魔法先生ネギま! 白面ノ皇帝(ハクメンノオウ)   作:ZERO(ゼロ)

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No.30:Ouverture~迫る戦乱の序章~

「……ちょ、ちょっと……何よ、この状況は……?」

「い、いえ……私にも良く解りませんが……?」

 

開口一番、朝起きてきた明日菜と刹那がロビーを見て呆然としながら呟く。

ホテルのロビーには死屍累々の屍……3-Aの面々の変わり果て憔悴しきった姿がある。

ある者は白目を剥き、ある者は壁に向かってブツブツ何かを言い、そしてまたある者は正座したまま風が吹くだけで吹き飛ばされてしまいそうな程に真っ白に燃え尽きているのだ。

 

一体何があったのか? 昨日早く寝てしまった二人が知る由も無い。

(まあ寧ろ知らないなら知らないままの方が幸せな事も世の中にはあるだろう)

 

「一体何があったんでしょうか……」

「さ、さあ……? 私も昨日は早く寝ちゃったから……と、取り敢えず此処に居る誰かに聞いてみる?」

 

明日菜は取り敢えず一番近くで正座させられていた鳴滝姉妹に話しかける。

 

「ね、ねえ風ちゃんに史ちゃん……昨日一体何が……」

「………ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ………」

「………モウシマセン、モウシマセン、モウシマセン、モウシマセン………」

 

しかし二人はがたがたと震えながら謝罪の言葉を連呼するだけだ。

うわ言の様に繰り返されるその言葉から、余程恐ろしい目にでもあったのだろう。

埒が明かないと思った明日菜は次にあやかに裕奈にまき絵から事情を聞こうとするが―――

 

「え、えっと……まきちゃんにゆーなにいいんちょ……」

「………オシオキ怖イ、オシオキ怖イ、オシオキ怖イ……オシオキ怖イ………」

「部屋から出ちゃ駄目だって言われてたのは解ってたよ……でも、だからって、だからってあんな……」

「うふ、うふふふ、うふふ……ほ、本当にオシオキでしたわね……フフフ……」

 

どうやらこっちも埒が明かない。

仕方が無いので明日菜は最後に真ん中に正座させられていた完全にヤバそうな状態の朝倉に話しかける。

意外に肝の据わっている彼女なら説明が出来ると明日菜は踏んだのだろう。

 

「ちょ、ちょっと朝倉……一体何があった……?」

「(ビクッ!?)ご、ごめんなさい!! もうしません、絶対に何もしません!!

これからは心を入れ替えます、決して面白半分で余計な事は致しませんから!!! だから、だからもう許してぇぇぇぇ!!!」

 

明らかに他の連中よりも憔悴しきり、しかも何かに恐怖しているらしい朝倉。

『麻帆良のパパラッチ』と呼ばれ、スクープの為なら無茶無理無謀など平気でする筈の彼女に一体何があったのか―――

 

「え、え~と……」

「い、一体……本当に何が……?」

 

困り顔で冷や汗を垂らす明日菜と意味が解らず首を捻る刹那。

二人が立ち尽くしていると不意に後ろから誰かが声が掛けた。

 

「よう……昨日はゆっくりと眠れたか二人とも?」

 

後ろから掛けられた声は少年の声。

何だかやけに清々しいのが気になったが、取り敢えず知っている人物の声なので二人は振り向いた。

 

「「あっ、サイ(さん)、おはよ(うございます)……うっ!?」」

 

挨拶を返そうとするも変に語尾が釣りあがる、振り向いた先に居るのはいつも通りの不機嫌面のサイだ。

そう、何時も通りだ……その筈なのに何故かいつもと違いやけに禍々しい気配を感じる。

目の錯覚だろうか? 何故か白目が真っ赤に染まっている様にも見えた。

 

「さ、サイ……な、何かあったの……?」

「……いや、別に何もねぇが?」

 

口ではそう言うが信じろというのが無理な話だ。

その表情に張り付いているのは何処となく乾いた笑み―――まるで能面のような笑みなのだから。

 

「あっ……そ、そうだサイさん、昨日何があったか知っていますか?」

「あぁ? ああ、よーく知ってるぜ」

「「あ、なら教えて……」」

 

