ぶれない台風と共に歩く   作:テフロン

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少年は、そっと過去を振り返ってみた。


第一章 積木は、高くなれば高くなるほど崩れやすくなる
転換期


 この日が、取り巻く環境の全てを変える転換日になった。

 

 

 今思えば、いいタイミングで転機がやってきたものだと思う。まさしく、この付近で変化が起こらなければ、いろんな意味で全く違った結果が待ち構えていたことだろう。

 

 おおよそ転機というものは、いいタイミングで来るものなのかもしれない。

 

 みなさんは、そんなことなかっただろうか。環境が変わる、そんなときが転換期になった経験はないだろうか。

 よくあるのは、小学生から中学生になる間が挙げられる。友好関係が広がったり、思春期ということもあって人と人との関係性が変わったりするからだろう。

 変化する=転換期という言い方ができるかもしれない。そう思わせているのは、あくまで主観ではあるけれど、客観的に見てもそうみられることが多いような気がする。

 環境ががらりと変わる瞬間―――人は大きく変わる。環境に適応する生き物、それが人間だから。そして、環境が変わり、人が変化する時期のことを転換期、そういうのだろう。

 

 

 僕の転換期は、そんなよくあるような環境の変化が起こる時期ではなかった。それに、自分自身の生き方が大きく変わるわけでもなかった。ちょっと特殊な事情も相まって、外乱を許してしまったことが転換期を作り出すきっかけになった。

 ちょうど、今まで積み上げてきた積木が突風で吹き飛ばされたようなものだ。余りに暴力的で、一方的だったことを今でも覚えている。

 結局のところ、力があればある程度のことは押し通せるものなのだと、学校では決して学ばないようなことを、僕はこの時初めて学んだ。

 

 

「貴方は、異常よ」

 

 

 それは、余りにも暴力的な言葉だったように思う。そんなことを言われて、腹を立てない人間がいるのだろうか。

 

 

 異常だ―――その言葉は、辞書を引いてみると分かるけど、正常ではない、普通ではないという意味で用いる言葉。

 

 異常だという侮辱は、バカ、アホ、死ね等の直接的な侮蔑とは、一線を引く言葉だと思う。

 直接的な言葉は、相手がどのような意味で言っているか分かる。冗談で言っているのか、蔑むために言っているのかに限らず、どの行為に対して、どの言葉に対して言われているのか分かる。

 そして、それは自分が思い返してもそうだったなと思うことが多い。喧嘩をしていて言われたり、状況も何もなく唐突に言われたりした時は分からないけれども、他の場合は分かるんじゃないかな。

 

 だけど、異常っていうのは、分からないんだよね。自分にとってはそれが普通だから。それが、通常だから。何について言われているのか、何をどうすればいいのか分からなくなる。

 

 人間は、社会性のある動物で。だから、暴力団は社会から嫌われている。

 それと同じで、異常は社会を害する要因になる。異常は、正常ではないから。正常は、異常を認めないから。異常は、隔離されて、嫌われる。そんなことをされる異常な人がいると思うと可哀想な気がしていた。

 

 だけど―――その線引きは、しなきゃいけないものなんだと常々思ってきた。だって‘普通のみんな’は言うでしょ? 人は一人では生きていけないって。

 僕もその言葉の通りだと思う。かといって二人でも生きていけない世の中だけど。

 なんて、そんな屁理屈抜きで、人間はもう孤独にはなれないようにできている。

 食べ物も他人が作ったもの、貨幣も他人が作ったもの、身につけているものも他人が作ったもの、極端なことをいえば生まれる場所ですら他人の作った場所だ。

 そんな世の中だから、そんな世界だから、そんな社会だから―――線引きをしないといけないと思うんだ。

 

 

 社会は、人間で構成されている。だから、人間と同じように怪我をしたり、病気になったりもする。怪我や病気に繋がるような部分は、できるだけ早めに取り除かなきゃいけない。

 意外とそういうことを思っているのは、異常者の方だったりする。普通の人間ではなかったりする。

 普通の人間は、そんなことを考えたりしない。異常者を排除しようなんて、社会から追い出そうなんて思わないと思う。異常者に何か直接的な被害を受けていない限りにおいては、自分の身を案じたり、世の中を憂う程度のものだろう。

 つまり、僕が言いたいのは、異常者は意外と自分のことを異常だって分かっているっていうこと。そのことを、普通の人には知っていて欲しいなって思う。

 

 

「貴方は、異常よ」

 

 

 人間は、相手に侮辱されるような言葉を言われた時、怒るか、無視するかの2択を取ることが多い。それは、あくまで日本人に限った話だけど。僕は、日本人だからそれに当てはまると思うんだけど。

 けれども、僕の中にあったのは、やっとそれを口にする人が出てきたんだなっていう、安心感にも似た安堵の感情だった。

 




少年のことが僅かでも分かってもらえると嬉しいです。
設定が割と難しく、付いていけないことも多いかと思います。
地の文が長く、面倒に感じられるかもしれません。
ですが、きっと本心が出ているのは地の文の方だと思います。

この物語が、読者の方に何かしらの影響を与えられればと思います。
面白い、面白くないに限らず
何かしら思うことがあれば、書き手としてこれ以上嬉しいことはありません。
どうぞ、この作品をよろしくお願いいたします。

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