機動戦士ザクレロSEED   作:MA04XppO76

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ヘリオポリス沖会戦

 連合軍第8機動艦隊は、地球上空での最終補給を終え、アガメムノン級宇宙母艦“メネラオス”を中心とした方陣をとり、整然と侵攻を開始した。

 『連合軍第8機動艦隊、動く』

 この一報にヘリオポリスのZAFTは、かねてより進められていた連合MSをプラントへと輸送する為の出航準備を急ぎだした。

 出航するのはナスカ級高速戦闘艦“ハーシェル”。ローラシア級モビルスーツ搭載艦“ガモフ”“ツィーグラー”。連合MSを積み込む輸送艦。この四隻である。

 キラ・ヤマトとアスラン・ザラは、出航準備に追われる輸送艦の前で別れを惜しんでいた。

 レールを走るアームに把持されたコンテナが、次々に艦内に運び込まれていく。その規則正しい動きを見せる風景の中、キラとアスランは互いを見つめ合って動かない。

 このヘリオポリスで二度の再会を交わした後、二人は毎日時間の許す限り共にいた。今回の出航が、二人を分かつ事になるまでは。

 アスランは輸送艦の護衛任務がある為、ナスカ級“ハーシェル”に搭乗する。一方、キラとその家族は、輸送艦に乗る事になっていた。

「アスラン……」

「キラ……」

 二人、互いの名を呼び合い、視線を交わしてお互いの気持ちを伝え合う。

 遠くそれを見ていたイザーク・ジュールは、眉を顰めて呟いた。

「……あいつら、気持ち悪いぞ」

 ディアッカ・エルスマン、苦笑混じりに答えて曰く。

「カップルだよなどう見ても」

 ニコル・アマルフィ、嘆息混じりに。

「ショックです。つい何日か前までは、ノーマルな友人だと思っていたのに……」

 キラとアスランの関係が“そう言う関係”だと言うのは、本人達の意識とは全く関係無しに、二人を知るZAFT兵の間では固まってしまっていた。

 アスランが軍務に就く時以外は、常に二人で居る。それだけならまだ良い……ニコルとディアッカとイザークだって、アスランとは多くの時間を共にしている。だが、キラとアスランは妙にベタベタしていて、何か普通の友人関係ではない。

 そこで、「あいつらは特殊なんだな」と考えると納得が出来るわけだ。

 本人達は言われれば否定しただろうが、面と向かって「君達はそう言う関係か?」と聞く輩も居なかったので――イザーク等、聞いて否定されて、それでも二人の関係に確信を抱く者もいるにはいるが――何時しか二人はそう言う関係という事で確定していた。

 幸い、カップルが成立しているので他の男達の尻が狙われる事はない。実害がないだろうからと、皆は申し合わせたわけでもないのに、二人の事には出来るだけ触れないという方針を取った。

 アスランは、この任務が終われば除隊する事を公言していたので、我慢するにせよ短い時間の事だ。

 政治権力を握るパトリック・ザラ国防委員長の息子であり、恐らくはこれから父の権力を背景にどんどん高い地位を得ていくだろうアスランと、無駄に関係を悪くしたい者など居はしない。

 ともあれそんな事情もあって、扱いに困る噂が流れてもアスランとキラの生活は平穏だったし、キラとその家族の扱いも非常に丁重なものであった。

 その状況故にキラは、凄惨な状況にあるヘリオポリスとは無縁でおり、残されるヘリオポリス市民にオーブ本国がどんな末路を用意しているのかを知らない。

 知っていたなら、彼はヘリオポリス市民を救うべく“アスランに頼んだ”だろう。他に出来る事は何も無いし、他の誰もキラがすべき事を教えていないのだから。

 そして、それがアスランにどうする事も出来ない事であっても、人を救うという単純な正義を説き続けたに違いない。そうなれば、キラに影響されたアスランがプラントに正義が無いと思い込んで叛意を持つ位の事になったかもしれないが、幸いそれは避けられた。

 キラは幸福だったと言えよう。他の全てのヘリオポリス市民よりずっと。

「アスランの事が心配なんだ。アスランはその……戦うかも知れないんだよね?」

 キラが、表情を曇らせて心配そうにアスランに言う。アスランは少しだけ顔を喜びに緩めた後、表情を引き締めて答えた。

「……まだ、作戦は終わってないからな。でも、これが終われば俺は……」

「アスランには戦って欲しくない。もし、アスランに何かあったら……」

「俺は負けない。俺が必ず、お前を守ってやる。キラ……」

 キラとアスランは無意識に互いに手を取り合い、熱い視線を交わし合う。

 キラは幸福だった。

 自分の事ではなく、他人の事だけを心配する事が出来たのだから――

 

 

 

 ガモフの乗組員搭乗口へと続くキャットウォークの前。

「作戦任務開始につき、営倉入りを解除。釈放する」

 筋力強化コーディネートを重点的に行ったらしき筋肉の塊と言った様相のMPが、顔面これまた筋肉と言った厳つい顔を緩めもせずに言うのを、ミゲル・アイマンとオロール・クーデンブルグは苦虫を噛み潰したような顔で聞いている。

 二人が自分の言葉に感動して涙を流す筈も無い事は百も承知のMPは、そんな二人の様子など全く気にせず、「任務が始まったから出してやるが、次はお前のお袋でもわからなくなる位に拳骨で顔を撫で回してやる」くらいの事を言って、さっさと帰っていった。

 ミゲルもオロールも両親が作ってくれた自分の顔は気に入っているので、本気であろうMPの台詞に震え上がった後、去っていくMPの背中に中指をしっかり立ててからキャットウォークを渡る。

 人一人が通過するのがやっとの大きさのエアロックを通れば、後は勝手知ったる艦内だ。

「あーあ、営倉から直接乗艦かよ」

「誰のせいだ。誰の」

 廊下の手摺りを伝いながらの艦内移動を始めてすぐに、ぼやき始めたオロールに、ミゲルが舌打ちをしつつ問う。オロールは、手を顎に添えて考える素振りをしながら、悪びれることなく言い返した。

「あの新入りどもとMA女のせいだな。俺が悪くないのは確実だ。ミゲル、お前もちょっとは責任があると思うが、まあ許してやるよ」

「ありがたい事だなぁ、ちくしょう」

 艦に配属されたMSパイロット三人と、MA好きの整備兵らしき女の子が喧嘩していたという所まではオロールの責任では無いだろう。迂闊に介入したせいでミゲルがパイロット達に殴られたのも、事故みたいなものでオロールに責任はない。

 しかし、その後にパイロット達へ反撃し、騒動を一気に乱闘にまでレベルアップさせ、穏便に済ませるという選択肢を粉砕したのはオロールだったろうに。

 オロールの寛大な言葉にミゲルは感謝する筈もなく、深く溜息をつきながら、片手で頭を抱えた。

「結局、新しい仲間とは、親睦を深める事も、一緒に訓練をする事も無しだ。どうするんだよ、この状況」

 ZAFTの兵は個人主義で英雄志向が強く、連合兵のように組織だって動いたり連携を取ったりという事はしない傾向にあるが、最低限これくらいはというものがある。

 同じ艦で戦うのに互いの能力を知らない。それどころか、互いの間に争いの火種を残したままというのでは、流石に「コーディネーター兵士は優秀だから常に最良の行動を取るのだ」と言うプロパガンダもその御威光を失うというものだ。

