ぶれない台風と共に歩く   作:テフロン

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経験の違い、弾幕ごっこの本質

 少女は、興味深げに弾幕ごっこをしている少年を見つめていた。

 

 

「ふーん」

 

 

 少年と美鈴の弾幕ごっこはすでに始まっている。美鈴が攻め、少年が守る大勢は序盤から変化していない。

 少年はひたすらに美鈴の弾幕を避け続けている。

 

 

「こうまで差があるとは思ってもみませんでした。全然当たる気配がないじゃないですか。スペルカードを出し惜しみしている余裕は全くありませんよ」

 

 

 美鈴は、避け続ける少年を追い詰める手段がなく、次々とスペルカードを宣言する。

 だが、弾幕ごっこの要ともいえるスペルカードを使っても少年に一向に当たる気配がなかった。

 自信満々だった少年の言い方からもしかしてと思わなくもなかったが―――こうも綺麗に避けられると実力の差を感じざるをおえない状況である。

 打つ手なしとはこのことだ。

 手も足も出ないとはこのことだ。

 舐めてかかったこちらの負けである。

 

 

「どうやら言葉通りのようですね。笹原さんは避けるのが上手です!」

 

「このぐらい避けられなきゃ、藍や紫と弾幕ごっこなんてできないよ」

 

「確かにそうかもしれませんね! でも、私はまだ負けるつもりはありませんよ!」

 

 

 美鈴は、スペルカードをすでに2枚消費している。この試合がスペルカードの制限が3枚の試合であることを考えれば、試合の3分の2が終わっていると言っていいだろう。

 それでも、後が無くなりつつあるのを気にしている余裕はない。スペルカードを使っても当たる雰囲気が一切ないのだ。

 勝つためには、切り札をきることを渋っている余裕なんて欠片もなかった。

 

 

「さぁ、出し惜しみなんてしません。次々行きますよ!」

 

 

 美鈴から次々と弾幕が展開される。空間が光に満たされる。

 少年の姿が軽々と美鈴の弾幕を縫うように軌跡を描いていく。今の少年の姿を見ていれば、少年の言っていた言葉―――初心者に負けるつもりはない、が誇張でも虚偽でもなく本当のことだったということが窺い知れる。

 

 これは―――実力に差がありすぎる。

 差がありすぎて、勝負になっていない。

 1:9というような見れる数字ではないのだ。

 だが、美鈴には実力の差があるからといって諦める道理はなかった。

 

 

「諦めるのは負けてしまってからでも遅くありません。私は負けるまで、負けを認めませんからね!」

 

 

 諦める理由に―――実力の差など関係あるものか。

 諦めるのは終わってしまってどうしようもなくなってからだ。

 ―――負けてから諦めればいい。

 諦めるのはそれからでも遅くはない。

 美鈴は、勝負を投げ出していなかった。

 

 

「許可を取るような言い方をしなくてもいい。そんなもの自分が決めることだ」

 

 

 少年は、劣勢でも向かってくる美鈴にどこか自分の存在を重ねていた。

 

 

「ただ、僕は諦めろなんて言わないさ。それこそ、口が裂けてもね」

 

 

 少年は、誰にも聞こえないような声で呟き、回避行動を続ける。攻撃するそぶりを一瞬たりとも見せずに、静かに目線を美鈴へと向けていた。

 

 

 

 

 

 そんな時、少女が見下ろしている部屋の中に誰かの声が響き渡った。

 

 

「様子を見に来てみれば、随分と面白いことをやっているのね、レミリア」

 

「あら? あの人間が心配で来たの?」

 

「遅すぎるのよ。もう向かわせてから4時間も経っているのよ? 心配にもなるわ」 

 

 

 来訪者は、不満の入り混じった声を響かせる。

 レミリアは視線を向けることもなく、声だけで誰が部屋に入ってきたのかを悟った。

 心配して来たのか―――確かに少年が紅魔館へやってきてすでに4時間が経過している。

 けれど、それは自分のせいじゃない。

 自分の責任もあるかもしれないが―――少年のせいだ。

 レミリアの顔に笑みが浮かんだ。

 

 

「それは申し訳ないことをしたわね」

 

 

 レミリアには、言葉とは裏腹に少しも悪びれる様子がなかった。

 

