魔法先生ネギま! 白面ノ皇帝(ハクメンノオウ)   作:ZERO(ゼロ)

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No.08:己自身のPride

「おいおい、今日は何だ? もしかして厄日か何かかよ」

 

そうサイが言いたくなるのも無理はない。

宇宙人ジジイに女ばかりのクラスに入れられ、余計な事を彼是(あれこれ)詮索され、偶にまともな事をやれば足を痛めて。

最後には自分には関係ないのに思慮の浅い小僧によって何も知らない奴に隠さなければならない情報がバレる。

 

「あ、あうあうあうあうあう……」

 

実際正体のバレた子供先生はアシカかオットセイの鳴き声のようなものを口から延々と呟き続けている。

余程正体がバレたくなかったのだろう、ならば安易に人前で考えもせずに行動しなければ良いと思うのだが。

まあ高々10歳の少年にサイのように自分の行動が自分に対してどのようなリスクを被ろうとも迷わずに行動するなどと言う事が出来る訳があるまい。

そもそもサイの場合は別にバレた所で『知らねぇ』やら『関係ねぇ』やらで終わらせるだろうが。

 

「う……あ、あれ……私……」

 

と、そこでサイに助けられて気絶していた少女・宮崎のどかが目を覚ます。

どうやら落ちたときのショックで混乱しているようだが。

 

「気をつけろウスノロ女……つうかテメェ、一人で運べねぇなら誰かに頼めや、自殺志願や自傷癖がねぇならな」

「あ……あなたは……えっと……確か、転入生の―――……」

 

のどかは続きを何か言おうとしたがその前に明日菜がネギと彼の杖を掴んで林の方へと走り去る。

こちらに向けていた目線の意味は『アンタも来なさい!!』と言った感じだろう。

サイは一つ、溜息を吐くとのどかに顔を向ける。

 

「オイ、もう大丈夫か?」

「え……? は、はい……だ、大丈夫です―――……」

 

するとサイはのどかから手を離した。

更にそのまま散らばっている本を集めると、自分の服の袖を千切って紐状に紙縒(こよ)ってから本を包むように縛る。

 

「ほれ、これで持って行き易いだろ? 何処に持ってくんだか知らねぇが、とっとと持ってけ」

「え……で、でも……服が―――……」

 

要はサイは自分の上着の袖で本を束ねてやったのだ。

意外にコイツ、悪ぶってるがお気遣いの紳士なのだろう。

のどかは袖が破れてしまった事を言うがサイは背を向けて手を振りながら答える。

 

「あぁ? 問題ねぇよこんなモン、帰って縫えば良いだけの事だ。

ホレ良いからさっさと行けよ、今度は鈍臭くコケるんじゃねぇぞ解ったな?

それと先に言っとくが礼なんざ必要ねぇ、別に礼される程の事なんざしてねぇし」

 

そう言い終わるとサイはのどかを其処に置いてネギと明日菜の向かった林の方に歩き出した。

 

 

 

 

「あああ、アンタやっぱり超能力者だったのね~~~~~!!!!!」

 

林の中では明日菜が大声を出して怒鳴っている。

彼女が此処まで怒っている事にはあるナイル川よりも深い理由がある。

 

実は彼女、サイとエヴァンジェリンが夜の決闘の準備をしている頃―――丁度、麻帆良の朝の登校ラッシュの時にネギと初めて会っている。

しかもその際、面と向かっていきなり『貴方失恋の相が出てますよ』などと言う失礼千万な事を言われたのだ。

 

―――思えば明日菜の厄日はその邂逅から始まったと言っても過言ではない。

自分が恋している担任の先生は変えられる、公衆の面前で脱がされる、その姿を恋している先生に見られるだの散々だ。

極めつけは、住む場所がないからと学園長によって強引に寮の自分の部屋にネギを住まさせられた。

……これを子供嫌いの彼女にとっては厄日と言わずになんと言う?