 もっとも、本当にコーディネーターが優秀で最良の行動しかしないなら、ミゲルとオロールが営倉にぶち込まれる事も無かったろう。あれがあの場での最良の行動だったと言うのなら、むなしくて泣けてくる。

 プロパガンダとは違い、コーディネーターだってろくでもない事をやらかすものなのだ。

「あんな連中、当てにするなって。むしろ、背中撃たれないように気をつけな」

 ろくでもない事をやらかす代表選手の如きオロールの言葉だったが、そこに僅かに真剣な色味が混じる。その意味に気付いて、ミゲルは表情を暗くした。

「味方殺しか? 洒落にならんよなぁ」

 戦場で、味方の背中を故意に撃つという行為は、昔から行われている。

 無論、ZAFTでも禁じられてはいるのだが、上官の命令は絶対と教え込み規律でガチガチに縛るナチュラルの軍隊ですら味方殺しは発生するのだ。個人主義であり自己の判断を重視するZAFTでそれが発生しない筈がない。

 まあ、日常的に心配しなければならないほど発生している事かと言うと、決してそうではないのだが……直接的間接的を問わなかった場合、戦死者の何人が味方に殺された事になるのか、正確な数字は出ないだろうが、想像するのは怖い。

「関係を修復出来ると良いんだが」

 言いながらミゲルは、廊下の手摺りを掴んで移動を止めた。

 そこにあるのは、ブリーフィングルーム。ここで、今回の作戦の説明が行われるのだ。

 ドアを開けた二人の前に、既に人でいっぱいの室内が見えた。MS格納庫に近い位置にある為、ここにはMSパイロットや整備兵などが集まっている。

 人の集まりは三つに分けられた。

 一つは、つなぎの作業服を着た整備兵達。もう一つは軍服姿のMSパイロットが三人。そして、その両方から離れて、つなぎの作業服を着たMS嫌いの女の子……ミゲルとオロールが、MSパイロット達と喧嘩するはめになった原因だ。

 MSパイロット三人は、いっそ殺気と言っていい位に不穏な空気を発しながら女の子を睨んでいる。そして、その殺気は、入室したミゲルとオロールにも向けられた。

「関係修復はダメっぽいな」

 オロールは慰めるようにミゲルの肩を叩いて言い置き、それから床を蹴って女の子の方へと迷わずに移動していく。

 ミゲルは、何処に座るべきか一瞬迷ったが、すぐにオロールの後に続いた。

 殺気じみたMSパイロット達の所に行っても事態が好転するとは思えない。今は関係修復の話し合いよりも、今回の作戦について聞く方が優先だろう。下手に絡まれたりしては、それが果たせなくなってしまう。

 となると、整備兵達の集まっている所は満席に近い状態であるので、最終的に女の子の側に席を探す事になる。オロールも同じ結論に達したのだろう。

 女の子と席が近いとMSパイロット達の怒りを煽る事になりそうだが、彼らはミゲルとオロールを女の子の仲間だと思い込んでいるわけで、ならば今更と言う物だ。

 それでも少し離れて座るつもりだったが、うっかり近寄った所でミゲルとオロールは、女の子から声をかけられた。

「遅かったわね。艦長の話、始まってるわよ? 肝心な所はこれからだけど」

 そう言って女の子は、早く座りなさいとばかりに隣の席を指差す。

 勧められたのを、わざわざ断って遠くの席を探す程の理由は見つからない。ミゲルとオロールは互いに視線を合わせ、同時に苦笑してから勧められた席に座り、身体が宙に浮かないようにベルトで留めた。

 そして二人は、先ほどからブリーフィングルームに流れていた艦内放送に耳を傾ける。

 艦内放送では、艦長のゼルマンが作戦内容について説明している所だった。

『――連合MSは輸送艦に積み、ナスカ級“ハーシェル”が護衛しながらプラントへ帰還する。その際、ローラシア級“ガモフ”と“ツィーグラー”も同行。途中まで護衛の任につく。これを輸送艦隊とする。

 一方、ナスカ級“ヘルダーリン”“ホイジンガー”を中核とした艦隊が、ヘリオポリス沖に展開。第8艦隊を迎え撃つ。これを迎撃艦隊とする。

 この迎撃艦隊で第8艦隊を撃滅する予定だが、万が一、抜かれてしまった場合、“ガモフ”“ツィーグラー”が輸送艦隊を離れて第8艦隊を迎撃する。

 残る“ハーシェル”と輸送艦は巡航速度を上げ、一気に第8艦隊を引き離す。“ハーシェル”は、輸送艦を最後まで守って航行する。

 これが、連合MS護送作戦の概略だ』

 説明の途中、女の子が作戦資料をミゲルとオロールに渡す。

 十数枚の紙がまとめられたそれには、作戦に関わる細かな情報が印刷されており、ゼルマン艦長の説明を十分に補足していた。

「……ミゲル、ガモフのMS戦力を見たか? 新入りどものノーマル三機はともかく、後はお前の専用ジン・アサルトシュラウドに、俺のジン・ハイマニューバ、そしてシグーだってよ。案外、楽な戦闘になりそうじゃないか?」

 資料をペラペラとめくり適当に流し見ていたオロールが、ミゲルに小声で言う。それを受けて、ミゲルも資料をめくり、そして呆れたように言い返した。

「良く読めよ。シグーは赤服新兵だぞ? かえって足手まといにも成りかねない」

 言いながらミゲルはブリーフィングルームの中に視線を走らせる。

 エリート様である事を示す赤服は、このブリーフィングルームには無い。パイロットならばここで説明を聞いている筈なのにだ。

 他の部屋で聞いているのかも知れないが、それは戦闘中に密接な関係となる他パイロットや整備兵との交流を軽視しているという事であり、そんな人物と一緒に戦わなければならないミゲルの苦労を想像すると、楽な戦闘になるとは冗談でも言えそうにない。

 と、暗澹たる思いを抱いたミゲルの腕が、隣から肘で突かれた。

「これ、確認した方が良いわよ? データがちょっと古いみたい」

 資料のMS戦力のページを開いた女の子が、ミゲルに悪戯っぽい笑みを見せながら言う。

 ミゲルには、傍目には可愛らしく見えそうなその笑みが、酷く不吉な物に見えた。

「どういう事だ?」

「足手まといの赤服新兵を捜して、自分で確認してみたら? 艦長の話が聞こえないから、おしゃべりはもう止してよね。古参兵さん」

 そう返して、女の子は“艦長の話を聞いている”というポーズに戻る。そのすました横顔に、カウンターを狙って攻撃を待ち受けている様子を見て取り、ミゲルはこの場でこれ以上の追求は得策ではないと察した。

「確かにその通りだな」

 席に座り直して、艦長の話を聞く事に集中する素振りを見せるミゲルに、女の子はチラとだけ不満を混ぜた視線を送る。やはり、追求してくる事を期待していたらしい。

 女の子の思惑から外れた事にささやかな勝利感を得て、それを心地よく思いながらミゲルは、今度は本当に艦内通信に集中した。

 ゼルマン艦長の話はまだ続いている。

『なお、連合軍の宇宙要塞“アルテミス”にユーラシアの艦艇が集結しつつある。陽動、あるいは第8艦隊とは別にMSの奪還を狙っている可能性があると言えるだろう。

 もしこれがMSの奪還を狙ってくるなら、“ガモフ”と“ツィーグラー”あるいは“ハーシェル”で迎撃を行う事になる。

 状況にもよるが、一度、戦闘が発生した場合には、激しい戦闘となる事が予測される。各員、いっそうの奮闘努力を望む。以上だ』

 

