春のおとずれ 【完結】   作:バルボロッサ

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決闘の流儀は大切です

 ハリーが腕の骨を再建してから1週間が経った。

 

 あの日、夜中にコリン・クリービーというグリフィンドールの1年生が継承者に襲われて石化したという情報は、すぐに学校中に広がった。

 恐怖と疑心暗鬼が暗雲のように立ちこめ、直後はフィリスの動揺具合が深刻かしたが、咲耶はセドリックのアドバイス通り、なるべくフィリスと行動を共にするようにしていたことで、多少は軽減したように見えた。

 

 もっとも、フィリスたちと常に行動しているということは、ハリーのお見舞いやハーマイオニーたちの所に行く機会の減少を意味していたが、どうにも彼らの所に行くと、妙に彼らの友人であるロンがよそよそしく疑わしい視線を向けてくるため、例の薬品づくりはなるべく彼らだけで行うということにしたらしい。

 

 ノリスのみならず、実際に生徒に被害が出て以降、校内では効果が定かでない魔除け(タリズマン)お守り(アミュレット)などの護身用魔法アイテムが大流行して陰で取引されることとなった。

 悪臭のする大きな青玉ねぎ(リーシャからはなぜかクィレル先生を思いだすと不評だった)、尖った紫の水晶(これならまだおしゃれで通じるとフィリスの談)、腐ったイモリの尻尾(流石に女子4人組はこれには手を出さなかった)などなど。

 

 

 

 第28話 決闘の流儀は大切です

 

 

 

 スリザリンの継承者による最初の襲撃からもうすぐ2か月が経とうかというとある日、玄関ホールの掲示板にはちょっとしたお知らせの羊皮紙が張り出され注目を集めていた。

 

「決闘クラブかぁ。なんか面白そうじゃね?」

「……そうかしら」

 

 決闘クラブのお知らせ。 

 授業が終わった放課後、大広間にて護身のための戦い方を学ぶ目的で決闘クラブが執り行われるというものだ。

 実技が得意なリーシャはにやりと笑いながら掲示を指さし、反対にフィリスは少し浮かない表情で眉をひそめた。

 

 かのスリザリンの継承者が、今更多少魔法力を鍛えたところで、マグル生まれなどを学ぶ資格を持つ者とみなすとは思えないし、そもそもスリザリンが遺した恐怖とまで言われるモノが、数日決闘の練習をした程度の学生でなんとかなるような相手ではあるまい。

 リーシャとて怪物退治のために決闘クラブに出たいというよりも、単純に魔法の練習がしたいといったところなのだろう。

 

 咲耶も何とはなしに掲示を見ていたのだが、ふと隣に視線を落とすといつもは静かな湖面のような瞳のクラリスが、じっと何かの感情を秘めたように掲示を見ていた。

 

「どしたんクラリス?」

「…………これ出たい」

 

 咲耶が尋ねるとクラリスはついっと羊皮紙を指さして希望を述べた。

 

「えっ?」

「意外……なこともないか」

 

 本を読む以外では珍しい自己主張にフィリスがちょっと驚いた顔になり、リーシャは驚きつつも納得したように掲示を見直した。

 

「えーっと、日付は今月の第3金曜か……よし、行くかクラリス!」

 

 日程を確認して参加希望を述べたリーシャ。誘い掛けるリーシャにクラリスはこくりと頷き、咲耶に視線を向けた。

 上目遣いのその瞳がなんだかお願いしているように思えて咲耶はほかほかと微笑んだ。

 

「うん。じゃあウチも参加! フィーは?」

 

 それほど決闘に興味があるわけではないが、クラリスの上目遣いのお願いを見られただけでも価値がある、とばかりに咲耶も参加を宣言。

 

「わかったわ。それじゃあ私も参加。セドリックとルークも誘いましょ」

 

 友人3人が参加を決めたことでフィリスもやれやれといった風に参加を決定。せめてとばかりに親しい友人二人を巻き込むこととなり、一同は決闘クラブへの参加を決めた。

 

 

 ・・・・・・

 

 

 12月第3週の金曜日。

 その晩の8時、大広間はいつもと装いを変えていた。寮ごとに分けられた食事用の長いテーブルは取り払われ、一方の壁に沿って、派手な配色の金色の舞台がでんと現れている。

 これからミュージカルでも始まるかのように、何千本もの蝋燭が宙を漂い舞台を照らしている。

 

 ほとんど学校中の生徒が集まっているかのように、決闘クラブの開催場所として整えられた広間に、魔法生徒たちがそれぞれの杖を持ち、興奮した面持ちで始まりを待っている。

 

 咲耶も周りの興奮にあてられたようにわくわくとした面持ちでキョロキョロとしながらクラブの始まりを待っている。もっともわくわくと楽しそうにしている主とは違って、彼女の足元では落着きなく周囲を警戒している子犬姿のシロがいる。

