インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也- 作:クラッチペダル
それは、少女が辿った人生の道筋。
この話でのセシリアさんは大体どんな感じのキャラなのかを軽く説明するのがメインの話です。
それと他のキャラの場面とかをちょろっと。
セシリア・オルコットと言う存在が、両親を列車事故で亡くし、幼くしてオルコット家頭首を次ぐことになり、誰もが思ったものだ。
--幼い少女に何が出来る。
実際、そう思った顔も知らぬ、あった事も無い『親戚共』が、まるでハイエナの如くオルコット家に擦り寄ってきた。
頭首は政治のせも、経営のけも知らぬ幼い少女。
しかし家の力は非常に大きい。
こちらの思うとおりに動かすことは実にたやすく、うまく行けば自らが甘い蜜を吸えるのは最早確定している。
そう、誰もが思っていたのだ。
しかし、メイド一人を引き連れ現れた当の本人は、寄ってきたハイエナ共をこう一喝したのだった。
「失せなさい」
本来であれば、そのようなことを言われれば誰もが怒り狂うような言葉。
しかし、その場の誰もが、怒りを持つことは無かった。
持つことさえ忘れてしまったのだ。
他でもない、セシリアの持つ空気、雰囲気、オーラにあてられて。
それはまさに威風堂々。
幼い、まだ何も知らぬはずの少女が持つはずの無い、絶対的な王者の風格を、彼女は持っていた。
それにあてられ、ハイエナ共は萎縮し、誰しもが思う。
--この女に逆らって、未来は無い。
それほどまでの圧倒的なカリスマだった。
そこからのオルコット家の躍進は、当時を知る人いわく『悪魔めいている手腕を以ってなされている』といわれるほどだった。
頭首となったセシリアは家の持つ財産の殆どを、その当時は弱小であったとある企業に投資。
投資家達の間で気が狂っているだの、やはり無知な者かとの声もあったが一切合財無視。
その結果、企業は一躍大躍進。
イギリスの、いや、欧州の中でも有数の力を持つ企業へと大成長を遂げた。
ここまで、頭首をついでからおおよそ3~4年。
悪魔めいた手腕といわれるのもおかしくは無いほどの、急激過ぎる発展。
そこから得た資金を元に、セシリアは自身の家の力を着実に伸ばし、ついにはオルコット財閥とでも呼べる物を作り出す。
幼いながらも、悪魔めいた手腕を持つ者。
そのような事もあり、彼女は異質な存在、畏れるべき存在であると、世界中に認識されていた。
そして彼女が擁するオルコット財閥には、二つ名と呼べる物が存在した。
まるで未来が見えるかのように、誰も邪魔できぬ絶対的な道を、覇道を行く者。
すなわち、『覇道財閥』。
※ ※ ※
「……こうして、今では傘下企業をIS事業に参加させたりとまぁ忙しい日々を送っております」
「なるほどな。けど、何で姫さんが今みたいなことに?」
一夏が言っているのは、なぜセシリアが自分のようにセシリア・オルコットと言う少女に入り込んでいるのかと言うことだ。
それが分かれば、自身に何が起きているのかも分かるはず……しかし、セシリアは首を横に振る。
「それが分かったら苦労しませんわ。私としては、ヨグ=ソトースを通り行ってしまった大十字さんの帰りを待って、待って、待ち続け、結局老衰で死んでしまいましたもの」
「……ナヌ?」
老衰で死んだ?
