ONE PIECE~Two one~   作:環 円

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18-会議のメイン

 その部屋は異様な空気に包まれていた。

 クザンよりつい今、聞いたばかりの情報に身が固まっている。場違いも甚だしい。

 本日、これから。不定期に行われる、大将、中将を含めた会議が開かれるのだと言う。その、まさしく会場へ連れて行かれてしまったのだ。集まるのは大概、支部の代表から委任を受けた副官が多いらしい。だが今日ばかりは、なぜかバスターコールも真っ青という面々が揃っていた。

 平時でも出入りが激しいここ、海軍本部でも会議の日は慌ただしくなると聞いてはいたものの、この張り詰めた空気はいつもと違うようだ。

 

 全ての視線が青雉と、肩に抱えられている少女へと向かう。

 昨日の報告はこの場に集う将達には通知されていた。11歳の少女がたったひとりで、賞金首を仕留めたのだ、と。多少捕縛時の戦闘で弱っていたとはいえ、剛腕力のイザドーの首を取ったのだと言う事実をだ。銃撃での援護は多少あったものの、現場を目撃していた海兵達は新たな仲間を歓喜をもって受け入れている。

 しかもガープ中将の孫であると何処からともなく漏れた話も重なり、厳しく律してはいるものの大物が海軍入りした興奮は冷めやらない。

 

 アンがゆっくりとその肩から下ろされる。裸足の裏がひんやりとした。

 海兵の制服は着ていないが、昨日の事情により本日だけは、と不問となった。

 長身の男が振り向かず、ゆっくりと自席へと向かう。

 内心びくつきながら、アンはひたひたと歩を進め、義祖父の横へと向かった。その途中でサングラスをかけたパンチパーマの人物に声をかけられたが、どう返せばいいのかが分からず、曖昧に笑んで義祖父の下へと逃げた。

 「おじいちゃん、わたし場違いじゃない? 外出てたほうがいいんじゃ」

 「何も間違えておらん、ほら、わしの膝に座っとれ」

 

 血の気が引いた気がした。この義祖父はなんという無茶を言うのだろう。

 これ以上視線に晒されたくないのに、針のむしろの上に座れという。

 ずらりと年配者が並ぶ席で、大声を上げ退出を求める抗議など出来ようもない。

 しぶしぶ、座るしかなかった。

 

 自分自身を人の目にさらすのはどこか、気恥ずかしい。

 服もクザンから借りたままの姿だ。最低限の身支度はしたが、女子としてどうよ、という思いもある。

 ここは森ではない。れっきとした人の集合体だ。森では気にならない事も、ここではやはり、そわそわと気が気ではなく俯いてしまう。

 

 何か気がまぎれる物は無いだろうかと視線を動かせば、長机の上には資料が置かれていた。他の将達はぺらりとめくって中身を確認している。

 義祖父が手をつけようともしなかった紙束を手前に引きよせ、中身を見てみた。

 止められるかと思いきや、出されている茶をすするのみで、横からも注意が飛んでこない。

 ならばと速読した。

 

 4つの海の状況と、新世界、そして王下七武海の状態だ。

 そして新たにその七武海に任命される式典が行われる日取りも書かれていた。

 

 5年前、赤い土の大陸を素手でよじ登り、聖地マリージョアで大暴れした冒険家の話は今でも様々な場所で語り草となっている。そもそも魚人海賊団は冒険家、フィッシャー・タイガーがマリージョアで解放した奴隷たちを身受けして発足した集団だ。人間嫌いであった彼も、奴隷であった人間に関しては懐を開き、仲間に迎え入れたという話も聞いたことがある。

 その際シンボルマークとされたのが太陽だった。

 天竜人の奴隷の証として焼き押される刻印を包み込み、別の物へと変質させてしまったのだ。

 この印はもはやお前たちを縛るものでは無い、と宣言したと同様である。

 

 フィッシャー・タイガーが死去した後、分裂した魚人海賊団を取りまとめたのが、ジンベエ、という魚人だと記載されている。幾つかの船は袂を分け、いずこかに姿を消したというが、数的には最盛期と遜色ない規模を今も誇っていた。

 政府は魚人との和解も含め、彼の七武海入りを強く要望したという経緯が簡単ではあるが記載されている。

 

