魔法先生ネギま! 白面ノ皇帝(ハクメンノオウ)   作:ZERO(ゼロ)

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No.32:I Believe in Myself~真の英雄への一歩~

「オラァァァァ!!」

「ガキだからって手加減はしないわよぉぉぉ!!!」

 

まるでタイミングを計ったかのように、開戦して直ぐに放たれるサイの蹴りと明日菜の拳。

サイの蹴りは大蜘蛛の顔を上に蹴り上げ、明日菜の拳はその浮き上がった顔……いや、顎に綺麗にクリティカルヒットして硬そうな大顎を簡単に陥没させた。

 

「もう一丁!!!!」

 

そう叫ぶと左手で引き摺っていた大剣を振り上げ、大蜘蛛に叩き付ける。

剣術だの流派だのという物もヘッタクレも無い、剣の大きさを利用しただけの素人でも出来る一撃であったがその斬撃は一刀の元に大蜘蛛をお札の姿に戻してしまう。

 

「フン、やるじゃねぇか……」

「わ―――♪ 明日菜さん、凄いです!!」

『まさか仮契約(パクティオー)とか言う事をしていない明日菜さんが、一撃で式神を戻してしまうとは……』

 

明日菜はまだサイや刹那に比べれば戦闘経験など少ない筈。

しかし、その荒々しいが豪快な戦い方で式神を簡単に消してしまったのは三人を感心させる。

更にそれを見ていたニット帽を被った少年も驚いて感心したような表情で口を開く。

 

「へ~、やるな姉ちゃん。

式払いの妙な力を持つ女子中学生がいるから守りの堅いのを借りて来たのに、一発でお札に戻されてしもたわ。

それに其処の兄ちゃんもやるやないか、まさかあんな簡単に式神の下に入り込んで頭を蹴り上げるやなんて思わなんだわ―――下手すりゃ踏み潰されるか噛み千切られるやも知れへんのに。

千草姉ちゃんは『知らへん奴』って言ってたけど、充分に楽しめそうやな♪ まあ、力を何にも感じない所を見ると一般人みたいなのが残念やねんけど……」

 

少年はどうやらサイの事を『腕っ節が強い一般人』と認識したようだ。

当然と言えば当然の事である―――前にエヴァと戦った際に彼女が気付けなかったように、サイの力は独特な物で魔力でも気でもない。

故に初めて対峙した者は十中八九がサイを一般人だと認識するのが当然の事なのである。

 

元々サイも、敵と対峙した際は情報をあまり相手に与えないように力を抑えている事が多い。

それに相手は一人である。 多勢に無勢ではなく一対一の戦いを望むサイとしては多人数で攻めるというのは余程の事情が無い限りは好まない性格なのだ。

それに今回は明日菜の神具を垣間見たりネギの能力を知りたいという事から危ない時だけ手伝うだけで、それ以外は傍観する心算でもあった。

 

 

 

 

一方、明日菜やらサイを見ながら(サイに対しては事情が関係してるとは言え若干無礼な言い方をしつつ)嬉しそうに笑う少年。

どうやら式神を戻されてしまった事に悔しさは微塵も無いらしく、逆に玩具を見つけた子供のような見方によってはあどけない笑いを浮かべて見つめている。

だがその目がネギを見、顎に添えられていた手が彼(彼女)を指差した時、ニット帽の下の少年の目付きは明らかに『嫌悪感』のようなものをかもし出しているような光を宿していた。

 

「やけど、お前はダメやなチビ助。

強いのはその姉ちゃんや、そもそも女に守ってもらって恥ずかしくないんか?

一般人っぽいその兄ちゃんさえ戦っとったのに、だから西洋魔術師はキライなんや」

 

「っ!? むっ……」

 

ネギを卑下するかのような容赦の無い言葉に僅かに肩が震える。

そもそも何故、敵にそんな事を言われねばならないのか? そんな思いと共に言い返そうとするが、台詞は幾らでも頭の中に浮かんでくるのにそれを口から吐き出す事が出来ない。

それを弱いと思ったのか、少年は更に暴言を続ける。

 

「大方、お前の親父のサウザンなんとかっつう奴も護られたてばっかの腰抜けやろ?

