魔法先生ネギま! 白面ノ皇帝(ハクメンノオウ)   作:ZERO(ゼロ)

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No.28:The Fools~懲りない奴等~

「あ~、良い天気だねぇ」

 

惚けたようなそんな一言が晴天の空に響く昼、場所は鹿と大仏で有名な『奈良公園』。

『魂鎧装(ソウルアップ)』という力と戦友達との記憶を取り戻したサイは空を見上げながらそう呟く。

 

「全く、ジジイかお前は」

 

横からそう厳しい突っ込みを入れるはサイの喧嘩友達であるエヴァ。

まあ本人はどう想っているかは解らないが言うなれば最もサイに近いポジションの少女だろう。

彼女自身も口には出さないが奈良の雰囲気を気に入ったのか満足げな表情をしているが。

 

「あぁ? まあ、ジジイかって聞かれればジジイだろ。

何せ俺、七百年以上生きてるしな―――外見がガキンチョな理由はまだ良く解んねぇけどよ」

 

前回、かつての戦友達の記憶を思い出した際に彼は他の事もいくつか思い出した。

一つはサイは人間の年齢に換算すれば七百歳以上、つまり七百年以上は生きている大妖怪に近い程の九尾だと言う事。

一つはかつて魂獣大帝(スピリッツカイザー)と呼ばれる存在となる為に多くの戦いを経験し、その果てに己が大帝となった事。

そして戦友達はもう既にサイの家族と同じく亡くなっているが、サイの心の中に共にいると言う事だ。

 

しかしそれ以外は未だに不明のまま。

漠然と『魂獣大帝だった』と言う事は思い出せたが、其処に到るまでの道のりやそれからの事はわからないままだ。

更にそもそも何故、サイがこの世界に“少年の姿”で目覚めたのかと言う事など、理解出来ない事は未だ山積みである。

 

だが―――

 

「つうかテメェもババアじゃねぇか、六百年も生きてるなら左程俺と変わらねぇんじゃねぇのか?」

 

「喧しいわ、誰がババアだ誰が!! 私の場合は六百年以上前に真祖になって成長が止まってるんだ!!

よって私はババアではない、成長しないだけのツルペタ吸血鬼だ!! って、誰がツルペタだゴラァァァァァァ!?」

 

だが少なくともサイは気にしないだろう。

喧しく賑やかだが退屈する事の無い今の日常を彼はそこそこ気に入っているのだから。

 

「逆ギレすんじゃねぇよロリババア。

年取っていようが居まいが六百年も生きてるんだから外見は別としてババアにゃ変わりねぇだろ?」

 

「だ~か~ら~、ババアと呼ぶなババアと!!

(え~い全く、こういった部分は本当にナギとそっくりな奴だな……人の神経を逆なでする所なんか瓜二つだ!!)」

 

戦友達の想いを胸に、何だかんだで楽しんで生きているサイ。

しかし勿論、そんなサイとエヴァのじゃれ合いを快く思わない者も居るようで。

 

「…………(くいくいっ)」

 

相も変わらず無口で無愛想で無感情なザジがサイの袖を引っ張る。

その向かおうとしている先には多くの鹿が居た、流石は知られて居ないが動物好きなだけある。

どうやら『見学に行こう』とでも言わんとしているのだろうか……若干、何処と無く背にチワワ(?)の幻影を背負ってエヴァを見ている。

 

―――いや、あれは見ようによっては睨んでいるな。

 

「(……ほほう、良い度胸だザジ・レイニーディ)

サイ、行くぞ!! あっちには奈良で有名な大仏殿がある、お前は確かそういった物が好きだったよな?」

 

そう言いながら逆に引っ張るエヴァ。

その背にスコティッシュフォールド(猫)のような幻影が見えるのは多分、いや間違いなく気の所為ではないだろう。

ザジの背に見えたチワワとバチバチと今にも火花を散らすかのような勢いである、エヴァの後ろに居た茶々丸もオロオロと明らかに狼狽していた。

(何故か愛玩動物なのはこの際気にしないで置こう)

 