昨夜何があったのかを知っているらしいサイに尋ねる二人。

だがサイは乾いた笑顔を二人に向けると―――静かに、丁寧に呟いた。

 

「明日菜、刹那……世の中には知らない方が幸せな事があるぞ」

 

その物言いと瞳は『これ以上は詮索するな』と雄弁に語っている。

あまりの眼光の鋭さと禍々しさに反射的に明日菜と刹那はコクコクと頷いていたのだ。

サイはそれを見届けると無言で頷くと今度は正座している少女達に向かって睨みながら口を開く。

 

「おい、テメェ等……これから朝飯の時間だろ、何時まで呆けてる心算だ?

早く行って率先して準備して待ってろ―――遅刻したらどうなるか、解ってるだろうな?」

 

サイの言葉を聞くや否や、正座していた者達は我先にと迅速に行動に移した。

沈み込んでいた面々は跳ね起きると、肉食動物に追われる草食動物よろしく脇目も振らずに大広間へと殺到していく。

いや、ある意味ではあの引き攣った表情は食肉工場に運ばれる前の鶏やら牛やら豚やらのようにも見えたのは気の所為ではないだろう。

そんな光景を呆然と見ていた明日菜と刹那の横でサイは小さく溜息を吐くと呟いた。

 

「……俺はネギ起こしてから朝飯に向かうからお前等も遅れんなよ?」

 

何処と無く疲れたようにも見えるサイの後姿を見送る明日菜と刹那。

そして二人はお互いに顔を向き合わせ、目を合わせると―――

 

「……行こっか、刹那さん」

「……はい、そうしましょう明日菜さん」

 

二人は脳裏に浮かんだ疑問や先程の出来事などを削除して朝食の席に向かった。

何があったのかはもう敢えて聞きたいとは思わない―――寧ろサイの言った通り、知らない方が幸せな事があると胸の内に深く刻み込んで。

 

 

 

 

クラスの中でも特に元気な筈の人物達が落ち込んでいるという異常事態の中で朝食は終わる。

昨日、乱痴気騒ぎの死亡遊戯を観戦していた者達はこの状況の示す部分の意味を理解し誓った……『絶対にサイを怒らせるような事はしない』と。

 

一方、運良くゲームに参戦していながら助かった連中は参戦した者たちの異様な状況に背中に冷たい物を感じ―――

大体の結果を心なしか理解していたエヴァと茶々丸とザジと真名は呆れてるやら同情しているやら良く解らない表情をして哀れな犠牲者たちを見つめていたという。

 

 

朝食後―――昨日の惨劇を知らない明日菜と刹那にネギが怯える朝倉&カモから事情を聞いていた。

とは言っても最初は怯えたまま頑なに何も言わない一人と一匹であったが、サイが後ろから『良いからとっとと話せ』とドスの聞いた声で呟くと大急ぎで語りだす。

あらかたの事情を聞き終わった後に明日菜が呆れたような表情で言う。

 

「朝倉、そりゃアンタが全面的に悪い」

 

内容を聞いて幾分か気持ちを持ち直した明日菜。

そして心の奥底で何とも言えないムカツキを少々感じていた事は内緒だ。

 

「そもそもアンタ等は一体何考えてるのよ?

サイやらネギやらを勝手に巻き込んで、しかも何も知らない子達をアンタ達の勝手な言い分で巻き込もうとするなんてさ―――今朝アンタ達の姿を見て、少しでも同情した私が馬鹿だったわよ本当に」

 

「そ、其処まで言う事無いじゃない~~~!!」

『そ、そうっすよ……おれっち達は何度も説明してるように悪気は……「黙りなさいバカガモ」……バカガモっ!?』

 

取り繕おうとするカモの言葉を一刀両断にする明日菜。

彼女は口が悪いが責任感が強く無責任な事をする者を大変嫌う。

そう言った部分は本人に言えば怒るかも知れないが、サイに良く似ているようだ。

すると其処でお冠な明日菜の後ろで不意に冷たい何かを感じる。

 

「そうですか、成る程……サイさんのくちびるを、勝手に景品に、ですか……」

 

何故、何故にこんなにも寒く感じるのだろうか?

