インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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高く飛ぶ
空高く舞え、刃金の翼

疑惑のあの子の真実が明らかに。

それと活動報告に、私の感想返信についてのスタンスを書いた物を上げてます。
そこらへんどうでもいいと思ってる人はいいですが、まぁ興味があったら目を通してやってください。


07 Fly high

その瞬間、自分は負けた、と一夏は思っていた。

無様だ何だと馬鹿にされたことは癪だが、しかしそういわれても反論できる何かをそのときの一夏は持っていなかったのもまた事実。

故に、迫り来るミサイルに対しても、一夏は何も行動を起こさなかった。

そして、自身が爆炎に呑まれ、意識さえも飲み込まれそうになった、まさにそのときだった。

 

《……っ! ……!!》

 

懐かしい声が聞こえた気がした。

それはほんの僅かな、爆音にかき消されてしまいそうなほど、小さな声。

しかし、それは一夏の耳に届いた。

その声が、一夏を引きとめた。

なぜなら、それは彼が望んでやまなかった少女の声に似ていたから。

 

「……あぁ、そうだな。このまま終わるってのも……後味が悪いよな」

 

どうせ終わるなら一矢報いて……いや、一矢どころか二矢も三矢も報いてやろう。

 

「だから……力貸せよ、白式ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

そして世界は白く灼き尽くされる。

その白い闇から……鋼が生まれた。

 

 

※ ※ ※

 

 

アリーナの空を、淡い粒子(フレア)が舞う。

日の光が照らす昼間においてなお、その粒子は宙に漂い、光を放っている。

そのフレアを生み出しているのは、一夏のIS、アイオーン。

アイオーンから生えている刃金の翼が、まるで鱗粉のように光を撒き散らしているのだ。

バルザイの偃月刀を手に、一夏は空を舞う。

それに対し、セシリアもその刃の範囲に捉えられまいとブルー・ティアーズの全力を持って空を翔る。

それは、まさに背徳的なまでに神秘的で、非現実的な光景。

今、アリーナでその試合を見ている全員が、その光景に魅了されていた。

 

しかしそれは傍から見た場合の感想だ。

当の本人達は、自分達がその様な神秘的な光景を生み出しているとは露知らず。

一夏から逃げる軌道を取りながらも、セシリアはスターライトを一夏に向け、数発射撃。

もっとも、それは掲げられた偃月刀により防がれてしまう。

強度もさることながら、幅広の刃を持つバルザイの偃月刀ならではの思い切った防御法。

 

「やっかいですわ……ね!!」

「そらそらどうしたぁ!! さっきまでの威勢がねぇぞ!!」

 

一夏はこうして相手に対して強がっているが、しかし状況が完全に良くなったかといえばそれは否である。

何せ、ファースト・シフトでISが自身にしっかりと合った物に変わったといっても、今まで消費したエネルギーが回復したわけでもない。

それにエネルギーはただISを動かしている間も徐々に消費されている。

いい加減に勝負をつけなければ、負けるのは一夏だ。

 

「ちぃ! ちょこまか逃げんな!! 偃月刀! 行け!!」

 

故に、一夏は勝負に出た。

なんと、手にしていた偃月刀をセシリアに向かってブン投げたのだ。

投げた偃月刀は、そのまま回転し、セシリアへと向かっていく。

その偃月刀を、セシリアは上昇することで回避する。

 

……自身に、二挺拳銃の銃口が向けられていることに、その時点で彼女は気が付いた。

 

「マカロニウェスタンはお好きかい?」

 

握られているのは無骨な回転式拳銃。

その銃口をしっかりとセシリアに向けた一夏は、そのまま狂ったようにトリガーを引き続ける。

そして吐き出される暴虐の塊を、セシリアは間一髪と言う様相で回避していく。

しかし、少しずつ、ほんの少しずつセシリアも被弾が増えてくる。

ISをまとっているのは人間。

人間の集中力と言うのはそれほど長く続くものではない。

 