 周囲には一緒に来たフィリスやリーシャ、クラリスの他、誘われてやってきたセドリックとルークがいる。離れたところにはハリーやハーマイオニー、そしてロンたちの姿があったり、別のところではマルフォイの姿もある。

 

「やあサクヤ。君も来てたんだね」

「ディズ君」

 

 そして咲耶を見かけて声をかけてきたディズの姿もあった。

 

「思ったより……いや、思ったとおりかな。かなり集まったね。サクヤも魔法使いの決闘に興味があったのかい?」

「えーっと、そこそこ、かな?」

 

 友達が乗り気で楽しそうだから着いてきたのだが、それを率直に言うのもアレな気がして咲耶は曖昧に返した。

 

「それにセドリック・ディゴリーも来ているとはちょっと驚いたな。君ならこういう場にでるよりもよっぽどやり方を知っていそうだけどな」

「はは。ちょっと誘われてね。それにそれを言うならクロスの方こそだろ」

 

 優等生と優等生。

 どちらも昨年までの闇の魔術に対する防衛術をはじめ、呪文学や変身術など、優秀な成績を修めている魔法生徒だ。だからこそ、お互いにこんな場に相手がいることが意外な様子だ。

 セドリックとて今の学校に漂う不穏な空気は察している。

 だがだからこそ、この決闘クラブにはかなりの人が集まると思っていたし、大人数が集まるクラブなどでは、ディズほどの生徒が得るモノなどほとんどないと思えたからだ。

 

「そうかな? 僕は決闘クラブの先生に興味があってね」

「先生に? 誰か知っているのかい?」

 

 ディズはちらりと咲耶を流し見て意味ありげに微笑んだ。

 決闘クラブの先生については明かされていないので、何かを知っているのかと尋ねるセドリック。

 

「いいや。ただ、彼だといいなという先生がいるだけだよ」

 

 ディズはセドリックの質問に首を横に振り、ただの希望だよと答えた。

 

 

 ざわざわ、ざわざわと賑やかな広間。

 沈黙を保っていた扉がバンと開かれて、そこから3人の魔法先生が姿を現した。ディズたちもそちらに顔を向けてやって来た先生に注目した。

 

 その先頭に立つ先生を見た瞬間、リーシャやルークは「げ」の形で口を固めた。

 

「ロックハート先生よ! 彼が決闘を教えてくださるんだわ!」

 

 深紫のローブを纏う先生の姿に、フィリスは「きゃー」と嬉しそうな声を上げた。先日のロックハート無能疑惑でフィリスと喧嘩しかけたためにリーシャとルークは間一髪で嫌そうな声をあげることだけは自重したのだろうが、がっかりとした表情は仕方あるまい。

 

 決闘の練習に乗り気だったクラリスも一瞬、がっかりしたようにテンションを落としたが、ロックハート先生の後ろを歩く先生の姿にやや驚いたように目を瞠った。

 手を振って愛想を振りまく一人の後ろにいる人物たちにセドリックや咲耶も驚き、ディズは嬉しそうに口元を歪めた。

 

 いつもの黒装束で仏頂面を貼り付けているスネイプ先生とくすんだ白のローブを着て皮肉気な顔をしているほとんど赤い髪の“リオン・スプリングフィールド”先生。

 

「ちょ、ちょおリオン。何してんの!?」

 

 思わず咲耶は、近くを通りすぎようとしたリオンに声をかけた。

 

 たしかに咲耶の知る限り、(多分)決闘に一番強いのは彼だろう。

 ただ、こんな人のたくさんいる“狭い”大広間、というか学校の中なんかでリオンが決闘した日には、死屍累々どころか、瓦礫の山ができあがるだろう。

 

 ローブを引っ張られて足を止められたリオンは、にやりと口角を上げた。

 

「なーに。ちょっとこっちの魔法使いの“決闘”に興味があってな」

「興味って……あ……」

 

 学校の心配をする咲耶をよそに、遊びにでも行くような気軽さで赤髪のリオンは、決闘クラブの主催者の近くに歩いていった。

 

 

「みなさん、集まって。さあ、集まって。みなさん、私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか? 結構、結構!」

 

 まあ、よく考えれば思いつきそうなものだが、主催はやはりこの男だったらしい。

 

「ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しをいただきました。私自身が数え切れないほど経験してきたように、自らを守る必要が生じた万一の場合に備えて、みなさんをしっかり鍛えあげるためにです。詳しくは、私の著書をよんでください」

 

 闇の魔術に対する防衛術の教師。

 闇の魔法生物に対するスペシャリスト。

 みんなの“アイドル”。ギルデロイ・ロックハート。

 

 

 フィリスのような、未だに根強く残るロックハート先生のファンたちは壇上に立つ先生の姿にうっとりとした視線を送り、内心で小躍りしていることだろうがほぼ全ての男子生徒たちは、ロックハートに注目している者はがっかりと、他2名に注目している生徒は驚いていた。

 

「では、まずはご紹介しましょう。助手のスネイプ先生です」

 