 

 

 ヘリオポリスの港口。ナスカ級“ハーシェル”を先頭に、連合MSを積んだ輸送艦を中心として、ローラシア級“ガモフ”“ツィーグラー”が後ろに続く形で、輸送艦隊が出航していった。

 ヘリオポリスには、防衛戦力としてジン六機が残されている。ナスカ級“ヴェサリウス”も残されては居たが、これは修理中で戦力としては使えない。

 しかし、ジン六機があれば、旧来のMAと戦艦主体の戦力が相手ならば、その数倍の戦力を差し向けられても撃退出来る。防衛戦力としては十分だし、この戦力を撃退出来る程の戦力をヘリオポリスに送る意味は連合にはない。

 オーブにはヘリオポリス奪還の動機はあるが、今後の中立態勢の維持を考えれば、直接的な武力侵攻をかけてくるとは考えがたい。実際、ヘリオポリス市民収容の為の大型輸送船と戦艦一隻を出して以来、オーブの宇宙基地であるアメノミハシラは沈黙を保っている。

 よって、ヘリオポリスのZAFTは、防衛に何ら危機感を抱いては居なかった。

 だからこそ、彼らは困惑する。出撃していった輸送艦隊の忘れ物に。

 輸送艦隊の出撃後に格納庫で発見された物。それは、輸送艦隊が全て持って行く筈だった最新型MSシグーだった。

 

 

 

「なん……だ、こりゃ?」

 ローラシア級“ガモフ”。そのMS格納庫。

 戦闘待機命令を受け、そこへ赴いたミゲル・アイマンとオロール・クーデンブルグが見たのは、そこにある筈のMSシグーの姿ではなかった。

 格納庫に鎮座するのは、黄色い塗装のメビウス・ゼロ。機首にシャークマウスが描かれているが、その目は前方を睨む涙滴状の複眼を意匠している。

 そのデザインには、心の底から嫌な思い出しかない。

「ザク……レロ? 連合の新型!?」

「おいおい、洒落にならない塗装だな」

 ミゲルが驚きに声を漏らすと、オロールが横で唖然とした様子で返した。

 そのメビウス・ゼロは、明らかにあのMA……ヘリオポリスで交戦した、ザクレロの姿を模倣しようとしている。

「そうよ! これが、私のザクレロ!」

 と、勝ち気な少女の声が響く。

 振り向けばそこには、赤いパイロットスーツを着た少女が立っていた。

 無重力ではヘアバンドの押さえも効かないか、肩辺りで切り揃えられた髪が浮き上がり乱れている。その髪を鬱陶しげに手で払い、少女はミゲルを気の強そうな瞳で見据えた。

「ラスティ・マッケンジーよ。よろしくね、隊長さん?」

「ラ……!? 赤服パイロット!? お前が!?」

 今まで何度もミゲルに不幸を運んできた少女……MA大好きな変人。その正体が、赤服パイロットのラスティ・マッケンジー。

 思っても見なかった事実に、思わず声がうわずるミゲル。それをすっかり無視して、ラスティはちょっとだけ不満そうな目でメビウス・ゼロを見やる。

「メビウスも格好良いけど、本物のザクレロにはちょっと及ばないわよねー。でも、この鋭いフォルムこそ兵器って感じで、メビウスも嫌いじゃないのよ?」

 聞いてもいないのにMAを語り出すラスティ。そんな彼女に、オロールが問う。

「待て、お前の搭乗機はシグーだろ? シグーはどうしたよ?」

 他の議員子息の赤服同様、ラスティにもシグーが配備されたはずだ。書類上でも、ラスティの搭乗機はシグーになっている。

 が、ラスティはあっさりと答えた。

「置いてきたわ」

 ヘリオポリス。一機残されたシグーは、ラスティの搭乗機だった物である。

「置いてきた!? 何故!? それにMAに乗る気なのか……」

 せっかくの最新MSを置いてきて、代わりにするのがナチュラルの旧式兵器であるMA。

 理解が出来ないとばかりに声を上げるミゲル。

 いや、これがザクレロの様な新型の大型MAならば、ミゲルもその戦力を知っているだけに理解はしたのだろうが……メビウス・ゼロは旧式MAの範疇にある機体だ。

 が、ラスティはミゲルの言葉に小さく鼻で笑い、それから薄めの胸をはって得意げに口を開く。

「メビウス・ゼロは、MSなんかよりよっぽど強い機体よ? グリマルディ戦線で、こっちが何機やられたと思ってるの?」

「いや、それは……確かに、そうだけどなぁ……」

 月を戦場にしたグリマルディ戦線。連合のメビウス・ゼロ部隊は、ZAFTに対して相当の出血を強いている。

 エンデュミオンの鷹と呼ばれる連合のエースが生まれたのもその戦場だし、彼の機体はメビウス・ゼロだった。

「あれは、連合のエース部隊が乗っていたからであって……」

 事実は事実。それ故に言葉から力の失せるミゲルに、ラスティは勝ち誇る様に言った。

「ナチュラルのエースが乗ってZAFTのMSより強いんだから、コーディネイターの私が乗ったらもっと強いでしょ? 強い機体に乗るのはパイロットとして当然の事じゃない」

