青の海を渡っているにすぎない。誰の領地であろうと気にせず波を切る。そして他の海賊達とは違い奪うつもりで上陸するわけではなく、ただ食糧の買い出しと休憩の為に立ち寄るだけだ。だから正確には四皇の地位を無理矢理押し付けられ、その呼び名に心底うんざりしている状態である。

 

 ちなみに訪れたかの島は秋の盛りであり、紅葉が丁度見ごろだと聞いたふたりは買い出し先行隊に同行した。

 そこで、だ。

 アンはエースと久々に大喧嘩してしまった。きっかけは些細な事だった、と思う。

 曖昧なのは終了後になぜ喧嘩してしまったのか反省会を開いた時、両者ともに綺麗さっぱり覚えていなかったからだ。同行していた数名曰く、二股に分かれた路のどちらかを行くか、だったらしい。

 

 普段はどちらかが折れ、そこまで酷い言い争いにはならない。

 だがその日はどちら共、腹の虫の居場所が悪かった。六式の使用こそ無かったものの、ふたりの喧嘩は多くの意識不明者を出したという。

 後ほど聞いた話だが、そこで一番の煽りを受けたのがその島の管理を任されているカイドウの一部隊だったのだ。

 止めに入ってくれたらしい。彼のお気に入りの島だから余り暴れないほうがいいと親切にも仲介に入ってくれたのだそうだ。

 

 シャンクス達は何度か兄弟げんかの現場を目撃しているため、余計な手出しはしなかった。

 途中で止めると燃え草が残るからだ。綺麗にぜんぶ燃やしつくせば後腐れも残らない。だからかの船に乗る者たちは始まる前ならまだしも、ゴングが鳴り響けば放置だ。高みの見物を決め込んで賭けに興じる。

 

 カイドウの部下は運悪く最も苛烈に言い合っている所へ割り込んでしまったのが運の尽きだったと全てを目撃していた船員達から聞いたのだが。

 その時の記憶を掘り起こしても、覚えていないアンが居た。エースに聞いてもそんなヤツ居たっけ、との返答だった。

 流れる各支部の報告を聞きながらアンは思考を続ける。ふたりののせいで赤髪とカイドウの間に火種を生んでしまったのは確かである。ベックマンも気にするなとは言ってくれたが、海兵の身としては申し訳ないやら、赤髪との関係を伝えねばならなくなる今回の一件を海軍に報告など出来きる訳も無く、悶々としてしまっていた。

 

 そんなに悪いと思うならおれんとこに来いよ。乗組員の粗相ならむしろ喜んで被ってやるぞ、と誘われたがいつものごとくお断りしたのは言うまでも無い。

 

 海兵だから、と言えるのは今年で最後だ。

 それよりも気になっていたのは義祖父の態度だった。去年まではあんなに自分の部隊に所属させたい強烈な胸の内を訴えかけていたというのに、今年は全く無いのである。

 

 新世界におかれている支部の報告はだいたいであるが把握している。CPに片足を突っ込んでいるアンの元には数ヶ月に一度まとまった資料が送られてくる。預かってくれているのはコングだ。デイハルドとの約束を果たしたあと彼の執務室に行き、茶を飲みながらさっと目をとおすのが最近の流れである。

 

 その中で唯一、アンが気にかけている支部があった。新世界に在するG-5だ。

 ここには傲岸不遜を仮面として纏いつつ、心の奥底で唯一心を許した存在がつけた小さな傷を隠し通し、時折感じる痛みを意識したくないがため、綿密で腹黒い底なし沼のような思考をし続けているくせに、世界をゲーム板に見立ててサイコロを放り投げている、ピンク色のいけ好かない男が片腕と称する存在が隠れている。

 名をウェルゴといい、海軍に入隊して早々に頭角を現し異例の速さで基地長まで昇りつめた男である。

 

 出来なければおかしい。

 というのがアンの率直な感想だ。なぜなら彼はドフラミンゴに相棒とまで呼ばれている存在である。ピンク色が自分を取り囲む周囲に望んでいるのは、連珠としての意識だ。五目並べと言う方が良いか。わかりにくければ、オセロ、でもいい。どのような状態に陥っても、個々として在りながらもひとつの塊として動く存在であることだ。その中核であるのはピンク色である。身内に求めるのは絶対的な信用だ。自分は簡単にするくせに、裏切りを最も嫌う。