 こんな場所に来そうにもない人物その一。

 魔法薬学の教師にして、長年“闇の魔術に対する防衛術”の教授席を狙っていると噂されているセブルス・スネイプ先生だ。

 

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごくわずかご存じらしい。訓練を始めるに当たり、短い模範演技をするのに、勇敢にも、手伝ってくださるというご了承をいただきました。

 おっと、生徒の皆さんにご心配をおかけしたくはありませんから言っておきますが、私が彼と手合せした後でも、みなさんの魔法薬の先生はちゃんと存在しているでしょう。ご心配いりませんよ!」

 

 スネイプ先生の眉間の皺が2,3本どころではなく増えて、深く刻まれたように見えるのは気のせいではあるまい。

 むしろよくあの先生をこの場に引っ張り出して、そしてその身に纏う黒いオーラを気にせずにマイクパフォーマンスを続けられると感心するほどだろう。

 

 そしてそんな仏頂面のスネイプ先生を愉しげに見ているもう一人。

 

「そしてスプリングフィールド先生です。先生は残念ながら魔法使い同士の決闘についてはご存じないようですが、私の決闘姿に興味がおありだということです。

 みなさん。仲間外れにせずに温かく迎えて差し上げて下さいね」

 

 主に女生徒やスリザリンの方からくすくすとした笑いが聞こえてきた。

 

 お茶目感漂うロックハートの紹介に、精霊魔法の講座を受講している生徒たちは頬を引き攣らせたことだろう。

 

 咲耶もロックハート先生の言葉に、「うわぁ」と言いそうに頬を引き攣らせた。

 

「決闘について知らないって本当?」

「イヤイヤ。去年思いっきりトロールぶちのめしてたじゃん」

 

 流石に疑わしげにクラリスが咲耶を見上げた。

 咲耶はなんと返したものかと苦笑しており、リーシャが昨年の光景を思い出せと呆れた口調で言った。

 

 

 壇上のみんなが見れる位置に立ったロックハートとスネイプは互いに一礼を交わした。スネイプは不機嫌そうな顔のままぐいっと頭を下げたのに対し、ロックハートは優雅に大仰に手振りを加えながら礼をした。

 

「決闘の前に礼をするのがマナーです。そして作法に則って杖を構えます」

 

 二人は騎士が剣を掲げるように体の前で杖を突き出し構えた。

 (特にスネイプの)決闘を前にした緊張の面持ちに生徒たちはシンと静まり、二人に注目している。

 

「そして三つ数えて、最初の術をかけます。もちろん、どちらも相手を殺す気はありませんよ!」

 

 ロックハートが1からスタートして3のカウントを宣言し、二人は同時に杖を高く振り上げた。

 

「エクスペリアームス!」

「かぺろっっ!!!!」

 

 スネイプの放った紅の閃光がロックハートの腹部ど真ん中に命中して舞台から後ろ飛びに吹っ飛び、壁に激突してズルズルと落ちた。

 

 

「ほわぁ。あれって武装解除術やんなぁ。ホンマに吹っ飛ぶんや……」

「あっちゃあ。今のスネイプ先生、結構マジだったんじゃね」

「だ、大丈夫かしら、ロックハート先生」

 

 スリザリン生の集まっているあたりからは寮監の活躍に歓声があがっており、ロックハートファンの女生徒たちは悲痛な声を上げていた。

 

「み、みなさん。お解りになりましたか? 今のが“武装解除術”です。ご覧の通り、私は杖を、失いましたね」

 

 床の上に伸びていたロックハートはよろよろと立ちあがると、さも今のは演技でしたと言わんばかりに余裕ぶった態度を見せた。

 近くにいた生徒の一人がロックハートの飛んできた杖を拾って手渡した。

 

「さてスネイプ先生。生徒にあの術を見せようとしたのは、なるほど素晴らしいお考え、流石はベテランの教師でいらっしゃる。ただ、あえて言わせていただけば、決闘の場というのを鑑みるに、先生が何をなさろうしてかは、あまりにも見え透いていましたね。――――そう、止めようと思えば、容易く止めれるほどに。まあ、あえて生徒に見せた方が術の教育に良いと思いましてね」

 

 にかっと歯を見せて笑いかけるロックハートだが、スネイプの視線はもはや、それ自体が魔法となって人を殺しそうなほどの眼光を放っていた。

 流石にそれには気づいたのかロックハートは慌てて向きを変えて、空気を誤魔化すようにパンと手を打った。

 

「はい! それでは……おや。そうだ! スプリングフィールド先生、どうでしょう? 是非貴方も決闘というものの一端に触れてみては」

 

 そして向いた先に偶々スプリングフィールド先生が居たからなのか、それとも気を回したのか、はたまたノックアウトの無様さを道連れにするためか、腕組みして見ていたリオンに壇上に上がるように仕草した。

 

「よろしいので?」

 

