ONE PIECE~Two one~   作:環 円

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14-凶器を生む腕

 

 さすがに4日間、連絡なしの外泊はよろしくなかったらしい。

 義祖父であるガープは街中なのだから多少放っておいても死にはしないだろう、と放任を推奨していたがその他が黙ってはいなかった。世間では11歳の少女が、いくら成人した海兵相手と手加減なしで模擬試合が出来るとはいえ、未成年であるならば保護が必要である、と考えるものだと上司に諌言したのだ。そうして中将は真面目に部下へ謝罪し捜索を指示、命令を受けた数人がグループを組み町の表裏を探しまわっていたという。

 知った後、そっと心の内で胸をなでおろしたのは言うまでも無い。

 

 アンはといえば久し振りに顔でも見せておくかと、ほくほく顔で宿に向かって歩みを進めていた。

 思いの外切りだした肉が大量になってしまった為、トムから小さな荷台を5つ借り、電車のように繋げて水路横の通路を地道に歩いていたのだ。

 干物にすれば味が濃くなって旨い。

 そう聞けばやってみたくなるのが人情だ。駄目元で聞いてみれば、無事船の建造が終わったのだからいいだろう。商品である船を納めた後、次の受注が入るまでならば、とココロの指示に従い男達がせっせと太陽の下に薄く切られた魚肉を並べ続ける事となった。そして2日経ちようやく終わりが見えた頃、朝昼夜と投入しては食べていた鍋の出汁も見事に煮詰まり、脂肪が薄い赤みと野菜、白米を投入し宴会が始まった。

 酒などはない。下請けで得た金銭は余りにも少なく、次に受ける仕事の仕入れに足りるかどうか。資金繰りは厳しい。いつもの自転車操業だと誰もがわかっている。

 しかしトムは陽気だった。手がけた船が海に浮かび、白波を立てて走る。それが嬉しくて仕方が無いのだと笑った。

 その様子を見る弟子ふたりも、いつものことだ、でもこれがトムなのだと笑んだ。

 アンはそんな4人を見ながら表情をほころばせる。

 

 そうしてアンは義祖父の下へと帰り支度を始めた。またトムの元へ戻ってくるつもりにしていたため、鞄は預かってもらっている。フランキーからも出来るだけ早くに来い、と強く呼ばれている。アイスバーグ曰く、会話のレベルが似通っているから楽しいのだろう、との事。もちろんフランキーは即座に否定していたが、話していて楽しいのは確かだ。

 義祖父に対し構えているわけではないが、どちらのほうが肩の力が抜けるか、で比べるなら、トムの側のほうがそうだと言えた。だからすぐに引き返すつもりにしていたのだ。

 何か騒がしいなぁ、と裏通りから表に出た時に海兵達とばったりと出くわした。

 どこに行っていたのかと肩を尖らせる者、安心したと肩を丸める者、誰もがアンの事を心配していた。

 していなかったのは、自由人の義祖父だけだ。

 初めての感覚にくすぐったくなりながらも、声をかけてくれるひとりひとりに、ごめんなさい、を伝える。

 

 宿に着くと、ボガードから静かに言い聞かされ、義祖父には楽しかったか?と問われた。

 もちろん答えはYES、だ。

 内心でフランキーにすぐ戻れなさそうだと謝りながら、かけられた言葉を噛み締める。

 持ちかえった荷台の山はすぐさまどこかに運ばれて行った。その際に塩焼き希望と伝えるのも忘れない。どこで貰ったのかと聞かれても、満面の笑顔を浮かべるだけだった。

 どういう環境で育ってきたのか。口が堅く古株であればあるほど、知っている。だから誰もがとやかくは問い詰めなかった。

 「食べきれないからって、分けて貰ったの」

 そう発言するアンを尊重したのだ。

 宿の料理長が腕まくりをし包丁を手に奮闘し始めた頃、アンは義祖父に連れられるまま部屋に入る。

 広い部屋だった。窓からは遠くに海が見える。観葉植物が置かれた室内には、ソファーや簡易のキッチンまで付属していた。

 そして一番目を引くモノと言えばやはりこれだろう。アンは白い山へと近づく。船から運び込まれた書類が床に積まれていた。

 「おじいちゃん、これなに…」

 「ほとんどが訓練報告書じゃ。ほっとけ、それよりも着替えてみぃ」

 たった4日で書類がこんなに溜まるものだろうか。口元が微妙に引きつく。聞けば航海に出るまでに、使うだろう書類を船底近くの倉庫へ運び込むのだという。海軍は組織だ。毎日の訓練や申請などで紙が大量消費される。

