ぶれない台風と共に歩く   作:テフロン

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今回のお話は、各章に設けることにした俗にいう前書きと呼ばれるものです。
この話は、第3章のまえがき部分になります。
今後、第5章が終わり次第、1人称のような書き方で書いていくことが多くなると思うので、それの練習も兼ねています。何か、書き方に問題がある、おかしいところがある等のご意見がありましたらご連絡ください。


第三章 新しいは、いつだって不安定を連れてくるもの
新しさに対する認識


 どうして? なんで? そういった言葉は、僕に‘新しい’を呼んで来る。

 新しいもの。それは、楽しいもの。それが僕の新しさに対する認識だ。

 僕にとって、新しいものは分からないものと同義の言葉になる。

 新しいには、色がついていない。新しいには、名前もついていない。新しいは、今から自分が描くものになるんだ。自分にとっての何か、そういう何かを作る材料になる。

 環境が変わって人が成長するのは、新しいものを自分の中に取り入れるから。古い何かを捨てるから。

 人を構成する要素が変わる。そうやって自分が作られていく。

 そんな自分を作る作業が、意外と楽しかったりする。楽しさも、苦しさも、うまく判別がつかなかった僕にできることといえば、新しいを取り入れて自分を変えていくことぐらいしかなかった。

 ただ―――そのぐらいがちょうどいいようにできているみたいで、不満は感じていなかった。

 僕以外のみんなも同じように、新しいを得て、自分を変えていく。普通のみんなと同じことをしているという、普通のことだという気持ちも、僕の想いを助長しているのかもしれない。

 けれども、そんな僕の想いとは違って、新しいというものをあまり良く思っていない人もいる。良く思っていないというのは、物事の好き嫌いを言うような単純なものではない。大きい小さい、面白い面白くないのような感想を言う人とは、明らかに違うものだ。

 このタイプの意見は、僕にとって新しい価値観を植え付ける出来事になった。

 

 

 「よく分からないからやらない」

 

 「どうして変えなきゃいけないの?」

 

 

 なんて言葉を、友達から聞いたことがある。

 僕は、この言葉を聞いた時、思わず首をかしげてしまったのを覚えている。

 あれは、どんなときだっただろうか。自由時間に何して遊ぶかを決めていたときだったと思う。いつもドッチボールで遊んでいた僕たちに、友達の一人が言ったのだ。

 

 

「いつもと違う遊びがしたい。例えば、‘缶けり’とか」

 

 

 僕は、初めて聞いた缶けりという言葉に気持ちがはやるのを感じた。

 新しいもの、楽しいものがまた一つ増える。

 僕は、すぐに缶けりの仕組みについて友達から聞いた。ルールを聞いて、やってみたいという衝動にかられた。

 そこにやってきた言葉が、さっきの言葉だ。

 

 

 この時、僕は初めて新しいを知ることを嫌う人間がいるということを知った。

 いいや、ちょっと違うかな。新しいを取り入れて、変化することを嫌う人間を初めて見た。

 これまでは、好奇心に従って生きてきた子供が、ちょうど物事を考えるようになった時期だったからかもしれない。小学生になって、自分というものが出来上がってきたからかもしれない。協調性という社会で生きるための力を伸ばしていた時期だったからかもしれない。

 嫌だという友達に詳しく話を聞いてみると―――言い分としては、ドッチボールが楽しいのに何で変えなきゃいけないの? という納得してしまいそうになるほど、‘新しい’意見だった。

 

 

「変わっている気がする」

 

「変えている気がする」

 

 

 人間は、大きく二つの種類に分けられると思う。

 それは、男か女かとか。大人か子供かとか。そういう区別じゃなくて、もっと大事な線引き。周りを巻き込む人間か、周りに巻き込まれる人間かだと思う。

 そして、その二人を区別しているのは、日々の認識の違いからくるものじゃないかな。人を変える側の人間は、時間が過ぎていることを知っている。日が進んで、季節が変わって、年を越えていることを知っている。

 変えられる側は、時間の進みを実感していない。本当に今日だけを生きて、次に今日になる明日のことをほとんど考えていない。二度と来ない今日を知らない。今日は今日だけということを知らなかったりする。

 だから、新しいがやってきたときに不安になる。変わっていくことを怖がる傾向が強いように思う。

 

 

 いいや―――そんな難しいことでもないのかもしれない。

 結局、好奇心が強いかどうかになるんだろうな。そして、何かが起こるのが怖かったり、変化してしまうのが怖かったりするだけなんだろう。遊びが変わって、得意な競技から不得意な遊びに変わって、好きな人が嫌いになる。そんな変化が怖かっただけだったんだろう。

 その人にとっては、新しいは不安定を呼びつける悪魔と同じだったのかもしれない。

 

 どうしてなんだろう。

 変わらなきゃ生きていけないのに。

 それが普通なのかな。

 それが、普通なのかな。

 

 僕は、将来どういうふうに変わっていかなきゃならないんだろう。どんな普通を纏っていけばいいのだろう。

 

 新しいは、良いもの? 悪いもの? 

 

 僕には、今だって判断できていなかった。

 


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