インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也- 作:クラッチペダル
時の歯車、断罪の刃
本日二話目の投稿。
今回はほんのちょっと長めです。
書きたい場面を書いていたら長くなっちゃいました。
「なぁなぁモッピー」
「誰がモッピーか。で? 何が聞きたいかは大体分かるが、何だ?」
「そいつぁ良かった。俺とモッピーの絆の強さゆえだな。で、とりあえず聞くけど……俺のISは?」
「知らん」
現在、クラス代表決定戦直前。
というかあと数分で開始時刻。
だというのに、一夏のISは未だに届いていなかった。
試合をすることが決定してから一夏は知識面を詰め込み、肉体面は箒と剣道の組み手で鍛えていた。
ちなみにIS自体の訓練はしていない。
というか出来なかった。
何せ訓練をしようと思ったら訓練用のISが全部予約一杯だったからだ。
訓練機にも数に限りがあり、なおかつ訓練をしたいと望むのは一夏だけではないので当然の結果かもしれないが、一夏はIS訓練を一切せずにここまで来てしまったということである。
付け焼刃すら出来やしなかった。
「……あ~あ、それに俺のIS、どんなの来るんだろ」
「あぁ、お前が言うに前の依頼ほっぽいてお前のIS作ったんだったか? 倉持は」
倉持の件については箒にもばっちり伝達済みだ。
現在、箒の中でも倉持の評価は底値をついている。
そして、恐らくだが二人の倉持への評価はあと数秒もすれば底値を突き破り、最早回復不能になるであろう。
そんな未来など露知らず、一夏と箒はISを待ちわびる。
すると、誰かが駆けてくる足音が聞こえてくる。
そして、その足音は一夏達のいる部屋の前で止まり……
部屋の自動ドアが、手動で思い切りあけられた。
その際、自動ドアからなにやら鳴ってはいけない音が鳴った気がしたが、それは恐らく気のせいだ。
なんだかギィィィだのバキッだのと言う音がした気がするが、絶対に気のせいだ。
自動ドアを手動で開け放つという暴挙に出たのは、なんと真耶。
この瞬間、一夏と箒の中での真耶の評価が変わる。
--絶対この人は怒らせないようにしよう。
「織斑君! 来ましたよ! 織斑君のISが!!」
その言葉と同時に、千冬も部屋に入ってくる。
そして、一夏達がいる傍のシャッターの置くからなにやらコンベアが動くような音が響きだす。
やがて、コンベアの音が鳴り止み、シャッターが次第に開いていく……
……何故かエレキギターの演奏が響き渡った。
「ヘーイ、そこな若者。待ちわびたかい? 待ちくたびれたかい? 君と僕のセンチメンタルな出会いを待ち焦がれたかい? 宜しい、ならばこの出会いを祝して我輩の演奏を一曲奏でてたてまつるぅぅぅぅぅぅぅ!? な、何をするボーイ! 蹴ろうとしたね!? 今我輩の天才的頭脳に向かって蹴りを繰り出したね!?」
そしてシャッターが開ききるとどうじに 姿を見せた□□□□に、一夏はすぐさま駆け寄りそのままの勢いでジャンプ。
そして空中で西村の頭に向けて両足を揃えると、そのままドロップキックを敢行した。
しかし、それは西村が見ているものが吐き気を催すような、人間の身体の構造を無視した動きにより避けられてしまう。
ことギャグ空間においては無敵な男だった。
「テメェ、ドクター・ウェスト! 何でテメェがここに居やがる!?」
「なんと、我輩の真の名を知っているだと!? 若者貴様……何奴!?」
「あ、やっべ……!」
一夏の脳内で最も忌々しいものベスト1に輝く男まんまの容貌と行動をする男に、思わず叫んでしまったが、それが災いの元。
西村は完全に興味を一夏へと向けていた。
「ふぅむ……貴様、さては……」
西村が一夏をじろじろとねめつける。
そして何事かを言おうとしたときだった。
「すまないが時間がない。知り合いなのかは知らんが会話は後でにしてくれないか?」
千冬が二人の間に割って入ってきた。
一夏は思わぬ千冬の行動に賞賛を送る。
西村はと言うとまだ何かを言いたそうに一夏を見つめていたが、時間が押しているということも重々承知しているため、とりあえずこの場は諦めたようだ。
「ふん、まぁいいのである。では気を取り直して、我輩の作品をどうぞごらんあれ。感動しすぎて失禁するんじゃねぇであるぞ?」
その言葉と同時に、シャッターの置くに鎮座していたコンテナの側面が開く。
中から現れたのは……
「これは……」
「ふむ、こいつの名前は『白式』。なんともつまらん名前であるな。これが貴様のISであるぞ、ボーイよ」
「白式……ねぇ」
名前に白がついていながら、しかし目の前のISには白い要素がどこにもない。