 アンがこの項で目に付いて仕方が無かったのは、奴隷という文言だった。

 世界には確かに、不遇な階級が存在している。それが奴隷、と呼ばれている人々だ。

 生まれは他の誰もと変らない。母があり父がある。だが確実に存在しているにもかかわらず、誰もが無意識のうちに容認している身分制度が奴隷、だった。

 生まれは問われていない。たったひとつ、奴隷としての明確な定義がある。

 

 生まれ故郷の島から外部に出、その身を売られたもの。

 

 はっきり言ってしまえばコレだけだ。

 なんともあっさりとした唯一の決め事である。

 

 奴隷と称される人々の中で最も多いのは海賊だろうか。海賊にかけられた賞金を追う職業もあり、大概の場合、金を受け取る為に海軍へ引き渡される。基本的に賞金は手渡しだ。本人と交換、となる。

 だが考えてみて欲しい。

 奴隷の定義は生まれた島から外部に出たもの、だけだ。奴隷を作り、売買する商売も実際にはある。例えば金銭でやり取りされる良心的な奴隷商であれば、飢饉が続いた島を回り、容姿が整った、磨けば光るだろう子供を買い取り、商品とするだろう。だが磨く手間が面倒だ、と村丸ごとひとつを狩猟する商もあった。商人が直接手を下すのではない。汚れ仕事を請け負う集団など掃いて捨てるほど存在している。それらを使うのだ。捕まるのはその掃いて捨てられるゴミであり、商人は知らぬ存ぜぬを押し通せば軽い罪で罰金を払って終わり、となる。

 

 ちなみに魚人に関してだが、そもそも人権が認められていない。どの島に行っても大概は、会話する魚扱いだ。

 フィィッシャー・タイガーの尽力により多少は緩和された地域もあるが、世界地図を広げてもロールパンひとつの範囲に収まってしまうだろう。

 なんとも理不尽な仕組みだ。

 はっきり言って、これらは他人事ではない。だが誰もが他人事としている。

 

 そして最後のページに、革命軍の記述があり義祖父から分けて貰ったお茶を噴き出してしまいそうになった。

 祖父をそーっと振り返るが素知らぬ顔だ。

 物事に集中している際、器官に飲み物が入ってしまうのは大人でもよくある。だから内容でそうなった、とは思われなかったようだ。義祖父からハンカチを借り、息を整える。そして見上げるは己を膝の上に置く人物だ。

 声に出して問いたかった。だがアンはその文言を心にすら浮かべなかった。気づかれてはならない、秘密だと察したからだ。 

 

 

 義祖父は勿論、表情を崩さない。こんな些末事くらいで動揺するほどの肝は持っていないのだろう。

 誰も知らないのだ。知っていたなら、義祖父をここに呼ぶはずも無い。関係者とするのも生ぬるい。なぜなら解放軍の長を務める人物は、義祖父の息子であった。さらに付け加えれば、ルフィの父でもある。

 火事の日に触れた意識には、この世界を変革すると言う強い意志が輝きを放っていた。

 あれはもう、止めようと思っても止められない。既に歯車は組み上がってしまっている。

 

 新世界にも動きが見えていた。

 シャンクス達が最後の海に突入していたのだ。その名を指でなぞり、追う。

 フーシャ村を出発して、1年ほどだろうか。怒涛の速さで進撃していた。

 さすが路を知っているだけはある。が、父と渡った、同じ路を進んではいないだろう。シャンクスの目的はラフテルに至ること、ではない。

 探し物をしているのだ、と言っていた。そのために必要なものを東の海に見つけにきたのだ、と。

 アンは微かに笑み、ページをめくった。

 

 項目は海軍の内情へと切り替わる。

 新しい勢力が"偉大なる航海(グランドライン)"を目指し流入している様子が、ありありと示されているのに対し、政府側も武力拡大を進めてはいるが、なかなか良い報告が上がって来ていない様が数字に表れていた。海賊を取り締まる海軍が、日々強力になってゆく海賊の力を借りなければ、治安を守る事さえままならないのだろう。

 