何が英雄や、そんなモン、強い奴が護ってくれて自分が高みの見物してりゃあ誰だってなれるわ。

まあ、しゃあないわな―――弱弱の西洋魔術師ってのは所詮、御守りがいなけりゃ何も出来へんねんからなぁ、アハハハハハハ!!!!」

 

何よりも尊敬している父親をこき下ろす侮辱。

それに対して『ふざけるな!!』とネギは大きな声で叫びたかった。

しかし明日菜やサイの強さを垣間見て、自分の不甲斐無さや魔法のみで護って貰わねば戦えない己の無力さも気が付いていたのもまた事実である。

 

故に彼(彼女)は何も言えず相棒である、身の丈に合わない程に長い杖を握り締めて硬直する。

少年に対する怒りと、自分に対する憤り……二つの怒りがネギを震わせ、それでも言い返せない悔しさから瞳に涙を浮かべる。

 

するとその頭の上に衝撃が走る、ネギの頭にチョップが振り下ろされたのだ。

 

「ふぎゅ!? い、痛いよ!! 何するのお兄ちゃん!?」

 

ネギの頭の上にチョップを落としたのは勿論サイだ。

そのまま頭を鷲掴みにすると、ゆっくりとネギの視線に合わせて背を低くする。

 

「何を言われっぱなしで我慢してるんだこのバカ。

『何時でもどんな時でも冷静に居ねぇと下らねぇ失敗をする事になる』って俺は昔テメェに教えた事があるが、こき下ろされてまで我慢しろなんて教えた覚えはねぇぞ」

 

一瞬、ネギの事をぶん殴ったサイを非難しようとした明日菜。

だが、その口ぶりを聞き始めた時に黙り込む―――口調は悪いが、その言葉の端々には何処と無く優しさのような物も見えたのだから。

 

「大事な誇りを馬鹿にされて黙ってんじゃねぇよ。

テメェの誇りってのはそんなに安っぽいモンだったのか? そんな安っぽい想いでテメェは強くなろうなんて思ったのか、あぁ?

違うだろ? だったら何であのガキをぶっ飛ばして言った台詞撤回させようって思わねぇ?」

 

そう言い終わるとサイはネギに背を向ける。

その背中を見つめる妹分に対して、サイは振り向く事無く言い放った。

 

「悔しいなら下を向くな、前を向け。

己の誇りを汚されても、辱められても、貶められても、無力を痛感してもまた立ち上がりゃあ良い。

テメェがテメェ自身で『負けた』って認めねぇ限りはそいつは本当の意味で負けじゃねぇんだよ。

その言葉の意味が理解出来るまで時間をくれてやる、どうしてぇのかテメェでよく考えろ」

 

するとサイはゆっくりと少年の方へと向かって歩き出した。

その後姿、その背中、何故だか解らないが明日菜とネギは目を放せない。

まるでその背中を持つ―――いや、その存在そのものが誇り高く、偉大な英雄であるかのように見えたのだから。

 

 

 

 

「なんや、兄ちゃんが相手か?

ネギ・スプリングフィールドは出て来んのかい、此処までこき下ろされてんのに。

やっぱし西洋魔術師ってのは揃いも揃って腰抜けばっか……り……?」

 

その言葉は最後まで続かない。

何故なら少年を見つめる“今まで感じた事も無い程の殺気”を感じたのだから。

この少年は少なくとも先ほどの自信満々な態度や明日菜の攻撃を簡単に跳んで避けた所を見ればそれなりに場数は踏んでいるだろう……それも年不相応な数の場数をだ。

 

しかしネギが落ち着き、己自身でどうするのかを決めるまでの時間を稼ぐ為に出て来た漢―――つまりサイの場合、少なくとも百や二百程度では数え切れない程の修羅場を潜り抜けて来ているのだ。

勿論、現時点は魂鎧装(ソウルアップ)と言う技術を思い出し、麻帆良にいる時程ではないにせよ戦う事は出来るようになった……しかし魔法使いや呪術師、符術師のように大きな力が使える訳ではない。

だがそれでも、そん所そこらの小僧程度に暴言を吐かせ続ける程サイは優しくは無いのである。

 

強烈な、言うなれば身を貫く程の殺気に晒された少年。

するとその殺気を送っている人物であるサイが、ゆっくりと口を開いた―――

 

「光明司斉だ……」

「えっ……??」

 

いきなりの事に不意を突かれたのか聞き返す少年。

だが彼はその事に一切興味を持たず、静かにもう一度口を開く。

 

「白面九尾一族が先代長、光明司飯綱が子息、光明司斉だ。

さっさと名乗れ小僧―――テメェは喧嘩の作法も知らねぇのかよ、あぁ?」

 

この雰囲気は先ほどまでとは違いすぎる。

どこぞのアルビノの戦闘狂のような台詞を吐くと、慌てたように少年が名乗った。

 

「お、俺は……俺は犬上小太郎!!