しかしセシリアもただ逃げ回っていたわけではない。

銃弾の雨に晒されながらも、それでもある一瞬を待ちわびている。

そして、片側6発、計12発の弾丸を拳銃が吐き出しきったと同時に、セシリアは動く。

一夏の懐へ、まっすぐと。

 

「っ!? ちぃ!!」

 

スピードローダーを用いて弾丸を補充していた一夏は、それを見て舌打ちをする。

まさか根っからの射撃型という戦い方をしてきたセシリアが、自分の方へと突っ込んでくるのは予想外だったのだ。

その予想違いは、僅かな動揺を一夏に生み、生み出された動揺は一夏の手からスピードローダーを取り落とさせた。

 

「しまっ……!」

「インター・セプター!!」

 

手から零れ落ちたローダーに一瞬視線を奪われている間に、セシリアは一夏の懐へ接近。

自身のISに唯一搭載されている近接用武装を取り出した。

武装名を叫びながら呼び出すという、ISの初心者が武装を呼び出すために用いる方法を使って呼び出したにもかかわらず、それを恥じ入る事無く、むしろこの武装はこうやって呼び出すのが正しいのだと知らしめるが如く。

動揺していた一夏と動揺していないセシリア、どちらが先に動けるかは火を見るより明らかだ。

そして、インター・セプターは補助用の近接武装とはいえ、残り僅かであるアイオーンのエネルギーを削りきる事は十分に可能。

 

誰もが思う。

ここに、勝負は見えた。

 

「……へっ!」

 

しかし、鋼に覆われた一夏の表情は……笑み。

この危機的状況でなぜ彼は笑っていられるのだろうか?

既に打つ手はないと言うのに……

 

鋼の隙間から漏れ出た一夏の笑みの声に、セシリアは若干不審がりながらも、インター・セプターをアイオーンに突き立てようとし……

 

両者の僅かな隙間を割って入るように飛んできた物体に刃を遮られた。

それに動揺したのは、今度はセシリア。

割って入ってきたのは先ほど投げたバルザイの偃月刀。

それを右手でしっかりと握ると、一夏はそれを振りかぶり、振りぬいた。

それと同時に、セシリアが一夏へ突撃をかける際に隠れてパージしておいたブルー・ティアーズの一撃がアイオーンを貫く。

 

両者の動きが止まる。

そしてしばらく経った後に、慌てたようにアナウンサーが試合の結果を告げた。

 

『試合終了! 両者エネルギーエンプティにより、引き分けです!!』

 

 

※ ※ ※

 

 

アナウンサーの試合終了の合図を聞きながら、千冬は先ほどまで起こっていた事を思い返していた。

急に遮断された通信系。

異常が起こっているはずなのに、異常はないという結果を吐き出したプログラム。

そして、両者のエネルギーが0になり、試合が終了したと同時に復旧する通信。

 

「……なにが起きているんだ……?」

 

そこに人知の及ばぬ何かが潜んでいることには気が付かず、しかし何かが起こっていると認識した千冬が、誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。

 

「織斑先生」

「ん?」

 

そんな千冬に声をかけたのは真耶。

真耶はまっすぐに千冬を見つめると、口を開く。

 

「おかしなことはあったのは事実ですけど、まずは織斑君のところへ言って彼をねぎらってあげてください。代表候補生に引き分けなんて、善戦じゃないですか」

「……そうだな」

 

真耶の言葉にそれもそうかと納得すると、先ほどまで考えていた事を頭から振り払い、管制室を出て行った。

その背中を、真耶は見送る。

そして、千冬の姿が完全に見えなくなると同時に、既に一夏もセシリアも居なくなったアリーナを睨みつけた。

 

「…………」

 

そこに、まるで仇が居るといわんばかりに。

 

 

※ ※ ※

 

 