 アンの脳内では某歴史の開拓民が行った開墾風景が広がっていた。広大な畑を耕す、契約農場を耕す男たち。

 想像の世界からアンを呼び戻したのは、義祖父の声だった。意図するものに視線が向く。ふたつ並ぶベットの上には、白の衣類が置かれていた。

 「お前の世話を焼きたがる奴らが多くて困っておる」

 こそばゆい感覚の再来だった。

 緑茶を急須で注ぐ義祖父に、わたしもーと茶碗を持ってゆく。

 

 1年に2度ほど、休みを取り様子を見にガープは山へやって来た。

 その殆どは成長を確かめ普段足りていないスキンシップを補う為、という名の肉体言語だったのだが、お土産も忘れず持ち帰っている。

 ゴア王国で手に入らない本をねだったのも一度や二度ではない。うっかり者の義祖父は忘れて帰って来るのも多かった。しかし、必ずと言って持ちかえって来ていたのはワノ国の特産である緑茶と、せんべいだ。

 アンは緑茶をいつも楽しみに待っていた。お茶の香りは懐かし景色を思い出させてくれる。堅焼きせんべいも然りだ。

 家の近くにあった、手焼きのぽたぽたや、七味せんべい、海苔せんべいなど、思い出しただけでも味が思い浮かぶ。

 

 手に取り広げて見ると、制服だった。帽子はさすがにサイズが無かったため用意されてはいないが、ちゃんとアンのサイズに仕立て直されていた。

 「階級は本部についてからじゃな。今は私服でもかまわん。しかし…司法船が港についた後はそれを着用せい」

 義祖父の言に、はて、何か自分もするのだろうか。

 疑問に首を傾げているとソファーに座ったガープが茶をすする。

 「司法船にはわしらがW7に停泊しとるのは伝わっておる」

 その先に続いた言葉は、アンに衝撃を与えた。

 お前にも警備に当たって貰うことになっとるんじゃ。

 

 ちょっと待っておじいちゃん、わたしそれ困る。大切な用事があるの!

 心の叫びに向こう側でびくりと身を震わせたエースはさておき、こめかみにしわを寄せ、急いで予定変更プランを練り直す。どうしても、1隻、一番渡って欲しく無い危険な船舶が敵に奪われそうな気がしていた。否、奪われなくとも作り出せばいいだけの話だ。

 かつて一夜城を作り上げた武将が居た。

 勝つための方策として、出来るはずの無い城をその場にたった一夜で出現させた男がいる。

 作り話だと誰もが思うだろう。だがそれは、一夜城は創作ではない。事実だ。

 その男のように、トムを訪ねてきた男はするだろう。あの男の目は、権力を欲し、貪る鬼畜のそれに見えた。

 敵対相手は政府の裏組織であろう予想から、夜の闇に紛れて工作するなどお手の物だと予想している。

 フランキーの大切な船を使わせてなるものか。そのために大量の涙を飲みこんでもらい最新を残して壊しつくしたのだ。だが必死に考えても、何も思い浮かばない。アンがトム達の側に居ることを前提に、何度も作戦を練ってきた。しかし現状が、義祖父の言からしても行かせてはもらえない確立が高い。何とかしたい気持ちだけが高まる。