その言葉に疑問を抱くと、他でもないセシリアがネタばらしをした。
「私、一応覇道瑠璃としては100歳近くまで生きましたのよ?」
「……マジデ?」
「マジ、ですわ」
一夏は思う。
そりゃ、数十年も世界中に影響力を持つ財閥のトップやってた人が入り込めば、誰も逆らえないカリスマ持ってたり、どこにどのような投資をすればどのような結果になるかをほぼ的確に予想するのは決して不可能じゃない。
ようは経営チートである。
「……ってことはあれか、今の姫さんは100越えのおb」
「お黙り、
「何も言ってません! サー!」
「よろしい。今の私は15歳の可憐な乙女です。いいですね?」
「華のように美しいお方であらせられます!」
長年人の上に立って暮らしてきた彼女のカリスマに、根っからの小市民である一夏は屈した。
口は災いの元である。
そんな一夏の様子に、セシリアは呆れを交えた苦笑を浮かべる。
「まったく、変わりませんわね、貴方と言う人は」
「まぁな。人間、死んだ位じゃそうそう変わらない。姫さんだってそうだろ?」
「まぁ、確かに……ところで大十字さん。貴方の話もお聞かせくださいな。私の話だけを聞いて自身は語らぬというのはいささか不公平ですわ」
「それもそうだな」
それから一夏が語ったのは今まで自分が歩んできた道。
魔人との決戦。
その裏にあった邪神の罠。
それらを乗り越えた先に待っていた別れ。
この世界に来てからの事。
それら全てを、一夏は語った。
「そうですの……しかし、あの山羊の餌はどこをほっつき歩いているのやら」
「そうだなぁ……ま、アルの事だし、いつぞやのように空から降ってきたりしてな」
「ずいぶん気楽に構えてますわね……」
セシリアの言葉に、一夏は笑みを浮かべて答える。
「それが俺様だからな!」
「……要するに能天気な奴だといっているんです。胸張らないでくださいませ」
「……どいつもこいつも歯に衣着せるという技術は持たんのか」
こんなしまりの無いやり取りも、何もかもが二人には懐かしかった。
故に二人とも、同じことを思う。
--絶対的に、パズルのピースが足りていない。
『まったく、汝等はなにを阿呆なやり取りをしておるか』
二人の耳に、ある少女の声が聞こえたような気がした。
それは果たして幻聴だったのだろうか。
※ ※ ※
学園の廊下を一人の少女が歩く。
その少女はまっすぐ前を見ていながら、しかしその目は別のどこかを見ていた。
「……無様……か」
一夏がアリーナで声高らかに叫んだあの言葉は、この少女、更識簪の心に強く響いていた。
--羨ましい。
あそこまでまっすぐに自分の無様さを認め、それでもいいだろうと言い張れる彼の強さが。
自分の無様さ、弱さを認めながら、しかしそれでも前に進めるのは、すなわち心の強さだ。
それは、無様さを、弱さを隠す自分には持たざるもの。
だからこそ、彼の言葉は胸の深くで響き、今なおその響きは止むことは無い。
「……私も、あんな風に強くなりたいな」
力ではなく、心がそうありたい。
織斑一夏と更識簪の境遇は実に良く似ている。
優秀な、偉大な姉を持っているというコンプレックスを、二人は互いに持っているはずなのだ。
なのに、何故織斑一夏はああまで強くあれるのか。
簪は、それが知りたい。
「……今度、もうちょっと織斑君とお話してみようかな」
そうすれば、少しはあの強さの事が分かるかもしれないから。
「……ついでにあのISの見た目について詳しく聞こう」
更識簪。
IS学園1年4組在籍。
趣味……特撮、ロボットアニメ、ヒーローアニメ。
そんな彼女の琴線に、アイオーンの見た目はがっちり触れてしまったようだ。
※ ※ ※
闇の中を、僅かな光が照らす。
その闇に潜むのは果たして我らの知る物であろうか、はたまた百鬼万魔の類であろうか?
そんな伏魔殿の主は、椅子の背もたれに優雅に寄りかかりながら、その光……モニターに映る映像を見つめる。
その映像を見るその目に去来するのは……何であろうか?
羨望? 嫉妬? 情愛?
少なくとも、一つの言葉でくくれる類の物ではないのだろう。
「うーん、まだ覚醒は中途半端ってところかなぁ」
闇の主は、自身の頭についていた機械式の兎耳をぴこぴこと可愛らしげに動かすと、映像を見て抱いた結果を呟く。
「相手が悪い? それともまだ舞台は整っていない? ……あぁ、他人から借りた舞台で演出をするというのはなんともまぁ、面倒くさいなぁ……」
声の主はそう呟くと、モニターの電源を切る。
これにより光は失われ、この狭い世界は完全な闇に包まれる。
……闇が、蠢いた。
「……まぁ、新鮮ではあるね。あの時は何からかにまで私が準備しなくちゃならなかったから、こうもうまい具合に準備がある程度されてると、楽でいい。怠けちゃいそう」
その闇の中に、炎が生まれる。
その炎は三つの瞳のようにも、別の何かのようにも見える。
「でも、私は脚本家。怠けてばかりじゃぁ居られない。開演まではしばしお待ちを。準備は整っているからとはいえ、まだまだ足りてはおりませぬ」