 反応したリオンの声に、咲耶 ――よりもその足元のシロが顔を青くしたかは定かではない。

 

「ええもちろん。そうですね、私が――」

「それでは、セブルス・スネイプ先生。一手ご教授願えますか?」

 

 リオンの反応に気をよくしたように腕まくりしようとしたロックハートだが、リオンはその前をあっさりと過ぎ去ってスネイプの前に立った。

 スネイプの形相が憎々しげなものとなった。

 

 ロックハートはロックハートで、自分(主役)がまるで脇役のような扱いを受けたとでも思ったのか、数秒目をぱちくりとさせた。

 

「ああ! そうですね。うん。むしろ、私がお相手してあげるよりも、その方が先生にとっていいかもしれませんね。あまりに力が違っては先生も決闘について学べないでしょうし」

 

 そして眼中にないとばかりに視線を交わらせる二人の間に入るように体を動かしながら、あくまでも自分が進行しているように二人の決闘の采配を取り決めた。

 

 

 

 生徒たちは驚いたように、精霊魔法を受けている生徒もいない生徒たちも、あまり見たことのないスプリングフィールド先生の実技に興味深そうな眼差しを向けていた。 

 

「スプリングフィールド先生とスネイプ先生!?」

「へぇ…………」

 

 ルークも驚いており、ディズは嬉しそうに二人の先生を見つめいてた。

 

「それではスプリングフィールド先生。まずは決闘前に礼をして、私がやったように杖を構えてください。カウント3で始めてくださいね!」

 

 リオンとスネイプは互いに一礼すると、スネイプは不機嫌そうに、リオンは面白そうなにやにやとした笑みを浮かべたまま、それぞれ杖を構えた。 

 

「あっ!」

「どしたサクヤ?」

 

 何かに気づいた咲耶に、リーシャが尋ねた。

 

「リオン。こっちの杖使ってる」

「あっ、ホント。たしかトロールの時は使ってなかったわよね」

 

 フィリスがおぼろげに覚えているかぎりでは、トロールの時は杖自体使っていなかった(指輪をはめてはいたが)、というよりもそもそも精霊魔法で戦うつもりならば、小杖を使う必要がないはずなのだが、今リオンはスネイプ先生などと同じくこちらの魔法用の小さな杖を構えている。

 

「もしかしてスプリングフィールド先生、こっちの魔法で戦うつもりなのかな?」

「…………」

 

 セドリックもフィリスと同じ予想をしたのか、少し驚いている。

 彼らが見た限りにおいて、スプリングフィールド先生がこちらの魔法を使っているのは見たことがない。日常的に使っている魔法はそれほど差がないと言ってはいたが、果たしてスネイプ先生に通用するような攻撃用魔法を使えるのかどうか。

 ディズは先程までの笑みから不満そうに鋭く睨み付ける様な表情となっていた。

 

「一 ――――」

 

 半身をスネイプに晒すように斜めに構え、左手を首元あたりまで上げつつ、右手に持った小杖を突きつけるリオン。

 

「二 ――――」

 

 騎士が剣を掲げてから構えるように手慣れた動作で杖を突きつけるスネイプ。

 

「―――― 三!!!」

 

「ステューピファイ!」

「エクスペリアームス!」

 

 赤い閃光と紅の閃光が走り、空中で激突した。

 リオンは先程スネイプが見せた“武装解除術”を出し、スネイプは先程とは違う“失神呪文”を繰り出した。

 

「真っ向勝負!」

「互角よ!」

 

 空中でぶつかった二つの閃光はどちらも道を譲らず弾けた。

 リーシャとフィリスが互いの力量が五分であると見た。

 

「コンファンド!」

「ステューピファイ!」

 

 続いてスネイプは“錯乱呪文”を、リオンは“失神呪文”を繰り出した。

 武装解除から失神呪文。その呪文構成の意図に気づいたスネイプがキッと相手を睨み付けた。

 

「おおっ! スプリングフィールド先生、こっちの魔法も結構イケるじゃん!」

「ああ。でも……出してる呪文はスネイプ先生の後追いだ」

 

 二つ目の呪文もほぼ互角で宙で弾けた。

 ルークは精霊魔法の先生の、こちら側の魔法技能に感心したように声を上げた。一方で、セドリックは、さらに3つ目の呪文でスプリングフィールド先生が“錯乱呪文”を出したことで、彼の呪文構成に気がついた。

 

 流石に今見て覚えたということはないだろうが、あの先生はスネイプ先生の決闘の仕方を勉強するつもりで来ているのだ。

 

 スネイプもそれに気づいたのだろう。

 4つ目、5つ目の呪文を出しても後追いしてくるリオンに顔を険しくした。

 ただ状況は僅かに傾きつつあった。

 

「少しスプリングフィールド先生が押されてる」

 

 僅かに互いの魔法がぶつかる場所がスプリングフィールド先生側に寄り始めていることを分析してクラリスが呟いた。

 

 そして

 