 アンは義祖父の横にちょこんと座り袖を掴む。こうなれば実力行使だ。力押しするのはアンの流儀では無かったが、今回ばかりは仕方が無い。

 どうした、と目で問う義祖父に声の音域を下げる。

 「ねぇおじいちゃん。ちょっと裁判の日、注意して欲しいの。何事も無ければいいけれど、何かが起きたときは、そうなったら許してね」

 意味ありげな孫娘の言い方に、ほほう、とガープは楽しそうな笑顔が浮かべた。

 「わしにも言えんことか」

 アンは思わず息を飲み込む。

 「海軍中将のわしじゃなく、お前の祖父としてでも言えんか」

 じ、と見つめられる黒にアンは手を上げたかった。目の中にある光には見覚えがあったからだ。誰だというまでも無く、確かに血縁だと意識してしまう。

 「これは、ひとりごとなんだよ」

 アンは天井を向く。

 「町で聞いたんだ。最近この辺りにどくろが頻繁に出るんだって。ただのどくろじゃない。蛇なんだって。繋がってるから多少はあったんだろうけど。このごろは凄いらしいんだ。近々港に豪華客船がやってくるってもちきりだったから、もしかすると、って。その船ってさ、頻繁に出るわけじゃないんだよ。もし目をつけられたら危険だと思ったんだ」

 「ほほう、噂は怖いのう。わしも独り言じゃ。10あるうちの何本目かのう」

 「天井って白いんだね。あの電灯9本とか10本とか使いすぎだよー」

 

 交わった視線が絡み合う。

 「気分を変えるためにも着て見せてくれんか」

 「うん」

 アンは短く答え立ち上がり、着替えてみる。

 仕立てられた制服に袖を通し赤のリボンを胸の前で結んだ。海兵が普段身につけるリボンは青と決まっているが、適当な長さのモノが無かったのだろうと勝手に納得する。

 「この服を着たら、気軽におじいちゃん、って呼べなくなっちゃうね」

 「そうじゃのう。けど呼んで貰って構わんからな。わし気にせんし」

 暢気(のんき)だなぁ、とアンは思う。しかしこの気の良さが、義祖父のよい所でもあった。ガープ中将、を船に乗る誰もが悪くは言わない。上司である事実は横に置いても、ひとりとして居ないのだ。

 

 自由奔放で、破壊魔で、どこでも寝落ちて。ああ、この寝落ちるのは一家の遺伝みたいなものだから関係ないかと思い直す。けれど、艦の誰もが義祖父を慕っていた。

 長く中将と言う責任ある立場に立ち続けていられるのも、この人柄だからだろう。

 年功序列ではないが、力の衰えた老兵は第一線を退き新人育成などの後方育成に回るのだとという。この歳になっても中将という肩書を背負っていられるのは、さすがとしか言いようが無い。

 

 ところでおじいちゃん。

 急須持ったまま寝ないで?その鼻ちょうちん壊してもいいかな。

 「おきろっ!!」

 アンの大音声によって海兵達が駆けつけるという、後に常習化する祖父子喧嘩がここから始まった。

 

 

 判決まで残り24時間。

 司法船が到着したとの報を受け、アンは義祖父と共に4番ドック前に停泊した世界政府の船舶へとやって来ていた。

 戦艦よりは小ぶりだが、中央にはエニエス・ロビー、世界の法を司る裁判所と同じ造りの建物が在している。中は司法所というより教会のようだった。

 義祖父はなにやら裁判長と話をしている。耳をすませば聞こえるだろうが、盗み聞きは無粋だろう。

 

 待機を言い渡された列で、アンはこっそりと仲良くなった海兵から、エニエス・ロビーについて話を聞いていた。

 不夜島と呼ばれる特殊な立地に司法の砦はあるという。夜が来てもその島の周囲は決して闇に包まれない。世界政府という光が不変である、との象徴も含んでいるらしい。

 「アンもその内に行けって言われるぞ、エニエス・ロビー」

 「なぜ?」

 「六式の道場があるからさ」

 身体能力が高く、資質が認められた人員が集められ厳しい訓練を行っているという。

 しかもこの島はサイファーポール、略してCPという世界政府直属の情報収集機関の本拠地となっていて、集められたメンバーから史上最強と言われるチームが結成される、との密かに囁かれてもいるそうだ。