 

そんなこんなで何とかネギを追い出そうと考えていた明日菜。

しかし、ネギは所謂優等生タイプの人物なので追い出す為の理由がない。

その為か取り付くしまもなく、今の今まで来てしまったのだ。

 

だが2日間の教師としての行動の中でおかしな事が一度あった。

 

それは最初の日。

サイの場合は先に読んでいた為に引っかからなかったが、ネギはトラップに気付かずに2-Aの洗礼を受ける。

その際に、一番最初の黒板消しが落ちてくるトラップでネギはほぼ反射的に無意識に魔法を使ってしまい、黒板消しが落ちてくるのを空中で止めてしまったのだ。

ネギの行動を怪しいと思った明日菜は何気なくネギを見張り続け今日、遂に決定的な場面を見てしまったのである。

 

まあ、まさか転入生もそうだとは思わなかったようだが。

 

「さあ白状なさい、超能力者なのね!!? 誤魔化したってダメよ!! 目撃したわよ、現行犯よ!!」

「あうう~~~!! ぼ、ボクは魔法使いで……」

「どっちだって同じよ~~~~~!!!!」

 

―――実に近所迷惑である、まあ近くに住んでいる者も居ないのだが。

そして更にエスカレートしていく明日菜に涙目で慌てるネギ。

 

「あっ、と言う事は二日前の朝!! あれもやっぱりアンタの仕業ね、このエロガキが!! よくも、よぉぉくぅぅもぉぉぉ~~~!!!」

「ご、ゴメンなさい!! 他の人には内緒にして下さい、バレるとボク大変な事に~~~~!!」

「んなの知らないわよ!!」

 

確かにネギにとっては自分が魔法使いだとバレれば大変な事となる。

実は魔法使い達は前にもどこかで書いたかも知れないが一般人には秘密にしなければならない。

詳しい事は解らないが、なんらか魔法使い達にとっては不利益な事となるのだろう。

 

ちなみに魔法使いだというが一般人にバレると酷い時には『オコジョ』にされる。

英雄ナギ・スプリングフィールドの子であり、父と同じく立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指しているネギにとって、今回汚点がついてしまえば強制送還されて失敗の烙印を押されてしまう事となる。

それだけはなんとしても避けたい、そして己の目的の為にも此処で帰らされる訳には行かない。

 

「ううっ、仕方ないですね……秘密を知られたからには記憶を消させて頂きます!! あ、ちょっとパーになるかもしれませんけど許してくださいね」

 

ネギが小さな声で呪文を唱えると途端に彼の気配が変わる。

 

「え、ちょ、ちょっと待って!? ぎゃ~~~!? ちょっと待って、パーって何ぃぃぃぃぃ!?」

 

ネギの持つ杖が光りだした所を見ると、もう準備は万端と言う事だろう。

一方、記憶を消されるとちょっとパーになるかもなどと言われた明日菜にとってはたまったものではない。

急いで逃げようとしても、余りの事に足が動かない。

 

そして、ネギが杖を明日菜へと向けた。

 

「消え……「止めんか、バカたれ小僧が」……ふぎゅ!?」

 

魔法が放たれる瞬間、ネギの頭の上に拳骨が落とされた。

勿論落としたのはサイで、彼はネギの頭に軽く拳を落としていたのだ。

 

「ふぎゅ……な、何するんですかサイさん!!!」

 

「何するんですかじゃねぇよバカ、テメェこそ何してんだアホガキ。

テメェ、オイ……ちょっとパーになるかもって何だ、ちょっとパーになるかもって。

半端なモンや半端な事してなんかあったらどう責任取る心算だオタンコナス」

 

「ふ、ふぎゅううううう……痛い、痛いですってサイさ~~~ん!!」

 

両の手の拳骨でこめかみ辺りをぐりぐりされて泣くネギ。

更にサイは呆気に取られていた明日菜に向かっても言葉を飛ばす。

 

「テメェもテメェだバカ女。

この思慮の浅いガキに何をされたか知らねぇし俺にとっちゃどうでも良い事だ。

だがなぁ、下らねぇ事で一々ピーチクパーチク騒いでんじゃねぇよ、聞かされる方が迷惑だっつうんだよ」

 

「な、ななななな、何がバカ女よ!? 私にはちゃんと名前が……」

 

サイの物言いに憤りをあらわにする明日菜。

しかしサイは極めて冷静に、まるで明日菜の怒りを納めるかのように淡々と返した。

 

「バカにバカと言って何が間違ってる?