 理屈ではあるが……ZAFTが行ってる宣伝に真っ向から逆らう話だ。

 コーディネーターのMSは、ナチュラルのMAを過去の遺物とした、最新万能兵器。

 正直な所、そのプロパガンダは連合の大型MAには通じないとミゲルは考えているが、かと言って今までずっと押し通してきたものはそう易々と覆せはしない。

 だが、ラスティはそんな事は一切気にしていない様だ。

「ZAFTの機械人形なんて、MAに比べれば玩具みたいなものなのよ!」

 ラスティははっきりと言い切る。

 変わったメカニックだと思っていた頃より、よほどインパクトが強い。これはもう絶対に“ZAFTの赤服のMSパイロット”が言う台詞じゃない。

「こやつ正気か」

 オロールが冗談めかして呟いた。

 珍しく、ミゲルもオロールに同意する。が、調子に乗ってきそうなので賛同は示さない。

 一瞬の沈黙があって、オロールはミゲルに聞いた。

「で、どうするよ?」

「どうするって言われてもなぁ。こんなの常識外だから、MSに乗り換えて……」

「シグーは置いて来ちまったんだぜ? 予備のMSなんて無いしよ。それに、アレがMSに乗ると思うか?」

 言ってオロールは、誰も聞いていないにも関わらずMS下げMA上げを喋り続けているラスティを指差す。

 それを見て、ミゲルは諦めるしかない事を悟った。

「あー……それじゃ、予備戦力って事で待機に……」

 MAでの出撃は有り得ないと、出さずにすむ方向で考えるミゲル。

 だが、その決定が下される前に、その場に罵声が響いた。

「おいおい、ナチュラルのガラクタが見えるぜ?」

「いつからここは連合の艦になったんだろうな!?」

「俺達が捨てて来てやるよ。親切だろう? なあ。MA女とその腰巾着さん達よぉ」

 振り返らずともわかる。新人のMSパイロット達だ。

 やって来た初日にラスティと揉め事を起こし、それに巻き込まれたミゲルとオロールが彼らと喧嘩を繰り広げる事になった。

 ラスティと彼らMSパイロット達の関係は破綻してるが、それでも全員一緒に戦う事になるのだから、それを放置する事も出来ないミゲルの悩みの種でもある。

 ミゲルの視界の端で、オロールが嘲る様に口元を曲げ、そしてMA女ことラスティは怒りの色を露わに口を開く。

「三匹でつるまないと女の子に口もきけない雑魚が粋がってるんじゃないわよ!」

「どうしてお前はそんなに喧嘩大安売りなんだよ!」

 ラスティの台詞に、ミゲルは頭を抱え込む。

 その背後では、新人パイロット達のチンピラめいた怒声が上がっていたが、聞く価値もないので、まるっと無視した。

 が、ヒートアップしてくると流石に無視も出来ない。

「痛い目にあわないとわからねぇようだな!」

「……よしてくれよ。痛い目にあってもわかってないのはお前達じゃないか。営倉入りは、バカンスか何かだったのか?」

 一人の発した台詞に、オロールが呆れて口を挟む。

 殴り合いを演じて、営倉入りになったのは彼等も同じだ。それをまた繰り返そうというのか?

 どう止めたものかと、ミゲルが頭を悩ませたその時……

「良いわ。痛い目にあわせてみなさいよ」

 MSパイロットからの挑発をラスティは受けてたった。

 そして、ミゲルとオロールを挑発的な目で見て続ける。

「貴方達もよ。

 何か、私の出撃を有り得ないみたいに言ってたじゃない? メビウス・ゼロの性能を信じられない? それとも私の腕?