 身内に迎える人物の能力は、はっきり言って二の次だ。優秀であれば良いが、知識や力を持っていなくとも教育を施し付けさせればいいと考えるからだ。

 

 本当にやっかいな相手に目を付けられた。

 

 アンはピンク色の勝ち誇ったあの横顔が脳裏にチラつくたび、心が激しく波立つ。

 ピンク色との関係は表沙汰に出来ぬものだ。義祖父やセンゴクに説明するに際し、デイハルドだけではなく天竜人の過去をも告げねばならなくなる。ピンク色がどうやって王下七武海のひとりとなれたのか。腹立たしいことにそれらをも言わねばならぬ。しかも発言すればアンはデイハルドの狗ではなくなり、天竜人を取りまとめる最高位当主の預かりとなることが通知されていた。以上、事情を知っているらしいゴングからもそれとなく釘を刺された内容はかなり深々と身を抉るものだ。

 

 まさしく雁字搦めとはこの状態を指すのだろう。

 ただアンがいらぬ言葉を漏らさぬ限り、その身は自由であり現状を変える必要などないと達せられているのだ。

 秘密とは隠し持つためにあるのだと暗に示されたようで、かなり胃にきたのは言うまでもない。

 

 しかも何を思ってか、アンを家族に迎えている。未だに覆っていないということは、そのままであるのだろう。

 宣言された当初、多くが驚く中、説明もなくただ意味ありげな笑みを張り付かせたままの王の真意を探ろうと各々が勝手に動き始めた。特に激しかったのがクラブの席に座る男だ。

 本人の意向を完全に無視し勝手に決められた加入に即座に否定を示したアンである。シャンクスからの誘いもことごとく断り続けているのだ。来年には双子の半身と共に海に出る。そう決めているのに、どんどんと多方面から予定外の道筋を突貫工事されているようでかなり気分が悪い。

 

 だがこの時のアンには重大な任務が課せられていた。おつるから託された書類にサインを貰うまでは本部へ戻るに戻れない。結局長居する破目になった。

 そしてどんなツワモノであっても組織に馴染めないものは二日と経たずに逃げ出す場所で五日間とはいえ、関わろうとしてくる彼らの手段と思惑を掻い潜りながら、見事、渋々ながら苦い顔を取り繕わないドフラミンゴから不定期で行なわれている王下七武海が顔を揃える会議の通知書を受け取らせ署名させたのだ。

 褒められた手段を使ったわけではないが、結果こそが全てである。低い唸りを真正面で威嚇されたが、どこ吹く風といなしたのがほんの数日前であるかのように思い出せた。

 

 並ぶ文字の向こう側を知っていると案外、むさくるしい男ばかりが集い難しい顔をしたしかめっ面を眺めなければならなかったとしても楽しさを見出せる。

 

 さて、と書類をとんとんとまとめ意識を向けるのは兄弟たちへ、である。

 ふんだんに食料を用意してきてはいるが、弟の胃はゴムであるからして幾らでも延びた。いつでも腹いっぱい食べられる環境に無いため、美味しく量がありしかもそれが良質なたんぱく質だとしたならはち切れる寸前まで詰め込むのが弟である。一瞬にして昇華してしまう不思議な胃の存在は、ルフィ七不思議のひとつだ。

 

 最悪の展開を予想して、エースに財布も渡してある。あのふたりであっても時と場所は選ぶだろう。食い逃げだけはしないはずだ。ルフィには海軍の本拠地でできると思うな、しようとすら思うなと耳を押さえるまで延々とそして淡々とじ、っと目を見つめてお願いしてきたのだ。

 たぶんきっと、守ってくれるに違いないと自分へと必死に言い聞かせる。

 

 

 マリンフォードには基本、海軍に所属する兵員とその家族、許可を得て商売をしている商人達だけが暮らしていた。

 しかしどこにでも絡んでくる人物は居るものだ。エースとルフィは人目を引く。人の意識を引き付ける、とでもいうのだろうか。いわゆる悪目立ちというやつだ。こればかりはふたりがどうこうできる問題ではなく、受け取り側の如何だ。

 