テメェもこの思慮の浅いアホ小僧と同じで何にも考えてねぇな。

良いか? テメェの貧相な脳ミソで良く考えろ単細胞ゴリラ女、ついでによく聞こえるように耳もかっ穿っとけ。

さっきの言い振りはこの坊主の弱みを握って何かしようとしてたみてぇだけどな、実際にはテメェが“見た”ってだけで、他に何の証拠もねぇ。

そんな状況で騒いだ所で冗談か頭がおかしくなったかって位にしか思われねぇぞ?

まあ、写真でも取ってたってんなら話は別だけどよ」

 

「………あっ」

 

前に脱がされたり、失恋の相が出ているなどと無礼な事を言われていた為に頭にきていた明日菜。

だが冷静になって考えてみれば目の前で見たものでもない、証拠もないような事を誰が信じてくれると言うのだろうか。

確かにそんな事を言った所で誇大妄想だの何だのと言われてしまうだろう。

 

特に彼女のクラスにはショタコンで、彼女にとって天敵とも言える人物が居る。

その人物にとってはネギこそが正義であり、己が何を言おうと信じる訳があるまい。

大方、病院にでも行けと言われるのが関の山だ。

 

「それを証拠もねぇ、見ただけだってのを嬉々として喜んでガキを追い込んだ挙句、ガキに逆切れされて記憶を消されそうになる。

そんな何も考えてねぇ奴をバカって言葉以外で形容出来るってんなら俺が教えて欲しいくらいだぜ―――何か反論があるかよ、バカ女?」

 

極めて正論を言うサイに対して明日菜はぐうの音も出ない。

 

「うっ……あぁ、もう!! ないわよ、確かに私は何にも考えてなかったバカですよ!! でも、元はそのガキが……」

 

更に何かを言おうとする明日菜。

だがサイの顔を見た瞬間、言葉を止めてまじまじとその顔を見入る。

一方の見られている方のサイは居心地が悪そうだ、何も言わずに自分をじろじろ見てくる明日菜に言葉を飛ばした。

 

「……何だ? 俺の面に何か付いてるか」

 

そう言われるとはっとして正気に戻る明日菜。

心なしかその顔は紅くなっているようにも見えるがその意図は解らない。

 

「う、ううん、な、何でもないわよ!!

てかあれ……あぁ!? そうだ、今からアンタ達の歓迎会をやるから買出しに来たの忘れてた!!

ちょ、ちょっと、今は時間何時よ!?」

 

そう言われたサイはシャークティ達が麻帆良に住む事になった記念にくれた時計を出す。

 

「5時20分48秒だな……確か聞いた話では5時から歓迎会だったような気がするが」

「げっ、20分も過ぎてるじゃないの!? 拙いわね……あんた達、走るわよ!!!」

「誰の所為だこの馬鹿女、そもそもテメェがこんな所に連れ込んだのが原因じゃねぇか」

「あ~もう、うっさい!! 悪かったって言ってんでしょうがぁぁぁぁ!!」

 

そう言うといきなり走り出す明日菜。

サイがその後ろ姿を見ていると、あっという間に見えなくなる。

そんな彼女を見ながらサイは誰に聞かれるでなく自然に小さな声で漏らした。

 

「全く騒がしい女だな、アレでは“かつて”と違って男だか女だか解らんな……ん? 何を言っているんだ、俺は?」

 