更にその姿を見て少し離れた場所でペンギンの幻影を出している少女が一人。

その少女を団子を持って追いかけながら可愛らしい何処かで見た事があるカメの様な幻影を見せるおとぼけ少女が一人。

ついでに確か好みのタイプはオジサンだった筈の少女が狸の幻影を背負い、不機嫌そうに大股でどこかに向かう。

それらは未だ自分の気持ちが理解出来ていない少女達であった。

 

だが、同じ班内とその友達達に多かれ少なかれ好意を寄せられている筈の漢はと言うと―――

 

「…………?(きょろきょろ)」

 

「むっ、サイが居ないだと!? 奴め何処に行った!?」

 

「マスター、サイさんならザジさんとにらみ合っている時にすり抜けて何処かに向かわれましたよ。

『裂けたらたまんねぇから戦略的撤退でもするわ』とか言っていらっしゃいましたが……」

 

そう、サイはもう既に面倒な状況となる前に脱出していた。

その事にエヴァが憤り、ザジが寂しげにし、茶々丸が再びオロオロとしていたのは言うまでも無い。

 

更にこの後―――

実はのどかだの古、楓、真名だのがサイと共に奈良見学をしようと画策(のどかの場合はパルと夕映がだが)していたが。

自分の好きな大仏などを見れてはしゃいでいたネギの事をすっかり忘れていた事によりネギが迷子になってしまい、探し回った事によって奈良公園の自由時間が終わってしまった事は説明しなくても良い事だろう。

(ちなみに美空は隅で笑顔のままに放たれる殺気の応酬に萎縮し、隅で涙目で震えていたそうだ)

 

―――そして物語はついに、血を血で洗う修学旅行二日目の一大イベントの少し前の時間へと続く。

 

 

 

 

「やれやれ、ネギの馬鹿はもうちっと周りに目を向けられんモンかね?」

 

そうブツブツ言いながら廊下を歩くサイ。

夕食の時間は既に終わり、誰も入っていない事を確認してネギに先に風呂に入らせた後に早めに風呂に入り、そして今は一日目に侵入者の襲撃があった事を考慮して散歩がてら周囲の見回りをしていた。

 

実はサイは学園長からのもう一つの頼みで学生ながら暴走するであろう3-Aの生徒達の静止役も任されている。

本来いつも騒ぐ学生達を見張る役が出てくれた事により、先生達も少しは気が楽になったようだ……例えそれが(外見のみ)中学生の生徒でも。

 

「まあ、ガキ共が寝るまでまだ時間はあるしな。

取り敢えず屋根にでも登って周囲の確認でもしておくか―――刹那の言った通り式神使いなら、簡易結界の張ってあるホテルの周りで何か動きがあるだろうし」

 

少なくともあの『フェイト』とか言う人物が襲撃をかけて来たら関係ないだろうが。

あれは間違いなく、最強クラスの魔法使いのエヴァに迫るほどの実力者だとサイは理解していた。

 

「さて、んじゃ登るか……ん? あのパイナップルみてぇな髪型の奴は確か……」

 

樋を伝って屋根の上に登ろうとしたその時、ふと視界の端に蠢く不審な影を見つけた。

いや不審者ではないだろう、赤い髪をパイナップルの如く後ろで束ねた髪型の人物などサイが知る限り一人しか居ない。

その人物が潜んでいる場所の近くに見えるのは先程までサイやネギが入っていた温泉の浴場だ。

 

「……おい、何やってんだパイナップル女」

「へっ? って、うわあぁぁぁぁぁっ!!? (ガッシャ~~~~ン!!)」

 

忍者の隠行の術ばりに足音一つ立てずに陰に居た人物の肩を叩くサイ。

恐らく気付かなかったのだろう、騒々しい音を立てて転がり出て来たのは3-Aの生徒の一人。

その手にカメラとメモ帳を携えた新聞記者……いや寧ろゴシップネタを掴む事を好む、人呼んで『麻帆良のパパラッチ』こと出席番号3番の『朝倉和美(あさくらかずみ)』であった。

 

「いった~~~~!! もう、脅かさないでよサイ君!! 酷いじゃんか~!!」

「喧しい、あんな暗がりでおかしな動きをしていたテメェを呪えこの馬鹿が」

 

サイの質問を無視して頭を押さえて呻く朝倉。

驚いた時にどこかに頭でもぶつけたのだろうが、それでもカメラだのメモ帳だのを手放さないのは流石と言うべきか?