ピットに戻った一夏がアイオーンを待機状態に戻すと、すぐさま箒が駆け寄ってきた。

それに気づいた一夏は努めてへらへらとした笑みを浮かべる。

 

「わりぃ、勝てなかった」

「まったく、出る前にあれほどの事を言っておきながら情けない」

「せめて歯に衣着せれ。真実だけに言われると抉られる」

 

似たようなやり取りを入学直後にもしたような気がするが、この際それは置いておくことにした二人だった。

 

咳払いを一つし、箒は何かを言おうとして口ごもる。

 

「ん、あ~、その、なんだ。だが、代表候補に引き分けに持ち込めただけでも良いんじゃないか? うん、そうに違いない」

 

それは、彼女の不器用な慰め。

そうだと分かっているからこそ、一夏は余計なことは何も言わず、ただ一言答えた。

 

「……サンキュ」

「……ふん」

 

それからしばらく、二人の間に言葉はなかった。

二人の間に、なんとも言いがたい、もやもやした空気が流れ出す。

それを打破しようとするも、一夏は一夏で何を話せばいいのか分からず、箒もまた然りだった。

しばらく二人は黙り込んだあと、同タイミングで口を開こうとし……

 

「試合ご苦労だった、織斑……っと、なんだその視線は、織斑、篠ノ之」

 

千冬が部屋に入ってきたことによりうやむやになった。

思わずジト目で千冬を見ても誰も文句は言わない。

 

「いえ、別に」

「いいえ、別に」

「貴様ら……」

 

こんなときには変に息ぴったりな二人だった。

そんな二人の態度にため息をつきながらも、千冬はここに来た本来の目的を思い出す。

 

「そんな漫才をお前らとしに来たわけじゃない。織斑、初戦にしてはまぁまぁよくやった。だが無駄な動きが多すぎる。なんだ、あの二挺拳銃を扱う前のポーズは。カッコ付けか? 噂の中二病という奴か? あれは後に黒歴史になるという話しだから止めた方がいいぞ」

「……この姉は……」

 

最早何も言いますまい。

若干普段のモードが混じってきている姉に嘆息する一夏。

恐らく教師モードだった場合、もっと辛辣な評価をしてしまうと千冬も感じたのだろう。

 

「……すまん、少々話が逸れた。ここからはまじめな話だ。お前のISを少し此方で預からせてもらう」

「? アイオーンを?」

 

しかし、弟への労い? が終わったとたん、彼女は教師モードへと戻す。

真剣な表情になった彼女から飛び出た言葉は、アイオーンの調査についてだ。

 

「試合途中、エラーがなかったか?」

「あぁ、そういや最初は刀しか呼べなかった」

 

それがファーストシフトと同時にある程度使用可能となったのだ。

データに表示された武装が自身にひ非常に馴染みがあった武装だったため無意識のうちに呼び出し、扱っていたが、そもそも何で最初は使えなかったデータがあるのか、そのデータについて詳しく調査しなければならない。

開発者が入れた記憶のないプログラムであるがゆえ、今は異常がなくても、いつまたエラーを吐き出すか分からないからだ。

 

「そういう事ね。だったら断る理由はないな」

 

そういうと、いつの間にか一夏の首にかかっていたネックレス……一般人が見たらただの五芒星、しかし一夏から見たらこれまた馴染みのある物、旧神の紋章(エルダー・サイン)を象った物を千冬に手渡す。

 

「確かに預かった。調査は恐らく二日三日掛かるだろう」

「了解」

 

一夏からアイオーンを受け取った千冬はアイオーンを懐にしまう。

その動作と同時に、ピットの扉が再び開いた。

 

「失礼いたしますわ」

 

入ってきたのはセシリア。

セシリアは部屋に入り、何かを探すように部屋を見回し、探していた物を見つけるとまっすぐにそちらへ向かっていった。

向かった先に居るのは……一夏だ。

 