 「CPはやだなぁ…」

 野心ばかりが大きく、無能なくせに言動だけは傲慢な上司にはつきたくは無い。

 しかし勿体無いと海兵達は言う。給与が全然違うんだ、と。

 危険な仕事に対する報酬が膨大なのは、当たり前の話の話で…

 

 「終わった。帰るぞ!!」

 アンも居並ぶ海兵達と同じように挙手敬礼に習う。順次歩き出す背中を追って背を壇(だん)に向けると、視線を感じ振り向いた。先ほどまで義祖父と話していた裁判長がアンを見ている。孫娘の話題も話したのだろうか。ぺこりと一礼して列を追った。

 

 当日は大勢の住民が押し寄せてくるだろう、ということでガープ中将率いる一軍は港の周辺の警備に当たるという。船の出来上がりは明日らしく、結審の時間には船を浮かべられない。

 「で、どこら辺からの予定なんじゃ」

 さあ。そこまでは。

 にやにやと楽しそうな義祖父に問われても、言いようが無かった。夢では方向まで確かめられない。あっちっぽい、という不確かさであれば伝えられるが全方向にまんべんなく目を配った方が対象物を見つけやすいだろう。

 「おじいちゃん、楽しそうね」

 「まだ隠し玉があるじゃろ」

 さあ。それはどうでしょう。

 わざわざ手の内を見せるほど素直では無い。爪は隠すに限る。それがたとえ肉親であっても、だ。

 

 「じゃあお爺ちゃん、ちょっと出かけてくる。遅くても朝には帰るから」

 「行って来い!!!」

 行かせるのか! 飲み込めなかった人員から幾つか声が上がる。朝帰りなどなんのその。義祖父は海兵達の突っ込みなど気にはしない。

 「大丈夫。危ない事はするけれど、怪我しないように頑張るから」

 やるんかい!! 今度こそ全員が声をそろえた。

 ガッツポーズをするアンに、義祖父で鍛えられた皆の突っ込みが炸裂する。

 「えへへへ」

 やっぱりガープ中将のお孫さんだ。

 と言う声がどこからともなく聞こえてくる。

 心外な。おじいちゃんよりましだと思うけれどなぁ。頬を膨らませて抗議するが、頭を撫でられ頬を突かれ、揉みくちゃになって終わってしまう。

 

 ちゃんと帰って来ると何人もと約束し、アンは町中を走る。幅のある水路も一飛びだ。先日鞄を拾ってくれたおじさんを見つけ手を振る。最初は吃驚していたものの、笑顔で振り返してくれた。

 本を投げ捨てた3人ともすれ違う。

 その中のひとりがアンに気付き、顔を引きつらせた。

 「…ほどほどにね?」

 ごくり、と喉が鳴る音が聞こえる。それ以上は何も言わない。

 

 階段倉庫を横切り廃船島に降り立った。

 受注を受けていた船も仕上げに入っているようで、細かな微調整をしているアイスバーグを邪魔しないようトムに抱きつく。

 「似合うじゃねェか。わざわざ見せに来てくれたのか。たっ…!!…!!…!! ケッサク!」

 「馬子にも衣装だな」

 かんなを止め、汗を拭うついでにアイスバーグが唇の端を上げる。

 「うわ、さらりと酷い事言われた」

 アンはトムから降りた。

 「フランキーは?」

 尋ねるとアイスバーグがくい、と親指を浜辺の方に向ける。

 「懲りずに36号造ってる。あのバカンキーが…!!」

 苦い感情が言葉に混ざっていた。

 

 「なら35は壊してもいいよね」

 「手伝おう」

 目を細めた小さな破壊魔の発言に待ってましたと大振りのハンマーへ手を伸ばしたアイスバーグがにやりと笑う。

 アンも拳を握り、35号へ迫った。

 「待て待て待て待て!! まだ壊すな!! おれの大切なバトルフランキーなんだ!!」

 さすが生みの親であるだけのことはある。虫の知らせか第六感か。

 両手を拡げ、必死の形相で制止する。

 「…この戦艦がもし、使われたらどうするつもりかな」

 にこやかにアンは問う。

 「何に?」

 「司法船の砲撃に」

 さらりと恐ろしい事を口にするアンをアイスバーグも何事かと見る。

 単発の言葉ではなかった。

 もしも、があるならば、だ。アイスバーグは続々と背筋を駆け抜ける冷たい何かを必死に無視する。

 明日がその日だとこの島の住人ならば誰もが知っているだろう。だが、と思い、ああ、と思いなおす。海兵であれば来ると知っていてもおかしくは無い。だが司法船が砲撃されるなど、誰が行うのだろうか。そんな恐ろしいことを誰が実行できるというのだろう。