せいぜい灰色である。
「まぁいい。織斑、さっさと装着しろ。時間がない」
「あいよ、千冬姉」
「織斑先生だ馬鹿者。まぁ今回は大目に見ておいてやる」
千冬に急かされ、一夏は白式に自らの身をあずける。
それと同時に彼を抱擁するように閉じる装甲。
そして一夏の脳内に流れ込むある情報。
「これは……」
それは、歓喜。
己が待ちわびた主をようやく迎え入れることが出来たという、白式の意思。
「そういや山田先生がコアには意思みたいなのがあるって言ってたか?」
ならば、恐らくこのなだれ込む情報もそれほどおかしくはないのだろう。
しかし、それでも一夏はその情報の奥に、また別の意思があるように思える。
もっとも、それは何なのかは分からなかったが。
「どうだ、織斑。いけるか?」
「……あぁ、いける。なんだか、こいつとならどこまでも行ける気がするぜ」
それは、まるであの剣を駆って戦っていたときのような、そんな感覚。
「そうか。残念だが調整している時間はない。試合をしながら調整しろ、良いな?」
「OK。あ、それと箒」
「な、なんだ!?」
まさかこのタイミングで自分に話しかけられるとは思っていなかった箒が慌てたように一夏に向き直る。
「……行って来る」
「……あぁ、行くなら勝って来い。いいな!?」
「あいよ。前はああいったけど、もしかしたら、こいつだったら勝てるかもな」
その言葉を残し、一夏はカタパルトによってアリーナへと運ばれていった。
※ ※ ※
アリーナには、既にセシリアが居り、瞳を閉じて一夏がくるのを今か今かと待ちわびている。
彼女の脳内によぎるのは試合前のあるやり取りだ。
セシリアは、そのやり取りを思い返していた。
数分前。
セシリアはピットに備え付けられているベンチに座っていた。
その様子に気負った風はなく。
実に自然体だ。
「チェルシー、恐らく織斑一夏、彼は……」
『しかしお嬢様、もし予想とは違っていたら?』
「その可能性はかなり低いでしょうね……あの方は、一度知ったら忘れがたいインパクトがある方でしたし、行動の端々にそれが見て取れますわ」
『お嬢様の勘……ですか』
「ええ」
そんなセシリアは耳にかけた通信機越しに自身の従者と会話をしている。
その話の中心は、織斑一夏だ。
「ですが確証がないのもまた事実。ですから、今回の試合の最中にカマをかけてみます」
『カマをかける……いったいどのような方法で?』
「決まっていますわ」
セシリアは会話を続けながらカタパルトへと向かっていく。
時刻は既に試合開始数分前。
「もし彼が本当にあの方だったとしたら、この言葉に返す言葉は決まっておりますもの」
そういうと、通信を切り、アリーナへと飛び立っていった。
そして現在。
回想を終えたセシリアは、その目を開き、今まさにカタパルトから射出されてきた一夏を見据える。
「……さぁ、織斑一夏、早く来なさい。私が、貴方を見極める為に。」
※ ※ ※
「待たせたな、お嬢様」
「待ちくたびれましたわ、騎士様」
「はっ、俺が騎士ってたまかよ」
「それもそうですわね」
まるで待ち合わせた男女のような気軽なやり取り。
この二人を見て、誰が思うだろう。
これから、彼らは戦うのだと。
「……多くは語る必要はありませんわ。始めましょう」
「だな、こちとらこわーい姉のお仕置きがかかってるんだ。全力でやらせてもらうぜ!」
二人の間に、空間投影式のモニターが現れ、カウントダウンを開始する。
3から始まり、2、1と刻んでいき、そして……
0になった。
「行きますわよ! ブルー・ティアーズ!!」
「やるぞ! 白式ぃ!!」
二人はいっせいに動き出した。
「……あ、言い忘れていたのである」
「はい?」
なお、その瞬間、ピットに居たウェストがポツリと呟く。
「嫌なに、あの白式、実は想定していない武装やらプログラムがあったわけで、しかしながらそのプログラム等は一切使えないのである。それの事を伝えるのを忘れていたのだった。ちなみに納入が遅れた理由もそれ関係である。結局どうにもならなかったであるがな」
「はぁぁぁぁ!?」
思わず、傍でその言葉を聞いていた箒は唖然とする。
そんな箒を尻目に、ウェストは自身の思考の海へと沈んでいく。
(しかし、あれはどう見ても……)
本来、白式にはある一本のブレードのみが搭載されるはずであった。
しかし、現在白式はその本来の武装以外に、本来では存在し得ない武装群と、その制御のためのプログラムが存在している。
そして、追加されていた武装はロックがかかっており、現在の白式では使用不可能。