 OK、強さを証明すれば良いんでしょ? シミュする時間はたっぷりあるわ。丁度良いから見せてあげる」

 それからラスティは、その挑発的な目をそのままMSパイロット達に向けた。

「聞いたでしょ? 一戦、相手してあげるってのよ」

 いきなり叩きつけられた挑戦状に、MSパイロット達はたじろぐ。が、すぐにその中の一人が名乗りを上げようとした。

「わ、わかった。じゃあ、俺が……」

「何言ってるの、一機で勝ち目なんて有ると思ってんの? 全員で来なさい」

 名乗りを遮り、MSパイロット達を掌を上にして指だけ動かして招く。挑発たっぷりに。

 そのラスティの侮辱的な挑発は、MSパイロット達の怒りに火を付けた。

「野郎! ふざけやがって!」

「吠え面かくな!」

「妄想で歪んだ頭を叩き直してやる!」

 口々に吠えたてるMSパイロット達に、聞こえない様にオロールは呟く。

「もっと、個性的な煽りは言えないのかよ。コーディネーターらしくさ」

「どんなだよ」

 確かに、MSパイロット達からはコーディネーターらしい高等さは感じないが、そもそもこんな所で発揮する物でもないだろう。

 そんな思いを溜息に込めて言ったミゲルに、オロールは真顔で言って見せた。

「人糞でも召し上がり遊ばせ。下等生物の君」

「完敗だ。コーディネーターの鑑だ。ああ、もう、クソ喰らえだよ畜生!」

 苛立ち紛れに叫んでミゲルは空を殴る。

 真面目に相手をするのが馬鹿らしい。

 それよりも、この済し崩しに始まった対決をどうとるかだ。

「シミュレーションで実力を見るってのは、正直、有難いがなぁ……」

 今まで一緒に訓練した事もない面子と一緒に戦うのは不安だ。戦力の確認はしておきたい。しかし……

「こいつら、こんな所で意趣返しのつもりだぜ?」

 どうする? と、オロールは目で問いかける。

 私怨の為にそんな事をやらせて良いのかという点だ。拙い様な気はする。気はするが……

「……ま、やらせてみよう。ラスティが負ければ少しは大人しくなるかもだし、少なくとも待機命令を出す理由にはなる」

「負ければなー」

「無理だろ? さすがに3対1で、しかもラスティはMAだ。勝てるはずがない」

 当たり前の事だと、ミゲルは思う。ラスティに勝ち目はないはずだ。

 一度負ければ、ラスティの鼻っ柱も折れるだろうし、それでジンのパイロット達の溜飲が下がって少しはまともに部隊運用出来るならそれも良い。

「うん、負ければな」

 だが、オロールは繰り返しそこを強調する。ミゲルもそれに気付いた。

「勝つとでも思っているのか?」

「いや、普通に考えれば負けると思うぜ? こういう場じゃなきゃ、次の給料を全額賭けても良い所さ。でもなー」

 何やらもったいぶった態度で言ってから、オロールはミゲルに苦笑を見せて告げる。

「お前、こういう局面で勝ちを拾った事ないだろ? 何だかんだで、お前が苦労するよーに苦労するよーに流れてんじゃね?」

「…………」

 言い返せなくて、ミゲルは黙り込んだ。

 そして、少し後。

 MSパイロット3人とラスティはそれぞれのシミュレーターの中へと入り、残されたミゲルとオロールは傍らの外部モニターに仮想空間の戦場を映し出していた。

 戦場に障害物無し。両者、近距離射撃戦の位置からスタート。“決闘”としては普通の戦場であり、余計な物が無い分、数と機体性能の差が出やすい。

 機体は、MSパイロット達が重機銃装備のジン、ラスティがメビウス・ゼロ。

 これでラスティに軍配を上げるZAFTの軍人は居ない。それが普通だ。

 そして、戦闘開始。

 直後に、メビウス・ゼロが全速力でジン三機めがけて突っ込んだ。

「お、いきなり死ぬか?」

「いや。ジン共が逃げる」

 そのままジンの放つ弾幕に絡められて早々終わりかとオロールが声に出したが、実際はそれよりも早く、メビウス・ゼロが対装甲リニアガンを撃ち放っていた。

 メビウス・ゼロが放つやたらに派手な火線が三機のジンの中央を走る。ジンは、それを余裕でかわして、3機がバラバラに散った。

「なんだ? あの距離からの射撃なんて当たらないだろ?」

 銃弾は全て同じ弾道を描いて飛ぶわけではなく、散布界といってある程度の広さにばらまかれてしまう。

 敵との距離が遠くなれば、それだけ散布界は広がる事になり、正確に狙っても命中は望めず、運不運の問題となってしまうのだ。

 だから、気にせず留まってメビウス・ゼロを迎撃すべきだったとオロールは言う。だが、ミゲルは首を横に振った。

「言うのは簡単だが、実際、撃たれてみろよ。曳光弾の光のシャワーを真っ正面から浴びるんだ。肝が冷えるどころじゃない」

「あー……そうか。やけにビカビカ光ると思ったら、最初から脅しに使うつもりで曳光弾を山盛りに入れたのか?」

 オロールは、気付いたぞとばかりに頷く。

 曳光弾は、弾丸の内に数発に一発の割合で混ぜられており、撃たれると発光しながら飛んで、弾道を射手に教えてくれる。

 メビウス・ゼロの放つ火線が派手だったのは、その曳光弾を多く入れてあるからだ。

 曳光弾は実弾よりも威力が落ちるので、本当に脅し程度の意味しかない。しかし、弾道が見えていれば、やはりそれに対処はしてしまうものだ。

「学校じゃ、回避できるなら、回避する様に教わるしな。どんな威力のない弾でも、当たれば万一って事があるんだし。奴等は、忠実にそれをやったわけだ」

 言いながらミゲルは、戦況がいきなり崩されつつある事に気付いて眉を寄せる。

「でも、バラバラになったのは悪手だったな」

 ジンは各個バラバラに動き、メビウス・ゼロに銃撃を浴びせている。

 全機が固まって、それぞれの隙をカバーしあったり、銃先を揃えて3機分の濃密な弾幕を張ったりといった事をやれていない。

 乱戦ならそれでも良いが、敵が一機であるならば、それは非効率だ。

 一方、メビウス・ゼロは、MSの内一機に狙いを定めて進んでいた。

 速度を出していないのは、射撃を警戒してか? 確かに良く射線から逃れている。

「それでMA女は、MSを散らして各個撃破の狙いか? 完全に連合兵の戦い方だぜ?」

「連合のMAを使いたがるくらいだし、訓練したんだろ? でも、こいつは、洒落にならないんじゃないか?

 ――っと、やっちまったぞあいつ!」

 ミゲルが思わず声を上げる。

 メビウス・ゼロと戦っていたジンがいきなり、背面のブースターと手にした重機銃、そして頭部のモノアイを爆発させた。

 いつの間にか周囲に展開されていたガンバレルが、三方からそれを狙い撃ったのだ。

 視界、武器、機動力を失ったジンは、撃墜判定こそ出ないものの、戦力をほぼ失って宙でもがく。

 それでも、サブカメラで視界を取り戻し、動けないまでも抵抗しようと重斬刀を抜いた。

 だが、その動作には何の意味も無い。

 身動きできない、反撃も出来ない、的に等しいジンを、メビウス・ゼロの対装甲リニアガンがあっさりと撃ち貫いた。

 ――同時に。

 近傍に居た次のジンの重機銃を、残り一つのガンバレルが破壊する。

「おい、ミゲル! 今のいつの間にガンバレルを展開してた!?」

 オロールが焦りを見せて問う。

 決め手になったガンバレル。それがいつ放たれたのか?

「……見落とした。多分、最初の連射だ。曳光弾多めの弾幕で目を引いて、その隙に切り離したんだろ」

 メビウス・ゼロの速度の遅さはこのせいか?

 通常、移動の時には機体にガンバレルを戻し、そのスラスターを利用して大きな推力を得る。しかし、メビウス・ゼロはそれをしていない。

 結果として加速度が落ち、その分だけ速度も落ちた。

 そえでもMSからの攻撃を綺麗にかわし、的確に配置したガンバレルで急所を突く。

「じゃあ何か? MSを散らすのも、ガンバレルの展開を隠すのも、ど派手な威嚇一つで済ませちまったって事か? 何だそれ、気持ち悪!」

 驚きを顕わに言うオロール。言葉は酷いが、そこに嫌悪は見られない。あるのはむしろ驚嘆の色。その気持ちはミゲルにもわかる。

「敵にあわせて装備を調整して出るとか、推力が落ちているメビウス・ゼロで攻撃をきっちりよけて見せるとか、細かい所で実力を見せてるが……

 過剰に派手だよなぁ? 絶対、あいつの趣味だぞコレ」

 二人とも、ラスティのその実力は認めざるを得ない。しかし、そのやり方ゆえに、実力を認めたくない。

 そんな葛藤を抱いている間に、メビウス・ゼロはガンバレルを戻し、その推力を十全に使って宙を駆けていた。

 重機銃を失ったジンは、重斬刀でメビウス・ゼロを追うしか無い。

 その背を追わせながらメビウス・ゼロは、残る一機の健全なジンめがけて進む。

 挟み撃ちの好機とばかりに、ジンの重機銃が向けられた。

「狙い読めるけどなー」

「多分、一機やられて、二人とも頭に来てる。引っかかるだろな」

 オロールが、そしてミゲルが呆れた声を出す。

 引き金が引かれ、ジンの重機銃が火を噴く。その直前、メビウス・ゼロはワイヤーを伸ばす事無くガンバレルを射出していた。

 ガンバレルに引きずられて、真横に跳ぶ様な異常な動きでメビウス・ゼロがコースを変える。

 直後に、重機銃から撃ち出された銃弾は、メビウス・ゼロが辿る筈だったコースを走り、その延長線上にいたジンに襲いかかる。

 予期せぬ方向から銃弾を浴びたジンは、全身を味方の攻撃に穿たれて爆散した。

「必要有るのか? この同士討ち狙い?」

「序盤の曳光弾のばらまきで浪費した分の節約と、後は……」

 オロールの問いにミゲルが答えている間に勝負は決まる。

 同士討ちを演じた事に動揺し、戦場で動きを止めたジン。その周りからガンバレルの砲弾が降り注ぎ、機体各所を破壊する。

 そうして動けなくなったジンを、対装甲リニアガンの一撃が貫いた。

 シミュレーション終了。

「これも目眩ましだ。同士討ちをすれば、どうしたって味方機に目が行く。そこでガンバレルを展開。好位置を取って、一気に叩き潰す。と言うか、潰した」

「説明どうも」

 ともかく説明を全てし終えるミゲル。その前で、シミュレーション結果がモニターに表示される。

 言うまでもなく、ラスティの完勝だった。

「何で、勝っちゃうかなぁ?」

「強いからだろ?」

 ミゲルは思わず愚痴る。そこにオロールは、当たり前の事じゃ無いかとばかりに返した。

 それから、ふとした疑問とばかりに問いを投げる。

「今の、お前なら勝てたか?」

「当たり前だろ? って、言えたら格好良いんだがなぁ。あいつ、本気でエース級だぞ」

 ミゲルはそれを認めた。確かにラスティは強い。

 正々堂々ではなく、奇策に頼って……る様に見えて、その実、機体操作には実力がはっきり現れている。特に、ガンバレルの配置の正確さが半端ではない。

 もっとも、その奇策に頼っているように見えるのが問題だ。

「でもこれでMSパイロット達の恨みを買って面倒な事になるぞ。負けを潔く認める奴らなら良いけどな」

 MSパイロット達は、とてもそんな清々しい奴らには見えない。コーディネーターにありがちな、プライドが肥大したタイプだ。

 実力差ではなく、ハメで撃墜されたと思い込めば、憎悪が燃え上がるばかりだろう。

「負けを潔く? 奴らに限ってねーよ。でもそんなの、あのMA女が気にするか? しないだろ?」

 オロールは肩をすくめる。

 ラスティが、MSパイロット達との関係悪化を気にする筈が無い。

 確かにその通りだと、ミゲルは深々と溜息を吐いた。

「少しは気にしろよ。何処をどうコーディネートしたら、あんな迷惑の塊みたいな奴になるんだ」

「人格まではコーディネートできないだろ。育てた奴に苦情言え」

「育てた……って、親はプラントの偉いさんじゃねーか」

 苦情を言う事も出来ない。

 進化した人類の筈なのに、旧弊な社会身分の差に縛られるのはコーディネーターとしてどうなのだろう?