 

「でも、妖怪の賢者、貴方のところの人間も悪いのよ?」

 

 

 少年が4時間もの時間を流してしまっているのには、レミリア達―――紅魔館の人間の対応に原因の一端がある。少年が来ると分かっていたのにもかかわらず、門を開けることもなく、ただ待っていただけという対応に問題があるのだ。少年はあくまでも客で、招待者は紅魔館なのだから。呼んだ側の責任が重くなるのは当然である。

 しかし、少年が無駄に時間を失ってしまったのには少年自身にも原因がある。言われるがまま相手に気を遣い、待ち続けている方も悪いのだ。

 

 

 

「門番が寝ているからって門の前でずっと待ち続けるなんて……馬鹿みたい」

 

 

 動かなかった方が悪い。

 拒否しなかった方が悪い。

 意志を示さなかった方が悪い。

 動かなければ変わらないという現実を知っているのに。

 意志を示さなければ分かってもらえないという理屈を知っているのに。

 動かない方が悪いのだ。

 言わない方が悪いのだ。

 その善悪基準は先程少年に謝らせたことで―――線引きされている。

 

 

「やり方はいくらでもあったでしょう。考えた結果、待つという行為を選んだのかもしれないけど愚直よね。どうやったらその思考に行きつくのか理解できないわ」

 

 

 門番が寝ていることは、紅魔館へ入れないことに対する原因の本質ではない。

 無視をすれば紅魔館へ入ることができたのだから。

 門番である美鈴のことを気にしなければ入ることができたのだから。

 外の世界で言うインターホンは門ではなく、内側の紅魔館へと入る扉の方に設置されているのだから。

 美鈴が寝ていたことが問題の核ではない。

 

 

「その思考そのものが私にとっては悪いことよ。愚直で、柔和で、慎重で、無能だわ」

 

 

 内側の扉を叩かなかった―――少年の心にこそ問題があるのだ。

 来訪者―――紫は思い当たる節があり、レミリアの意見に同意した。

 

 

「ああ……あの子はそういう子だわ。和友の中は優先順位がごちゃごちゃなのよ」

 

「お互い、従者には手を焼くわね。咲夜の詰めの甘さも直ってくれればと思わずにはいられないわ」

 

 

 レミリアは、紫の言葉に同情していた。

 従者について憂うことは、主にとって絶対に避けられないことなのだろう。

 

 

「いつも何か足りない気がするのよねぇ」

 

 

 求めるものが常に先を行くから―――何かが足りなくなる。

 求める理想が常に僅かに先を行っているから―――物足りなくなる。

 何かが足りない―――そんな部分を常に探している。

 

 

「妖怪の賢者も分かるでしょう? 仕えている者がいるのならば、この気持ちが理解できるはずだわ」

 

 

 紫の下には九尾の式、そして少年がいる。

 レミリアには、咲夜と美鈴、その他の紅魔館の住人がいる。お互いに下に仕えている人間がいるという意味で紫と共通の認識がある。紫も自分同様に従者に対して悲観的になることがあるだろう。特に―――あの少年に関しては。

 レミリアは、従者の一人である咲夜の詰めの甘さを悲観した。

 

 

「咲夜が話を始める前に……いえ、遅いと思ったのならすぐに様子を見に行けばよかったのよ。そうすれば、こんなことする必要はなかった」

 

 

 レミリアは、少年を門番前で待たせてしまったことを申し訳なく感じていた。

 少年を呼んだのは、ほかでもないレミリアである。責任者はレミリアだ。レミリアが呼んだ客を待たせたのだ。弱みになるため態度には見せないが、確かに客を待たせてしまったことに対する罪悪感が心の中に息づいていた。少年が喧嘩を売って来なければ素直に謝ったのかもしれないほどの、感情が呑み込まれていた。

 いや、そんな想像をしたところで結局この少女は先程のように突っぱねただろう。それを選択したのだから。そうしたいと心が決めたのだから。きっと何度あの時に戻っても同じことをしたはずだ。

 

 

「本当に、上手くいかないものね」

 

 