 例えば衣服。森で暮らしているふたりが衣服を選ぶ際、動きやすいモノを重点的に選択する。

 だがちゃんと行く場所を伝えてから着たい物を選ばせると、びっくりするほど趣味がいいのだ。TPOをしっかりと認識してくれる。ルフィは途中で面倒になり何でも良いと言い出すが、じゃあこれを着ろ、そうエースから言われれば文句を言わず袖を通す。

 それは決して衣服を選ぶのが上手いだけのせいではない。雑踏の中に紛れていても、無意識に視線を向けられてしまうのがふたり、だった。なんといえば通じるのだろうか。その場にあわせた雰囲気を作るのが上手いのである。

 サボを含め、兄弟達は美男子ではない。ではないが、人を引き付ける魅力を持っていた。人の魅力とは顔面の美醜だけではないのである。

 

 アンは密かに息をつく。なかなか直らない悪癖だ。

 それは"不確かな物の終着駅(グレイターミナル)"を抜けて町に行けばお金を渡し忘れたとあっけらかんとしたり、裏町で喧嘩を買うのはよいが、立派な不良少年たちを魅了しつつ放置している件などだ。

 彼らとの喧嘩は、アンの目から見れば子供同士のじゃれあいである。

 面倒くさいと言いながらもエースは相手をしてやるし、ルフィは幾人かと挨拶を交わしながら、終わるのを待っている。

 

 それはきっと、仲良くなりたい、そういう現れの裏返しじゃなかろうかとアンは思っていた。

 無条件で横に立たせて貰っている視線で見ても、エースは先頭に立ちぐいぐいと、集団を引っ張ってゆくタイプだ。

 

 基本的にエースは優しい。

 生まれを知り、ダダンに預けられ、義祖父の分かりにくい愛情表現で多少は尖ってしまったが、弟やサボを想う時に見せるまなざしは穏やかだ。

 側に寄り添えば、安心感も覚える。

 そして一度懐に入れた存在には、限りなく甘い。

 

 その雰囲気を、端町に追いやられた者達も感じとっているのかもしれなかった。

 ただし、懐に入るまでのハードルがやたらに高いのだが、それを町のチンピラ達に教えても所詮無い。

 

 

 議題が進む。

 新人と呼ばれる、"偉大なる航路(グランドライン)"の半分を走破してきた海賊達の話だ。

 久々に億を超える懸賞金がかけられた大物新人の名が出ていた。

 けれど東の海出身者は、このところ、不作らしい。それだけ海賊になろうと思うものが少ない海なのだろう。

 被害は報告されているが、他の海と比べれば、極小と言ったところだった。

 その為ジンベエが七武海入りした時に解き放たれた魚人がとある島を支配し、悪政を行っている事実を認識しても小さな事だと取り合ってはいない。

 

 その他の海ではもっと悲惨な状況だったからだ。

 魚人島に関しては記載もされてはいない。

 人間にとっては所詮(しょせん)、魚人は遠い世界の住人なのだ。海底で一体何が起こり、どんな思いが渦巻き、何が願われているのか。

 地上で暮らす人々の多くが、知らない。知らされてはいない。

 ジンベエと仲良くなり、言葉としては聞いてはいなかったが、心が人間に対する悲しみと恨み、そしてやるせない怒りを感じとっていた。

 人間が魚人に死を運ぶ。それは、間違いではない。

 

 かの奴隷解放を行った、英雄も人に関わり死んでいる。

 いま世界で出回っている真相と呼ばれているそれと、多くは間違ってはいなかったが詳細は違った。彼は人の血によって生かされるのを拒否したのだ。

 人に飼われ、権力の末が生み出した狂気の宴を見、それでも人を嫌いにはなってくれるなと、どの口を開いて言えるものか。

 人間がどこまでも残酷に、冷徹になれる事を、アンは身を以って知っている。

 だから言えなかった。謝罪の言葉を。言っても、彼らの心をかき乱してしまうだけになる。

 魚人海賊団の船に足を踏み入れ、声なき思いに身を浸せば余計に、だ。

  

 けれど意志は強く受け継がれている。太陽の下へと願う声は、今は小さくとも、きっと大きく育つのだと信じた。

 例え幾年かかったとしても、彼らは行い続けるだろう。

 アンが出来ることがあるとすれば、差別することなく彼らと同じ目線で立つことと次の世界会議が行われる席で、デイハルドへ一言、救済のお願い事をするくらいだろう。魚人達の声に耳を傾けて欲しい、と。

