ぶれない台風と共に歩く   作:テフロン

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この話は、第5章のまえがき部分になります。
今後、第5章が終わり次第、1人称のような書き方で書いていくことが多くなると思うので、それの練習も兼ねています。何か、書き方に問題がある、おかしいところがある等のご意見がありましたらご連絡ください。


第五章 できないことって多いけど、やれないことって基本的にないよね
仲良くすること


 人とは仲良くすること。

 

 皆さんは、クラスの人たちと仲良くしましょうと言われたことがあるだろうか。きっとどこかで誰とでも仲良くしましょうという意味の言葉を言われたことがあると思う。

 あの言葉は、先生が生徒を扱いやすくする言葉だったり、苦労を減らすために言われている言葉だったり、そんな偏見を持たれることもあるけど、その実―――その方が生きやすいのだからそうすべきだと僕は考えていた。

 今の今まで、そう思っていた。

 

 

 ただ、仲良くしましょうっていうのは僕にとって難しいことの一つだった。

 これもまた境界線が酷く曖昧なものの一つだからである。

 仲が良いって何だろうか。仲が良いと判断できる基準はなんだろうか。

 お話をしていれば、仲が良いと言うのだろうか。

 喧嘩をしていなければ、仲が良いと言うのだろうか。

 ―――そうじゃないだろう。

 仲が良いと思うには、何かしら特別なものが必要になると思うんだ。僕にはそんなもの何一つなかったけど。何一つ特別な何かを持っていなかったけど、最近になってそういうことを考え始めた。

 きっと、椛から告白されたからだと思う。

 きっと、藍に対して何かしら特別な気持ちを持ったからだと思う。

 だから、こんなことを思い始めたのだと思う。

 

 

 僕には、自分で言っていてどうなんだとは思うが、友達と呼べる人間がたくさんいた。今となっては能力の弊害の影響によって惹きつけられていたからなんだろうけど、仲のいい人というのは存外に多かったように思う。

 仲が良いと思っているのは、あくまでも相手からの評価だ。僕自身が仲の良さを測る物差しを持っていない以上、相手に判断してもらうしかないのだから当然のことなのだけど。

 僕は友達に聞いたことがある。僕たちは仲が良いのかな、みたいな漠然とした疑問を投げかけたことがある。仲が良いって何なのかなって、不思議な質問を放り投げたことがある。

 友達はいろんな答えを返してくれた。

 友達の答えをまとめると、結局のところ相手がどのような人間であるのかある程度分かっていて、話というかコミュニケーションがストレスなく円滑に進む関係のことを「仲が良い」と言うらしい。

 大方そのような回答だったように思う。実際のところはみんなバラバラで、いろんなことを口々に話していたけど、総括してしまえばこういうところに行きついた。

 

 このことから分かることは、仲良くなるには特別な何かが全く要らないということである。そして、仲が良い人と仲が良くない人で、必ず偏りが生まれるということである。

 

 仲良くなる過程を考えてみると、なんとなく見えてくる。

 相手のことをよく知るにはまず話をしなければならない。話をして、相手がどういう人間なのかおおよそ理解しなければならない。相手の意見を聞いたり、相手が普段思っていることを聞いたりして、どんな人間かを理解するのである。そこで、まず自分と合う人間なのか、仲良くなることができる人間なのかが判別できるようになる。

 ここで、すでに偏りができる。自分に合う人間かどうかで判別されているのである。

 合う、合わないは人それぞれだ。それぞれが特色を持って別々の形をしているのだから、接触しても問題が起こらないかどうかは「ものに依る」のである。

 

 そう考えると―――やっぱりみんな仲良しにはなれないんだなって、分かってしまった。仲良くなるための理由は特に必要ないのに、皆が仲良くなることはできないのだなって分かってしまった。

 本当に仲良くなれる人間はごく一握りで、接触しても摩擦が起こらない人だけに生まれる。あるいは、摩擦を受け入れられるぐらいに相性がいい関係だけの者だけに生まれる関係だ。

 それ以外の者は、ある程度の距離感を持って対応される。衝突しないように、激突しない位置をとる。

 

 話ができないわけではない。

 喧嘩をしてしまうわけではない。

 だけど―――やっぱり仲良くはない。

 

 でもこれって、おかしいことじゃない。

 みんな同じ生き物だけど、みんな違う活き物だから。

 みんな同じ形だけど、みんな違う容(かたち)だから。

 合うか合わないかって、バラバラになる。

 

 だけど、自分の場合はそうじゃなかった。みんなと仲が良かった。敵はいつだっていなくて、味方しかいなかった。

 戦える相手は誰もいなかった。選択を間違っても止めてくれる人はいなかった。

 世界を恐怖に陥れている魔王が勇者に倒されることはない。いくら待ってもヒーローは現れないのだ。怪人は、いつまで経っても地球を壊している。ヒーローが来るのを待ちながら、ただここにいることを証明している。

 そんなの―――寂しいと思う。

 叱ってくれる人がいないのは、興味を持たれていないのと同じだ。

 怒ってくれるだけの親しい人間が、理解してくれる人間がいないのと同じだ。

 

 普通になるには、バラバラである必要がある。

 苦手な人がいて、嫌いな人がいて、好きな人がいる。

 そんな普通になりたかった。

 そんな普通がきっと、一番生きやすかった。

 

 先生が言うように、誰とでも仲良くできれば生きやすいなんて―――嘘だ。冗談も甚だしい。

 仲が良い人間しかいないのは、仲が悪い人間しかいないのと同じぐらい孤独だ。言いたいことも言えず、自分を内側に閉じ込めることしかできなくなる。

 悪いことをしてしまえば、止めてくれる勇者の存在がいないのだから。取り返しがつかなくなる。

 悪いことをしても平気な心を持っていればよかったのかもしれない。そうだったら、苦しまずに済んだのかもしれない。

 けれど、僕が持っている両親から貰った心は、それを善しとしなかった。

 

 

 批判してくる人しかいない。叱ってくる人しかいない。

 怒ってくれる人がいない。叱ってくれる人がいない。

 両者は、真逆のようで肉薄している。

 

 そう思った時―――僕と仲のいい人間なんて、やっぱりいなかったのだと思った。

 




 主人公について、何となく分かってもらえると嬉しいですね。自分でも書いていてこんなこと考える人がいるのかなとは思いますが、主人公の気持ちになろうとすれば、なんとなく書けるから不思議です。

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