不意に出た一言に首をかしげるサイ。

完全には戻っていない記憶の隅から彼女に会った事があるかどうかを考えるが思い出せない。

首を捻りながら考えていると、不意に声がした。

 

「ふにゅぅぅぅぅ、サイさ~ん!! いい加減に離してくださいぃぃぃぃ!!!」

「何やってんのよアンタ達!! 早く来なさいよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ふと、そんな言葉で我に返る。

良く考えてみれば明日菜との会話の始まりから今に至るまでネギを解放してやって居ない。

気付いたサイはネギを放してやった。

 

「ああ、済まんな忘れていた……それに何度も繰り返すが遅れたのはテメェの所為だろうが」

 

言葉を返しながらサイは己の通う学校の教室に向かって歩き出す。

不意に脳裏に浮かんだ見覚えのない少女が誰なのかは考えても思い出せなかった。

 

 

 

 

『『『『『『『『『『ようこそ、ネギ先生とサイくん~~~~~!!!』』』』』』』』』』

 

2-Aのクラスに入ると鳴り響くクラッカー。

新任のネギと転入生のサイの為に2-Aの少女達が用意してくれた歓迎会だ。

 

「ほらほら、主役は真ん中に行きなさいよ♪」

 

どうやら祝いの席では先程のように怒る心算もないらしい。

―――いや、寧ろサイの毒舌により冷静になったお陰とも言えるが。

 

「わぁ~~~、嬉しいなぁ♪」

「やれやれ、バカ騒ぎが好きな連中だ」

 

ネギは眼を輝かせて喜んでいるがサイは騒がしいのが嫌いなのだろう。

紙コップを取り出すとネギが他の女生徒達にちやほやされている間に抜け出して端の自分の席に座ると注いで来たアイスコーヒーを一気に飲み干した。

 

「おや良いのか、小娘共に相手されなくても? どう見ても男の浪漫のハーレムだぞ?」

 

そうサイの横から声をかけて来るのは同じく端のサイの隣の席に座っていたエヴァンジェリン。

コップには誰かがサイの飲んでいたアイスコーヒーを注いでくれている茶々丸だ。

基本的にエヴァンジェリンも騒がしいのはあまり好きではない、茶々丸の場合はエヴァに付き合っている。

派手に騒いでいる連中とは違い、此方の雰囲気はまるで“大人の世界”のようだが。

 

「五月蝿ぇのは嫌ぇだ……それにガキはガキと一緒に騒いでる方が丁度良いさ、俺にはどうも合わねぇ」

 

魂獣解放(スピリッツ・バースト)をしてから解った事。

それは自分が純粋な人間でも魂獣でもないと言う事と―――自分は少なくとも外見通りの年齢ではないと言う事だ。

まあ何せ知らないのだが実年齢はエヴァンジェリンを超えているのだから。

 

そんな外見と精神年齢の違いがサイをこうやって少女達や子供先生の輪に入らない理由なのだろう。

同じような理由を持つエヴァンジェリンにもそれは何となく察していた。

だからこそ彼女も喧騒から離れ、サシでサイと飲んでいるのだ……まあトマトジュースをだが。

 

そんな離れた所に居る近寄り難い三人に近付く者が何人か居た。

 

「あの――――――……」

 

「それにしてもキティ、中学校とはこう言うものか?

確か学校とは多くの事を学ぶ場所だろう? それにしちゃあ随分と普通の一般人の堅気にゃ見えねえ奴等が此処には多すぎるぞ」

 

小さいか細い声で話しかけるその人物。

だがサイはまさか自分に話しかけに態々(わざわざ)来る者が居るとも思わず、エヴァンジェリンと話をしていた。

 

「その――――――……」

「まあ、言いたい事は解る……この学校が―――いや、このクラスが馬鹿騒ぎが好きで特別なだけだ」

 

またか細く声をかけるが気付かない。

本人達は無視している訳ではない―――余りにも存在感が薄いから気付かないのだ。

 