不穏な空気に明日菜は後ろにいるであろう刹那の方に視線を向ける……彼女は俯きながらなにやら不気味にクスクスと笑っていた。

前髪によって目の部分が隠れているのが余計に異様さを助長させている。

 

「せ、刹那さん……?」

「はい? 何でしょうか、明日菜さん?」

 

ゆっくりと顔を上げた刹那はまるで朝食前のサイの如く能面のような平べったい笑みを浮かべていた。

背からドス黒く、それでいて烈火の如く立ち上る煙の如き物があるのは気の所為だと思いたい。

 

「え、えぇっと……ちょ、ちょっと落ち着いてね、刹那さん?」

「明日菜さん、可笑しな事を仰られますね? 私はこれ以上ない位に冷静ですよ? えぇ、冷静ですとも」

「ちょ、刀に手を掛けて言われても全然説得力無いから!? 駄目だって刹那さん、抑えて抑えて!?」

 

今にも朝倉に斬りかかりそうになっている刹那を必死で抑える明日菜。

いくらなんでも刃傷沙汰は拙い、実に拙過ぎる。

 

「離して下さい、明日菜さん……押さえられていてはお二人に罰を与える事が……」

「いや罰って何よ罰って!? それに駄目だって!? こんな所で刀なんか抜いちゃ……」

「大丈夫ですよ、周りに“は”被害を出しませんから……それに秘密裏に証拠隠滅すれば……」

「本人にも被害を出しちゃダメぇぇぇ!!? しかも何を真顔で怖い事言ってるのよぉぉぉ!!?」

 

ヤヴァイ、このまま行けば確実に朝倉&カモはGo to hell(地獄行き)だ。

刹那の切れっぷりは半端ではない―――このままでは朝倉とカモの命は風前の灯火と言う奴だろう。

 

そんな不穏な空気を察したのか?

はたまた横にいるネギにそのようなものを見せられないと思ったのか?

それとも少女二人にそんな事の片棒を持たせる訳には行かないと考えたのか―――今まで殆ど口を開かずに居たサイが刹那の刀の柄を押さえ呟く。

 

「落ち着け、このバカ共は俺が“確りと”罰与えといた……こんなバカ共斬っても刀が無駄だぞ?」

 

―――本当に一言多い漢である。

だが、子供をあやす様に頭をポンポンと撫でるようにしてやると取り敢えずは正気に戻ったようだ。

顔を赤く染めて俯いてしまったがどうやら一先ずだが危険は去った。

 

「あ、アリガト……助かったわ、サイ」

 

安堵の吐息と共に明日菜が礼を言うと、サイは背を向けて手をプラプラと振るジェスチャーを返す。

あれは恐らく『まあ気にすんな』とでも表しているのだろう。

 

取り敢えずサイに確りと『オシオキ』された事により猛省した朝倉とカモ。

そんな一人と一匹を尻目に、サイと明日菜に刹那とネギは3日目の行動の確認をした。

尚エヴァ達はまだ来ていない、3日目の完全自由行動の為に用意した普段着をどれを着るか迷っていたのだ。

 

「さて……確か今日は自由行動だったよな?

どうする? 確かネギは親書を関西呪術協会とやらに届けに行くんだったか?」

 

「あっ、うん!! そうだよお兄ちゃん♪

今日は一日自由行動だし、木乃香さん狙ってる関西呪術協会の刺客が何処に居るか解らないでしょ?

だから早くこの親書を届けちゃおうかなって思ってて……」

 

少しはネギも考えるようになったようだ。

確かに現時点、親書も木乃香も狙われているような状況では先にどちらかを終わらせるのが大事だろう。

親書を先に渡してしまえば『関西と関東のいがみ合い』と言う大義名分は無くなる。

刺客達もおいそれと木乃香を狙う事も出来なくなると言う利点を考えればまずは親書を渡すべきだ。

 

「成る程な……んで、明日菜はどうすんだ?

刹那は木乃香の護衛だろうから別行動だし、キティ達は今朝会った時に京都見学に行くとか言ってたから多分付いて来ねぇだろうしよ」

 

「私? あぁ、私はネギに付いて行くわよ?