 一番の疑念は、どうして砲撃されると言い切れるのだろうか、の一点だ。

 

 「上手く裏から手を打つとか、暗躍してこっそり工作するとか。考えても全然いい方法が浮かばなかった。苦手って言うのもあるんだけれど正面突破しか思いつかないんだよ」

 何の話をしているのか、フランキーにはさっぱりだったが、アイスバーグは理解した。

 「設計図…」

 アンは無言だった。

 「それとこれとは話が別だ!!」

 咄嗟に否定が出たが、心のどこかで間違いではないと叫ぶ何かがあった。

 「司法船を襲撃した犯人なら街の人達は喜んで差し出すよね。CPもそっちの方がひっ捕らえやすいし。法的にも、ね。海軍にも裏組織があるみたいなの、しかも相手は此方側の都合なんて知った事じゃない」

 

 「おれの船はそんなことしねェよ!!」

 バカンキー、アイスバーグはそうつぶやく。結局解っちゃいのだ。

 「例えば、の話をしようか」

 アンは廃材として足元に転がっている一本の鉄パイプを足で器用に立て、手にする。

 この鉄パイプ。トムさんやアイスさん、フランキーが手にすれば船の一部となり、向こう側の岸を目指す船の一部となるでしょう。けれどこれをわたしが持った場合、武器に変わる。この木の破片だってそう。わたしは人を傷つける道具に出来るよ。

 「こういう風に、ね」

 アンが振りかぶった鉄パイプが風鳴りを起こした瞬間、その先に形を残していた船尾楼が凄まじい音を立て破壊された。

 だから壊す。憂いのあるものはすべて。トムを連れて行かせないために。

 「ここまでやっても、相手は何手も先を考えて回り込んでくるだろうけどね」

 権力とは麻薬だ。一度味わってしまうと、より強い刺激を求めて、次々と欲してしまう。

 

 「フランキー、物事はね、起きてからじゃ遅いんだ」

 いいか、おれ達の腕は、この世に凶器を生む腕だ。例えお前にその意思が無くても…凶器は構わず誰かを傷つける。それがお前にとって大切な人間でもだ。

 いつになく静かな声で、アイスバーグは語る。

 作られたものには罪はない。ただ、その作られたものが悪意ある誰かに使われることによってもたらされる結果が制作者の罪とされる場合もある。まさしく今回のように。

 

 「覚悟はある?自分の造ったものが誰かを傷つけ、トムさんの冤罪を本当の罪にしてしまう可能性が起きたとしても、この船は自分のものです、と胸を張って言う自信、あるのかな」

 

 強い意思が籠った目に、フランキーは思わず身を引いた。

 「アイスバーグ、アン、それくらいにしてやんな。明日どういう判決が下っても、ドンと受けてたつさ!!」

 どっこいしょ、と今まで静観していたトムが立ちあがり、ぽん、とふたりの肩に手を置く。

 「いやだ、少しは抵抗してよ、トムさんお願いだから。自己犠牲なんかクソ食らえ」

 張り詰めていた空気がぷつん、と途切れた。

 

 「35の動力、全部切断しとくよ…」

 「ンマー、ならおれが今からしてやる。船大工技師じゃないと、直せないような切り方でな」

 

 脱力し足に力が入らなくなったフランキーに代わり、アイスバーグが船に乗り込み口元に濃い笑みを浮かべる。

 「…手加減しろよアホバーグ」

 多少、ではなくかなり納得がいかない顔をして、フランキーは悪態をついた。

 


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