「ん? 何の用だ?」

「少々お話したいことがありまして。試合終了直後だというのに申しわけありませんが、宜しいでしょうか?」

「……まぁ良いけどさ」

 

セシリアの言葉にそう答えると、部屋を出ようとしているセシリアの後を追うように一夏も部屋を出ようとする。

 

「い、一夏、いったい……!」

「わりぃ、箒。なんか重要そうな話らしいから。また後でな」

 

その際、箒が一夏を留めようとするが、一夏は止まらず、そのまま部屋を出て行ってしまった。

その様子を、千冬はじっと見つめたまま一言。

 

「……流れについて行けん」

 

なんか残念な言葉だった。

 

 

※ ※ ※

 

 

どうやら、秘密の話というのは屋上でするとIS学園では相場が決まっているらしい。

一夏達の姿は屋上にあった。

他の生徒の姿は、やはり無い。

 

「風が気持ちいいですわね」

「そりゃ、さっきまで戦ってたんだし、いっそう気持ち良いだろうさ」

 

屋上を吹き抜ける風が、セシリアの髪を揺らす。

しばらく、二人の間に言葉は無かった。

しばらく無言の時間が続いた後、セシリアが口を開く。

 

「まずは試合の途中のあの言葉、謝罪させていただきますわ」

「言葉?」

「貴方を無様だと言った、あの言葉です」

「あぁ」

 

そういえば言われてたなぁ、とまるで他人事の様に思う一夏。

 

「貴方を見極めるためとはいえ、とんだご無礼を。お許しいただけますでしょうか?」

「いや、今は別に気にしてないから謝らなくてもいいんだけどよ。それよりも、見極めた結果俺と言う男はどうだったかの方が知りたいね」

「えぇ、素晴らしいと言うほかないですわ。決して逸れない、まっすぐなその瞳。窮地に陥っても諦めない心の強さ。男女関係なく、素晴らしい人間である、といえるでしょう。織斑一夏さん……いえ」

 

--大十字九郎さん?

 

瞬間、一夏はその場から飛び退り、セシリアから距離をとる。

 

「……何のことだ?」

「そうやって行動してからでは、私の言葉を肯定していると同義ですわ。まったく、相変わらず変なところで詰めがあまいお方ですこと」

「…………」

 

まるで大十字九郎を知っているかのような口ぶり。

それも、ただ知っているというわけではなく、かなり近しい存在であるということが先ほどの言葉から分かる。

 

「まぁ、アル・アジフ……あの古本娘も傍にいないようですし、あらかたそちらに気をとられていると言う点も大いにあるんでしょうけどね」

 

しかも彼女はアル・アジフの事も知っていると来た。

その言葉に、一夏はさらに警戒を強めて……ふと気づく。

大十字九郎を知っていて、それにアル・アジフを知っている。

さらにアルを古本娘と呼ぶ。

そんな要素を全て兼ね備えている少女の名前を、一夏は、否、九郎は一人だけ知っている。

 

「……まさか……姫さん?」

「あら、ようやくお気づきになられましたか? 大十字さん。はい、私の名前は覇道瑠璃。ですが今はセシリア・オルコット、と言う事になっているみたいですわ」

「……で……」

「で?」

 

「でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

一夏の叫びが、IS学園の敷地中に響いた。




まぁ、恐らく誰もが想像できてたでしょうが、セシリアさんは実はセシリア(in 瑠璃)さんだったというお話です。
というか、この小説のネタを考え付いたのも

セシリアと瑠璃さん似てね?

と言う謎思考が生まれたためです。

お嬢様だし、両親死んで若い身で家次ぐ羽目になったし、最初は主人公の事忌々しく思ってたし、なんだかんだで仲良くなったし……うん、似てる似てる。
唯一違う点を上げるとすれば、瑠璃さんはセシリアほどちょろくないってこと位かなぁと。
そこからどんどん妄想が膨れ上がったのがこのお話というわけなのです。

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