流石にネギ一人でその“悪い奴等の巣窟”みたいな所に行かせる訳にも行かないしさ。

班の方には適当な理由をつけて誤魔化しておく心算だしね」

 

明日菜の言葉を聞いて頷くサイ。

この状況を考えれば自分が取るべき行動は一つだろう。

寧ろ任せる事の出来る自分の信頼する戦友とでも言うべき人物が木乃香の護衛に回ってくれるのだ、信頼を無碍にする訳にも行くまい。

 

「なら俺はネギと明日菜に付いて行く事にする。

刺客にしてみりゃ親書が渡れば動きが取り難くなる、多分罠やら何やらを用意しとく筈だ」

 

その言葉に少々だけだが残念そうな表情をする刹那。

しかしサイが信頼するエヴァとその従者茶々丸が一緒に来てくれると言う事は正直ありがたかった。

まだ刺客が何人いるか把握しきっていない現状では一人でも自分より強いだろう実力者が必要だろう。

 

それとは別にサイは胸騒ぎのような物を感じる。

修学旅行一日目の夜に戦った、多分だがエヴァクラスの強敵―――フェイト・アーウェルンクス。

 

かの少年が介入するだろうと言う事は“自明の理”だろう。

今度は一方的に負ける訳には行かない、そんな事を心の中でサイは考えていた。

 

「じゃあサイ、私達準備があるから一度部屋に戻るわ。

あぁ朝倉にバカガモ、アンタ等は絶対に付いて来たら駄目よ? 確りとそこで反省しなさい……破ったらどうなるかはもう解ってるわよねぇ?」

 

「『……ハイ、ワカッテオリマス。

モウゼッタイニサカライマセンシ、ヨケイナコトニホイホイトクビハツッコミマセン……』」

 

明日菜に念を押された朝倉(&カモ)。

片言で正座したまんま震えている所を垣間見れば、どれだけの恐怖を味わったのかは容易に想像出来る。

実際に筆舌し難い程、お茶の間には残酷過ぎて放送出来ないような事をされたとかされなかったとか。

 

「……んじゃ俺は先に行ってるぞ。

用意が済み次第、渡月橋っつう所で落ち合おうぜ―――そっからは二組に分かれるって事で」

 

言い終わるとサイはさっさと背を向けて歩き出す。

そんなデリカシーの欠片も無いような人物でありながら、護るべき約束はしっかりと護る漢の背中を少しだけ苦笑して見つめた後、明日菜や刹那やネギは準備の為に部屋へと向かうのであった。

 

 

 

 

京都・桂川に掛かる橋、渡月橋。

春には桜、秋には紅葉の名所として多くの観光客を集める嵐山周辺で有名な橋である。

その名の由来は遥か昔、鎌倉時代の天皇・亀山上皇が橋の上空を移動していく月を眺めて『くまなき月の渡るに似る』と感想を述べた事から命名されたそうだ。

 

渡月橋の欄干に寄り掛かりながら明日菜達が来るのを待つサイ。

服装は改造学生服ではなく、いつもの狩衣風の上着に着物風のズボンと足袋のような様相のブーツである。

着ているのはサイの意志によって姿を変える魂衣(スピリットローブ)なので他の服装にもなれるのだが、サイ自身が服装に無頓着なのと動き易い服装という事でいつも通りの服装となっているのだ。

その横には既に私服に着替え終わったエヴァが同じように欄干に寄りかかり、茶々丸は表情を見せないまま直立不動で立ち、ザジはのんびりと橋から見える光景を無表情で見つめていた。

 

「チッ、遅ぇな……何時まで待たせるんだ全く」

「女は準備に時間が掛かるものだ、それを文句を言わずに待ってやるのは男の甲斐性と言う奴だぞサイ」

 

サイにそう諭すのはエヴァ。

実際の所、エヴァも着ていく私服を決めるのに三十分以上も掛かったのだから文句も何も言えないが。

尚、エヴァの私服は麻帆良で良く着ている事の多い白のゴスロリ風の洋服だ。

 

「面倒臭ぇな、服装なんぞ動き易けりゃ何だって変わらねぇだろうが」

「どうでしょうか……私には解りかねますが、やはり気にする方が良いのでは?」

『私は良く解らないですぅ、元々幽霊でしたしぃ~』

 