に、兄ちゃん……あ、アンタ一体何モンや……この場の雰囲気の原因はアンタか!?」

 

サイを睨む犬上小太郎と名乗った少年。

見れば睨みつけてくる小太郎に対して、サイは殺気こそは凄まじいがそれ以外は全くと言って良い程に何も感じない。

 

「だったら何だ? ホレ、名乗りは終わったんだ―――とっととかかって来い、遊んでやるからよ」

 

『遊んでやる』と言う一言に最初は理解出来なかったが、直ぐに頭に血が上る。

その台詞は寧ろ、小太郎自身が言うべき言葉だ―――そもそも無防備にポケットに手を入れて突っ立ってるだけの人物は酷く隙だらけに見えていたのだから。

 

「……!! 舐めんな!!」

 

そう言い、犬歯を剥き出しに石段を蹴って跳躍するとサイに飛び掛る。

翳した拳をそのまま目の前の人物に叩き込めば終わり、少なくとも小太郎はそう思っていた。

 

しかし―――

 

「ポンポン飛び回るんじゃねぇよ馬鹿が」

 

小太郎の目には信じられない光景が映る。

何と目の前の男が、ポケットに手を入れたまま片足を振り上げて小太郎の拳を止めているのだ。

そのまま拳をなぎ払うと、小太郎のボディーに身を翻して蹴りを叩き込む。

 

「ぐうっ!?」

 

呻き声のようなものを上げて竹薮に叩き付けられる。

軽く蹴ったように見えるがその一撃は大分重い―――しかしそれよりも小太郎が気になった事は他にあった。

 

それは身体に痛みが無いのだ。

確かに竹薮に叩きつけられたが、それで背中を打った以外は身体に不調は無い。

そもそも、蹴られた筈の部分に打撲痕も痛みも一切無いのが気になった。

 

「敵の前で簡単に飛ぶのは素人の証拠だ。

空中じゃ方向転換は容易に出来ねぇし、出来たとしても相手に隙を見せるだけだぞ小僧」

 

「くっ……調子乗んなぁぁぁ!!!」

 

今度は地を蹴ると高速でサイとの間合いを縮めて拳を叩き込もうとする。

だが、その高速で弾丸のように飛び掛って来た少年の拳を、サイは再び足の裏で止めていた。

 

「殴り掛かるなら余計な事言う前に殴って来い。

それに直線的な攻撃なら幾らテメェが早かろうと何だろうと価値はねぇぞ。

フェイントぐらい混ぜて攻撃しろ、じゃ無けりゃ幾らやった所で時間の無駄だ」

 

確かに幾ら早かろうとも直線しか攻撃が出来なければ読むのは難しくは無いだろう。

要は拳銃などと同じだ、殺傷力は高かろうと結局は真っ直ぐにしか弾丸が飛ぶ事が無い

故に達人であれば避ける事が可能だ……特にサイは1m程度の至近距離で銃を撃たれても軌道を読んで避ける事が出来る『先見の目』があるのだから。

 

「くうっ!?」

 

再び吹き飛ばされて竹薮に突っ込む小太郎。

しかし再び叩きつけられども小太郎は蹴られた痛みなど感じない。

だが二度もやられれば、一応そん所そこらの一般人よりも遥かに場数を踏んでいる少年も気が付いた。

 

「……何でや、何でさっきから攻撃しないんや!?」

 

そう、サイは先程から攻撃をしていない。

吹き飛ばされて竹薮に何度も小太郎は叩き付けられているが、要は寸止めした蹴りで押しているだけなのだ。

本来なら力が制御されているとは言え、サイが本気でやれば二度も三度も攻撃を受け続けられる訳が無い。

多分、最初の一発目で意識など簡単に刈り取られているだろう。

 

「あん? さっき言ったろ、遊んでやるってな。

ガキとのお遊びに全力でやったら、直ぐに終わっちまうじゃねぇか」

 

その表情は何処までも不敵に、見方によっては凶悪に見える笑みを浮かべる。

言われた台詞が自分がガキ扱いされていると言う事を理解した小太郎は憤りながら攻撃を仕掛けるのであった。

勿論それがサイの策略であり、怒りの所為で何時も以上の力が出せなくなっていると言う事を知らずに。

 

 

 

 

サイと小太郎の戦いを見つめるネギ。

確実に相手をKOする事の出来る実力を持ちながらもそれをしない理由、それは言うなれば己の為だろう。

 

『馬鹿にされたのならそれを相手に撤回させろ』

馬鹿にされたままでなど居られない、それを撤回しないと言う事は尊敬する父親を馬鹿にされたまま黙っているという事と同じ―――ひいてはそれは、自分の信じて来たもの全てを否定するのと同じなのだから。

 