 社会は間違っているのかも知れない……が、それよりも目先の問題だ。

 そしてその問題児は、清々しい笑顔を浮かべてシミュレーターから出てきた。

「見た? 私の実力」

 スリムコンパクトな胸を張って偉そうに聞くラスティ。そんな彼女に、ミゲルは思いの丈をぶつける。

「MAでこんだけ強いのに、どうしてMSに乗らないんだよ!?」

「MSは性に合わないのよ。同期仲良し5人中で成績最下位だったわ」

 MSならもっと強いだろうというミゲルの想像を、ラスティは簡単に否定した。

 まあ、それでも赤服のラインに収まるほどの成績は取っていたという事でもあるのだが。

 それはともかく、ラスティは得意げに話を続ける。

「シミュレーター訓練の時、一回だけメビウス・ゼロ使って一人ずつ全員叩きのめしたけど、成績には反映されなかったのよね。

 ZAFTってくだらないわ。本当に強くても、MAだからって、それを認めないんだもの。ZAFTだってMAを使ってるのに。

 あーあ、でも、あの時のイザークの顔ったら。うふふ、吠え面ってああいうのなのねって、天啓のように理解したわー」

 不機嫌さ、そして思い出し笑い一つ。表情をくるくる変えて楽しげに話す。

 そんなラスティの背後、怒声が上がった。

「てめぇ! 卑怯な手を使いやがって!」

 ラスティが振り返り、つられてミゲルもオロールもそこを見る。

 たいして見たくも無かったものだが、そこに居たMSパイロット達の赤黒く染まり歪みきった憤怒の顔が目に飛び込んできた。

「卑怯? 何が?」

 全然わからないとばかりに、ラスティはとぼけ口調で問い返す。

 それに怒りを煽られて、先の声を上げたであろうパイロットが再び怒声で返した。

「影からこそこそ撃つのは卑怯じゃ無いってのかよ!」

 どうやら、ガンバレルで撃たれたジンのパイロットらしい。最初に墜とされた機か、最後の機かは知らないが。

 彼は真正面から撃ってこなかった事に酷くお冠だ。だが、それにはミゲルも同意は出来なかった。戦場では何処から撃たれようと文句は言えない。

 真正面からぶつかって力押しで圧倒できる連合の旧式MAとばかり戦ってると……いや、彼らに実戦経験は無い。

 そういう誰でも勝てるような設定のシミュレーションで戦ってばかり居ると、敵はプログラムで決められた動きしかしないと思い込む。

 現実では、想定外の動きを見せる敵も居るのだという事に気付けない。

 敵10と戦って、9までがルーチンワークな戦い方しかせず容易く倒せても、残り1の突飛な行動に撃墜される事だってあるのだ。

「馬っ鹿じゃない? ガンバレルはそういう武器なのよ? それに、付いてる武器をどう使おうと自由じゃない。

 何? 私をただの的だとでも思ってたの? お生憎様ね。私は狩人で、貴方達は獲物よ。随分と小さな獲物だったけど!」

 とはいえ、こんなラスティの様に喧嘩大安売りで返して良いとも思わない。

「間違って無くても、言い方ってもんがあるだろ!」

 思わずラスティの発発言を遮ろうとしたミゲル。

 そこを、ミゲルの肩を掴んでオロールが止めた。

「そーそー、こんな“シューティングゲーム”しかやった事の無い奴にはわからないんだから。ママみたいに優しく言ってやらないと」

 対MA戦シミュレーションのレベルが低いシナリオを、シューティングゲームと揶揄してオロールは笑う。

 実際そういうのは、何も考えずクレー射撃みたいに撃ち落とすだけなので、簡単で爽快感はあるが、そればかりやってる奴は総じて成績が悪い。

 が、ここで言う事では無いだろう。

「オロール!」

 咎めようとしたミゲル。しかしその時、オロールはMSパイロット達の方を一瞥して、ミゲルに素早く囁いた。

「黙ってる連中の目を見ろ」

「あ?」

 オロールの暴言に怒り、何やら言葉にならぬ声で怒鳴っているパイロット。ミゲルはその背後に目をやる。

 そこには憎悪を滾らせる男達が居た。そのどんよりと暗い目はラスティに向けられ、微動だにしない。

 それをミゲルが確認したとみるや、オロールは再び囁いた。

「……怒れる奴はまだ健全だ。黙ってる奴に気をつけろ。ああいうのは、復讐の機会を狙ってるクチだぜ?」

「復讐って……」

 たかが口喧嘩に、シミュレーションで負けただけだ。

 何を大げさなと否定したかったが、黙り込んでいるパイロット達の視線は確かに不気味で、不安を募らせるものだった。

 ミゲルが視線を向けている事に気付いたのか、パイロット達の一人がミゲルと視線を交わし、小さく舌打ちする。

 そして、一人で声を荒げていたパイロットの肩を掴んで言った。

「おい、行くぞ」

「あ? 待て、言わせっぱなしで良いのかよ!」

「いいから、行くぞ!!」

 怒鳴り返され、それに更なる声量で怒鳴り返す。

「お? おう……」

 たじろいだ一人を残る二人が引きずるようにして、ラスティやミゲル達から離れていく。

 最後にこちらにチラと見せたその目に、そこに宿る殺意めいたものに、ミゲルは背筋に刺さる冷たいものを感じていた。

「煽ってみてわかる事も有るだろ?」

 言いながらオロールは、ミゲルの背に軽くトントンと拳を当てる。

「いやー、街で喧嘩してると、恨みに思って復讐してくる奴が珍しくなかったんだよ。

 『パパは僕のコーディネートに幾ら掛けた』みたいなプライドを大事にして、それで“安物”に負けた事に耐えられず、もうどんな手でも使って殺してでも……てな。

 負けても売られた喧嘩を買う奴ってのは、本当の意味じゃまだ負けてないから、正面からぶつかってくる。また負けるのが怖くて喧嘩も買えない奴ってのがやばいわけだ」

「あー……それを探る為にわざと喧嘩売ったとかいう、お為ごかしには付き合う気は無いが、まあ拙い状況なのはわかった」

 ミゲルも平静を取り戻して頷く。自分にも思い当たる事は有った。

「シミュレーション訓練で負けた恨みを、宿舎裏のリンチで果たそうとする奴は軍にも居たしなぁ。貧乏人に負けるのがそんなに悔しいかね?」

「当たり前よ? 家の資金力が子供のコーディネート費用に関わってくるんで、『金を掛ければ掛ける程、能力も高い』って考えになっちゃうのよね。

 で、作った段階である程度の能力を与えちゃうから、成長してからの能力が予想よりも低いと『作り損なった』って思っちゃう。

 つまりは、欠陥品を無駄に育てたみたいな見方になって、結論としてはお金の無駄遣い、こんな子供なんて育てるんじゃなかったーと。

 そういう評価の目に晒されて育ってきた僕ちゃん達は、ナチュラルとか、自分よりも安いコーディネートで生まれた人に負けると、アイデンティティが全部否定されちゃうのよ。