 多くの世界貴族達が失笑し笑い飛ばすに違いない。だが口を噤んでいてはいつまで経っても物事は動かないのだ。

 

 支部からの申し送りや人員派遣など、細かな異動にチェックを入れ、後ほどエリキが見れば分かるように、下線と追加文を書いておく。

 

 その他、めぼしい件は魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)で行方不明の船が多発し、世界政府から対処するように言及されていること、くらいか。

 

 たしかこの海域を拠点としていたのは、七武海のゲッコー・モリアだったとアンは思考の戸棚から、情報を引き出してゆく。

 余り外には出て来ない人物であるため、その容姿は聞いたものだった。

 ピンク色曰く、死体愛好者。ミホーク曰く、他力本願。

 だという。

 

 聞いただけではいまいちよくわからない人物だ。

 ペンを指先で遊びながら、彼、に関して知っている情報を並べてゆく。

 ジンベエは会った事が無いと言っていた。

 ただかなりの大物であるらしい。超人系悪魔の実、カゲカゲの能力者で、自分や他人の影を操るのだそうだ。ただ木や建物などは扱えないらしい。有機物限定なのだろう。

 

 部下、と言えるかどうかは分からないが、彼は死者を操り軍団としている。

 なんでも新世界で人生の転機を迎えたのだとか、世界屈指の名医と言われていた人物を傘下に怪しい生体実験を行っているとか、かつて四皇であるカイドウと何度もやり合った事があるとか、聞こえてくる噂は曖昧な、噂らしいものばかりだがそのどれもに真実が含まれているのは確かだ。

 

 それをどうにかする対処と言っても、七武海は世界政府より赦免状を交付されてはいるが、立派な海賊である。

 各々が好き勝手に、やりたい事を行っている私掠者なのだ。

 言う事を聞けと言っても、聞くとは限らない曲者揃いばかりが在席している。

 

 一応は。

 政府の監視下に入り、何処に居るかという所在も知らせれば、召集が掛かれば聖地にも数名、足を運んでくる。盟約を結んでいるとはいえ、それぞれの思惑が絡み合っての合意だ。協力関係と言ってもこれほど弱く、脆いものは無い。

 

 アンはそんな七武海達と、頻繁にではないが会っていた。

 最も回数が多いのはジンベエだ。政府が発行する、七武海に何らかを要請する書状を渡しに赴く。

 他のメンバーには伝書バットを使って送られるのだが、ジンベエだけは海の中を航行し、なかなかつかまらないからだ。その点アンであれば海水を飛び越えて、シャボンで覆われた船内に跳躍出来た。

 次いでピンク色、ミホーク、くまと続く。

 

 「対処、ねぇ…」

 議論は白熱していた。

 議長である元帥をはじめ、3人の大将と義祖父、長年中将の位に就いている人物達は若手の熱意溢れる言論に耳を澄ませている。

 

 実力行使でなんとかなっているならば、とうの昔にこの問題は解決しているはずだ。

 アンは発言者が発する幾つかの問題点を、紙にさらりと書き出す。

 

 魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)は7つある前半の航路上全てに覆いかぶさる、最後の難関ともいえる霧地帯だ。ここを外して通過しようと思うならば、凪へと入らなければならない。軍艦も商船も、そして海賊船も、平等に霧は覆う。

 この霧地帯を根城にしているのが、ゲッコー・モリア、だ。

 アンもその海域を何度か往復しているが、一度も出くわした事がない。それどころか霧さえ晴れて、晴天の元、航路を進む方が多かった。

 霧の中に隠された真実がある。探してみるといい。面白い事実が眠ってるぜ。

 そう父から情報を貰ってはいるが、なかなか霧に出会えないでいる。まるで暴かないで欲しい、そっと霧の中の秘密はこのままにしておいて欲しいと避けられているかのようだ。

 

 議題を話し合う、いくつもの声が効果的な手を打ち出せないまま、末尾がしぼんでゆく。

 「…海軍としては、世界政府としては、か。新世界に入る海賊達を抑えてくれる良質な網、としての効果を期待しての加入要請だった。けれど近年は益より害の方が顕著になってきている。これをどうにかしなければならない」

 

 とんとん、とテーブルを叩く小さなペンの音が喧騒を静めた。

 