そう生真面目に考えてから返すのは茶々丸とさよだ。

彼女達は(さよは元人間にせよ)人間ではないので他に比べれば一線引いているように見える。

だがサイを意識し始めてる茶々丸とさよにとっては服装を褒めて貰った方が嬉しいだろう。

(と言ってもさよは人形の外見だが……ちなみに茶々丸はエヴァに選んで貰った同じような黒の洋服を着て、手にさよ(ウサギ人形)を抱いている)

 

「……俺にゃ良く解らんな、なあザジ?」

「……………?」

 

サイの受け返しに当然に疑問符を浮かべるザジ。

ザジは動き易そうな半袖の洋服にハーフパンツというサイと同じような動きを重視した服装である。

 

まあ元々サイにそのような色気のある話を理解しろというのが無理な話だろう。

超が付く程に鈍感で、女の気持ちの機微とやらを完全に理解出来ず、レディーファーストなどという精神が完全に抜け落ちているのだから。

……元々生まれた世界がそんな事を考えるような世界ではなかったのだから当然だ。

 

「お~ま~た~せ~!!」

「あぁ? んだよやっと来た……の……か……?」@

 

そうこうしている内に明日菜達が来たようだ。

声のした方をサイは不機嫌そうに見るが―――見た瞬間、その目を疑った。

何せ其処には、明日菜と刹那以外に本来居る筈の無いのどかに夕映にパルと木乃香、つまりは第五班の面々が全員来ていたのだから。

 

「……何でテメェらが此処に居るんだ?」

「チッチッチ……サイ君、他に言う事があるんじゃないの~?」

 

パルが笑顔でそう言うのでサイは首を捻る。

そしてしばしの思案の後、期待するような表情の少女達に向かって言葉を飛ばした。

 

「雨が降らんで良かったな」

「(ズコッ!?)……いや違うでしょ!? アタシ達の姿見て何か言う事無いの!?」

「あぁ、そう言えば私服だな……まあ、完全自由行動の時は私服で良いと言っていたから当然だろう?」

「(ズコズコッ!?)ちょっとサイ君!! 折角アタシ達が私服で来たんだよ!? もっとさあ『可愛いね』とか『似合ってるよ』とかって感想は出てこないの!?」

「服なんぞ着れば皆一緒だろ?」

 

サイの的外れな感想にドリフのコントばりにコケまくるパル。

そもそも先程も書いた通り、サイに華のある感想を求める事自体が間違いなのである。

『朴念仁』や『朴訥』や『超鈍感』と言う言葉が服を着て歩いているような人物なのだから。

 

「……早乙女ハルナ、サイに服装に対しての褒め言葉だの華のある言葉だのを期待しても無駄だ。

コイツは基本的に服など『丈夫で汚れ難くて動き易ければ何でも良い』と言う程度の認識しかない」

 

「……あっそ、そりゃあまた。

(ボソッ)こりゃあのどかも厄介な相手を好きになったもんだねぇ……まさに超絶鈍感って訳だ。

……ムムッ、何だかサイ君とネギ君を使って次の作品の創作意欲が涌いてきたぁぁぁ!!」

 

微妙に(いや、かなりか?)失礼な物言いのエヴァ。

そしてそれに呆れながらもサイとネギを使ったいかがわしい本人の趣味である次の作品のネタを考え付いたパル。

のどかが目に見えて落ち込んでいるように見える光景を尻目に、サイは明日菜をおいでおいでのジェスチャーで呼ぶと小声で尋ねる。

 

「……おい、何でアイツ等が此処に居る?」

「え、え~っと……ゴメン!! 実は途中でパルにバレちゃって……」

「―――まあ、そんな事だろうと思ったがな……ヤレヤレ」

 

沈痛そうな面持ちで溜息を吐くサイ。

『大方、面白そうだからとか言う理由で来たんだろうな』などと考えながらパル達の方を向いて再び深い溜息を吐いた。

本当に色々な意味で鈍感の上、気苦労やら何やらが重なる不幸な人物である。

(尚、彼女達が来た理由は主にサイと自由行動をしようと思ったのだが、勝手に何処かに行ってしまったので知っていそうな明日菜達に付いて来た為だ)

 

「も、申し訳ありません……サイさん……」

「あぁあぁ、もう良いからそんな面すんな……それより今はアイツ等をどう撒くか考えねぇと」

 

今から向かう先は書いて文字通りの修羅道だ。

何も知らない一般人を巻き込む訳にはいかない茨の道とも言える。

横目で見ればこちらをパルを始めとした図書館探検部の面々が興味深げに見つめているのだ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん……ボク考えたんだけど、どこか騒がしい所に入ってその隙に抜け出さない?