だが、あんな場所(浴場)に彼女が興味を惹く様な物は無かった筈だが。

 

「所であんな所で何やってたんだテメェ? あそこの先って確か浴場しかなかった筈だが?」

「ああ、いや~、ちょっとした“取材”をね……」

 

取材(?)と言う言葉の意味が理解出来なかったサイは首を捻る。

先にある浴場に取材出来る物などなかった筈なのだが、ふと科白の意味を冷静に考えたサイはある結論に辿り着く。

有り得ないと思いつつも今の状況や隠れてこそこそ何かをしようとしていた事などを考慮し、現状ではそれ以外に理由が思いつかないと悟ったサイは万感の思いを込めて確りと朝倉の肩を掴む。

 

「そうかテメェ、ゴシップネタの為に其処まで堕ちたか」

「へっ、えっ? ちょ、あれっ? 何か私、すっごい失礼な事言われてるもしかして?」

 

サイの遠い目付きや肩に篭る力の強さに冷や汗を流すパパラッチ娘。

しかしそれには一切合切取り合わず、サイは溜息を吐きながらゆっくりと首を横に振る。

 

「人の秘密をバラすだけでは飽き足らず、とうとうクラスの奴等の覗きまでやり始めるとは……。

こうなったら目撃者として犯罪者一歩手前まで落ちたテメェの為に俺に出来るのは一つだけだ」

 

「ちょ、ちょっと!! 私覗きなんて……まあ、確かにしてなくは無いけど……。

って、えっ? ちょ、ちょちょちょちょ!? な、何それ!? ど、どどど、どっからそんな物出したの!?」

 

いつの間にかサイの手に現れた短刀(七魂剣の通常状態)を目にした朝倉が顔を引き攣らせた。

 

「これ以上『犯罪という闇』に身を落とさんように俺が直々に引導を渡してやるよ。

あぁ心配すんな、痛いのは一瞬だけだ―――クラスの連中にはそれなりに理由は考えておいてやるから安心して逝けや」

 

「ちょ、何真顔で物騒な事口走ってんの!?

え、ちょ……ちょちょちょちょちょ、ちょっと待って、振りかぶんないで、肩離して、命だけは勘弁してぇぇぇぇぇ!!!!!???」

 

『ちょ、旦那、サイの旦那!! 落ち着いて、落ち着いてくだせぇぇぇぇ!!!?』

 

久しぶりに聞いたその声に七魂剣を構えていた手を下ろすサイ。

ふと其処には本来ならばネギと一緒に居る、この修学旅行では殆ど出番のなかった(そして今からも恐らく出番の無い)小動物エロ親父ことアルベール・カモミールが居た。

 

「あぁ? 何でテメェが此処に居るんだ、存在自体が害悪なクソオコジョ」

『ヒドッ!? おれっちの存在ってなんなんすかそれ!?』

 

大分酷い事を言っているがサイにとっては当然だ。

何せこのクソオコジョはネギにパートナーを作るなどとのたまい、今まで裏世界に何も関係ないような連中を引っ張り込もうと何度もした輩である。

元々、止むを得ない場合は別としても関係の無い者を巻き込むのを嫌う傾向にあるサイには『害悪』以外の何者でもないのだ。

 

『あ、えっと……おれっちが此処に居る理由は話せば長くなりやすが……』

 

そう呟いた瞬間、カモの白い身体を握る手が一本。

手の持ち主のサイは怖くなるような“イイ笑顔”をカモに向けると極めて優しい口調で呟く。

 

「握り潰されて下半身が無くなるのが望みじゃなけりゃ早く、解り易く、簡潔に、百字以内に答えろ」

『ヒイッ!? ぎょ、ぎょぎょぎょぎょぎょ、御意にございます、サイの旦那ぁぁぁ!!!』

 

直立不動の姿勢で器用に敬礼のポーズを取るカモ。

その後カモの説明に耳を傾けるサイと、その間に地面に座り込んで子供のように泣きじゃくる朝倉が居た。

サイのやり過ぎの感も否めないが、それでも少しは良い薬になったのではないだろうか?