「すいません――――――……」

「このクラスには私やマスター以外にも“特別な事情”がある方が多いですので」

 

またまたか細く声をかけるが聞いていない。

本当に存在感の薄い少女のようだ……まあサイ達が話に夢中になってるのと、周りが騒がしい事も関係なくは無いのだが。

そんな少女に救いの手が差し伸べられた―――

 

「やあサイ君にエヴァに茶々丸君。 良いのかいサイ君? こんな所で主賓が油を売ってて?」

「あん? 何だヒゲメガネか……良いんだよ、俺ぁああ言うのは向かねぇし」

「何だ態々貴様も来たのか? 貴様はあの坊やの相手でもしてれば良いだろうが」

「お疲れ様です、高畑先生」

 

何気に悪口スレスレの呼び方をするサイ。

別にどうでも良いかのようなエヴァンジェリン。

社交辞令に返すだけの茶々丸。

 

この三人は誰が相手でも態度は変わらないようである。

しかし、タカミチが前から来たお陰でサイは目の前でか細い声で話しかけていた人物に気が付く。

 

「ん? テメェは……あぁ、さっきのウスノロ女じゃねぇか……何だ、なんか俺に用か?」

 

「はい―――……やっと気付いて貰えました。

あの―――その―――……サイ、さん……でしたよね? あの―――……さっきはその―――……。

危ない所を助けていただいて、その―――……あ、ありがとう、ございました―――……」

 

男性と喋るのに慣れていないのだろう。

大分小さな声でドモりながら喋るのは、先程サイが危ない所を助けたのどかだった。

 

「だから言ったろ、礼なんか要らねぇよ。

俺はただ勝手にやっただけだ……礼を言われる程の事もしてねぇ」

 

相も変わらずに素っ気無いサイ。

まあ彼にとってあの程度の事は“助けた内にも入らない”のだ。

これは謙遜でも何でもなく、本人が“その程度の事は普通だ”と思って居るのだろう。

 

「それでも―――……わ、私は……助けられ、ましたから―――……お礼しないと―――……。

あの、私―――み、宮崎、のどか……って、い、言います……今度からは、な、なま―――名前、で……」

 

「あぁはいよ宮崎な、そんじゃあ宜しく宮崎」

 

呼び方は名字だったがそれでも嬉しかったのだろう、のどかはちょこんと頭を下げて輪の方へと戻っていった。

 

「しかし……君のその性格は昔からなのかい?」

 

サイ、エヴァ、茶々丸の三人とネギ達の方を見ながら呟くタカミチ。

 

「さぁな、何しろ昔の記憶がねぇんだ……昔の事なんざ解らねぇよ」

「あぁ、そうだったね―――変な事聞いて済まない」

 

詫びるタカミチにサイは『気にすんな』とでも言うかの様に首を横に振る。

其処から2~3程話をした後、タカミチはネギの方へと向かっていった。

 

すると今度はのどかとは違う別の人物が近付いて来る。

立ち振る舞いを見たら大和撫子とも言えるこの少女……正体は妖怪ぬらりひょんジジイの孫娘だ。

本当にどう見てもあのような空豆のような頭をした、口の中に別の頭があるようなエイリアンと血が繋がっているとは思えない。

此処で学園長が盛大なクシャミをしたのは言うまでもなかろう。

 

「ああ~、やっぱりや♪ さっき見た時、どっかで見た事ある人やと思うたんやけど」

 

気さくに話しかけてくるその少女をサイは見た事がない。

まあ実際は見た事はあるのだが、ほんの少しの間だった為と殆どの記憶がなかった為に忘れていた。

 

「あ? 今度は誰かと思えば妖怪ジジイの孫娘だっけか? えっと名前は確か……『きのこ』だっけ?」

「う~ん惜しいえ~、名前は近衛木乃香(このえこのか)や、宜しゅうな♪」

 