「! ちっ!!」

 

 リオンが先ほどスネイプが繰り出した“くすぐりの術(リクタスセンプラ)”を返した時、その呪文は無言で繰り出されたスネイプの魔法に掻き消されて舌を打った。

 

「スネイプ先生の無言呪文だ!」

 

 呪文の詠唱なしに魔法を放つ熟練の魔法使いの技法。

 その技に生徒たちが驚きの声を上げた。

 

 後追いで呪文を返してくるのなら、その詠唱を悟らせなければいい。

 本来のホグワーツの教師レベルなら無言呪文であろうとも何の魔法か読み取ることができただろうが、リオンはそれほどにはこちらの魔法に精通していない。

 無言で放たれた呪文を相殺できたが、次の呪文の選定に一瞬、間が空く。

 無言呪文で威力が弱まる分、その前の呪文で威力が弱く、比較的詠唱の長い魔法を使うことで罠にはめたのだろう。

 

「あっ! 杖が飛ばされた!!」

 

 連続の無言呪文。二つ目の紅の閃光、“武装解除術”がリオンの手元から杖を吹きとばした。

 そして

 

「!!!」

 

 次の瞬間。

 スネイプは背後にぞわりとした特大の悪寒を察知して呪文を紡ぎながら振り返ろうとした。

 肩越しに碧眼と視線が交差する。

 背後に回ったリオン(・・・)がニヤリと笑みを浮かべたことに気付く。

 振りかぶられた腕の先、魔力を纏った爪が呪文の詠唱もなく薙ぎ払われた。

 

「なっ!!」

「きゃぁ!!!」

 

 破壊音が舞台から響き、いきなりの轟音に近くの生徒たちが悲鳴を上げた。

 三爪一閃。咄嗟の防御を易々と貫き、スネイプ“を”紙一重で避けて、舞台に文字通りの爪跡を刻み付けた。

 

 生徒たちが気づくと、先程までの魔法の応酬が消え、睨み付けるスネイプ先生と杖がないはずなのに余裕の表情を浮かべているスプリングフィールド先生の二人がいた。

 いつの間にかスネイプ先生の背後をとっていたスプリングフィールド先生は手ぶらで爪を突きつけるようにスネイプ先生の首元に腕を向けており、半端に振り返った体勢のスネイプ先生は杖をスプリングフィールド先生に向けていた。

 

 舞台には亀裂、というには大きな裂け目ができており、進行役のロックハートは何が何だかといった様子でぽかんとしている。

 

 そして

 

「おっと。そういえば、杖を無くしたら負けだったな」

「……そのようだ」

 

 杖を向けられたままのスプリングフィールド先生が、そんなものなどまるで気にしていないかのように向けていた腕をおろし、無抵抗をアピールするように両腕を広げた。

 

 

「おいおい、何やったんだスプリングフィールド先生!?」

「杖なしで姿現し……じゃ、ないな。精霊魔法を使ったのか?」

 

 決闘の勝敗はスネイプ先生の勝利となり、スリザリン生たちは「わあっ!」と歓声を上げたが、ルークやセドリック、その他の生徒たちも興奮したようにざわついていた。

 

 

「素晴らしい模範演技でしたよ、お二人とも! まあ実際の決闘では、今ほど上手く立ち回れないでしょうが、私から見てもギリギリ及第点を差し上げてもよろしいかと思いますよ。ええ!」

「それはどうも」

 

 ロックハートはぱちぱちと手を打ちながら近づきながら鷹揚に上から二人を褒めた。

 リオンは小さく「メア・ウィルガ」と一言呟き、舞台を降りた。

 

 吹き飛ばされていた小杖がひとりでに飛んできてリオンの掌に収まり、リオンはそれを胸元にしまい込んだ。

 舞台から降りたリオンは、自分に微笑みかけている見知った顔に「なんだ」とばかりに視線を向けた。

 

「あーあ。リオン負けてもたな」

「ふん。こっちの魔法覚えて1年ばっかし程度の奴に負けたら、あの男も教師としてやってはいけまい」

 

 えへへー、と笑って言う咲耶に、リオンは余裕っぽく敗者の捨て台詞を返した。

 負けたことを別に気にはしていないらしいと二人のやりとりを見てフィリスたちは思った――というよりも

 

「えっ! スプリングフィールド先生、1年ってどういうことですか!?」

 

 スプリングフィールド先生の言った言葉に驚いて尋ねた。

 

「リオンもこっちの魔法勉強しとったんや」

「やることの片手間にな」

 

 咲耶は(隠れてだが)実は一緒に魔法を覚えていたことが嬉しいのかにこにことリオンに話しかけており、リオンは素っ気なく応じている。

 

 

 偉大なる大魔法使いである母曰く

 ――何があるから分からんから、何事にも手をだしておくものだ――

 

 という有難いお言葉から、一応こちらの魔法についても勉強はしていたらしい。

 