 これをどうにかしようと思うならば、今の体制では無理だ、と言わざるを得なかった。

 ドーン島で暮らしていたアンにも海兵の友人がひとり、居る。数ヶ月に一度、手紙のやり取りをしているだけだが、彼が無意識に書き込んだと思われる愚痴がどんどん悪化していたのだ。彼よりも随分と年下のアンが、彼に対し、助言出来ることなどたかが知れている。だが人間、心の内に鬱積を抱え続けるのは辛い。手紙では彼の苦労を労った上で、年齢にはそぐわない兵法について交し合っている議論をしたためて返信していた。

 

 向上心ある人物も少なくは無い。しかし4つの海と、"偉大なる航海(グランドライン)"では兵に期待されている熟練度が天と地ほども、とは言い過ぎではなくかけ離れすぎているのだ。本来ならば禍根は大きくなる前に摘み取るのが定石だ。海賊に対してもそれは有効となる。しかしその手段をとらなければならない初手を指揮する、責任者の質がよくなかった。特に東はそうだ。

 手紙をやり取りしている彼、も本腰を上げ動き始めているが、容易くはないだろう。

 

 ニュース・クーが運ぶ新聞の他に出回っている地方紙にも、海軍の腐敗と題する記事が多少ではあるが紙面をにぎわす事もある。

 海軍に入隊を希望する人員が少ない中、海賊となり暴れまわる人口は右肩上がりだ。

 将校がいくら配置されても、小さな器で最大まで栓が開け放たれた流水を受け切れるはずもない。

 

 しかも陸とは違い海での行軍が主な部隊の訓練は時間と費用が倍かかる。

 基本的な動作は陸も海も変わりない。

 兵を訓練し、装備を配給、補給を確実に行いかつ、船上では的確な指示を受け動けるようにする。軍として集団行動するのには訳もちゃんとあるのだ。

 それは数の原理、に他ならない。数が多ければ多いほど、ぶつかり合った時、有利になる。

 

 それに加え海上では陸での4行動全てに於いて、的確に作業できる能力も必要とされた。

 基本、揺れ動く船の上で戦闘は行われる。砲撃戦にしろ、切りこむにしろ、無駄を省いた効率的な行動が求められるのだ。

 多数の戦艦が入り混じっての混戦にでもなれば、指示通り行動するだけでも地上とは違い、航海能力も必要となる。

 

 軍では上官の命令は絶対だ。

 不服従や独断専行は、こちらとあちら、世界が変わっても軍隊においては罪となる。

 その代り、指揮者の行動はもたらされる情報に基づいて、的確に行わなければならない。

 

 海軍は志願制を取っている。

 国ごとに体制は様々だが、徴兵制度を取り入れている国軍の錬度はさすがに高い水準を持っている所が多いようだった。

 

 会議は順調に進み、4つの海で補強が必要な個所がいくつか示される。

 東の海は残念ながら、話題にも上らない。北の海で少々、騒ぎを起こしている海賊団があるという。

 そして新世界の話題ははやりシャンクスだった。

 赤髪が今まで空白地域であった場所を埋め、皇と呼ばれるひとりになったという。

 「四皇…か」

 誰かがそう言葉する。

 

 皇とは"偉大なる航路(グランドライン)"三大勢力のひとつだ。

 新世界と呼ばれる、航路後半の海に皇帝の如く君臨する大海賊を指しそう呼ぶ。

 勢力順に並べれば”白ひげ”エドワード・ニューゲート、”ビックマム”シャーロット・リンリン、"百獣の"カイドウ、となり、その列に”赤髪の”シャンクスが新たに名を連ねる。

 赤髪海賊団に属する人員が書き出されたリストを指で追いながら、随分と遠くに行ってしまったんだなぁとアンは手配書を見て思う。

 新世界と言う広い海であの仲間たちと騒ぎつつも賑やかで、冒険に満ちた航海しているのだろう。いつかの再会を願いながら、資料を閉じる。

 

 革命軍に対しては要注意としながらも、海軍として表立った行動を示さず、となった。

 彼らの行動は海ではなく、陸で行われていたからだ。

 各国からの要請が無ければ、表立った軍事介入は出来ない。中央政府からの命が下れば、その限りにあらず、だが海軍はその名の通り海での行軍が主だ。

 