いや、正確に言うとプログラム等を構成している電子言語がISに使用されているそれとあまりにも違い、現在の白式ではそのプログラムを走らせることが出来ないのだ。
つまり、今の白式は完全丸腰である。
そのプログラムを消去し、新たに正規のプログラムを入れようとしても、それはIS自体が跳ね除けてしまっている。
しかし、それらのプログラム等を構成している電子言語を、西村、否、ウェストは見たことがある。
そして、恐らくそれを知っているのは世界において自身だけであろう。
かの天才、篠ノ之束でさえ、恐らく分からないもの。
それを彼は知っている。
「しかしあれは……仮に使えたとしても、パンピーには使いこなせない代物である」
使いこなせるであろう者は、彼が知る限りただ一人。
しかし、その存在はこの世界にはいないはず。
「……やはり貴様がいない世界は張り合いがないであるな……大十字九郎」
※ ※ ※
試合開始後、既にあらかたの戦いの流れは決まってしまっていた。
流れは、終始セシリアが握っている。
「どうしましたか織斑一夏! その程度では男が廃りますわよ!!」
「ちぃ! 好き勝手言ってくれちゃって!!」
まず試合開始直後にセシリアは手にしたレーザーライフル、スターライトmk-IIIを一夏に向けて撃ち放つ。
それは未だにIS操縦に慣れておらず、動かし方にすら苦戦している一夏のシールドエネルギーを容赦なく削っていった。
「動かし方は……だいたいデモンベインと一緒か!!」
逃げて逃げて逃げ続け、時折セシリアの攻撃にエネルギーを減らされながらも、一夏は何とかIS操縦のコツを掴む。
それはなんてことはない、デモンベインと似たような方法で動かせるのだ。
つまり、自身が動いたとおりに動き、たまに思考により操作、である。
コツを掴んだ一夏の動きは、試合開始時とはうって変わっていた。
しかし、いまだ調整も終わらぬISと既にセシリア用に調整が済んでいるIS。
どちらが動かしやすいかは考えずとも分かる。
いくら動きが変わったところで、それは被弾の回数がある程度減った程度の効果しか生み出さなかった。
「このままじゃやられっぱなしだ! 武装は……っ!?」
しかし、だからと言ってやられっぱなしでいるような男ではない。
すぐさま白式の武装を確認するが、そこで一夏は驚愕する。
何せあらゆるデータが文字化けしており、なおかつ武装を呼び出そうとしてもエラーを吐き出し、武装が呼べないのだ。
他にも武装は多々あるが、それもこれもエラーだらけ。
唯一呼び出せた武装が……
「か、刀一本……?」
何故、何故射撃型の相手に刀一本で挑まねばならないのか。
一夏は思わず自身の境遇を嘆く。
しかし、嘆いたところで現実は変わらない。
「ええいなにくそ! 男の子だったら刀一本で勝って見せろ織斑一夏!! 行くぜ! 暗剣殺! 疾ァァァァァァァァ!!」
「直撃コースですわね」
「ぶべらっ!?」
最早コントのようなやり取りである。
ちなみにこのようなISに不具合が起こっている場合、本来ならそれを管制室に報告し、試合を中止してもらうべきなのだが、ISをまともに動かすのが初めてでテンパっている一夏にはそんなことに思い至る余裕などなかった。
そしてセシリアはセシリアで、相手にエラーが起こっているなどと分かるはずもなし。
そして管制室では……
「何!? それは本当か篠ノ之!」
『はい! 西村博士がそう言っております』
「織斑先生、それってまずいんじゃ……」
千冬がピットからの連絡を受けて驚愕する。
伝えられた内容は箒が西村から聞いた内容そのまんま。
「謎のプログラム群が入っているだと……? そんな物、どのような影響があるか分かったものじゃない!! 山田先生! すぐに試合の中止の呼びかけを!!」
「はい!」
しばらく唖然とした千冬だが、しかしすぐさま気を取り直し、真耶に試合中止の指示を出すように呼びかける。
……しかし、『それ』はその展開をお気に召さない。
『いけないなぁ。ここでとめたら無粋でしょ?』
誰にも聞こえない、闇の声が響き渡る。
それと同時に、管制室のモニターが吐き出す異常事態。
「これは……通信システム、ダウンしました! 選手との通信が出来ません!!」
「なんだと!?」
モニターが通信システムの異常を知らせる。
慌ててモニターについていたIS学園情報科の3年生が復旧のためシステムスキャン。
しかし、そこに異常はない。
「何これ……異常がないのに異常がある!? どうなってるの!?」
このようにして、彼らの試合は中断されることなく進むことになった。
『そうだよ。いっくんには戦ってもらわなきゃ。そうじゃなきゃ目覚めないじゃない』