 そして、少年に対する罪悪感以上に―――従者と自分の噛み合わなさ、不手際の連立に失望していた。

 咲夜は遅いと感じたときから外へと出向き、様子を見に行くべきだった。加えて言えば、紅魔館へ迎え入れるという目的を第一として話をしていれば、紅魔館の中で話をしようというだけの機転は利かせられたはずである。

 こういうことが話さずとも理解できる立場になってはくれないものだろうか。未だに考えが噛み合う様子を見せない。

 レミリアは、従者の不手際を悲観していた。

 

 

「私の従者は、完璧と言うにはまだまだほど遠い」

 

「何を勘違いしているのか知らないけど、あの子は……従者なんてそんなものではないわ」

 

「何を言っているのかしら? 貴方の下で付き従っているのだから従者で間違いないでしょう?」

 

 

 少年のことを従者でないと言うのは不自然だろう。少年の立場はあくまで紫の下であり、上になることはおろか、横になることさえもないのだから。

 少年はあくまで―――紫の下であるというのがレミリアの認識である。だったら従者。従う者だろう。

 紫は、疑問を投げかけてきたレミリアを見つめた。

 レミリアの視線は紫の視線と交わらない。少年に囚われて離れそうもない。

 紫は、自身へと目を向けようとしないレミリアに向けて少年の所見を語った。

 

 

「和友は、人に付き従うような子じゃない。誰かの後ろを歩くような人間ではないわ」

 

「…………」

 

「和友は、誰かを引きずりながら走れるような人間で、誰かを押し切れる、誰かを変えることができる人間よ。和友の心は誰にも縛れない。あんな子が私の下にいる? 従者? 馬鹿を言っちゃいけないわ」

 

 

 遂に少年に捕捉されていたレミリアの顔が真剣な口調で告げる紫へと向けられた。

 紫の言葉には、どこか重い雰囲気が漂っている。重たい空気に引かれるようにして紫に目を奪われた。

 

 

「……貴方にそこまで言わせるのね」

 

 

 レミリアは、嫌に真面目に話す紫に疑心を抱える。

 紫の話し方―――声色は本当に八雲紫から発せられているのか疑問に感じてしまうほどの色を持っている。今までにこんな紫を見たことがあっただろうか。

 レミリアと紫の関係は非常に浅い。今までも数度しか話したことがなく、雑談を交わすような間柄ではない。

 だが、こんなことを言う奴ではなかったはずだ。

 紫の印象は胡散臭く、何を考えているのか分かり辛い。よくあるみんなが抱くイメージと変わらないものである。

 今の紫の言葉は、少なくともレミリアの中の紫の印象からは程遠かった。

 

 

「ここで見ているだけでは何も感じないけれど―――それは私だから感じていないのかもしれないけれど、妖怪の賢者には別のものに見えているということなのかしら?」

 

「誰が見ても同じよ。見たまま、そのまま―――あの子は誰かを巻き込んで、変えていく大きい存在」

 

 

 レミリアは、先ほどまで視線を集めていた少年のことを考える。

 少年という人間はそれほどに特殊な人間なのだろうか。

 そこまでの何かを作り出すのだろうか。

 何かを変えるような大きな存在なのだろうか。

 レミリアから見た少年というのは変わった人間、面白そうな人間という認識でしかなく、それほど大きい影響力があるようには思えなかった。

 

 

「それはカリスマ性があるということなのかしら? 確かに見ていて面白い部分はあるけれど、それほどの影響力があるようには思えないわよ?」

 

「吸血鬼には分からないのかしら? 気付いていないとしたら、随分と図太い神経をしているのね」

 

 

 紫は口元を扇子で隠しているが、挑発するような笑みを隠せていない。

 レミリアは、紫の挑発するような言葉にむっとする。喧嘩を吹っかけているような、吸血鬼を馬鹿にするような言動に怒りを露わにした。

 

 

「馬鹿にしているのかしら?」

 

「いいえ、褒めているのよ。その言葉が来年になっても言えていればいいけどね」

 

「ふん」

 

 

 紫は怒りの表情を見せるレミリアに対し、笑みを崩さない。

 レミリアの視線は、紫との言い争いを避けるように美鈴と少年の弾幕ごっこへと向けられる。これ以上紫と話をしても不毛だ。何も生まれない。何かが起こるとすれば、それは壊れるという破壊現象だけである。