 以上、『好きな人の子供を産みたい』なんて万一くらいの夢見るコーディネーター少女達が、同時に裏で抱えてる夢の無い子作り論からでした」

「…………」「…………」

 いきなりラスティに、やたらと現実味のある嫌な話を吹き込まれて、ミゲルとオロールは閉口する。

 子供は愛の結晶だ……なんて、何処か別の世界の話と言わんばかりだ。

「凄いわよー。憧れの人の話と一緒に、何に幾ら使ってどうコーディネートするかみたいな話も同時進行してるの聞いたら、男の子は泣いちゃうかもしれない。怖くて」

「おい、事の元凶。何を、しれっと会話に参加してるんだ。そして、そんだけわかってるなら、もっと穏便に事を運べよ」

 まだまだ続きそうなラスティの話を、ミゲルがうんざり顔で止める。

 そして、それだけプライドを叩き潰された奴がどうなるのかを知っているなら、それに配慮しろと文句を添えた。

 が、ラスティは勝ち気に笑んで言い返す。

「嫌よ。私はMAを馬鹿にする奴が嫌いなの。屑でも無能でも許すけど、MAを認めない奴は絶対に認めてあげないの。絶対」

「コーディネーターとして生き難い奴だなぁ」

 オロールが笑いを含んで言うと、ラスティは笑みを少し崩して楽しげに返した。

「まったくよね。で、シミュレーションだけど、次は貴方達もやる?」

「んー。実力は分かったし認めるから、俺はどっちでも良い」

 オロールは答えてからミゲルに視線を送った。ミゲルの判断に任せると言う事だろう。

 ミゲルは少し考えて頷く。

「よし、やろう」

「じゃあ、今度は2対1? 黄昏の魔弾の実力を……」

「いや、そうじゃない」

 答えを挑戦と受け取り、不敵な笑みを見せるラスティに、ミゲルはそれを否定した。

「やるのは対戦じゃなくて共同戦だ。どうせ、俺達が3人でチームなんだしな」

「ふーん……一緒に戦おうって言ってるわけ?」

 ラスティはミゲルの顔を覗き込み、そしてにんまりと笑みを崩す。

「MAの戦力を認めたわね? じゃ、さっきまでメビウス・ゼロを出さないつもりだった事を許してあげるわ。

 何なら、あなたもミストラルで出撃しても良いのよ? みかん色に塗ってあげるわ」

「おいミゲル。『勘違いしないでよね! あ、貴方の事を認めたわけじゃ無いんだから!』って言っておかないと、デレたって思われちまうぞ」

「俺の機体は、蜜柑色じゃ無いし、そもそもMAになんか乗らねぇ!

 あと、オロール! どうして俺がツンデレなんだよ!」

 ミゲルの怒声が響き、続いてラスティとオロールの笑い声が辺りに響いた……

 

 

 

 地球上空を立ちヘリオポリスに迫り来る連合軍第8艦隊に対抗する為、ナスカ級高速戦闘艦“ヘルダーリン”“ホイジンガー”と四隻のローラシア級モビルスーツ搭載艦が、ヘリオポリス沖に展開していた。

 連合軍第八機動艦隊は、アガメムノン級宇宙母艦“メネラオス”と、ネルソン級宇宙戦艦三隻、ドレイク級宇宙護衛艦五隻で構成される。

 更に、ZAFTのMSジン二十四機に対し、連合には百五十余機のMAメビウスがある。MS一機でMA五機分と言われているので、戦力比は120対150。

 ZAFT艦隊は、第8艦隊の進路を遮る様に、単横陣を組んで待ちかまえている。ナスカ級二隻を中央に、ローラシア級が両脇に二隻ずつという形で、横一列に並ぶ陣形だ。

 第8艦隊の動きは、ZAFT艦隊に完全に捕捉されており、進路を変えてもそれに合わせてZAFT艦隊は移動して、第8艦隊に道は譲らない。

 両艦隊は次第に距離を詰めており、交戦は避けられぬ状況である事は明らかだった。

 第8艦隊提督デュエイン・ハルバートンは、旗艦メネラオスの指揮所より指示を下す。

「紡錘陣を組め。各艦、戦闘準備。これより敵艦隊中央を突破する」

 その指示に、指揮所に詰めていた参謀達がざわめく。そして、参謀の一人が、恐る恐るハルバートンに聞いた。

「提督。接近戦はMSの有利となる所。なのに、自ら接近戦を挑むのですか?」

 敵艦隊中央突破。つまりは、敵に最接近する事を意味していた。

 基本的に艦艇は、長距離で撃ち合う事を前提に作られている。一方、MSやMAは近距離での戦いが前提。MSやMAの接近を許してしまえば、艦艇の有利さは失われる。

 現在の彼我の戦力は、艦艇数で第8艦隊が勝っているが、MSとMAの戦力はほぼ互角と見るべき所。ならば、距離を置いて長距離砲撃戦を挑むのが、第8艦隊にとって有利な戦術である筈である。

 しかし、ハルバートンはそうしなかった。

「我々の目的は、敵に勝つ事ではない。MSを取り戻す事だ」

 ハルバートンは落ち着いた風を装いながら参謀の問いにそう言ってみせる。答えにはなっていなかったが、参謀はそれで黙り込んだ。納得したのか……ハルバートンに問う意味がないと思ったのかはわからないが。

 答えはしなかったが、ハルバートンに決断をさせたのは焦りであった。

 連合MSがいつまでもヘリオポリスにあるという保証はない。そして、持ち去られてしまっては、取り返す事は出来なくなる。故に、第8艦隊側は一刻も早くヘリオポリスに向かわねばならず、退く事はもちろん迂回するといった事も出来なくなっていた。

 長距離砲撃戦は有利かもしれない。しかし、決着を付けるまでには時間がかかる。ZAFT艦隊が、時間稼ぎを目的としていたならば、かかる時間は相当に長い物になるだろう。ハルバートンはその時間を惜しんだ。

 それに、ハルバートンには自軍に有利な長距離砲撃戦を挑んだ所で、MSを有するZAFT艦隊には勝てないだろうという妄執的確信があった。

 ZAFT艦隊に勝てる時が来るならば、それはMSを奪い返した時だ。ならば、その時まで戦力を温存しなければならない……犠牲を覚悟しても。

 連合製MSのみが連合に勝利をもたらすと信じる男は、進んで行かざるを得なかった。部下の兵士、数万を道連れにして。

 C.E.71年2月13日。ヘリオポリス沖会戦が始まる。

 

 

 

 第8艦隊は、前面にドレイク級を押し立て、中央に旗艦メネラオス、そして旗艦を囲む様にネルソン級が展開し、紡錘陣を組んでいる。

 砲撃戦。第8艦隊からの砲火は、戦場に光の奔流となってをZAFT艦隊を襲った。

 ZAFT艦隊は防御に重きを置いており、アンチビーム爆雷や機銃を用いた徹底的な防御でその攻撃に耐えつつ、報復の砲撃を仕掛ける。

 互いに防衛手段を活用している為、お互いの攻撃はなかなか決定打とならない。しかし、艦数……すなわちは砲の数で勝る第8艦隊側が、次第にZAFT艦隊を押し始めたのは必然だった。

 横隊は中央から左右両翼に別れ、第8艦隊に道を開こうとしている。このまま艦隊戦のみが続くならば、ZAFT艦隊は陣形を乱されて千々に散った事だろう。しかし、戦争はその形態を変えて久しい。