そうすれば皆さんを巻き込む事はないと思うんだけど……エヴァさん、どう思います?」

 

「フム、確かに―――サイ、坊やの言う通りだ。

しかし修学旅行で人が増えているとは言え、この喧騒の少ない嵐山でそのような都合の良い場所など……あぁ、一つあったな」

 

ネギの意見を聞き周囲を見回すエヴァ。

確かに嵐山は観光客が多いとは言え、比較的に静寂の中で風景を愛でる方が良い為か賑やかな場所が少ない。

しかしテンション高くパルが突貫して行った場所を見てエヴァは肩を竦めた。

 

「ねえ皆、ホラホラ!! あっちにゲーセンがあるから、記念に京都のプリクラ撮ろうよ♪」

 

それにつられてのどかや夕映、刹那と明日菜とネギの手を引っ張って木乃香が撮りに向かう。

勿論サイ達(サイ、エヴァ、茶々丸&さよ、ザジ)は全くと言って良い程に興味が無かったので撮りには行かなかったが。

 

 

その後―――ゲーセンに入った少女達は各々がやりたいゲームの方に散らばる。

パルとのどかと夕映は行きの新幹線の中でやっていたカードゲームのアーケード版を、ネギはそれが魔法使いを操るゲームだと知り興味を持って夕映からスターターデッキを借りてプレイする。

途中で乱入して来た少年に惜しくも負けてしまったが、楽しんでいたと言えるだろう。

 

明日菜、刹那、木乃香はクレーンゲームをプレイ。

明日菜と刹那はこういった娯楽は得意ではないのか成果は無かったが、木乃香は何だか目付きの悪い犬(狐か?)の人形をGetしてご満悦そうであった。

 

そして、残りの連中はと言うと―――

 

『K.O.!! You Win!!』

『『『『『……おぉぉぉ―――ッ!!!!』』』』』』

 

多くのギャラリーが見守る真っ只中。

某“3D格闘ゲームの癖にビーム撃つ奴やロボットや銃刀法違反無視のキャラクター達が出る格闘技大会”を先程からやり続けている人物がいた。

 

勿論、それは―――……。

 

「……お前は本当に、こう言った対戦ゲームに関しては負け無しだな」

「当然だ、そこらの烏合の衆のような連中に負ける程ヘタクソじゃねぇ」

 

何を隠そう、アーケードの対戦格闘ゲームの筐体の前に陣取って対戦相手を瞬殺し続けているのはサイだ。

実は彼、侵入者を排除してきた報酬で最近某ゲーム機を買い、良くエヴァやら茶々丸やらとやっていた。

その為か格闘ゲームを良くやる様になり、しかも高々1~2週間程度でプロクラスの腕前にまで成長したのである……流石はバトルに関しては他に追随を殆ど許さない天才だ。

 

「オイオイマジかよ、何なんだあの強さは……」

「挑戦者を片っ端から返り討ちにしてるぜ、もう10人は裕に超えただろ……」

「しかも十連コンボに連携技を絡めて倒しまくってやがる……え、エゲツねぇ……」

「殆どパーフェクト勝ちで反撃すら許してねえぞアイツ……」

 

ざわめくギャラリーの台詞などに興味が無いらしくサイはどんどん白星を挙げ続ける。

そして今戦っていた挑戦者をジャガーのマスクを被ったレスラーのワンダフルでメキシカンなコンボで沈めると、のんびりとコンピューターの操作する敵キャラを潰していた。

どうやら挑戦者達は決してサイには勝てない事に気付き、乱入するのを止めたようだ。

 