 

 

「勝負はまだついていないか」

 

 

 弾幕ごっこの試合はすでに中盤を終えて終盤戦に入っている。

 少年は未だに美鈴の弾幕を上手く避けており、当たる気配は全くと言っていいほどない。体力もそこそこあるようだ。

 美鈴の弾幕が上手く張れているとはお世辞でも言うことができないのもあるが、人間にしては随分とやれるようだと―――少年を称賛した。

 

 

「それにしてもあの人間、避けるのが上手いわね。美鈴が弾幕を張るのに慣れていないとはいえ、こうもすんなりと避けるなんて」

 

 

 スペルカードルールが幻想郷に出回り始めたのは、割と最近の出来事である。

 紅魔館へと伝わったのは約1週間ほど前のこと。美鈴が弾幕を張ることに慣れていないのは本人に適性がないというのもあるが、練習する期間が非常に短かったからである。

 しかし、それを差し置いても少年は非常に上手く避けている。美鈴の弾幕は少年に対してかすりもしない、当たる気配もない。

 雰囲気から当たる可能性が感じられないようでは、当たる確率は1%未満だろう。

 人が可能性を感じ始めるのは、数パーセントからだ。

 もしかしてを感じるのがその辺で、それは肌や目、五感で感じることができる空気感によって知ることができる。目で見て肌で感じて寸分も当たる雰囲気が感じられないのでは、もう当たらないのと同じだ。

 紫は、少年が避けることができているのは当然と言わんばかりに言った。

 

 

「それはそうよ。和友はずっと練習してきたのだもの。弾幕ごっこは一朝一夕で急に上手くなったりしないわ。貴方達とは経験値が違うのよ」

 

「確かに、スペルカードルールは人間が妖怪と闘うための仕組みだものね。人間はそうでもないと妖怪に勝てはしないわ」

 

 

 弾幕ごっこは霊力や妖力、身体能力といった基礎能力が大きく影響する勝負ではない。人間が妖怪に勝つための勝負という触れ込みがあるだけあって、人間にも妖怪に十分に対抗することができる遊びである。

 

 

 弾幕ごっこは、経験が大きな影響を及ぼす遊びである。

 

 

 

 弾幕ごっこにおいて重要なのは、以下の3つである。

 

 

 

                ・視野の持ち方

 

 弾幕が縦横無尽に広がる弾幕ごっこには、広く見ることのできる視野が必要となる。視野が広がり、情報を処理する脳が機能すれば、弾幕を避けることは容易になる。

 視野の広さは、訓練次第で拡大することができる。普段使っている生活に順応した視野の広さを、訓練によって徐々に広げるのである。

 これは、練習でのみ広がる技能である。もともとの視野は訓練をしなければめったなことでは広がることはない。

 つまり―――訓練したもの勝ちになる要素であり、弾幕ごっこのために努力できる心が必要となる。

 

 

 

        ・弾幕を見た瞬間に判断できる弾幕に慣らされた脳

 

 弾幕は、基本的に2種類に分別できる。

 1つ目は、直進運動をしているもの。

 2つ目は、円運動をするように曲がるもの。

 弾幕を見た瞬間にその弾幕がどのような軌道を描くのか、軌道を予測する脳が弾幕ごっこの回避に大きな影響を与える。これは、目が慣れれば慣れるほど、経験を積めば積むほど精度が上昇する。

 

 

 

       ・弾幕の躱し方の最適解を探し出す際に必要となる経験

 

 弾幕ごっこは、弾幕を躱し、相手に弾幕を当てるゲームである。美しさを評価する面も確かに存在するが、勝負のルールとしてはやはり相手に弾幕を当てられるか、いかに弾幕を避けられるかというところに集約されている。

 弾幕ごっこは、野球と同じように点を取られなければ負けることは決してない。負けないどころか―――勝つことができる競技である。このことから―――何よりも重要なのは弾幕を当てることではなく、弾幕を躱すことであることが分かるだろう。

 弾幕を躱す場合、躱す方法というのは無限に存在する。上下左右、3次元の動きで躱すことが可能であるため、無数の選択肢が存在する。躱し方が無限に存在するため、どれを選んでも同様の結果にたどり着くことが多いが、その場合その場合に応じて袋小路に入る可能性が僅かに含まれている。