名前間違えられたのに怒りもせずに笑いながら名乗る。

全く以って、この朗らかで優しげな少女がUMA(未確認生物)ジジイの血縁とはどうしても思えない。

何処でどうDNAが変質すればあのような妖怪老人からこのような可憐な少女が孫として生まれると言うのか。

 

「全く以って生命の不思議と言う奴だな」

 

不思議とそんな言葉が口から漏れていた、本っ当に無礼千万な少年である。

(まあ外見はガキでも中身は下手すりゃ学園長よりなのだから仕方ないが)

 

「それにな、ウチ、ちょっと前にもサイくんに会っとるで? ほら、あの前の前の満月の夜の日に桜通りで会うたやんか~♪」

 

「……前の前の満月の夜?

(あぁ、確かキティと茶々丸と最初にやり合った日か……そう言えば、こんな娘に会った気がするな)

おぉ、そう言えば会ったような……良く覚えてねぇけど」

 

おぼろげな記憶を辿り、そう言えばこのかのような少女に会った事を思い出すサイ。

まああの時は勝手も解ってなかったし、助けを求められたから何も考えもせずに飛び込んで少々痛い目を見たが。

そんなサイに会った事を思い出してくれたのが嬉しかったのかこのかは更に微笑みながら言葉を続けた。

 

「あの日、アスナ無事だったからウチとの約束護ってくれたんやろ? あの時言えなかったから今言わせて貰うえ、本当にありがとうな♪」

 

「別に必要ねぇよ、礼なんぞ。

俺はただ、自分に出来る最低限の事をして結果的に助けた奴に傷一つなかったってだけの話だ。

……って、あれ? アスナって……あの娘、お前の知り合いだったのか?」

 

「……何の話だ、サイ?」

 

そこでサイは覚えてる限りの説明をエヴァにする。

最初に会った日に友人を助けてと頼まれた事、それが明日菜だったと言う事など伏せるべき部分は伏せてだ。

それで納得したらしいエヴァは、茶々丸から新たなトマトジュースを注いでもらって美味そうに飲んでいた。

 

「サイくん、これからクラスメイトやな~♪ 仲良ぅしてや、約束やで~♪」

「はいよ解った、じゃあ宜しくな近衛」

 

だが何故かそう呼ぶと不満そうな表情をするこのか。

 

「なんや他人行儀やな~サイくん、ウチは名前で呼んでるんやから、サイくんもウチの事名前で呼んでえぇよ~♪」

「いや、しかしな近え……『こ・の・か・やろ、サイくん♪』……解った呼ぶよ、このかで良いんだな?」

 

名で呼ばれると嬉しそうにするこのか。

そこで明日菜やもう一人の『委員長』とか呼ばれていた少女が乱闘を始めた為、このかは二人を止めに向かった。

 

「……ふぅヤレヤレ、本当に個性的な連中が揃ってる場所だな此処はよ」

「まあ、お前もその内の一人だがな、サイ」

 

賑やかに、騒がしく……まるでお祭り騒ぎのようなこのクラス。

サイはこれからの先に一抹の不安を抱きながら、それでも退屈しないで済みそうだなどと考えてアイスコーヒーを再び呷る。

そんな彼に鋭い視線を向ける人物がいる事に気付きながら、今だけはこのバカ騒ぎに身を委ねて。




第八話、再投稿完了。
いやしかし、本編でも書きましたが学園長の血筋から木乃香のような可憐な少女が生まれると言うのは生命の神秘ですな。
よほどDNAが変質したか、配偶者の方の血筋が濃いのか……まさにネギま世界の疑問の内の一つと言えます。

ちなみにこの物語では、のどかはネギではなくサイに恋します。
色々理由はあるのですが、まあ二つある内の理由の一つとすればあんな状況でサイが怪我しそうな人物を放って置かないと言う事ですかね。
サイはチンピラ小僧のような性格ですが、優しい部分も持ち合わせていますので。
(もう一つの理由は近い内に出てきます)

さて、では物語は次回へと続きます―――

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