……まっ、その答えは解らないのだが。

 

 

 

 

「ふ~ん、成る程なぁ……」

 

極めて軽く、それで居て何処となく怖く感じる表情でサイは静かに呟く。

その感じからはサイが怒っているのか、それとも呆れているのかは理解出来ないが―――

 

【切れて良いですか?】

>Yes.

 No.

 

脳内でおかしな選択肢が現れ、それがYesを選択した瞬間―――

 

「あんのクソガキはぁぁぁぁぁぁ!!

何でいつもいつも言ってやってるのに不注意で人に見られるような事してんだゴラァァァ!!?

そもそも秘匿するモンなんだろうが、それをホイホイ使ってバラす様な真似すんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」

 

此処には居ないネギ・スプリングフィールドに向かってサイはやり場のない怒りをぶつけた。

 

カモから聞いた話を要約するとこうだ―――

本日迷子になった事で己の不甲斐無さを嘆いたネギはそれを挽回しようとホテルの周りの見回りを“いつも以上に無駄に空回りする程に気合を入れて”行い、その際に轢かれそうになった猫を助け、その光景を朝倉に目撃され、更にカモとの会話を聞かれ、挙句の果てには空を飛ぶ所まで写真に取られたそうだ。

この様なアホさに此処でキレずに一体何処でキレろと言うのだろうか?

 

「おいクソオコジョ!! テメェが一緒に居ながら何だその体たらくは、あぁ!?

テメェの価値なんぞ下着ドロか、悪知恵を生かしてネギのフォロー程度しかねぇだろうが!?

それも確り出来ねぇで何が使い魔だ、調子付いてると捌いて蒲焼きにして喰っちまうぞゴラァァァ!!?」

 

『だ、だだだだだ、旦那落ち着いて!!

それにおれっちは一応、仮契約(パクティオー)ってな契約術も使え……グエェェェェェッ!?』

 

カモを掴む腕を握り締めるサイ。

万力の如き力が途端にカモの腹にかかり、口から魂のような物が出ているがそんな事は知った事ではない。

 

「サ、サイ君サイ君!! カモっちが泡吹いてる、泡吹いてるってば!!」

 

「あん!? 良いんだよこの程度、ちっとそこらに転がしときゃ直ぐに眼を覚ますからよ」

 

あまりのぶち切れかたにさらっと外道のような台詞を吐くサイ。

握っていた力を緩めて投げ捨てるとカモは運悪く石に頭をぶつけてピクピクと痙攣しながら白目を剥いていた……コイツも結構散々な扱われ方をするものである。

 

「ん、あれ? そういえばカモっちを知っているって事は、サイ君ももしかして?」

 

朝倉が何を聞きたいのか理解出来たサイは大きく溜息を吐きながら頷く。

正確に言えばサイは『魔法関係者』では無いのだが一々説明するのが面倒臭い。

始めから魔法関係者だと言っておけばこれ以上深い詮索はされないだろう、どうせ魔法の事はバレているのだから。

其処でふと、真顔になったサイがにやけている朝倉に言葉を飛ばした。

 

「……で? そう言えばこれからどうする心算だパイナップル頭?」

「誰がパイナップル頭よ誰が!! って……へ? これからどうするって?」

 

首を傾げる朝倉に対してサイは殆ど表情を変える事無く淡々と言う。

 

「魔法ってのは確か『秘匿義務』って奴があってよ。

一般人に露見して知られた場合は有無も言わさずにそいつの記憶を奪う事になってるんだが?」

 

ほんの少しだけ威圧するように目を細めてサイが朝倉を睨むと、彼女の顔面が一気に蒼白していく。

更に無言で黙ったまま見ているとガクガクと朝倉は震えだし始めた……まあ、これだけ脅しておけば十分だろう。

朝倉は他人の語りたくない秘密を白日の下に晒す癖に、それが原因で自分にどんな危険が及ぶのかを理解していない。

実に愚か、実に哀れ、嘆かわしい事この上ない―――まだ相手がサイだったから良かったものを、余計な事を知り過ぎれば消されても可笑しくないのだから。

 

「好奇心が多いのは結構な事だ。

だがな、余計な好奇心って奴はテメェの命を縮める事になるって理解しろや。

じゃねぇとテメェ―――本当に紛争地帯のマスメディアみてぇに『消される』ぞ?」

 

其処まで言い終わるとサイの雰囲気が一気に穏やかな物と変わる。

その変化が理解出来ない朝倉は未だに震え、カモは泡吹いてぶっ倒れたままだ。

 

「まっ、クソオコジョが一緒に居たって事はその馬鹿と何かしら取引でもしたんだろ?