「……明日菜さん」

「えっ? 何よネギ?」

 

いきなり声を掛けられた明日菜は聞き返す。

振り向いてネギの姿を見たその時、一瞬だが明日菜は目を疑った。

其処に居たネギは先ほどまでのように己の無力さに打ちひしがれていた姿とは違い、とても大きく見える。

そしてその面影が一瞬だけだが見た事も無い、なのにとても懐かしい女性と重なって見えたのだ。

 

「―――ボクは無力です。

父さんを探す内に必ず戦う力が必要になると思って技術を覚え、それを覚えただけでそれ以上の努力もせず慢心して、結果的にアイツに何を言われても言い返す事も出来ませんでした」

 

天才少年などと呼ばれ、英雄の子などと呼ばれ、独学で魔法を覚えた事によって心の何処かで慢心していた。

それがこの戦いで顕著に現れ、朝倉に魔法をバラしてしまい、自分では何も解決出来ずに他人の力ばかり借りる。

小太郎が言った事は全てが事実ではないにせよ、反論出来ない事も多かった。

 

だがそれを嘆いて一人で意地を張ろうとして何になる?

己の弱さを認め、そしてその部分を全部ひっくるめて前を向き、そして強くなる。

サイという大きな背を持つ、誇りを重んじる人物に言われ、そして冷静に考えてようやくネギは気付いた。

弱くても良い、誰よりも強くなくても良い、だからこそ人は誰かと共に歩めるのだと。

 

「だけど、此処で自分ひとりで意地を張るのは本当に愚かな証拠です。

一人で勝てないなら誰かと共に戦えば良い……負けたってまた立ち上がれば良い、そう教えてくれた人がいましたから」

 

そこでネギは明日菜の方を見た。

その目にもう迷いは無い―――例え何と言われようとも、己に出来る事を己自身で貫く為に。

 

「だから明日菜さん、ボクと一緒にアイツと戦ってくれませんか?

お兄ちゃんに戦って貰った方が勿論確実です、でもそれじゃあ意味が無いんです。

例えどう思われようとも、卑怯だと罵られ様とも―――誇りを貶められたままで先に進むなんて出来ません。

自分の力で、自分の意思でアイツに勝って、汚された誇りを取り戻さなきゃならないんです!!」

 

それこそが天才と呼ばれていた少年が選んだ決意。

もう逃げはしないし、後ろも振り向かない、その意志が変わらない事は見れば一目瞭然だ。

そんなネギに対し明日菜も確りと頷く。

 

「心配しないでも手伝うわよ。

そもそも普通、10歳のガキが危険な事をしようとしてるのを放っておけないでしょ?」

 

そしてもう一つ、はにかむような表情でサイの方を見た後に呟く。

ある意味ではこれもまた、明日菜なりの決意という奴だったのだろう。

 

「それにあたしはね、身勝手な奴やガキが確かに嫌いよ。

でも後ろ向いたって良い、倒れたって良い―――そっから逃げないならガキだろうが、口の悪い奴だろうが、何だろうが、一生懸命自分の生き方貫いて頑張ってる奴は嫌いじゃないのよ、悪い?」

 

そう言うと置いてあった大剣の柄を握る。

ネギもその横で己の誇りであり、大事な父親のくれた杖を握ると明日菜と目を合わせてから同時に呟いた。

 

「「それじゃあ、行きましょう(行こう)!!」」

 

 

 

 

小太郎と対峙するサイは足音で誰かが、いやネギ達が近づいて来るのを理解する。

ゆっくりと首を捻って後ろを見れば、己の答えを決めたらしい表情のネギが居る……再び小太郎の方を向くと、サイは背を向けたままネギと明日菜の方に言葉を飛ばした。

 

「その面はさっきの言葉の意味を理解して、答えを決めたみてぇだな」

 

「―――うん、お兄ちゃん。

アイツとはボクが……いや、ボクと明日菜さんが戦う!! だから此処はボク達に任せて欲しいんだ」

 

静寂が舞い降りた空間に小川のせせらぎと竹薮が風に揺れる音が響く。

ネギの言葉に一度黙り込んだサイは目を瞑ると、ゆっくりと目を開いて質問を返す。

 

「良いんだな? 負けて苦しむ事になるかも知れねぇ。

これは試合じゃねぇんだ、殺される可能性だって無い訳じゃねぇぞ。

俺に戦わせるって選択肢を選んでも誰も責めはしねぇ、それでも文句はねぇな?」

 