 スラスターの光を蛍の様に曳きながら、MAメビウスが宇宙を突き進む。敵は、接近中のMS。単機では敵対し得ない圧倒的な性能差のある敵……これに、数の利でもって挑む。それは、犠牲を約束された戦いだという事でもあった。

 艦隊の距離が詰まった事で、ついにMAとMSが激突する。

 直線的な動きのメビウスは、高速でMSに接近し、対装甲リニアガンや有線誘導式対艦ミサイルの一撃を撃ち込もうとする。それに対しMSは、出鱈目にも見える複雑な動きで射線上から逃れながら、手にした重機銃でメビウスに対して弾幕を張る。

 一撃で千々に砕けるメビウス。数発を受けて尚、当たり所によっては戦闘を継続出来るMS。

 五対一の戦力比などという数字上の話など、全く当てにならない悲壮な戦闘が始まった。

 戦場で開く無数の閃光の華は、多くがメビウスの物だ。

 ZAFTのMSジンが、手にしたMMI-M8A3 76mm重突撃機銃を盛大に撃ち放つ。混ぜられた曳光弾が宙に線を描き、その線に絡め取られたメビウスがあっけなく爆発する。

 一機、二機、次々に落ちていくメビウス。しかし、撃墜されるばかりではない。

 ジンが張る弾幕を抜けたメビウスが、ジンに向けて対装甲リニアガンを放つ。胸部に直撃を受け、ジンはその巨体をのけぞらせた。

 メビウスはその脇をすり抜け……直後、胸に開けた穴から破片とオイルを吐き出すジンが、振り返りざまに放った重機銃に撃墜される。そしてそのジンは、次の瞬間に有線誘導式対艦ミサイルが身体に突き刺さり、巨大な爆炎へと姿を変えた。

 そんな戦いが繰り広げられる中、艦隊戦も続く。

「アンティゴノスに被弾」

 メネラオスの艦橋。オペレーターの冷静な声が上がる。

 モニターには、前方を行くドレイク級宇宙護衛艦アンティゴノスが、艦全体から黒煙を放出しているのが見えた。そして、コントロールを失ったのか、それとも僚艦を巻き込むまいとしたのか、陣形から外れて行く。

 アンティゴノスは致命傷を受けていたのか、それほど移動する事も無く、突然爆発して炎の塊になった。

 ZAFT艦隊は着実に戦力を減らしていくつもりなのだろう。一つの艦に集中砲撃をして来ており、アンティゴノスは第一の犠牲だった。

 艦隊が距離を詰め、砲撃の命中率が上がり、距離によるビームの減衰率が低下した事によりビームの威力が上がって、双方の艦隊は損傷が大きくなってきている。

 無論、第8艦隊も何もしていないわけではない。ZAFT艦隊はまだ撃沈はされていないものの全艦が小破以上の損傷を受け、またその猛射に耐えかねて完全に陣形を崩そうとしていた。

「敵左翼、ナスカ級高速戦闘艦が後方に退いています」

 オペレーターが報告した。砲撃を受けて大きな損傷を受けたのか、ナスカ級高速戦闘艦ヘルダーリンがゆっくりと後退を始めている。

「ベルグラーノ、敵MS部隊に取り付かれました」

「セレウコス、敵艦隊の集中砲火を受けています」

 オペレーターの続けざまの報告。MA部隊の防御を突破したMSが現れ始めている。また、ZAFT艦隊は、新たな目標を定めた様だ。

 双方共にドレイク級宇宙護衛艦。このままでは長くは保たないだろう。

「……左翼を突破する。艦隊を前進させろ」

 ハルバートンは前進を命じた。

 攻撃を受けて思う様に動けないセレウコスとベルグラーノは艦隊から遅れ始める。このままでは脱落してしまうだろう。脱落すれば、後は敵に討たれるのみだ。

 そうと知っていながら、ハルバートンは更に命じる。

「全艦、最大戦速。脱落する艦は最後まで抗戦し、友軍を支援せよ。一艦でも多く戦域を脱し、ヘリオポリスへと向かうのだ!」

 MS奪還のみを考えるハルバートンの命令。それは、脱落する艦を囮として残して行くというものだった。

 

 

 

 左翼。ナスカ級高速戦闘艦ヘルダーリンは大破し、戦場を離脱した。ヘルダーリンと共に戦線を形成していたローラシア級二隻は、猛進する第8艦隊の前に撃沈されている。

 一方、戦場右翼。ナスカ級高速戦闘艦ホイジンガー及びローラシア級二隻は、第8艦隊右後方から追撃する形で戦闘を継続している。

 第8艦隊の被害も大きかった。ドレイク級宇宙護衛艦セレウコスとベルグラーノは既に沈み、その姿はない。陣形右後方位置で、追撃してくるZAFT艦隊の攻撃に晒されているネルソン級宇宙戦艦プトレマイオスは、損傷で既に船足を鈍くさせている。

「プトレマイオスより入電。『作戦の成功を祈る』以上です」

 メネラオスの艦橋でオペレーターがそう告げた。

 モニターは、ZAFT艦隊を目指して回頭を始めたプトレマイオスを映す。そしてさらにもう一隻、旗艦メネラオスを挟んでプトレマイオスの反対側にいたネルソン級宇宙戦艦カサンドロスが回頭を始めるのが映った。

「カサンドロスより『我、プトレマイオスに続く』。『我、プトレマイオスに続く』です」

「……MSを奪還すれば、このような戦況は変わる。この犠牲は無駄ではないぞ」

 ハルバートンは、二隻の戦艦が戦列を離れた事に対し、そんな一言を述べた。

 

 

 

 この後、プトレマイオスとカサンドロスの艦特攻と言っても良い程の苛烈な攻撃により、ホイジンガーは大破し航行不能となる。ローラシア級の一隻も撃沈された。

 これによりZAFT艦隊は追撃が不可能となり、第8艦隊を逃す結果となる。

 なお、プトレマイオスとカサンドロスは、MS隊の攻撃によりそれぞれ撃沈された。

 この戦いで第8艦隊は、ドレイク級宇宙護衛艦三隻、ネルソン級宇宙戦艦二隻、八十機あまりのMAを失い、戦力はほぼ半減している。

 一方で、ZAFT艦隊はローラシア級三隻撃沈、ナスカ級二隻大破、MS十機余りが戦闘不能となり、全滅と言って良いほどの損害を出した。

 では、第8艦隊の勝利なのか? それは違った。両艦隊には決定的な差がある。

 ZAFT艦隊は、この戦場に全力を注ぎ込めば良かった。連合MS輸送中の友軍がおり、自分達の全滅もまだ敗北へは繋がらない。

 しかし第8艦隊は、この戦闘の後にMS奪還、月への帰還と、さらに戦いを続けなければならない。つまり、この戦闘で戦力を使い切ってしまう事が出来なかったのだ。

 この一戦のみであったならば、第8艦隊は勝利を収めたと言えたかも知れない。しかし、MSを奪還出来なかったのであれば、その勝利には何の意味も無い。

 現戦力、アガメムノン級宇宙母艦“メネラオス”、ネルソン級宇宙戦艦“モントゴメリィ”、ドレイク級宇宙護衛艦“バーナード”“ロー”、艦載MA七十余機。

 ヘリオポリス沖会戦はまだ始まったばかりだった。


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