 「武力で行くのは論外。相手は死者、いくらでも替えがきくし実力を兼ね備えた海兵が行ったところで、影を取られに行くようなもの。とはいえ将校以下を投入したところで、戦力の無駄遣いになってしまう」

 

 それでも前半の海をなんとか越えてきた雑魚を片付けるのにはまだ有効といえるだろう。

 ただそのせいで、モリアの戦力が着々と大きくなっているのが政府は気にくわないのだと、簡単に見通せた。

 海軍、そして政府が王下七武海を養っているのは、海賊という存在の共食いを望んでいるからに過ぎない。政府や海軍、加盟国に損害を与えなければ、何をやっても基本的に赦されるのだ。

 

 少女の視線は文字を追う。

 

 「商船の食べられっぷりも酷い。ここ3年に区切っても合算すると72%がこの海域で行方不明になってる。見つかったとしても中身は空、能力によって影を取られた後に光を受けたか、殺されたか」

 

 首輪を付け、鎖で留め置いているはずの狗に、半ば歯向かわれているのと変わらない状態であるといえるだろう。

 役に立たないならば代替えすればいいのだが、ネームバリュー、モリアが持つ名の価値、実力以上を兼ね備え、それでなお且つ、政府の下にくだっても良いとする海賊がなかなか見つけられずにいる訳だ。

 

 見つけたとしても、政府のラブコールを受けるかどうかは、海賊次第であり、強制は出来ない。

 「税が取れていないというよりも、希少金属を乗せた船も消え失せてるっていうのが、ね。それを待ちに待っていたどこぞの、角を生やした天竜人に役人がせっつかれ、その役人の上役辺りがコングさんに泣きついた、っていうのが本当のところかな」

 船名で大体どういうものが積まれているか、おつるの元で居たアンは把握していた。しかもその裏打ちをCPがおこなっている。

 

 「交渉決裂させたな…。情報を与え過ぎて、じゃオレの物ってされたのは。誰だ、責任者は。

 これを海軍になんとかしろって押しつける所がえげついな。なんの為に交渉者(ネゴシエーター)を政府内で育成してるのか分からないじゃない」

 

 横に座る赤犬が卓に肘をつけ、面白そうに黒髪の少女のひとりごとを聞く。

 集中しすぎて雄弁になる癖がまだ抜けていなかったのかと、笑みを結んでいた。

 

 「へぇ旗艦って島一つ使ってるんだ。この大きさで海賊船って…一度行ってみたいな。おじゃましまーすって行けば、入れてくれるかしら」

 目を輝かせて文章を読み込み始める。何かが琴線に触れたらしい。

 青雉がアイマスクの下で薄く目を開いた。

 

 「お休み取れたら行ってみようかな。くまさんに頼むのが確実だよね。そうなれば。

 …戦力的に脅威となるのはやる気を出したゲッコー・モリアと、その配下のゾンビ兵たち」

 

 カゲカゲの実については後ほど本を見るなり、世界に情報を流してもらえば解るだろう。

 ただ行き先を告げて、果たして行かせて貰えるかがネックだった。

 

 「ダメ元で釣ってみるかなぁ」

 元帥とおじいちゃん。ふたりの好物いっぱい作って、お酒もいっぱい出してお願いすれば、その内首が縦に振れるかもしれない。

 「他力本願で無気力症候群になってるらしいから、自らが動く、とは思えないけれど。ゾンビが無限に出てきたら嫌だなぁ。サカズキおじさんに来て貰う訳にもいかないだろうし」

 

 そのつぶやきの情報源は一体どこなのかと、黄猿は腕を組んで少女を見た。

 

 「去年は確か軍艦も2隻、使い物にならなくなって戻ってきてるんだったっけ。後方支援艦は確かに狙い目。海賊らしいといえばらしいけどなぁ。なんのために、が問題だよね。どこに資料が転がってたっけ」

 

 海軍全体が痛まない方法でお灸を据え、大人しくさせる方法が無いわけでは無い。

 ただ、行かせて貰えるか、が問題だった。

 人員を割く余裕はまだ生まれていない。内部改革のお陰でなんとかとんとん、になってきてはいたが、まだまだ一部の部署に大きなしわ寄せをしてしまっている。

 

 「目の上のタンコブ、とはよく出来た言葉、だよね」

 