 もっとも、他にも色々とやることをやりながら、こちらの魔法使い対策のために勉強していた程度では、あの決闘の条件 ――真っ向からの呪文の応酬合戦――では限度があったようだ。

 

「むしろ片手間に1年であんだけ使えるって……」

 

 ただ、それでもあのスネイプ先生が、あれほどの使い手であったことと、その先生と途中までは互角に渡り合ったスプリングフィールド先生の技量にリーシャたちは呆れたように感心していた。

 

 

 

 スネイプ先生とスプリングフィールド先生の決闘の興奮冷めやらぬ広間で、ロックハートは注目を自分に集めるよう声を張り上げた。

 

「模範演技は以上です! これから皆さんも二人一組になって実際にやってみましょうか!」

 

 スネイプとロックハートは壇上から降りて、生徒たちに指示を出してペア決めを告げて行った。

 

「んじゃ、私たちもやろーぜ!」

 

 リーシャは組まされるよりも知っている人と組みたいのだろう、咲耶たちへと振り向いた。

 セドリックとルークも顔を見合わせ、セドリックは組を申し出ようとして、

 

「なあ! せっかくだし、サクヤはセドリックとやってみたら?」

「ほへ?」

 

 ルークはセドリックから咲耶へと視線を向けて楽しそうに提案した。

 

「そうね。ハッフルパフで一番魔法が上手いのはセドリックだし」

「おいおい。サクヤがセドと組んだら私たちが奇数になるじゃん」

 

 何かがピンと来たのかフィリスは楽しそうにルークの提案に賛同し、しかしリーシャは唇を尖らせて反対した。

 

「それじゃあ、リーシャはルークと組んだら? 私はクラリスと組むから」

「はっ!? え、ちょ!」

「よろしく、リーシャ」

 

 テンポよく組み分けていく二人にリーシャはワンテンポ遅れて事態が決定していることに気がついた。

 リーシャは慌ててクラリスの方に視線を向けるも、そこにはすでに誰も居らず、フィリスの方を見てみるとクラリスと既に組を作っていた。

 

「あ、でもディズ君はどないするん?」

 

 ハッフルパフの6人は偶数だったので、それぞれに組を作れたが、近くで見ていたディズまではカウントに入っていなかった。

 咲耶が気づいてディズを見ると、彼はじっと咲耶の隣、リオンへと視線を向けていた。

 

 きょろきょろとリオンとディズの間で視線を行き来させる咲耶。

 ディズは何かを期待するようにじっと見つめ―――― そしてふっと微笑んだ。

 

「気にしなくていいよ。僕は向こうで誰か見つけてくるから」

 

 そう言ってディズは踵を返して、別のグループの方に向かって行った。

 

 

 

 ・・・・・・

 

 

 咲耶たちから少し離れたところで

 

「マルフォイ君、来たまえ。かの有名なポッターを君がどのように捌くのかお手並みを拝見しよう」

 

 スネイプによって指示された組み分けにハリーは不満を覚えながらも従った。組むのならロンかハーマイオニー。できるのならば咲耶とでも組みたかった。

 

 だが、スネイプに呼ばれてマルフォイがやってきて、ハリーはマルフォイを睨み付けた。

 マルフォイの顔はまるで嘲笑うようにハリーを見下している。

 

 ハリーがマルフォイと対戦カードを組まされたように、ハーマイオニーはスリザリンの大柄の女子生徒と、そして最近杖がイカレかけて魔法が暴走しがちのロンは同寮のフィネガンと組まされていた。

 

 ほとんどすべての生徒がペアを組み終えたのを確認したロックハートは壇上に戻って号令をかけた。

 

「相手と向き合って! ――――そして礼!」

 

 癪に障る薄ら笑いを浮かべるマルフォイと敵意をむき出しにするハリー。

 ハリーは“敵”であるマルフォイを前にして、彼から目をそらさずに軽く頭を傾げた。

 

 相手は目的のためならどんな手段でも ――ハリーを追い落とすためなら誇りを穢すような嘘の決闘をでっちあげることすらする――スリザリンのマルフォイだ。油断すれば不意打ちでもしてくることは十分に考えられる。

 だが、驚くことにマルフォイは、それこそが決闘の流儀であるかのように優雅にお辞儀をしたではないか。

 

「杖を構えて!」

 

 小さな驚きとともに違和感を覚えたハリーだが、それが何かを考える前にロックハートが声を張り上げた。

 

「私が三つカウントしたら、相手の武器を取り上げる解除術をかけなさい。武器を取り上げるだけですよ。先生方のようにやりすぎてはいけませんからね」

 

 ロックハートが決闘の条件を指定して、カウントを始めた。

 嘲り笑うマルフォイの顔が妙に気にかかるも、ロックハートのカウントは進む。

 

 カウントが3となり、決闘の火蓋が落された瞬間、あちこちで呪文が唱えられた。

 

「エクスペリアームス!!」

 