だったらまあ、でしゃばらねぇ程度にやるが良いさ……今の言葉を忘れねぇでよ」

 

始めからサイは別に朝倉をどうこうしようとしていた訳ではない。

元々彼は魔法使いではないし、そんな面倒臭い風習に縛られる気も更々無い。

最悪伝わってしまった場合は“穏便に”事情を説明して黙っていて貰えば良いだけの事だ―――身の危険を感じてまで言い触らそうとする輩も居ないだろうし。

そもそも無理やりに記憶を奪うなどという乱暴な手段を取るよりはマシだろう。

 

それに面白半分で裏の世界に首を突っ込む事へ釘を刺す事も出来る。

本来の所サイは関係の無い者を巻き込むのを嫌うと言ったが、それでも『覚悟』があるなら裏に来る事を文句は言わない。

自分の行動に、自分の選択に、そして其処から弾き出される自分の行く末に後悔しないのであればだが。

 

覚悟とは『殺す覚悟』と『殺される覚悟』と言う奴だ。

裏の世界に関わると言う事は言うなれば平穏無事のままで居られる訳ではない。

誰かに命を狙われる事がサイやエヴァと違い日常茶飯事と言う訳ではないだろうが、それでも危険がある事には変わりない。

そんな危険に遭遇した際に自分が死ぬのも相手を殺すというのも覚悟出来ていなければ後悔を背負って野垂れ死ぬだけである。

 

曰く『撃って良いのは自分が撃たれる覚悟のある奴だけだ』と“某仮面の皇子”が言っていたように。

 

「あぁそうだ、一つ言い忘れてた」

 

サイのその言葉に半泣き状態であった朝倉が肩をビクッとさせて彼を見る。

すると彼は悪びれる様子もなく、意地悪そうに笑いながら告げた。

 

「さっきテメェ斬ろうとしたの冗談だから安心しろ……クソオコジョが出てきた時点で大体の事は察してたからよ、んじゃな」

 

背を向けて手を振りながら去っていくサイ。

何の事か一瞬理解出来なかった朝倉だが、サイの言った言葉の意味を理解した瞬間に天に向かって叫んだ。

 

「じょ、冗談って……私冗談で殺されかけたのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

叫びが鳴り響いた後、朝倉は力無く疲れたように項垂れる。

すると其処で彼女は何か悪巧みを思いついた様に笑うと、ホテルの部屋の方へとカモを連れて戻っていく。

彼女の思いついた悪巧み―――それを此処で止めておけば後に更に恐怖を味わう事にならずに済むのに気付かぬままに。

 

 

 

 

サイが再び周囲の見回りに戻り、ネギと合流してこめかみを拳でグリグリした後―――

二人は意外にも共にホテル周辺の見回りの為に仲良く廊下を歩いていた。

 

「しっかしバラすなとは言わねぇが、もうちっと周りに目を配れ馬鹿。

あのパイナップル頭(朝倉)にバレたって事は、情報網を駆使して世界中にバラされるぞ?

―――まあ実に不安は残るが、エロオコジョが口利きしてくれたから良いものをよ」

 

「ううぅ、ごめんお兄ちゃん……でもボク、轢かれそうになった猫を放っておけなかったから……」

 

涙目になるネギの頭を乱暴に撫でるサイ。

最初の頃は同じ位の身長に見えたサイも、記憶を少しずつ取り戻す度に大きくなっていく。

本来ならそんな急激な成長に誰もが疑問を持つ筈なのだが、認識阻害の能力か何かが効果を表しているのか誰もが疑問に思わない。

何せ現在では最初の頃に比べて10cm以上も身長が伸びていた。

 

「馬鹿野郎、泣くんじゃねぇよ……猫助けたってのはテメェで選んでテメェで進んだ道だろ?