 頭をぽんぽん、とクザンに撫でられ、ふと意識を周囲に向ける。

 集まっている視線に、アンはしまった、と笑顔を浮かべた。

 必殺、愛想笑い、だ。

 

 「ポートガス、あとで部屋に来るように」

 「……はい」

 

 青雉によしよしとされながら、元帥に返答する。

 「いや…まァ…モリアに関しては、だいたいそんな感じだからな」

 

 もう発言なんてするものかと、涙目になりながら、両手で口を塞ぐアンが後ろからの声に身を捻れば、アイマスクを上げたクザンがアンを慰める。

 周りを見回せば、多くの人物が笑みを浮かべていた。

 ここに座る人物達の多くは、11歳の頃からアンを知っているのだから致し方ない。

 16歳になった幼子は、海兵としてひとり立ちしてもおかしくは無い実力と、思考を兼ね備えた。

 祖父に似たのか、悪だくみもなかなかに出来るようになってきている。こんな場所で暴露してしまうくらいであるならば、まだ可愛いとすら思えた。

 

 その後、つつがなく会議は進み終了となる。

 いつもと変わらずアンを持ち帰ろうとする青雉を、ガープを含む黄猿、赤犬が止め、恒例のボールが入った箱が目の前に示された。

 

 「…………」

 右隣上方向から舌打ちが聞こえたが、横に立つ娘は苦笑するしかない。

 「ところで中将、安心して引くが良い、とはどういうことですか」

 義祖父を見上げ、アンは尋ねる。朝、本部へ歩いてくる時に言われた言葉だ。

 

 「引いてみれば分かる」

 自信ありげな笑みに、受け取った箱を机の上に置き、中に手を突っ込む。

 「…なんだかいつもと違う、気がする」

 いつもの年はこんなに、球が多かっただろうか。この一年で身長も伸び手のひらもエースほどではないが大きくなったはずだ。

 確か去年までは手の甲まで埋まらなかった。

 

 今年はいったい、いくつ入ってるの?

 

 中将の入れ替えが多少あったとはいえ、投入された数は殆ど変わらないはずだ。

 ちらりと見れば、義祖父がそれはもう、期待に満ちたまなざしを向けて来ている。

 

 ホントにおじいちゃん、なにしたの。

 

 指先に触れる手触りの良い球を幾つか弾き、混ぜる。

 箱の中身を見聞色で覗けるのならば選ぶのも楽なのだが、そもそも相手の気配を感じ、読み、聞く能力だ。薄い紙の向こう側はどんなに頑張っても見えない。

 

 これ、と決めた球を握りしめ、そろっと引き抜く。

 色は白、だった。

 大将ではない。

 

 「あ。おじいちゃんのだ」

 思わずいつもの呼び名が口から洩れる。

 「よくやった!!」

 

 ガープが孫娘を抱き上げる。苦節六年、ようやく望んでいた孫が己の元へ配属されるのだ。その喜びはひとしおなのだろう。

 アンもされるがままに、どうにでもしてと力を抜いて義祖父の好きにさせた。

 赤犬や黄猿は、やれやれ、とそんなガープを見ている。なにかを知っているような顔だ。

 「決まったな。ポートガス、部屋で待つ。ガープと共に来い」

 「はい」

 

 アンは床に下ろして貰い敬礼で元帥を送る。

 結果が知れれば、この部屋に留まる理由は無い。会議室に残るのは3名の大将とガープ、そしてアンだけとなった。

 「おじいちゃん、タネ明かし、あるんだよね。してくれるよね」

 何かが引っ掛かって仕方が無いアンは、義祖父を見上げる。

 「いいじゃろう」

 

 にい、と笑みを浮かべた義祖父が箱を孫に放り投げた。

 「おおっと」

 中を見てご覧。黄猿に促されて開けてみると、中身は白一色だった。

 名前を見てみると、すべてガープの名が書いてある。

 

 「わしも手伝わされたわ」

 振りかえればサカズキが肩に手を当て、首を左右に振っていた。

 「まさか、これって……」

 

 それ以上は言わないように。青雉が口元に指を添えてくる。

 絶対何か、みんなで企んでるね?

 アンはがぶり、と青雉の指に噛みつきながら、保護者たちの謀りごとに唸りを上げた。


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