その声も、誰にも聞こえなかった。
否、誰も聞いたことにしたくなかった。
もしその声を認識してしまったら、自身が壊れるということが誰しも本能的に分かってしまったから。
故に、この声は誰も聞いていない。
聞こえては、いけないのだ。
※ ※ ※
「はぁ……はぁ……くそっ! ぜんっぜん勝てねぇ」
「……期待はずれですわね」
一夏のシールドエネルギーは、最早風前の灯といわんばかりの量か残っていなかった。
それとは反対に、セシリアのエネルギーはある程度減ってはいるが、それでもまだまだ十分に戦える量だ。
そんな状況の中、セシリアが呟く。
「あ?」
「期待はずれ、と言ったのです。世界初の男性操縦者の実力はいかがなものかと思いこの試合を行っておりましたが、この程度ですか。ええ、ほんと期待はずれです」
「テメェ……」
あまりにも辛らつな言葉。
しかし、それに反論できる術を一夏は持たない。
現に、一夏はまともな一太刀すらセシリアに与えれていないのだ。
「ほんっと……『無様ですこと』」
「……!」
その言葉に、一夏が反応した。
その様子を見たセシリアは、それでも言葉を続ける。
「その通りでしょう? 銃を持つ相手に刀一本で挑み、ならばどのような妙技を見せてくださるのかと思えばそれもなし。無様といわずなんと言いますの?」
その言葉と同時に、セシリアはブルー・ティアーズのスカートパーツをパージ。
それらを自身の周囲に滞空させる。
「故に、ここで幕引きといたしましょう。貴方も、無様を晒し続けるのは苦痛でしょう?」
その言葉と同時に、パージしたスカートパーツ……本体であるISと同じ名前を冠した武装、ブルー・ティアーズの内二基がミサイルを吐き出す。
吐き出されたミサイルの行き先は……動きを見せぬ一夏。
「……か」
そして、何事かを呟いた一夏にミサイルが着弾。
呟いた言葉をその爆音で飲み込んだのだった。
※ ※ ※
一夏が爆煙に飲まれる光景を見ながら、セシリアは待ちわびていた。
(ここで終わり? ならば本当に期待はずれですわね。ですが……そうじゃないでしょう?)
「……無様で良いじゃねぇか」
煙の中から、一夏の声が響く。
それは、それほど大きくもない声。
だが、アリーナ中にこれでもかと言うほど、澄み渡って響いた。
「無様でいいじゃねぇか」
やがて、煙は晴れる。
煙がはれた先にいるはずの一夏は……その姿を変えていた。
否、纏っていたISがその姿を変えたのだ。
「無様でも何でも、最後に勝てばいいんだよ! 無様も晒せねぇ奴が、一丁前に吠えてるんじゃねぇ!!」
そのISは、黒。
黒い鋼は全身を覆い、一夏の生身の部分は一切見えない。
そしてその両肩と腰の両側からは、刃金の翼がその威容を知らしめている。
それは、本来なら失われし神の模造品。
邪神に翻弄されし一人の男が、その命を以って動かした鬼械神。
それをさらに模造したIS。
一夏のために新たに生まれ変わったIS。
「『汝より逃れ得るものはなく 汝が触れしものは死すらも死せん』か……悪くないな、これも」
それはすなわち、
「ファーストシフトに伴い、ISの登録名称変更。新名称は……アイオーン」
(あぁ、やはり貴方は……なのですね)
目の前に現れた禍々しくも神々しいISの姿を見て、そして何より一夏の言葉を聞き、セリシアは確信する。
「……本番はここからですわね? ならば、見せてください! そして魅せてください! 貴方の力を!!」
「へっ、どうなっても知らないぜ? ……びびって夜寝れなくなるんじゃねぇぞ!!」
言葉と同時に、アイオーンの右手に炎が奔る。
そして炎が消えた後には、一本の剣が現れた。
それは、賢人バルザイがハテグ=クラの山頂で鍛え上げたとされる、剣にして魔法使いの杖であるもの。
アル・アジフの断片が一章。
すなわち!
「バルザイの偃月刀!!」
今、永劫が剣を得て羽撃いた。
デモンベインが出ると思った?
残念、アイオーンでした!!
……すいません、これには理由がきちんとあるんでまずは聞いてください。
デモンベインを今出さなかった理由はアルが隣にいないからです。
九郎がいて、アルがいて、それでデモンベインが居てこそだと筆者は考えてます。
アルと再会させることも考えましたが、序盤すぎっだろということで見送り。
ではどうするかなと考えて、思いついたのがアイオーンでした。
と言うわけで、デモンベインはまだ出ません。
でも必ず出すので、その時までお待ちください。
ちなみに、白式がアイオーンになっちゃった原因はちゃんと描写しているので、分からない方は読み返してみてください。