 ハリーもまた先程スネイプが見せた武装解除呪文“エクスペリアームス”を唱えた。

 発動は明らかにハリーの方が早かった。

 杖から放たれた紅い閃光が真っ直ぐにマルフォイへと向かい、その体に吸い込まれる――そう確信した瞬間、

 

「えっ!!?」

 

 マルフォイが何かを呟くと共に杖を振り上げた。その動きに弾かれたかのように閃光が掻き消えた。

 驚きの声を上げたハリーの見ている前で、いっそ優雅なほどにマルフォイの杖がハリーに突きつけられた。

 

「エクスペリアームス」

 

 余裕すら感じさせるその詠唱とともに放たれた紅い閃光がハリーに直撃した。

 ただ武器を取り上げるだけの呪文だったはずだ。

 唱えられた呪文は、まぎれもなくハリーと同じ武装解除の呪文。

 だがその衝撃はすさまじく、ハリーの体は宙を舞って5mほど吹き飛ばされた。

 衝撃に息がつまり体中が痛み、ハリーはガハゴホと咽こんだ。

 

 ――武装解除と見せて違う呪文を唱えていた?

 何かインチキを仕掛けて来た?

 自分の杖に何か細工をされた?――

 

 痛みの中、混乱する頭には取り留めもないことが浮かんでは消えた。

 

「決闘の仕方を聞いていなかったのか、ポッター? きっちりとお辞儀はするものだ」

 

 頭上から声が聞こえて、呼吸を荒げながら見上げるとそこにはマルフォイがにやにやと見下していた。

 格の違いでも見せつけるかのようなその余裕の表情にハリーはカッと頭に血を上らせた。反射的に杖を掲げて呪文を放とうとし、

 

「やめなさい! ストップ!」

「フィニート・インカンターテム!!」

 

 ロックハートの制止を求める声と、スネイプの強制的に呪文を終わらせる呪文が響き、ハリーはハッとなって周囲を見渡した。

 

 あたりには緑がかった煙が霧のように覆っており、友人をはじめ多くの生徒がゼーハーと息を乱していた。

 

 

「まったく、なんてことを……これは、非友好的な術の防ぎ方を教えたほうがいいようですね、まったく」

 

 あちこちで起こった惨事にロックハートは面食らったように言った。ちらりとスネイプ先生に視線を向けると、ギラリと睨み返され、ならばとスプリンフィールド先生に視線を向けるとどこ吹く風とばかりにそっぽを向いていた。

 

「ふむふむ。これはどなたかに見本になっていただいた方がよさそうですね……誰かいませんかね?」

「マルフォイとポッターはどうですかな?」

 

 無秩序にやらせると惨事を引き起こすということくらいは分かったのか、ロックハートはモデルペアに決闘をやらせようと思ったらしい。くるりと広間を見回し、誰も手を挙げていないため、指名しようかとした矢先、スネイプが口元を歪めながら提案した。

 

「それは名案ですね!」

 

 お気に入りのハリーを提案されたからか、ロックハートは嬉しそうにそれに乗っかり、ハリーとマルフォイを大広間の真ん中に来るように手招きした。

 

 

 

 指名されたハリーが壇上に上がるとロックハートが近づいて来て何やらアドバイスらしきものを口にし出したが、ハリーは先程の一幕を思いかえしながらマルフォイの方を睨み付けた。

 マルフォイは何やらスネイプ先生に耳打ちされているが、視線はハリーの方に向けたままだ。

 そのにやけた顔が苛立たしくて、カッとなりかけるが、先程、完膚なきまでにやられた一幕を思い出して頭を振った。

 

 冷静になって思いかえすと、さっきは明らかにマルフォイの技量が自分を上回っていたことに気づいた。

 

 先に発動した自分の魔法を弾き飛ばし、圧倒的な威力の魔法を洗練された動きで放ち、自分を吹きとばした。

 悔しいながらそれは歴然とした事実だった。

 発動で先手をとっても防がれた後でカウンターを喰らう。

 

「さあ。二人とも互いに向き合って礼をして!」

 

 ロックハートが決闘前の作法を指示し、ハリーは考えながら軽く頭を傾げた。

 先程マルフォイが嘲ったような顔でお辞儀について言っていたが、あんな奴のいう事なんて聞いてたまるかと逆らった。

 

 反発しつつも、先の経験から、先手をとることは悪手でしかないことを認めたハリーは、様子をうかがうように杖を構えたままマルフォイを見据えた。

 

 どんな魔法がこようとも避けるか弾き飛ばすか。なんとかしてその一撃を防御すれば、そうすれば今度は自分の番だ。

 

 先にやられたことをやり返そうと狙っていたハリーだが、マルフォイは変わらずにやにやとした笑みを浮かべて余裕を見せていた。

 

 そして

 

「言ったはずだぞ、ポッター。お辞儀はしっかりとしろと」

「!!」

 

