インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

54 / 59
秘匿されているからと言って、誰も知らないわけじゃ無いだろう?


54 彼女は何を知っているか

「取り合えず軽くジャブ?」

「いやいや、あいつにジャブとか撫でてるのと同じだって」

「ここは抉るようなフックをレバーにぶち込めば」

 

 おおよそ食事をする場所で行うような会話では無い。

 

 あれからしばらく某□□□□対策を話し合っていた三人。

 やれこうだ、いいやそうだ、だったらあれはいかがだろう等と話しているうちに、とりあえず殴るという初心に返り、じゃあどう殴ろうかと言う話になったらしい。

 

 因みに、夏休み中とはいえ、IS学園は学園に残っている生徒や教師のために食堂を開放しているため、食事後そのまま食堂で話し合いをさせてもらっている現状だ。

 が、先ほども言ったが、少なくとも食堂で話すような内容では無いわけで……

 

 

 先ほどから近くを通りかかり、話が聞こえてしまった生徒が目を剥いている。

 

「甘いわね、ジャブったあとに本命よ」

「甘いのはそっちだ。あいつに初撃に軽い一撃なんてやって見ろ。ウザさ倍増なだけだ」

「初撃でとりあえず騒げないように沈めておかねば、後々頭痛を見るのは妾達だぞ」

「そうなの?」

「「あいつのギャグ時の耐久力を舐めてはいけない」」

 

 経験者は語るのだ。

 そう、倒壊するビルの瓦礫に巻き込まれても平然としていた奴が、その程度の事でおとなしくなるはずが無いのだ。

 そこまでの衝撃に耐えるなら、そもそもどうしようもないのでは? と言ってはいけない。

 ギャグキャラはその時その時により耐久力が上下するのだから。

 

『例えば、シリアスなときにナイフをぷすーっとされるとアウトであるな、ま、一般的に刺されれば人は大怪我するから、多少はね? 天才とは言え、そういう怪我には勝てないからね! べ、べつに完全敗北したわけじゃないんだからね!? いつか我輩は死を克服してみせるんだからぁ!』

 

 今、□□□□からの電波を受信した気がしたが、きっと気のせいだろう。

 特に大きな実害がなければスルーすればいい。

 対□□□□検定初級である。

 

「あれ? 今なにか頭のなかに……」

「気のせいだ小娘」

「これで反応するようじゃ単位はやれねぇなぁ」

 

 更識楯無、初級で躓くの巻。

 

 

 閑話休題

 

 

 とりあえず、相談の件については一夏の

 

「でもあれもはや災害レベルのナニカだから、どうしようもなくね?」

 

 の一言により、とりあえず出会ったらしばいておくと言う事で決着がついたらしい。

 

 □□□□対策会議終了後、各々飲み物を注文し一息ついていると言ったところか。

 

「……なんか色々お世話になっちゃったわね。本当なら、私自身でどうにかしなくちゃいけなかったんだけど……どうにもね?」

「そんなこと気にすんなよ。あれをまともに相手にしようって言うのが間違いなんだしよ。それに結構デリケートなとこもあるみたいだし?」

 

 途中で情けなくさめざめ泣いていた事は忘れて差し上げよう。

 

「しかし、汝の妹も随分な奴に目を付けられたものだな」

 

 注文したオレンジジュースをちびちびと飲みながら、アルはそう言い放つ。

 いやはやまったく、アルの言う通りである。

 よりにもよってあの天変地異的サムシングなナニカに目を付けられるとは……

 

 そのおかげで当人のISも完成の目処がついたし、一概に不幸であったとは言えないとは言え……いや、やっぱ心労的に不幸かもしれない。

 

「あぁみえて、簪ちゃんは世話を焼かせるのが上手なのよねぇ……。なんだか、気が付くと誰かが簪ちゃんを手伝ってるの。まぁ、そこが簪ちゃんの可愛い所なんだけどね」

 

 そう言い放つ楯無は扇子で口元を隠しながら微笑む。

 その扇子には姉贔屓と書いてある。

 ……あれ? さっきは話題脱線って書いてなかった?

 

 そうしてしばらく扇子の文字を見せびらかすようにしていた楯無は、パシンと小気味のいい音を立て扇子を閉じると、頼んでいた紅茶で喉を潤し、そしてふと何かを思いだしたような顔になる。

 

「……ああ、そう言えば……お世話とか手伝うっていう言葉で思いだしたけども……あなたもつい最近なかなかなお手伝いやお世話したみたいじゃない」

「んん?」

 

 はてさてなんの事だろうか?