 海上航路の安全を確保する。

 その為に海賊達を取り締まっているだけでもこんなに苦労している状況なのだ。国の騒動まで出張ってられないのが実情だろう。

 これが海賊による国家転覆であれば話が別、となるがここに座る将たちの悩みしわをこれ以上増やすのは止めておこう、とアンは口をつぐんだ。どうせ確証のない申し立てで動くような組織では無い。

 

 そして最後の議案が話し合われる。

 「ほれ、アン呼ばれとるぞ」

 思考から我に返ると、全ての目が自分を見つめていた。

 だからなぜ、自分の名前が呼ばれているのだろう。

 

 義祖父に引き渡されるためだけに、ここへ連れてこられただけ、ではなかったのだろうか。

 心臓がバクバクと音を立てて緊張度数を示している。

 「お…おじいちゃん、わたし、どうすれば」

 「どうもこうもならんわい。あの箱の中から、ひとつボールを取ればええ。わしのじゃと目印をつけたからな、よく探すんじゃぞ」

 

 ん?

 ここでアンは疑問符を浮かべる。

 ボールを取る。目印をつけた。何かのくじだろうか。

 そして気づく。いくつもの目が見ているものこそが景品である、と。

 アンは唇をぽかん、と開いてしまった。緊張していて上手く言葉が出てこない。

 

 「おじいちゃん、それ結構無理があると思うんだ。大きさからして、量があるってことだよね」

 祖父と孫の会話を聞いていた右隣席の男がにこやかにアンに声をかける。

 

 「初めまして、私はモモンガという。ガープ中将には日頃お世話になっている者だ」

 差し出された大きな手を、アンは素直に受けた。

 「ずいぶんと動揺しているようだが、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。昨日の騒動を聞きつけ、君を育てたいと希望した人が多くてね。向こう側のテーブルの人が小さなボールに字を書いているだろう。ひとつだけ君が好きなものを選んでくれたらいい」

 

 真正面に近い場所に座る、センゴクが視線を動かしとアンを見る。

 昨日の獲り物が終わってから、あの少女を受け持てるならば自分が、という嘆願が幾つも重なった。厄介事を持ちこんでくるガープが少しでも大人しくなるならば、連れて来た当人に任せようと思っていたところ、そう言えばと青雉からもそう言う願いが来ていた事を思い出し、3年と言う短期間であるなら大将に付かせてみるのも悪く無い。そういう旨をガープに伝えたところ、大喧嘩になった。長い付き合いの2人だ。ある程度のところでガープが逃げ出し、センゴクも後追いをしないのがいつもの常だった。

 

 が。今回ばかりは違った。ガープがこれでもか、と粘ったのだ。

 

 嘆願に来た中将以上の役職者に対し、どのような方法を取れば一番丸く収まるかを、センゴクは思案した。元帥命令とするのはたやすい。しかしガープが荒れ、今以上に厄介事を持ちこんでくるのは遠慮したかった。ならば、当人に選ばせればよい。公平をきし、抽選と言う方法で。

 

 大体の事情をアンも理解した。

 センゴク元帥も、胃へかかるストレスが振り切っているのかもしれない。

 前線、後方支援問わず、どれくらいの人から期待されているのか分からなかったが、出来るだけ無難な部隊であるように祈る。義祖父の元であれば何かと動きやすかろう。そう目論んでいたのだが、そうは問屋が卸さなかったようだ。

 

 「あたしゃ、つるだ。書類見せて貰ったよ。賢い子は好きさ。アン、うちにおいで」

 「あ。お名前はよく伺ってます。初めまして、おつるさん。いつも義祖父がお世話になってます」

 年配者に上からの視線は失礼として、膝から降りぺこりと頭を下げる。その様子を目を細め、好ましく見たあと、残念な何かをみるように、「どこら辺がアンタの孫なんだろうね」と片眉を上げた。

 「おつるちゃん…」

 義祖父は苦笑いだ。

 

 資料のまとめ方を絶賛された。

 いつもあれくらいだと、あたしゃ助かるんだがねぇ。というため息混じりにはガープは聞こえなかったふりをする。いつもどういう渡し方をしているのだろう。アンは義祖父の大雑把な性格に笑む。

 