 今度はいきなりだった。

 ロックハートのカウントが三になった途端、背骨がぐいと押し曲げられたような重みを受けた。

 その重みに、耐えきれずハリーの体がお辞儀をするように腰を曲げ、そのまま圧迫感は増していきハリーは膝をついた。

 

「っ! ぁっ!!」

 

 胸がズンと重苦しくなり、喘ぐように声が漏れた。その苦しげな様子にマルフォイは満足したのか、杖を軽く振るった。

 その瞬間背中を抑えていた圧迫感が解除された。

 呼吸が楽になりハリーは2,3度呼吸をしっかりと行い、

 

「サーペンソーティア!」

「くっ!」

 

 何かしら反撃をしようとするも、その前に再びマルフォイが杖を地面に向けて呪文を唱えた。杖の先が炸裂し、ハリーの足元から数mのところに長く黒い蛇が飛びだした。

 

 シャーシャーと威嚇するように鎌首をもたげさせる蛇。

 周囲からは生徒の悲鳴が上がり、サーッと後ずさりして空間が開けた。

 ざわめく周りとは対照的に、蛇の瞳を見たハリーの思考は、冷徹に冷えていっていた。

 

 なぜだか分からない。

 ただ、そうすべきだと直感したかのように、ハリーは片膝をついたまま言葉を発していた。

 

「―――――」

「!」

 

 人語にならなかったただの音。そのはずなのに、蛇はハリーの言葉を理解したかのようにハリーへと近寄る動きをピタリと止めた。

 動きを止めて鎌首をもたげさせた蛇の姿に、術者であるマルフォイが驚いて目を瞠った。

 

「――!」

 

 去れ! そのつもりで言った言葉は、やはり言葉にはならず、しかし蛇は進路を変えた。

 

 どよめく広間。

 あたかもマルフォイによって召喚された蛇が、術者の意に反して、正当な支配者に従うように聞き取れない言葉に従ったのだ。

 

「ひっ!!」

 

 哀れにも進路を変えた蛇の行く先に偶々いた少年が、近づいてくる蛇の姿に悲鳴をあげた。

 

「ヴィペラ・イヴァネスカ!!」

 

 少年が恐慌状態に陥るその寸前。スネイプの怒鳴るような声が響き、術が蛇に命中した。蛇は燃えるようにぶすぶすとその身を焦がして消えた。

 

 

 ・・・・・・・

 

 

「なんかよう分からん終わり方してもたな」

「そうね。いきなり蛇が向きを変えたと思ったらスネイプ先生が消してしまわれたから。近くの子たちの様子もちょっとおかしいみたいだけど……リーシャ?」

 

 ハリーの近くあたりではざわざわと不安げなひそひそ話がされており、咲耶は首を傾げた。フィリスもどうやらよく分かっていないらしく、舞台周りの生徒たちの様子を困惑したように見ていた。

 そして隣に立っているリーシャが険しい顔をしているのに気づいて訝しげな顔になった。

 

「えっ! あ、いや。そうだな!」

「?」

 

 話しかけられたリーシャはハッとして、慌てて頷いた。

 その様子に咲耶とフィリスはそろって首を傾げ、クラリスは無言を貫いた。

 

 

 舞台の上で困惑していたハリーは、ロンに腕を引っ張られて無理やり舞台をおし、ホールを抜けて外へと消えて行った。

 

 そして、舞台の上からパーセルタング ――スリザリンの力の証を見せつけた英雄の姿を見つめるマルフォイの口元は、まるで三日月のように歪んでいた。

 

 

 ざわつきが収まらない広間に、パンパンと大きく手を打つ音が響いた。

 

「みなさん! 本日の決闘クラブは以上とします。今日一日だけでも非常に有意義で、皆さんの身を守る技能は、格段に、向上したことでしょう。ですが、油断しないように! 闇との戦いは常に命がけです。詳しくは私の著書を読み、今後も魔法技術の向上に努めて下さい!」

 

 一応、開催者としての責務からか、それとも単に事態の深刻さを分かっていないだけか、ロックハートは茶目っ気を見せるようにウィンクしながら締めの言葉を述べた。

 

 

「なんだったのかしら?」

「なんやろな?」

 

 不思議な空気で終わったクラブに、咲耶とフィリスは訝しげな表情で広間を出ようとした。クラリスとリーシャ、そしてセドリックとルークも続いて出て行こうとし

 

「サクヤ、ちょっといいかな?」

 

 ディズに声をかけられて足を止めた。

 声をかけられた咲耶だけでなく、一緒に帰るためかフィリスやセドリックたちも足を止めて振り向いた。

 

 ディズは自分を見上げる咲耶ににっこりと笑みを向け、

 

「明日はホグズミードだっただろ。よかったら一緒にデートしないかい?」

「……はぇ?」

 

 爆弾を投げつけた。

 

 フィリスがあらまあという形で口元を抑え、リーシャはあんぐりと口を開け、クラリスは髪の毛が逆立たんばかりに驚いて目を見開いた。

 

 

 

 


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