しかし続くのは決意に満ちた声だ。

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん……ボク達が戦う。

もう決めたんだ、確かにボクは未熟でアイツの言う通り誰かに護って貰えなきゃ戦えないかも知れない。

お兄ちゃんが戦った方が良いんだと思う……でも、それじゃあ意味が無いんだ。

自分の誇りを馬鹿にされたら自分で誇りを取り戻さなきゃダメだと思うから。

だからボクが戦うよ、それがボクの決めた答えだから」

 

静かにネギの決意を聞いたサイは頷くと道を譲るように横に避けた。

そこで睨んでくる小太郎を無視すると、ネギと明日菜に向かって言葉を飛ばす。

こう言った場面の際、余計な長い言葉は不要だろう。

 

「だったら“終わったら”呼べ。

俺は此処から出る方法を探ってくる――ほれ、行くぞちびせつな」

 

そう言うと何かを言いたげな苦々しい表情の小太郎を無視して背を向けるサイ。

肩の上には心配そうだが、それでもサイの物言いに何かを感じる部分があったのか何かを理解したような表情のちびせつなが居る。

 

―――と、その背中に小太郎が怒声を浴びせた。

 

「な、何や兄ちゃん!? アレコレ色んな事を言ってそれで終わりかい!?

それにこの結界からは俺が知ってる方法使わな出れへんで!! そもそもこんな後ろに隠れてるだけの西洋魔術師のチビと素人の姉ちゃん程度で俺を倒せるとでも思ってるんか!?」

 

その物言いは当然の事。

小太郎にとって見れば手も足も出ずに“手加減”されて居るだけでも頭に来ていたと言うのに、更に自分が散々こき下ろした腰抜けの魔術師が相手になるなどと言っても納得出来る筈もない。

―――だが、サイは小太郎の言葉に立ち止まると答えを返した。

 

「テメェじゃ少なくとも“今のネギ”にゃ勝てねぇよ。

それに俺はネギを信じている……だから今言っただろうが、終わったら呼べとな」

 

無責任のようにも聞こえる言葉。

しかしその言葉は、確りとネギの心の奥に深く響き渡った。

『信じている』―――短いその一言は、今のネギには何よりも心強い一言だろう。

 

ネギは考えても見れば10歳の子供だ、人から心配される事はあれど信用された事は少ない。

失敗したとしても、何をしたとしても、人から心配されているだけでは余計に進むべき事を見誤ってしまう。

 

しかし自分が何とかしなければならないと思えばそれは大きく成長する。

失敗したとしてもその失敗を次に生かすように己で考えれるようになるし、信用すればその期待に応えようと努力だってする。

だからこそサイは余計な事は言わずに唯一言ネギに伝えただけなのだ―――『信じている』と。

 

「それにな、もう一つ訂正しておくぜ」

 

サイは背中を向けながら言い加える。

ある意味ではその一言は、閉じ込められて先に進まない状況を打破するには充分であり、小太郎を慌てさせる一言であった。

 

「こんな結界で俺等を封じとこうなんぞ千年早ぇ……あんまり俺を舐めるんじゃねぇぞ、クソガキが」

 

その言葉を最後にサイはもう振り返る事無く歩き去っていくのであった。

自らの手に愛刀である七魂剣スサノオを携えたままで。

 




第三十二話の再投稿を完了しました。
遂に始まった刺客との第一回戦(正確に言えばサイvsフェイトの分を入れれば第二回戦ですけど)、最初の相手は原作通り小太郎です。

まあ本当ならサイが適当に伸してしまう方が早いとは思うんですけどね。
ですがそれだとネギ君の出番はなくなってしまい、原作とは違って仮契約もしていないので『誰かに背を任せて戦う』と言う事が出来なくなってしまうと思いましたので。

それに本来ならば此処では小太郎の台詞にブチ切れて戦いを挑みますが、この物語内ではネギ君は殆ど負けてばっかですからね。
原作ならばエヴァとの戦いに勝って自信をつけている所ですが・・・エヴァとのバトルは引き分け(と言っても明らかにエヴァは手を抜いている)、サイは化物クラスの戦闘力の保持者と言う事情から自分に自信を持つと言う状況ではありません。
ですのでその事が小太郎に馬鹿にされても言い返せなかった理由と言う事です。

しかし戦いの中で己の無力を知り、曲げる事の出来ない信念を知り、貫かなければならない意地を知ったネギ。
そしてその中で自分独りではなく、仲間と共に戦うと言う事を知った少女は遂に此処から『真の英雄』と言う存在への第一歩を己の人生に書き記したのです。
まあ此処から幾つも失敗や成功を繰り返しながらネギは成長していくのでしょう。

ではそろそろ次回へと続きます。


題名の意味は『自分自身を信じる(己を信じよ)』

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