「……ねぇパル? 私、格ゲーって詳しくないけどこんな簡単に勝てるものなの?」

「いや無理無理、絶対に無理!! コンピュータ相手ならともかく、対人戦じゃ有り得ないって!!」

「まあ少なくともワンコインで出来る芸当ではない事は確かです」

 

そんな風にサイのプレイを見て呟く者達もちらほら―――

だが、それら全員は思う……対戦相手のキャラクターを葬り去っているサイの姿はいつもより生き生きしていると。

 

 

~Side ????~

 

 

サイ達がゲーセン内である意味大暴れをしている丁度その頃。

ゲームセンターの裏の路地裏、人気の無い所で先程ネギとカードゲームで対戦していた少年が誰かと話しをしている。

其処には眼鏡をかけた女性が少年と話をしているようだが。

 

「やっぱ名字、スプリングフィールドやて」

「ふん、やはりあのサウザンドマスターの子やったか……それやったら相手にとって不足はないなぁ」

 

少年が話をしていた眼鏡の女性。

その人物は実は、修学旅行一日目の夜にサイがフェイトなる人物と戦っていた時に木乃香の誘拐を企てた呪符使い―――名を『天ヶ崎千草(あまがさきちぐさ)』と言う。

その後ろに従うのは一昨日にサイと戦った人物『フェイト・アーウェルンクス』

清楚な服装を身に纏いながら何処と無く不穏そうな気配を感じる少女―――『月詠(つくよみ)』と言う名の刹那と同じ神鳴流の剣士がいる。

更にその後ろには、召喚されたと思われる異形の怪物まで侍らせていた。

 

「ん? 一人知らんのがおるようやがまあ良ぇわ。

ふふふ……坊や達、一昨日の借りはきっちり返させて貰うえ?」

 

妖艶に笑う千草。

その後ろで今から狙うべき連中を静かに見つめる―――いや、その中の一人を見つめるフェイトは誰にも聞こえないような大きさの声で一人呟く。

 

「……光明司斉、どうやら最後までこの争いの舞台の上に残るようだね―――」

 

その言葉を言い終わるとフェイトはゆっくりと振り向く事無く歩き出した。

白面九尾の少年と強力な魔法使いの少年の邂逅は―――近い。

 

 

~Side out~

 




お待たせして申し訳ありません、第三十話の投稿を完了しました。
さて、ラブラブキッス大作戦と言う朝倉の甘言に騙された連中の仕置き、朝倉&カモへの制裁は終わりましたが……どうやら彼女達、かなりの恐怖を味わったようで。
更に本来のストーリーと違い、朝倉&カモは修学旅行編ではこれ以降は活躍する場面は御座いませんのでご了承ください。

……いや、だって。
実際考えてみればサイには【能力無効化】が原因で殆どの魔法は効果ありませんから仮契約出来ませんし、そうなると仮契約とエロ要因以外に何の価値も無いカモ必要ないですし。
朝倉のように余計な事をして事態を面倒な方に進めそうな輩は必要ないですしね、彼女たちへの罰は出番が無くなるという事が一番じゃ無いでしょうか?

そしていよいよ木乃香を狙う連中も本格的に胎動し始めました。
此処からは下手なりに書きました戦闘シーンが増えてくると思いますのでご期待ください。


ああ、そう言えば。
本編に出て来た【某3D格闘ゲームの癖にビーム撃つ奴や銃刀法違反無視の連中が出て来る格闘大会】と言うのは3D格闘三大作品の一つ【鉄拳シリーズ】の事です。
(ちなみに3D格闘三大作品とは【鉄拳】【バーチャファイター】【Dead or Alive】) 

ジャガーマスクのキャラとは鉄拳に登場するプロレスのキャラクター“キング”の事。
一発一発の攻撃が高く、投げ技や投げコンボや関節技コンボを多彩に持つキャラクターですが、隙が大きい技が多く、投げコンボや関節技コンボを使いこなすのが難しい玄人向けのキャラです。
(ストリートファイターで言うザンギエフのような感じですね)

ちなみに何故このキャラをサイが使うかと言うと。
実は作者が使っているキャラだからです。(玄人向けのキャラクターの方が遣り甲斐がありますので)


尚、副題の『Ouverture』の意味は独語で『序曲』

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