 楯無に言われた言葉を租借するも、一体何の事を言っているのかが分からない。

 そんな様子に楯無はクスクスと笑うと、言いはなった。

 

「……臨海学校、色々あったみたいじゃない。楽しかった事、大変だった事、本当に色々あったって聞いたけれども?」

「……はてさて、いったいぜんたいどこで聞きつけたのやら」

 

 確か、臨海学校の件については緘口令が敷かれていたはずだが。

 我が姉君の名前を以って。

 だというのに、目の前の会長様はどうやってその話を聞いたのか。

 

「そうねぇ……人の口の戸は立てられぬもの……って所かしら?」

 

 一夏の言葉に、くすくす笑いながらさらりと返す楯無。

 

「それにしても、ここ最近色々起こりすぎねぇ。クラス対抗戦の時なんて、なまじ学園で起きたから後処理が大変だったし……でも、あなたもお疲れ様。そのどれもに当事者として関わっちゃってるんだもの。」

「ん……まぁ、あざっす」

 

 何と言うか、もはや諦めの境地である。

 何か事が起これば、もはや自分は巻き込まれるであろうという、もう慣れ親しんだ確信とでも言えばいいか。

 

「しかし、クラス対抗戦の時はほんと怖かったわねぇ。あの無人機……あれが放つ不気味さ、異質さって言うのかしら? いるだけなのに、まるで見てるこっちが石になったような恐怖があるような感じがね。よく普通に対峙してたわね」

「……!」

 

 思わず楯無を睨むようにみやる。

 今、目の前のこの少女はなんと言った?

 

 恐怖があるそれは良い。実際、いきなりあのような物が乱入して暴れたのだ。

 むしろ恐怖を感じないほうがおかしいと言えばおかしい。

 だが……石になったような?

 恐怖という言葉に普通はつけないであろう言葉。

 それゆえにその言葉は一夏へと強烈な違和感を、そして疑念を与える。

 

 何故目の前の少女は、普通はつけないであろうその言葉をあえてつけたのか……

 しかもピンポイントで、ガタノトーアの能力を指摘するかのような言葉を……

 

 ――まさか、目の前の少女はガタノトーアを知っていた……?

 

「…………」

「…………」

 

 目の前にいる少女に気づかれない位に、視線をアルへ向ける。

 視界の端に映るアルも、視線を一夏へ向けている。

 その瞳は雄弁に語っていた。

 

 ……自分も一夏と同じ考えだ、と。

 

「……汝、何を知っておる?」

 

 アルが楯無を睨みつつ、そう問う。

 しかし、当の楯無はと言うときょとんとした表情で一夏達を見やる。

 まるで、私なにか変な事言いました? 的な

 

「えっと……? 私、何か変なこと言ったかしら?」

 

 実際そう思っていたらしく、楯無はただただ頭上に?マークを浮かべてそうな表情だ。

 

「……なんて、ね。こうあっさりと引っかかるなんて、ちょっと危機感が足りないんじゃないかしらね?」

 

 ――ねぇ、『魔術師』さん?

 

 その時の楯無の表情の変化を、果たして一夏は、そしてアルは見切れただろうか?

 先ほどしまったはずの扇子で口元を隠し、まるで悪戯が成功した子供が笑うように、くすくすと楯無は笑っている 。

 

 しかしながら、笑みを浮かべながら対面する少女が放った言葉は決定的な一言だった。

 

 決まりだ、目の前の少女は、知っている。

 どこまで? いつから?

 それは分からない。

 だが、確実にこの少女は……魔術を知っている。

 

 そうでなければ……一夏の事をわざわざ魔術師とは呼びはしないだろう。

 

 最悪を考える。

 目の前の少女も魔術師だとすると……

 もしやクラス対抗戦の時や、果ては臨海学校の時も裏で糸を……?

 

「はいはーい、そう怒らない怒らない♪」

 

 そんな一夏の様子を知ってか知らず課、扇子を閉じ、微笑を絶やさないまま彼女は言葉を続ける。

 

「そこまで反応しなくても、あなた達が考えてるようなことは無いわよ。大方、私が黒幕なんじゃないかー、とか思っちゃってるんでしょ、その顔だと。心配しなくても、私は裏で糸を引いてるなんて事は無いし、そもそも今までの事件に関してだって、あなた達より知ってることは少ないわ。というか、私が黒幕だったら回りくどい事なんてしないしね」

 

「それこそシンプルに闇討ちでもするかしら?」などろ冗談めかして言う楯無。

 

「けど、確証は得たつもり。今までの事件について、あなた達はよーく知ってるっていう確証を、ね」

「確証……っ!? ……はぁ、そういうことかよ」

 