 この袋小路に入る可能性を見極めるのは、主に経験である。弾幕ごっこをやったことがある人間、練習している人間と、練習していない妖怪とでは、袋小路に入る危険度に大きな差が発生する。

 

 

 これら3つの要素が―――弾幕ごっこにおいて人間が妖怪に勝てるという触れ込みの内容である。

 他にも、細かい技能で言えばさまざまある。

 例えば、霊力や妖力といった力を使っている以上、弾幕に力の波動を感じるため、目で見なくても弾の位置を把握することが可能である。それができると視覚に頼らなくてもいい分、避けることが比較的容易くなる。

 これは感性によるものなので、才能があればというところだろう。妖怪でできない者もいれば、人間でできる者もいる。そんな技能だ。

 

 

「ふふっ……あの人間から感じるわ」

 

 

 レミリアは、薄ら笑いながら少年を見つめる。

 少年は、‘力’を使っている。美鈴の弾幕を避ける際に薄い青色の発光が見られる。薄い青色の発光は、霊力を使っているときに発生する光である。

 レミリアは力を行使している少年を見て、少年の情報に「力が使える」という情報を追加した。

 

 

「あの人間は、力を持っている人間なのね。もしかして実際に強いのかしら?」

 

「和友は強くないわ。才能があるわけでもない、人間離れした身体能力を持っているわけでもない、ただ努力しているだけの子供よ」

 

 

 紫の顔はレミリアの台詞に不機嫌な顔になった。

 少年の実力は妖怪から見ればさほどではない。霊力の総量も、運用も、運動能力も、計算能力も、何一つ優れていない。

 

 

「妖怪と比べると人間だという評価にしかならないわ。和友はどこまでいっても人間でしかないから」

 

 

 少年は―――妖怪ではなく人間である。あくまでも、どこまでも人間でしかない。

 妖怪と比べてはいけない。それは、車と人を比べるようなもの。コンピュータと人を比べるようなもの。「人が作ったもの」と「人」を比べてどうなるというのか。何の比較にだってなりはしない。

 少年を比べるのなら、同じ人間と比べるべきだ。

 

 

「もしも、無理やりにでも比べるとするなら―――同じことをしたら絶対に勝てないという評価に落ち着くはずよ」

 

 

 仮に比べるとするなら―――妖怪が同じだけの努力をした場合、確実に負けることになるという評価にしかならない。

 人間が妖怪に勝てているのは、妖怪がやればできるのにやらないからである。だからこそ、人間と妖怪の間で勝負が成り立っていると言っていい。

 人間の中には稀に膨大な霊力を持ち、天性の才能を持っているものもいるが、少年とは無縁のものである。

 博麗の巫女のような―――化け物じみた性能を持っているわけではない。

 

 

「彼の努力の結果は、人の歩みそのもの。妖怪から見れば、1か月ほど真面目に練習すれば辿り着ける領域だわ」

 

「まぁ、今見ているとそんな感じよね。でも、実力を隠しているって可能性もあるでしょう? 能ある鷹は爪を隠す―――そうかもしれない」

 

「分かっているくせに、よくもそんなことが言えるわね」

 

「ふふ、期待するぐらいいいじゃない。理想を―――高みを見ようとしなければ、人生楽しくないわよ? 期待は、心を満たす絶妙な潤いだわ」

 

 

 レミリアの視線は、期待をかけている少年に向けられていた。

 紫は、そんなレミリアの様子を見て誰にも聞こえないような声で呟いた。

 

 

「期待なんて……そんなもの無くなってしまったわ。期待をすればするほど現実が矛先を向けてくる。絶対にたどり着けないその場所に、矛先を突き刺してくる。期待は、心に穴を空ける理想への槍よ」

 

 

 レミリアに期待され、紫に期待されていない。

 そんな普通の少年は、美鈴との弾幕ごっこに興じていた。

 




物語を早く進めていきたいですね。
弾幕ごっこの描写は、原作はいれば、霊夢や魔理沙の出番をほぼ奪わない形で数千できる気がするので、抑えています。

弾幕ごっこは、経験が大きい。
ものすごい自己解釈ですね。余り的外れではないと思います。

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