だったらその選択に後悔すんじゃねぇ、お前が助けなきゃその猫は死んでたんだ、寧ろ選んだ道をテメェ自身で誇れ」

 

乱暴な言動だが、それでもネギの行動を褒めている様にも見える。

魔法の秘匿とやらは大事な物であろうが、そんな物の所為で助けられるものを助けなければサイは間違いなくネギを軽蔑していた。

父親のような風になる事を望む少し泣き虫の少女のした行動は間違った事でない事をサイは理解していたのだから。

 

どんな時でも厳しく、遠回しにしか褒められないのはサイの悪い癖だ。

しかしそんな不器用な優しさを理解出来ている者達にとってはそれもサイの個性の内だと言うだろう。

 

実際、ネギもそんなサイの不器用さを何となく理解出来ていたのだから。

だからこそ髪が乱れるのも気にせずに嬉しそうな表情をネギはしているのだ。

 

「さて、そろそろお前は部屋に戻って先に寝ろ……俺はもうちっとこの辺の見回りしてから部屋に戻るからよ」

 

「あ、うん解ったよ……でも気を付けてねお兄ちゃん、何だかおかしな雰囲気がするんだ。

刹那さんが“式神返しの結界”ってのを強化してくれたから、関西呪術協会の刺客じゃないと思うんだけど」

 

そう言い終るとサイの言いつけ通りに部屋に戻るネギ。

帰り際に少し離れた所でサイに向かって笑いながら可愛らしい仕草で手を振っていた。

サイもネギの言葉通り周囲から感じるおかしな殺気のようなものの存在が何なのかは解らなかったが、取り敢えず気にせずに見回りの続きを始めるのであった。

 

 

さて、その周囲で感じるおかしな殺気の正体とは。

それは実は先程泣き出す程にサイに脅かされた朝倉がその百分の一でもサイに恐怖を感じさせる為に、そしてカモの場合は私利私欲(+ネギの為)で思いついたある企画が原因であった。

 

企画の名は―――『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生&サイ君とラブラブキッス大作戦』

 

そしてこの企画の中で朝倉とカモと3-Aの生徒達は知る事となる。

サイという人物を本気で怒らせたらどうなるのかと言う事を―――しかしそれを知らぬ今の時点では、二人の冥福を祈る事しか出来ないのであった。

 

……朝倉、少しは懲りろよ。

 




第二十八話の投稿完了しました。
―――さて、遂に朝倉&カモによる彼女等の私利私欲の為の修学旅行の一大イベントが始まります。
驚喜と狂乱と恐怖の祭典の幕開けを此処に宣言しましょう。

『サイとネギの唇を奪わんと欲する者達は数知れず。
海千山千の猛者達が血で血を洗う乱戦、其の中で狙われたサイ達は一体どのようにして生き残るのか!?
ヤらなければヤられる、この弱肉強食の不条理な戦いの後に人は一体何を見出すのか?
少女達の死亡遊戯の結末を、其の眼で確りと見届けよ―――』

ま、どんなに格好良く書いても快楽と享楽に身を任せてるだけですけどね。
しかもちゃらんぽらんに見えて意外とお堅いサイの堪忍袋の尾が一体何処まで持つのかが見物ですけど(笑)

ちなみに副題の意味は『あの馬鹿共』
……まあ朝倉とカモの末路を考えれば良く似合った副題じゃないですかねぇ


補足:サイの戦友達(No.26における台詞順)
(尚※マークは本来の神羅万象には登場しない種族、本作においては後に発見された新種属と明記している)

ロック・フレスヴェルグ
属性/得意能力:朱雀属“鳳凰種”(炎)/発火、火炎操作、物質融解
神具/形状:飛炎弓アムルゼス/腕に装着する弓籠手(手持ちの大弓に変化可能)
特技/特徴:ブラストキャノン・インフェルノ/必殺必中の豪炎の魔弾を放つ
性格:ノリが軽く、チャラ男に近いが決める時は決める好漢
備考:魂獣大帝を決める魂獣帝決定大武会の最初の対戦相手にして最初の契約締結相手