 なるほど、蓋を開ければなんてことは無い。

 こちらが勝手に相手の言葉に逐一反応してしまっていただけと言うわけだ

 

 追求の言葉を発しさえしなければ。否、動揺などの反応をせずに居ればそこでこの話は終わっていただろう

 それを自分たちはご丁寧に反応し、あまつさえ追及の言葉を発してしまった。

 

 それでは、こちらは貴方が聞きたい事を知ってますよーとプラカードをでかでかと掲げているようなものではないか。

 

「うまーくあんたの手のひらの上でころころ転がされたわけだ、俺もアルも」

「そう言う事よ♪」

 

 それはそれは、とても楽しそうに笑う楯無。

 しかし、その表情は一瞬で真面目な表情へと変わる。

 

「でも、これ以上詮索するつもりはないし、踏み込むつもりはないわ。知りたがりは早死にしちゃうって言うじゃない? あなた達が何かを知っていると言う事は分かった、それで十分。だから何を知っているかを聞きだすつもりは無いわ」

 

 そう言うと、楯無は席を立つ。

 

「せっかく相談に乗ってもらった人を騙したようでごめんなさいね? でも、私は最低限知っておかねばならないの。この学園の生徒会長として、そして何より……」

 

 何かを言おうとして、しかし楯無は口を閉ざす。

 言うべきか言わざるべきか葛藤している事が傍から見ても分かった。

 やがて、楯無は扇子を閉じると、閉じた扇子で一夏を指す。

 

「それと、これだけは言っておくけど……秘匿されているから知られていないだろう、という思考は油断よ? 織斑一夏君? どれほど魔術が秘匿されたものであっても、その片燐に触れた人間は必ずいるわ。私の『家』のように、期せずして関わらざるを得なくなった者もいる。本当に隠したいなら、より一層に注意なさい?」

 

 ……なるほど。

 一般人の義憤などの理由で知りたがったわけでは無い、という事か。

 期せずして関わらざるを得なかったという事は、裏に通ずる家柄なのだろう。

 そして、そんな家柄だからこそ知っておかねばならなかった、という事か。

 

「今回のやり取りで骨身にしみたさ。肝に銘じておくぜ」

「よろしい。素直な子は好ましいぞ♪」

 

 ともあれ、せっかくのご忠告であることだし、ありがたく受けるとしよう。

 今まさに、それで痛い目を見たわけなのだから。

 もっとも、ただの痛い目で済んでよかったというべきか?

 その時点では小さいと思われるミスが、時と場合によっては致命的なものとなり得るという事を考えれば、この程度で済んでむしろ僥倖だった、と言わざるを得ないだろう。

 

「……ふんっ、小娘に言われずともわかっておるわ」

 

 アルは相変わらずの憎まれ口だが、失態を犯したのは他でも無い自分だと自覚しているゆえか、どうにも言葉にキレは無かった。

 と言うか露骨にそっぽを向いている。

 もう少し隠す努力をしよう。

 

「ふふふ。それじゃ、お姉さんはここらで立ち去るわね。二人の仲を邪魔しちゃ悪いし♪ そうそう、心配しなくても今回のことは関係者以外にはちゃんと秘密にしておくからね。あなた達もだれかれ構わず言いふらしちゃ駄目よ?」

 

 当然である。

 魔術なんぞ表に出して言い事なんて無し。

 広まらないならそのままで良いのだ。

 

 無知は罪と言うが、罪を負いたくないからと知らなくて言い事を知って二度とまともな生活送れないよりだったら、いっそ無知のままで良いだろう。

 

 少なくとも、無知だからと言うだけで実際罪に問われるという事は無いのだから。

 

 しかし……立ち去る楯無の背中を見送りつつ、ぽつりと呟く。

 

「ものの見事に完敗だな」

「心底忌々しいが、してやられた。そう言う以外に無いであろう」

 

 答えるアルの言葉にも、隠しきれ無い忌々しさがにじみ出ている。

 その後もぶつぶつと何かを呟いているアルを見やりつつ、一夏は心の内で呟いた。

 

 ――これ、セシリアにばれたらぜってぇ激おこ案件だろうなぁ……




後日

「一夏さん、これを」
「……何これ」
「どうやら、お間抜けにも一杯食わされたとお聞きしまして」
「だからってこれを首から提げろと!? この『私は間抜けです』と書かれたこの板を!?」

しっかりセシリアにはバレていた。


※ ※ ※


と言う訳で、54話、いかがだったでしょうか。
今回の展開にいろいろツッコミが来そうではあります。
でも言わせてください。

せっかく裏に通じてる設定あるんだし、活かしたいじゃない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。