 そうしている内に、じゃらりと音を立てる箱が目の前に到着した。

 覗いてみると相当数が入っている。

 階級は准尉と先ほど告げられた。最初からその位に任じられるとは思いもしなかった、が本音だ。しかし孫と言う立場を優遇して任命されたわけでも無いようである。ある程度の力量は認めて貰え、階級と言う肩書きにという表れだと前向きに考えることにした。よくよく考えてみれば、妥当、であるのか。高すぎず、低すぎず。文句が出そうで出ない絶妙な選択だろう。

 

 箱の中をてのひらで探った。手触り的にはピンポン玉のようだ。さらりとした触り心地指先に伝わってくる。

 

 どうするべきか、というのがアンの思いだった。

 全く分からない。覗き込むのはご法度だ。くじにならない。

 見上げる義祖父の顔は頑張れと応援しているようにも、なるようになれと慰めているようにも見える。

 いつまでも玉を転がし遊んでいる訳にもいかないだろう。

 アンは覚悟を決め、ひとつのボールを握りこむ。

 

 ひきだした手のひらには黄色のボールがあった。書かれている名前は、ボルサリーノ、とある。

 「アン、」

 義祖父の声がこころなし、かすれていた。

 「ごめんなさい。いっぱいありすぎて、本当にわからなかったの…」

 

 「これで決まったな」

 センゴクの声には安堵が含まれていた。孫が自分で選んだならばガープも文句を言うまい、そう考えた思惑は見事に的中したといえよう。

 アンも義祖父の膝を下り、名の人物が一体誰なのかと誰かと見回せば、先ほど視線が合った長身のサングラスをかけた男と目があった。

 よくよく見てみると、とある俳優さんにそっくりだ。本人と言ってしまってもいいかもしれない。映画やテレビで見ていた顔が目の前にある。北の国から、とか土曜ワイド劇場とか、御家人斬九郎とか、よく見ていたテレビに出ていた人のそっくりが目の前にある。クザンも実はそっくりだと思っていた人物がいた。

 

 義祖父に連れられ、黄猿とふたつ名で呼ばれる大将の元に挨拶に行く。

 「先ほどは失礼しました。ポートガス・D・アンです。宜しくお願いします」

 名は父名ではなく母名を名乗ると、エースと決めていた。父の名は余りにも危険すぎる。それに義祖父の名を使うのもなんだか違うだろう、とふたりで話し合った結果だ。義祖父としてはモンキー姓を名乗って欲しそうではあったが、Dは重なっているのだし、モンキーが同じ船にふたり居ると面倒だからとかなんとか、屁理屈をこねて諦めてもらったのだ。

 

 「ボルサリーノさん、この子の身柄引き受け、代わって下さいよ」

 会議終了の号を受け、出席者たちが部屋を後にし始めた中でクザンがアンを抱きあげる。

 義祖父が固まった。と同時にアンも固まっていた。

 「もう君は男を手玉にとってるのかい?怖いねぇ」

 面白そうに眺めてきたのは上司となる黄猿だ。

 「そんなわけありません!!」 

 硬直を何とか解除し、アンは力いっぱい否定する。大将を張る男をそう簡単に手玉にとれるわけがないだろう。これは玩(もてあそ)ばれているというのだ。

 「クザン大将、下ろしてください。聞こえてるのに無視しないで」

 ガープは大将ふたりに構われる孫を腕を組み眺めている。周囲を見回せば、なんとか中立派と保守派が孫娘の後方についてくれたようである。

 

 「面白そうな子じゃけ、来年はこっちにも回してもらおうか」

 そう赤犬が側を通る際に、声をかけた。ガープの表情が厳しく変る。

 その手があった。

 ガープは退席しようとするセンゴクににやりと笑う。元帥はそれを見なかったことにし、部屋を後にした。

 

 「じゃあ行こうか」

 「はい」

 黄猿の声にアンは声を返す。そして義祖父と青雉にほほ笑んだ。

 「ありがとう、行って来ます」

 アンは入室時にクザンが自分の副官に頼んで用意してもらった靴を履き、敬礼し上司の後を追う。

 「ガープさん、来年はおれが…」

 「黙っとれ、来年こそはわしの元へ連れ戻す」

 

 それらの姿を、過激派の一部が静かに見つめていた。


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