そう、足りていない。
何もかもが足りていない。
白き王はここにいる。
運命の切欠の女王もここにいる。
女王に拳を捧げた従者もいる。
時に忌まわしき、時に頼りになる道化もいる。
白き翼の天使もいる。
……だが、まだ足りぬ。
担い手を導く書が足りない。
高潔な騎士もたどり着いていない。
違えた血もいない。
白き王とついになる絶対的な敵、黒き王もいない。
そして何より……魔を断つ、無垢なる剣が足りない。
「どれか一つがかけても駄目なんだよ。それら全てそろって、初めて我らの宇宙を開放する条件となる。あの時は弾かれ、失敗したが、今回ははてさて、どうなるんだろうねぇ……」
--『僕』の演出するこの脚本は……ね。
闇が、嗤った。
※ ※ ※
「はい、と言うわけで、一組のクラス代表は織斑君に決まりました。一つながりで縁起が良いかもしれませんね」
「なんか試合結果は引き分けだったのに俺が代表にされている件」
「まぁ引き分けでしたので、その後は投票と言う形で選ぶことになりまして」
「俺の意思がどこにもないじゃねぇか!」
「投票は~?」
『ぜった~い!!』
「某掲示板の安価か!?」
クラス代表決定戦の翌日、教室へたどり着いた一夏を待ち構えていたのは一夏がクラス代表に決まったという現実だった。
ちなみにセシリアは副代表と言うことで代表である一夏の補佐を努めるようだ。
「つーか普通逆でしょそれ! 俺が補佐でセシリアが代表でしょ!? どーしてそう一夏さんに押し付けようとするかなぁ!?」
「仕方ありませんわ。クラスの総意ですもの」
「俺の意思が介在していない!」
「世界の存続のためには、一人の犠牲もやむなしですわ」
「そもそも犠牲を出さずにしようとする気はないのか!?」
「1を捨て9を救う……その選択を強いられるのが人生ですのよ?」
「喜んで俺を犠牲の1に放り込んだくせにぃ!!」
まぁここで一夏がどう騒ごうが、このように全力で拒否してくるだろうという未来を見越した千冬が既に上に書類を通してしまっているので、結局一夏は代表になる運命からは逃れられないのだが。
ともかく、周りの女子から激励の言葉やら何やらをいただいている一夏を、不機嫌そうな目で見ている少女が一人居た。
篠ノ之箒である。
(まったく、女子に囲まれて鼻の下をのばしおって……)
……あれが鼻の下を伸ばしているように見えているあたり、いかに彼女の感情があれているかが良くわかるだろう。
実際には女子にいじられてマジ泣きしているのだが、そのあたりは見えていないらしい。
「泣くぞ!? 一夏さんほんとに泣いちゃうぞ!?」
「って言うかもう泣いてる!?」
「男泣き!!」
一夏が女子の傍に居る、と言う事に対し不機嫌になっていることから分かるように、彼女一夏に恋心を抱いているのだ。
もっとも、今までその思いを打ち明けたことなど一度もなかったりするが。
……かなわぬ恋である、と指摘するのは酷であり、無粋であろう。
かなうに越したことはないが、かなわずとも恋をするということは決して無駄ではないのだから。
※ ※ ※
代表が決まろうが、何が起ころうが、よほどでない限り授業は始まる。
今回の授業はグラウンドでの実技指導であった。
「さて、今回も私が担当する事となった、きちんとついてこい……っと、その前に織斑、ISを返却しよう」
千冬がグラウンドで整列している生徒達にそういうと、一夏を呼び、預かっていたアイオーンを返す。
「あれ、二、三日かかるって言ってたんじゃ……」
「それがだな、何も分からなかった」
「はい?」
分からないとはどういうことなのだろうか。
IS学園とはあらゆるISが集う場所。
それに見合うように技術、設備などは企業のそれと引けをとらないほどだ。
だというのに、その技術や設備を駆使しても分からない?
「正確には調べようとするとロックがかかるんだ。件のプログラムの部分にだけな。あれこれ手を尽くしたが結局ロックを解除できなかった。このISはお前の自衛手段もかねているからな、出来ないならなるべく早く返すのが得策だと思ったのだ」
「ロック、ねぇ……」
受け取ったアイオーンを首につけながら呟く。
授業によるとISのコアには意思のようなものが存在するらしい。
もしかしたらその意思が見せるのを拒否したのだろうか? などと一夏は考えていた。
一夏がアイオーンを受け取ったことを確認すると、千冬は生徒達に向き直り、授業を再開した。
なお、この授業で一夏は別世界の彼のようにグラウンドに穴を開けるという失態は起こさなかったということを、ここに報告しておく。
いやぁ、束さんはいったいどうしちゃったんだー(棒)
と言うわけですでに出ている&これから出すであろうデモベキャラのヒントと言うか答えそのものを。
が、あくまで予定なんでもしかしたら増えるかもしれないし、逆に減るかもしれないです。
軽いプロットは決めても大体は行き当たりばったりで話を書くクラッチペダルであった。