氷雨魅津姫(ひさめみつき)
属性/得意能力:玄武属“海皇種”(水、氷)/水分生成、液体操作、冷気放出
神具/形状:海鉞刀ダゴン/巨大な鉈に近い刃の付いた長柄の得物
特技/特徴:タイダルウェイブ・ディザスター/得意能力を駆使して大津波を発生させる
性格:淑やかで少々天然、外見の幼さとは反して母性が強く男を立てる大和撫子
備考:別名『海月(水母)姫』の名を持つ深海の王女、サイの相談役も兼ねていた

ユーナ・フェンリオン
属性/得意能力:大狼属“瞬豹種”(幻)※/脚力強化、瞬速、幻影形成
神具/形状:甲鎌刀キュベレ/手首に装着する刃付きの籠手
特技/特徴:瞬狼連撃・閃刃斬波/残像を残す程の速度で斬撃を連続で叩き込む
性格:惚れっぽく勝気で姉御肌
備考:ムジナの親友であり恋のライバル、頼られるよりも頼りたいタイプ

ダレス・バンテイル
属性/得意能力:白虎属“虎王種”(金、鋼)/肉体鋼化、筋肉増強、地脈操作
神具/形状:金剛球ベルセルク/鎖で繋がった巨大な鉄球(撃砕鉄)
特技/特徴:煉獄乱舞・跳梁跋扈/鉄球を振り回す遠心力を利用して周囲全てを破壊し尽くす(素手での乱舞もある)
性格:外見に反して知的で聡明、静かに熱くなる冷静さを併せ持つ熱血漢
備考:『怪力無双の獣帝』と呼ばれる魂獣随一の力の持ち主、肉弾攻撃(特に素手)は当時の魂獣大帝ゼノンに匹敵

キリク・アルカード
属性/得意能力:皇魔属“黒翼種”(闇、魔)※/気力吸収、吸血能力、再生
神具/形状:吸血剣ドラキュラ/紅い刀身の細剣
特技/特徴:ブラッドレイン・ダークネス/血を媒介に結界を形成、結界内の全てを溶かす紅き雨を降らす
性格:尊大で醜を嫌い美を尊ぶナルシスト、更に飽きっぽい(ただし彼の美醜に対する価値観は少し普通とは違う)
備考:別名『不死王』と呼ばれる程の再生能力を持つ、また彼の美醜の価値観は外見ではなく魂の美しさ

冴樹香貫(さえきかぬき)
属性/得意能力:青龍属“神樹種”(樹、風、毒)/治癒能力、植物操作、気流操作
神具/形状:百華鞭アルルーナ/植物の蔓に近い姿の鞭
特技/特徴:百華咲乱・曼珠沙華/数千、数万にも及ぶ多種多様の植物を発芽・増殖させて意のままに操る
性格:知的好奇心の強い学者気質、一方で心を許した相手には尽くす
備考:魂獣界で高名な軍師でもある才媛、メイドの如く魂獣大帝となったサイの身の回りの世話もしていた

アガート・ラウム
属性/得意能力:麒麟属“騎神種”(星、重力)/重力操作、分子崩壊
神具/形状:不敗剣クラウ・ソラス/ライトセイバー若しくはビームソード
特技/特徴:スターダスト・エクスプロージョン/剣戟を極限まで昇華し、爆発と共に対象を分子崩壊させる
性格:忠義に熱い漢、また誇り高く誠実
備考:別名『銀腕の天空騎士』と呼ばれる誇り高き騎士にしてルーグとデヒテラの剣の師

ボルト・クルーガー
属性/得意能力:青龍属“龍王種”→皇魔属“邪竜種”(雷、風、闇)※/発電、雷光操作、嵐流操作
神具/形状:雷電槍クルワッハ/ハルバート(長斧槍)に近い手槍、投擲槍としても使用可
特技/特徴:サンダーストーム・ボルテクス/多大な雷光と嵐を身に纏い、跳躍後に大地へと吶喊する
性格:強者を求める生粋の戦闘狂(バトルマニア)、しかし狂っている訳ではなく本質的には無骨な武人気質
備考:別名『雷雲の竜騎士』、魂獣界において数少ない転生して属性の変わった存在

バエル・ゼブル
属性/得意能力:皇魔属“蟲魔種”(毒、闇、死)※/光波遮断、細菌操作、蟲生成、腐食能力
神具/形状:骸煉刀ベルゼブブ/薙刀に可変する大型の首狩鎌
特技/特徴:バイオハザード・ディスペアー/毒と細菌と蟲を利用し、周囲に存在するものを悉く腐り落して喰らい尽くす
性格:寡黙と言うか必要時以外は全く喋らない幽鬼の如き存在、感情の起伏が全くと言って良い程に無い
備考:疫病や飢餓や戦乱を司り災厄や死を振り撒き、『骸煉王』『黙示録の魔神』などと言う忌み名で恐れられる

デヒテラ・ディルティーレ
属性/得意能力:聖馬属“天馬種”(聖、光、癒)※/発光能力、破邪
神具/形状:銀麗槍アリアンフロッド/先端が閃光で形成されている直槍
特技/特徴:ホーリーズ・ドライブ/周囲全体を聖なる破邪の力で包み、奇跡を引き起こす術
性格:正義感が強く頑固で潔癖、他者には辛辣だが信頼する者達に対してはぎこちないながらも甘える
備考:騎士王ルーグの腹違いの妹であり前魂獣大帝ゼノンの血統、銀天鎧装による絶対防御で何度もサイを支えた

ギギ・グリムハート
属性/得意能力:獅皇属“戦獅種”(土、地、岩)※/地震操作、岩石形成
神具/形状:獣王戦斧ベヘモット/身の丈を祐に超える大戦斧
特技/特徴:爆砕・超力獣神衝/巨大な斧を全力を込めて大地に叩きつけ文字通り爆砕させる
性格:外見相応にワガママで子供っぽいが一族発展の為に尽力する努力家
備考:サイ達の中でのマスコット要員、癇癪を起こすと簡単には止められない

伏姫芽瑠都(ふせひめめると)
属性/得意能力:白面九尾属“白澤種”(無、癒、魔、闇)/時間停止、復元能力
神具/形状:聖杖ヤツフサ/オーソドックスなタイプのロッド
特技/特徴:仁義八行・白零光波陣/超大範囲に陣を展開後に多数の式神らを召喚し攻撃を仕掛ける
性格:他人の悲しみに対して涙し幸せに対して笑い合える、心優しく穏やか
備考:白面九尾と隠神刑部のハーフで幼い頃からサイを慕い支えて来た人物、実は男の子ではなく女の子

ルーグ・イルダーナ
属性/得意能力:鬼神属“武神種”(基本属性全て)※/基本能力全て(ただし本家には劣る)
神具/形状:煌神槍ブリューナク、天覇槍・蜻蛉切/煌神槍は騎士のスピア(騎乗槍)、天覇槍は刃の広い大槍
特技/特徴:ウルティメイト・ブラスター/二槍に鬼神の力全てを込めて巨大な閃光を撃ち放つ
性格:不義や不正を許せぬ騎士の鏡、しかし同様に力無き弱者を護る為にならば己が傷付く事も厭わない
備考:前魂獣大帝ゼノンの息子にして『黄金の騎士王』と称される武人、サイにとっては最大のライバルで理解者

松姫無慈那(まつひめむじな)
属性/得意能力:隠神刑部属“闇狢種”(闇)/能力反射、能力模倣、神具多重能力
神具/形状:黒刀・羅刹丸、闇刀・修羅丸、影刀・夜叉丸/其々が黒い刀身の忍者刀
(羅刹丸が直刀で修羅丸が両刃刀で夜叉丸が諸刃刀、ちなみに夜叉丸は師・斑蔵、修羅丸はサイの母・飯綱から受領)
特技/特徴:畏駕流忍術奥伝・三千大千世界“夢幻月読”/三刀の斬撃を完全に同時に連続して全方向から対象に叩き込む
性格:無口だが人懐っこく、少々クーデレ気質(ただしサイに対してはクーが10%デレが約90%)
備考:第二次魂獣界大戦を引き起こした統晶大権現イエヤスの娘、サイが心から愛した少女で魂獣ハーフでもある
誰よりもサイを想い、誰よりもサイの心の支えとなり、共に歩み続けた最良にして最愛のパートナー

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